ウナギの旬は夏じゃない? 5割は違法? 今こそ知っておきたいウナギのこと
夏になると毎年、お取り寄せチラシやスーパーで「ウナギ」の3文字をよく見かけるようになります。猛暑を乗り切るために、土用の丑の日にちなんでウナギを食べた方も多くいるのではないでしょうか。
筆者はGyoppy!の制作チームに入ってまだ数ヶ月の身ですが、チームの一員として漁業や海のことを学んできてわかったことがあります。それは「マグロ」と「ウナギ」こそが、日本でポピュラーな魚の二大巨頭であるということ。
このふたつの魚は人気が高く、お店の看板メニューにすれば人が集まり、そしてGyoppy!でもマグロとウナギを取り扱った記事は、本当に多くの方に読んでもらえます。
それくらいウナギはみんな大好きで、需要も高い存在です。
でも、ふと思うのです。人気の魚であると同時に、ニホンウナギは絶滅危惧種。こんなにたくさん食べて大丈夫なのだろうかと。
過去に何度もウナギの取材をしてきたメンバーは「このままだと数年後にはワシントン条約の取引規制対象になって、流通量は現在の20%以下になってしまう」と言います。
えっ......流通量がそんなに減ってしまったら、丑の日のウナギはどうなるの? もうウナギは食べられなくなるの? という疑問を口にすると、土用の丑の日にウナギを食べる本当の意味や、食べられているウナギの半分以上は違法など、ウナギの驚くべき新事実が次々と飛び出てきます。
美味しくて大好きだけど、実はよく知らないウナギの話を4つの視点から紐解いていきます。夏の風物詩でもあるウナギを食べる前に、今年はまずウナギを知ることからはじめてみるのもいいかもしれません。
「土用の丑の日」は平賀源内によるキャンペーンだった
そもそも、土用の丑の日って何なのでしょうか?古くからある行事や験担ぎの一種なのだろうか......と思って、調べてみました。
土用の丑に鰻を食べるようになったのは、江戸時代のマルチタレント平賀源内(1728~1780)が知り合いの鰻屋に頼まれて考案した宣伝コピーが起源といわれています。もともと鰻の旬は秋から冬で、夏場には売り上げが下がっていたのです。それをなんとかしようと鰻屋が源内の知恵を仰いだのがきっかけだとか。現在は、シラスウナギを養殖するのが主流であり、土用の丑に出荷をする前提で生産するため、夏でも脂ののったウナギを食べることができます。
(出典:6年ぶりの豊漁でも、ウナギが安くならない理由)
そう、平賀源内が夏のウナギの売上を上げるために「本日は土用の丑の日で、精のつくウナギは夏を乗り切るのに最適」という看板を発端に高まった夏のウナギ需要が、300年近く経った今でも残っているのが現代の土用の丑の日なのです。
夏のウナギはクセがなく、口当たりも軽いため万人に受けやすいのが特徴です。それが本来の旬である冬になるとウナギに味が乗ってまた違う楽しみがあるといいます。実はウナギは年間を通して楽しめる魚だったのです。
実際、東京・日本橋にあるウナギの老舗「鰻 はし本」は、季節によって変わるウナギの美味しさを知って欲しいという想いから、土用の丑の日はあえてお店を閉めるのだとか。丑の日は忙しすぎて提供するもののクオリティの担保が難しいという問題もあるので、土用の丑の日に限らず、好きなときにウナギを味わうのがお店にとってもお客さんにとっても理想なのかもしれません。
参考:「あえて丑の日には店は閉める」元DJの老舗鰻屋4代目が模索し続ける、資源保護の新たな形とは
私たちは知らないうちに違法ウナギを食べていた
Gyoppy!チームでウナギの話をすると「食べられているウナギのうち半分以上は違法である」という話題がよく上がります。「えっ、それってどういうことなの?」と聞くと「これを読んでみて」と皆が口を揃えておすすめしてくれるのがGyoppy!で過去にインタビューした、ウナギの専門家である海部健三さんの記事。海部さんは、『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波書店)という本の著者でもあります。
ウナギの半分以上は違法なの?という疑問に対して、記事中で海部さんはこう答えています。
結論からお伝えすると、本当です。その年によりますが、国内で養殖されているニホンウナギのうち、半分から7割程度のウナギが、不適切に漁獲・流通したシラスウナギから育てられています。
(出典:ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問)
現在流通しているほとんどのウナギは養殖ですが、実は完全養殖(産卵から成魚へ育てるまでを養殖施設内で完結させること)にはまだ莫大な費用がかかるそう。そこで、子どものウナギ(シラスウナギ)を捕獲して、成魚になるまで養殖します。
問題は、このシラスウナギの捕獲。本来は各都道府県で厳しく管理されているものなのですが、無許可で行う密漁や許可を受けた漁業者の過少報告(無報告漁獲)、さらには国外で漁獲されたシラスウナギの密輸などが行われているのだとか。
こうして密漁や密輸・無報告漁獲が横行すると、シラスウナギの漁獲実態が掴めなくなってしまいます。その結果、ニホンウナギの正確な数字が掴めなくなっているため、持続可能な消費限度を設定することが難しくなっているのです。
ですが現状では、スーパーや鰻屋さんで消費者がそれを見極めるのはほとんど不可能。知らぬ間に私たちは違法なウナギを食べ、それがウナギを絶滅に一歩近づけることに繋がってしまっている現実が、そこにはありました。
ウナギが絶滅してしまうなら、今食べるのをやめるべき?
ニホンウナギは、環境省によってレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に登録されている絶滅危惧種です。それは、このままいけば将来ウナギがいなくなってしまうことを意味します。
ではこれからは、ウナギを一切食べないほうがよいのでしょうか......? ウナギを甘辛いタレに絡めてホカホカご飯の上にのせた、あの美味しい鰻重が食べられないなんてつらすぎます。どのようにウナギの減少を止めていくべきなのか。そんな疑問にも海部さんは答えてくれています。
数十年前には、"当たり前"に河川や田んぼにたくさんのウナギが生活していました。ウナギをこれからも食べることができるようにするには、今の状況から、昔存在した"当たり前"の状態に戻す必要があります。
ウナギの数が減少しているのはなぜかというと、人間がウナギに悪影響を与えているからです。人間が悪影響を与えているからウナギが減っているのなら、その悪影響をなるべく減らしてあげることが、まずは必要です。
(出典:ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問)
人間がウナギに与えている悪影響とは、過剰に獲って食べることや環境を改変していること。ですが、状態を戻すときに人間の経済活動といかにバランスを取っていくのかが難しいと言います。
たとえば、私たちが明日からウナギを食べることを一切やめてしまったら、鰻屋さんや、養殖業に携わる人は暮らしていくことができません。このような影響を考えた上で具体的にどのように進めていけばいいのかは、専門家である海部さんですら明確な答えを持っていないそう。
ウナギが減るということは、消費スピードがウナギの増加スピードを超えているということ。需要と供給がちょうどいいバランスになれば、自然とウナギも増えてくるはずです。そのためにできることを、私たちひとり一人が考えて行動していかなくてはいけないのかもしれません。
大切なのはウナギのことを知って、美味しく大切に食べること
半分以上のウナギが違法であることや、このままだとウナギが絶滅してしまうこと、その現状を変えていくためにしっかり向き合っていかないといけないということは分かりました。
でも、やっぱり知りたくなってしまうのは「今日から気軽にできること」。心のどこかで罪悪感を感じながらウナギを食べる前に、何かできることはないのでしょうか?
海部さんは、消費者の声や行動が集まれば業界も変わっていく可能性があるといいます。
ひとりの個人の力は大きくはありませんが、たくさんの声が集まれば、産業界や政治に対して影響を与えることができます。「ウナギを食べられる未来がいい」「違法行為の関わったウナギを食べたくない」と、ウナギ関連の業界や政治の世界に対して届けることで、状況は変わっていくと期待しています。
現状では、消費を削減するべきです。同時に環境を回復していく努力も重要ですが、環境の回復には時間がかかってしまいますね。消費削減は即効性が期待できると考えます。
(出典:ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問)
たとえば、資源や環境に配慮した生産者が育てたウナギを選んでみる。そうすることで「環境に配慮したウナギのほうが売れる」となれば、不適切に漁獲されたシラスウナギを扱う業者も減ってくるかもしれません。
ほかにもイオンが販売している、シラスウナギの産地までを明らかにした「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」など、私たちが選択できる商品は増えてきています。
また、ウナギを食べることについて養鰻家の横山桂一さんはこう語っています。
絶滅するかもしれないから、食べるのをやめる選択をするのは簡単です。ただ、この業界にいる以上、食文化としてのうなぎを絶やしてはいけないと思っているんです。
さらに言えば、ひとつの産業がなくなることで、生活が厳しくなる人のことも考えたい。生産者としてだけではなく、いろんな人とともに手を取り合って、食文化や産業、それに関わる人たちを守っていかなければいけない。
(出典:「うなぎを美味しく食べ続けられるように」養鰻の名手が現場の外で学んだこと)
日本でウナギを食べてきた歴史は古く、少なくとも縄文時代から食べられてきたものです。万葉集でも詠まれていたり「うなぎ登り」「うなぎの寝床」といったことわざも存在するくらい古くから親しまれてきた存在です。
私たちの小さな行動がウナギの絶滅を防ぎ、長く愛され続けてきた文化を守ることにつながります。あらためてウナギにまつわる事実を紐解いていくと
- ウナギの旬は冬で、本来は年間通して楽しめる魚
- 私たちは知らないうちに違法ウナギを食べている
- 生産者やウナギの文化を守りながら、ウナギを絶滅から救うことが大切
- ウナギのためにすぐできる行動は、資源や環境に配慮した商品を選ぶこと
など、今まで知らなかったこと、私たちが向き合うべき真実がありました。正しくウナギのことを知って、今年も美味しく大切にウナギをいただく。そうすることで10年後、20年後も、あの鰻重のフタをあける瞬間のワクワクがある未来をつくれるのなら、それはとても嬉しいことだなと思うのです。
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取材・文吉田恵理
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取材・編集くいしん
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