炎上や誹謗中傷は「どれだけ気をつけていても、いつくるかわからない」――やす子が語るSNS時代のサバイバル術 #SNSの功罪
SNSでの炎上や誹謗中傷は、誰にでも起こりうる時代だ。意図せずとも発言が前後の文脈から切り取られて拡散され、一瞬で「悪者」にされることも珍しくない。そんな時代をどう生きればいいのか。幾度となく炎上を経験しながらも、「炎上は小さな村のイベント」と語るお笑い芸人・やす子。好感度キャラと自身の芸風に見えるギャップへの葛藤、エゴサーチをやめた理由、そしてSNSと適切な距離を保つための考え方を聞いた。(取材・文・撮影:キンマサタカ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ついたあだ名は炎上女王
「今年の前半は気がつけば炎上してばかり。でも炎上するうちが花だなと思います」
そう語るのは、今やバラエティー界でおなじみの顔となり、常に明るいキャラクターで広く愛されるやす子。これまで数えきれないほどSNSでの炎上を経験し、先輩芸人から「炎上女王」とからかわれたこともある。意図せず発言を切り取られ、独り歩きしたものも多い。今年の頭には一般参加型の人気バラエティー番組でのコメントが燃えた。やす子はその日の収録を振り返る。
「何回もお会いしてるレジェンドの方が出られたんですが、パフォーマンスの調子が悪くて、みんな触れづらそうだったんです」
だから、最後にあえて強い言葉でいじることにした。
「今日はとんでもなくつまらなかったです~。どうしちゃったんですか?」
それを聞いた出演者は苦笑いし、会場の観客も大いに受けていた。ただ、それが放送に乗ると言葉だけ独り歩きを始めた。これまでの関係性を踏まえたうえでの愛のある発言のつもりだった。
しかし、SNSではやす子の発言が切り取られ、ネットニュースでは「やす子の辛辣コメントが賛否両論」としてまとめられた。賛否両論という割には批判的なコメントがどんどん増え、さらに「燃えて」いった。
放送ではスタッフも問題がないと判断した発言だったが、本人や制作側の意図とは異なる形で受け止められた。しかし、文脈から切り取られる理不尽に対しては、意外にも諦観した答えが返ってきた。
「本当は『切り取られて傷ついたし、ネットの怖さを痛感しました』っていうのが一番いい答えだとはわかってるんですけどね。『あ、また燃えてるな』ぐらいです」
振り返れば、テレビに出るようになった当初は、エゴサが日課だった。
「書かなくていいことを、わざわざスマホを手に取って書かせちゃう。それくらい相手の心を動かせた、って思うようにしていました」
SNSはあくまで見知らぬ人との交流がメインであり、匿名の悪意に反応していたら心がもたない。落ち着いた受け答えからは、SNSとの確固たる距離感を覚えた。いつ頃それを手に入れたのか。
それはやす子の中学時代にさかのぼる。十数年前は、SNSのトラブルが増加した時代で、仲間内に発信したつもりが、あっというまに世間に拡散して大問題になるいわゆる「バカッター」などがあふれていた。
「バイト先の冷蔵庫に入った動画とか、仲間内での悪ふざけをシェアして炎上するようなことが増えた時期で、怖いなって思っていました。学校でもインターネットを扱うときには気をつけましょうっていう授業を何回も受けました」
自衛隊時代の教えもSNSとの付き合い方を慎重にさせた。
「自衛隊のすべてが国家機密だから、どんなことでも投稿してはいけないと誓うんです。基地にあるものを投稿したら終わりだと思えと釘も刺されました。実際に投稿して怒られてる人も見ましたし、そう考えるとネットの怖さを教えてもらってきたんですね」
エゴサをやめてよかった
だが、芸能人になって人気が高まるほど、炎上に巻き込まれることが増えた。
「ただ、あんまり気にならないんです。ネットで知らない人から攻撃されても、『誰かが壁に向かって大声で叫んでるな』ぐらいの気持ちですね。炎上してるときって自分のインプレッションにもなるので、そういうときは逆に自分の好きな趣味を発信するチャンスだなって(笑)」
見知らぬ人が薪をくべる炎上はつらくない。やす子がそう言い切れるのは、中学時代にSNSでつらい思いをしたリアルな過去があるからだ。
「急に誰か一人をターゲットにして攻撃して、グループLINEから追い出したり。悪ノリの延長だとはわかっていたけど、それを経験した友達はみんな傷ついていました。だってそれをやっているのは、毎日会うクラスメートですから」
見知らぬ人から投げられるどんなひどい言葉より、知人からの仲間はずれのほうがつらい。
「ただ、なんだかんだいって、エゴサで傷ついてはいたんです。でも、投稿してる人のアカウントを見にいっても、日々ずっと不満を吐いてる人ばかりだったので、『今後、一生関わらない人だな』って。見なきゃ炎上してないのと一緒です」
2年前にエゴサをきっぱりとやめた。SNSと適度な距離を置いて気がついたことがある。
「炎上したときって、自分が世界中から攻撃を浴びている気になるんでしょうね。でも、地元の友達とか、私が炎上してることも知らないんですよ。今ってSNSが多様化してるからなおさら、炎上ってほんとに小さな村のイベントでしかない。その祭りを知らない人のほうが多いって気がつけたんです」
"いい人"でいることの難しさ
炎上の根底には、世間が抱くイメージと本人のギャップがあったのかもしれない。「いい人」というイメージで見られることが多いやす子だが、お茶の間でブレークする前はもともと毒のある発言で笑いを取っていたことはあまり知られていない。
「24時間テレビで走ったときは、プライベートでもいい人でいなきゃいけないなっていう気負いはあったかもしれないですね。イメージと違うことをしたら何か嫌なことを書き込まれちゃうんじゃないかとコンビニで買うものを選ぶにもまわりの目が気になったり。でも、最近は嫌なものを見たらブロックできるようになりました!」
ブロックを頻繁にするようになったら気持ちが楽になった。
「あるインフルエンサーが言ってたんですけど、100人ぐらいブロックするともう来なくなるんです。つまり同じ人がやってるんですね。それに、私が炎上したことも彼らは1週間後に忘れてます。アンチコメントばかりしてる人って、炎上を探しているだけなんです」
芸人3年目まではみんなに好かれなくてはいけないと思っていた。アンチコメントにも地味に傷ついた。そんなとき事務所(ソニー・ミュージックアーティスツ)の先輩の存在が力になった。
「子どものときはハリウッドザコシショウさんの良さがわからなくて、『頭おかしいんじゃないの?』と思ってたんです(笑)。でも、大人になったらめっちゃ面白さがわかってきました。うちの事務所は独特な人が多いんですよね。コウメ太夫さん、アキラ100%さん、錦鯉さんとか、いろんなことを経てそこに行き着いた人が多い。それを見てたから、無理に好かれようとしないで別にいいやと思えたんでしょうね」
全員に好かれるのは難しいと気づいてからは、トンネルを抜けたような気がしたという。
「炎上しても、それをネタにできるようになりました。放送ではだいたいカットされちゃうんですけどね(笑)」
最近は仕事へのスタンスも変化した。自分なりの線引きをしたのだ。
「『ここでけんかしてください』『悪口を言ってください』っていう指示は受けないです。それって、大抵いい方向に行かないんですよ。そもそもけんかしてるのを見て、楽しいんですかね」
資格取得と、そこで得た学び
多くのレギュラー番組を抱えるやす子だが、以前と比べて自由に使える時間が増えたという。
「毎日楽しいです。猫に餌をあげてるときとかトイレ掃除をしてるときとか、こんなに幸せでいいのかと思います」
現在も予備自衛官として登録・活動しているやす子だが、最近では防災士の資格を取得したことが話題になった。
「日本ってこんなに災害が多いんだろうって思ったのがきっかけで。じゃあ災害のことを勉強しようかなって。少しでも影響力のある人がそういう資格を持って発信を続けたら、災害に備えようと思ってもらえるかなって。一応予備自衛官ですし、元自衛隊芸人を名乗るなら、より本物に近づかなきゃいけないなっていうのと、あとは、ペットの防災を知りたかったので」
SNSでの炎上や誹謗中傷は、思いがけないところから突然、降りかかってくることもある。
「どれだけ気をつけていても、いつくるかわからない。だから備えが大事ですね。嫌だって思った瞬間に閉じるかブロックしてSNSから離れる」
仕事でモヤモヤしたときは、自分のご機嫌をとるという。
「箇条書きで自分の好きなことを10個ぐらい書いて、1個目から順番にやっています。音楽を聴く、猫をなでる、焼き肉を食べるとか。自分が元気になることをいっぱい知っておくといいなと思います」
なぜ嫌いかを自分に問いかける
逆に感情的になり、人を傷つけてしまうかもしれない投稿をする欲求に駆られたときは、どうしたらいいのか。
「SNSでひどい悪口を書いてしまいそうになったときは、この先の自分にあなたはそれを書いたと胸を張って言えますか?と問いかける。小学生のとき、『テレビに出てるこの人嫌いだな』って思ったことがあったんです。なぜだろうと考えたら、まわりが『嫌い』って言ってるからでした。あれ、そんな理由だったんだって」
なぜ嫌いかを分析すれば、自分自身と向き合うことになる。
「大抵は『嫉妬』なのかなと。なぜ嫌いなのか、ちゃんと文字にするって本当に大切。意外と『あれ、嫌いというより自分の努力不足じゃん』って思えたりするんです」
若い頃から身近にSNSがあったやす子は、昨今の風潮にも思うところがある。
「そもそもSNSは面白いことを発信する場でした。でも今は"正義マン"が多いと思います。悪いことをした人は、なにがなんでも社会に復帰させるものかって意思を感じます。他人に厳しい人が多いですよね。みんな生きづらくないかな」
自分は今の人生が幸せだと笑う。だからネガティブな発信はしたくない。打たれ強いのは、「何もかなわない」人生だったからだ。
「私は幼い頃から、欲しいものは買ってもらえなかった。サンタさんはいない、お年玉はない、大学も難しかった。何にも期待しないってことを小学生のときに決めたんですよ。だから今は猫と過ごしているだけでとても幸せです」
小さい頃の経験があったから、ちょっとのことでもうれしいと思える。「人生はハッピーオーライ」だと笑う。
「お笑いの世界は皆さんおっしゃいますが、正解がないですから。楽しいですね。反省するのも楽しいです!」
SNSとの付き合い方にも「正解」はない。ただ、リテラシーを高めることと適度な距離を保つことが大事だと繰り返す。
「もしあなたが明日SNSで傷つけられたって、傷つけた人は2日後には別の人をターゲットにしてあなたを傷つけたことを忘れているんです。だから気にしなくていいです。安心してスマホを手放して、たくさん寝てくださいね」
やす子
1998年、山口県生まれ。2019年、デビュー。元自衛官の経験を生かしたネタで一躍人気に。24年には24時間テレビのチャリティーマラソンランナーを務め、集まった約5. 5億の寄付金は全国606カ所の児童養護施設支援のために使われている。今年6月に防災士の資格を取得。現在、予備自衛官。
「#SNSの功罪」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。SNS上での誹謗中傷が社会問題としてクローズアップされるようになっています。それに伴い、辛辣な投稿に対する対策や人々の意識も変わってきました。一方で、SNSの恩恵を受けている人たちも多くいます。私たちはどのようにSNSと付き合っていけばよいのでしょうか。さまざまな事例と共に考えます。
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