サストモ by LINEヤフー

知る、つながる、はじまる。

知る、つながる、はじまる。

LINE公式アカウント『サストモ』 手軽に無料で自宅から不用品回収中!

一本の苗木が森と人、森と企業をつなぐ。ソマノベースの描く「みんなで森を育てる」未来

TOP画像

国土の約7割を森が占める日本。しかし、その森を支える林業の担い手は年々減少し、人手不足が続いています。環境保全や産業としての重要性から森の価値が見直されつつある一方で、いきなり林業に携わったり、大きなアクションを起こしたりするのは簡単なことではありません。

それでも、日々の暮らしの中で「少しでも森に貢献したい」と感じる人は少なくないはず。個人や一企業の力に頼るのではなく、多くの人が少しずつ関わり続け、未来へつなげていくための仕組みが求められています。

ソマノベース

そのヒントを示してくれるのが、和歌山県田辺市を拠点に活動する企業「ソマノベース」です。「土砂災害による人的被害をゼロにする」というミッションを掲げ、従来の林業の枠を超えて、多くのパートナーとともに、命を守る森づくりに取り組んでいます。

なかでも特徴的なのが「戻り苗(MODRINAE)」というサービス。山から届いたどんぐりを専用の鉢で2年間育て、成長した苗木は元の山に植樹される仕組みです。育てている間は観葉植物として日常に寄り添い、2年後には山を支える存在になる。そんな、人と山をゆるやかにつなぐ、森との新しい関わり方を提示しています。

戻り苗

収益化までに長い時間を要する林業は、大規模な変革を起こしづらい分野でもあります。一つの団体だけで負担するのではなく、できるだけ多くの人と山を「直接」つなげようとするソマノベースの活動には、これからの森のあり方を考えるヒントが詰まっています。

今回、全国から戻ってきた苗木が育つ和歌山の森を、サストモの森編集部が訪ねました。

株式会社ソマノベース CFO 兼 法人事業部プランナー 浅利知波瑠さん
株式会社ソマノベース CFO 兼 法人事業部プランナー 浅利知波瑠さん

急峻な山と川が隣り合う、和歌山の森で

和歌山県田辺市中辺路町

今回訪れたのは、和歌山県田辺市中辺路町(なかへちちょう)の山あいに広がる森です。熊野古道の入り口にあたるこの地域には、山道に背の高い木々が並び、静かで厳かな雰囲気が漂っています。

平坦な土地が少なく、急峻な斜面と川が隣り合うのは和歌山らしい地形。かつて建築材として重宝された木材は、急斜面から切り出され、運搬用のワイヤーでロープウェイのように川まで運ばれていたそう。その木材が川を下って出荷される過程で、下流の街や地域の産業を支えてきた歴史があります。

一方で、山林と河川が隣接する地形は、土砂災害のリスクも孕んでいます。2011年の紀伊半島大水害では、記録的な豪雨によって甚大な被害が発生し、多くの犠牲者が出ました。川の氾濫や土砂崩れによって集落が分断され、断水や床上浸水など、日常生活が一変するほどの爪痕を残しました。

浅利知波瑠さん

ソマノベースは、まさにその経験を原点として生まれた企業です。「土砂災害による人的被害をゼロにする」という信念を掲げ、被災の当事者でもあるメンバーたちが集まり、森と向き合う事業を立ち上げました。

今回お話を伺った浅利知波瑠(あさり・ちはる)さんは、ソマノベースの代表である奥川さんの、高校時代の同級生です。地元も近く、かつては隣の席で授業を受けていたほどの間柄。紀伊半島大水害もともに経験し、被災した家の片付けを手伝ったこともあったといいます。

銀行員を経て、現在はソマノベースの事業を継続していくための仕組みづくりに取り組む浅利さんは、こう言います。

「自然のない場所で生活するときには息苦しさを感じるほど、子どもの頃から豊かで美しい和歌山の森に親しんでいました。けれど、仕事として森に関わり始めると、想像以上に大変なことばかり。土砂崩れのリスクや担い手の不足など、課題が山積みだと実感しました。

そうした困難な状況だからこそ、多様なきっかけや関わりしろが作れるはずだと信じて、事業に向き合っています」

そんな浅利さんに、和歌山の森を歩きながら話を聞きました。

どんぐりを育てて森に還す「戻り苗」

「ソマノベースはNPOではなく株式会社として、資本主義経済の中で活動することを大切にしています。森の事業をビジネスとして継続することで、社会にインパクトを示したいんです」と語る浅利さん。

そうした思想から生まれたサービスの一つが「戻り苗」です。

戻り苗2
公式サイトより引用

── まず、戻り苗の仕組みについて教えてください。

浅利さん

戻り苗を購入いただくと、まずはソマノベースの拠点である和歌山県田辺市で拾われたどんぐりと専用の鉢、栽培キットが手元に届きます。それをオフィスや自宅など、好きな場所で約2年間、観葉植物として育てていただいた後、ソマノベースに送り返すか、植樹イベントに持参いただくことで、山に植えられます。

── 専用の植木鉢も可愛らしいですね。

浅利さん

いくら環境が大切だと分かっていても、義務感だけでは続きませんよね。何かアクションを起こす際には、どんな嬉しさや楽しさがあるかという視点も大切。牛乳パックのような簡易的な容器ではなく、おしゃれで可愛らしい木の鉢だからこそ「部屋に置きたい」と思っていただけますし、そうした入り口を大事にしています。

おかげさまで、これまで3,000本以上の戻り苗をお届けし、全国各地で育てられた苗木が、少しずつ和歌山の森に戻ってきています。実は、皆さんが育てた苗木を植える場所もここですでに3拠点目。これまでの2拠点は、すでに苗木でいっぱいになっているんです。

和歌山の森
戻り苗を植えはじめた山

── この辺り一帯に、戻り苗が植えられているんですね! もともとはどのような場所だったんですか?

浅利さん

林業用地として使われ、伐採された後の土地ですね。和歌山では一面の樹木をすべて伐り出す皆伐(かいばつ)が主流で、ここには切り株だけが残っていました。こうした伐採後の土地を、ソマノベースが林業業者さんからお借りしているんです。

林業の現場では、木を伐採した後に再び植林を行う「再造林」が推奨されていますが、実際には手入れが追いつかず、自然に任せる形になってしまう場所も少なくありません。しっかり再造林される土地は、日本全体でも4割未満と言われています。

和歌山の森
手入れの行き届いていない森の様子(写真提供:ソマノベース)

── 林業用地の半分以上が、伐採されたまま放置されてしまう。その理由はどこにあるのでしょうか。

浅利さん

再造林には多額のコストがかかるうえ、育てた木が資源として使えるようになるまでには何十年もの歳月が必要だからです。苗木を植えても、獣害や天候の影響で育たないリスクもある。短期的な収益が求められるビジネスモデルの中では、植樹や森の管理はどうしても後回しにされがちなんです。

ですが、裸になった土地では土砂災害のリスクも高まります。切り株の根が残っていても、数年経てば地面を支える力は衰えてしまう。災害の原因はさまざまですが、なるべく早く次の木を植えることは、山の保全において非常に重要なことなんです。

ピンク色のリボンが戻り苗の目印
ピンク色のリボンが戻り苗の目印

── 短期でのコスト回収が難しい林業ならではの課題ですね。次世代へ引き継ぐ仕組みがなければ、森が放置され、災害リスクも高まってしまう。

浅利さん

効率や量だけで言えば、寄付などで資金を集めて苗木をまとめて調達し、一斉に何千本と植えた方が早いかもしれません。実際、私たちも苗木を購入して利用することもありますし、そうした植樹活動も素晴らしいと思います。

それでも、何十年先の未来を見据えたとき、もっと多くの人や企業が山との接点を持つことが不可欠だと考えています。この場所に縁がない人たちにも、再造林が進まない現状や、土砂災害のリスクについて知っていただきたい。小さくても「直接」山づくりに関われる戻り苗を通じて、意識や考え方が変わる実感を届けたいんです。

2年間育てた苗木を植樹する「植林会」の様子(公式noteより引用)
2年間育てた苗木を植樹する「植林会」の様子(公式noteより引用)

── 戻り苗を育てることで、山と関わる実感と意識が根付いていくんですね。

浅利さん

一つの苗木に向き合い続けることで、徐々に愛着も生まれますよね。自然物なのでうまく育たないこともありますが、戻り苗の公式LINEで質問に答えたり、どんぐりを再送したりと、私たちも「2年間一緒に頑張りましょう」というスタンスで伴走しています。

育て終わった苗木は、ソマノベース宛に送り返すだけでなく、直接山に来て一緒に植えることもできます。この間も、全国各地から多くの方が、大事に育てた苗木を持って足を運んでくださいました。「見届けるような気持ちで、本当に嬉しい」「最初は育てるだけのつもりだったけれど、ここまで来たら自分の手で植えたくなった」なんてコメントもいただきました。

── まるで卒業式ですね。誰かと同じ苗木を育て、同じ時間を過ごしているという感覚が、森を遠い存在から身近なものに変えていくのかもしれません。

植林会

企業や地域とのコラボレーションで「入り口」を増やす

戻り苗は個人向けの取り組みにとどまらず、法人向けのサービスとしても広がっています。企業のサステナビリティ活動の一環や、社員参加型のプロジェクトとして活用されるなど、その関わり方は多岐にわたります。

── 企業とのコラボレーションも盛んに行われていますね。

浅利さん

たとえば、和歌山のレジャー施設「アドベンチャーワールド」を運営するアワーズさんでは、開園45周年を記念してスタッフ全員に戻り苗が贈られました。2年間の育苗を経て、多くの社員さんが集まって植樹を行ってくれたんです。

アワーズのスタッフが植樹した戻り苗のひとつ
アワーズのスタッフが植樹した戻り苗のひとつ

── Pontaとの取り組みでは、オリジナルデザインの戻り苗を購入できるプロジェクトを行いました。

浅利さん

Pontaのキャラクターは好きだけれど、森のことは詳しくない。そんな方々が、戻り苗をきっかけに森へ興味を持ってくださったのが大きな収穫でした。

最初は「キャラクターがかわいい」「オリジナルのグッズに惹かれた」といった直感的な興味でいいんです。こうした大手企業とのコラボレーションは、私たちだけではリーチできない層へ、森への入り口をつくることのできる貴重な機会になっています。

公式noteより引用
公式noteより引用

── Pontaとのプロジェクトは、和歌山ではなく北海道を舞台に展開されています。地域が異なることでの変化はありましたか?

浅利さん

通常の戻り苗では、和歌山の県木であり、紀州備長炭の原木にもなるウバメガシを扱っていますが、北海道美幌町の「Pontaの森」に合わせた樹種として、ミズナラを採用しました。

戻り苗の大切なコンセプトは、元あった山へ還すこと。和歌山の木を北海道に植えても育つとは限りませんし、地域の植生を乱すかもしれません。その土地のストーリーや特性を考慮し、北海道の戻り苗ではミズナラを育てることにしたんです。和歌山や北海道、そのほかの地域でも適した樹種を選んで、きちんと循環させることを大事にしています。

── 地域の植生に寄り添うことも大切にしているんですね。

浅利さん

そうですね。森や地域と同じように、戻り苗を育てる場所や人の幅も広がってきました。東急電鉄さんとの取り組みでは、池上線五反田駅、旗の台駅、千鳥町駅、蒲田駅の4駅で、東京・多摩の森に還すためのカシ類の苗木を育て始めたんです。

多くの人が行き交う駅という場所の特性をいかして、いくつもの苗木が並ぶシェルフや丸太型什器を利用しています。通勤や通学の途中で、苗木の成長を身近に感じてもらえれば、より多くの人に森を知ってもらうきっかけになりますよね。

東急電鉄での植え付け会の様子(公式サイトより引用)
東急電鉄での植え付け会の様子(公式サイトより引用)
東急電鉄・池上線旗の台駅に設置された戻り苗の苗木(写真提供:東急電鉄)
東急電鉄・池上線旗の台駅に設置された戻り苗の苗木(写真提供:東急電鉄)

── それぞれの地域に根ざした木を育てることは、「推しの木」を選ぶような楽しさにもつながりそうです。

浅利さん

ちなみに、東急電鉄さんの池上線石川台駅「木になるリニューアル」では、地方の木材を都市で活用する"地産都消"の考え方のもと、駅舎やホーム屋根に、私たちの出身である和歌山県産の紀州材が使われるんですよ。

2027年秋頃の完成を目指して行われている池上線石川台駅の木になるリニューアル(写真は完成イメージ)。東急線沿線で木材を使った駅を利用するなど、さまざまな
2027年秋頃の完成を目指して行われている池上線石川台駅の木になるリニューアル(写真は完成イメージ)。東急線沿線で木材を使った駅を利用するなど、さまざまな"木にいいこと"を知って・参加して・応援する機会を提供し、「木と人がめぐるまち」の実現を目指す「SOCIAL WOOD PROJECT」の一環として行われている

── 戻り苗は、まさに森を知り、つながっていくための「入口」になっているんですね。

浅利さん

一言で「森」と言っても、地域によって林業の形も樹種も全く異なります。違う土地で森を調べることは純粋に面白いし、その地域を深く知るきっかけにもなるんです。

たとえば和歌山のどんぐりを育てる過程で、ウバメガシという木の特徴や、備長炭の文化や炭焼きの担い手不足といった地域のリアルも見えてくるかもしれません。地域が抱える課題だけでなく、その土地ならではの個性や魅力もあわせて伝えていけたら面白いですよね。

そんな風に、「戻り苗」を入口に、さまざまな企業や地域と連携しながら、森に関わる人を少しでも増やしていきたいと思っています。

義務感だけでなく、楽しむ気持ちが山を繋ぐ

ソマノベースの創業から約5年

ソマノベースの創業から約5年。2023年に初めて山へ還された戻り苗は、今では浅利さんの背丈ほどにまで成長しているそうです。この先30年、50年と歳月を重ねる中で、それらは山を守るだけでなく、紀州備長炭として誰かの暮らしを温めたり、苗木を育てた人の家具に形を変えたりする日が来るかもしれません。

まずは空いた土地に木を根付かせ、土砂災害をゼロにする。その目標は揺らぎません。一方で、和歌山や北海道、東京など各地での活動を通じて、その土地の森や林業を知ることの面白さも実感しています」と語る浅利さん。

その姿は、社会的意義のある活動を、楽しみながら続けられる仕組みへと昇華させる、ソマノベースが目指す姿を象徴しているようでした。

ソマノベースの事業

ソマノベースの事業は「戻り苗」にとどまらず、企業の森林活用や地域の森づくりに伴走し、経済性と持続可能性が両立する「新しい森のあり方」を模索し続けています。

浅利さんたちが大切にしているのは、森への入り口を増やすこと。環境のために「やらなければならない」という義務感ではなく、「面白そう」という直感から関われる仕組みをつくる。そのポジティブな関わりの連鎖が、土砂災害という課題を解く鍵になり、次世代の森を支える力になるはずです。

公式サイトより引用
公式サイトより引用

一人が育てた苗木でも、たくさん集まれば、やがて大きな山をつくっていく。みんなの思いをつなぐ未来の森は、和歌山の地から静かに、力強く育ち始めています。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

  • facebookでシェアする
  • X(旧Twitter)でポストする
  • LINEで送る
  • noteに書く

ABOUT US

サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

TOP