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豊かな未来のきっかけを届ける

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「1.5℃の約束 ― いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」ひとりひとりの新しい『当たり前』がきっと社会を変えていく。

国際連合広報センター

暑い夏だった。

9月初めに気象庁から、今年の6月から8月の、日本のこの夏の天候について 発表 があった。今年の日本の夏の平均気温は平年を0.91°C上回り、1898年の統計開始以来、2010年に次いで2番目に高かった。また、日本近海の平均海面水温も平年より0.8°C高く、統計を取り始めた1982年以降で2001年と2016年と並んで最高となった。

そんな暑い最中、アントニオ・グテーレス国連事務総長が3年ぶりに 日本を訪問した。

アントニオ・グテーレス国連事務総長、原爆ドーム前で折り鶴を手に(広島、2022年8月6日)
アントニオ・グテーレス国連事務総長、原爆ドーム前で折り鶴を手に(広島、2022年8月6日)

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行のために2020年から持ち越しになっていた8月6日の広島平和記念式典出席への願いが叶い、東京では日本記者クラブで記者会見に臨んだ。

核軍縮、ウクライナでの戦争、同国のザポリージャ原子力発電所関連施設への攻撃、食料不安、東アジアでの緊張の高まりなど、多岐に亘って切迫する課題がある中での記者会見で、ニュースの見出しもこれらに関連するものだった。しかしながら、実はグテーレス事務総長の冒頭発言 の半分近くは気候関連のメッセージだった。残念ながら報道ではほとんど取り上げられなかったが、気候課題への危機感と克服のための連帯の必要性、そして日本の果たすべき役割への期待が込められていたのだ。

「私たちは、気候危機に立ち向かうために連帯しなければならない。

日本もまた、化石燃料の搾取がもたらす結果を目の当たりにしている。今年はすでに例年にない猛暑が続き、その後には集中豪雨にも見舞われた。

化石燃料に依存することは、雇用、ビジネスと経済の破壊、そして紛争、飢餓、疾病の増加へとつながる一方通行の道だ。

イノベーションと自然界に対する深い理解において素晴らしい実績のある日本は、気候分野に関してグローバルなリーダーシップを発揮する、莫大な可能性を持っている。」

こう述べた上で、グテーレス事務総長は日本に対し、1)2030年までに排出量を半減するための信頼できる野心的な行動、2)石炭火力発電所への資金拠出の停止、3)再生可能エネルギーへの公正な移行のための国際的なパートナーシップ、の3つの分野において具体的な行動を起こすよう、期待を込めて語った。

今年の夏、北半球の各地で極端な熱波や大規模な山火事が相次ぎ、まるでインフェルノのような南ヨーロッパの森林火災などの映像が日本のニュースでもしばしば流れた。ソマリアをはじめとする「アフリカの角」地域では、過去40年で最悪の干ばつに見舞われている。

もちろん日本も例外ではなく、連続する猛暑日、北陸と東北を中心とする大雨と水被害など、パターンが変わりつつある気候と向き合っていくことが当たり前のようになってきている。私は前述のグテーレス事務総長の広島平和記念式典出席の受け入れに向けて暑い最中に炎天下で下見を行ったが、日中の屋外作業そのものが高温化で大きな負担を伴うものになっていると痛感した。

さらにパキスタンでは、5月初めという異例に早い時期から強烈な熱波に見舞われ、その後は猛烈なモンスーンによる大雨で、全土において洪水被害が起こった。温度上昇によってヒマラヤの氷河が加速度的に融解していることも追い打ちを掛けている。国土の3分の1が水に浸かったと言われ、海か湖かと見紛うばかりの現地の被害を伝える写真に胸が痛む。2010年に同国を襲った洪水被害を上回る、最悪の被害が予想される。国連は緊急人道支援動への連帯と支援を国際社会に求めている。

グテーレス事務総長はその 呼び掛け の中で、「気候変動による地球の破滅に向かって、夢遊病のように進むことはもう止めよう。今日これはパキスタンで起こったが、明日はあなたの国で起こるかもしれない」と強調し、緊急に気候対策に我が事として取り組むことを求めている。そう、私たちは目を覚まさなければならない。 9月19日からの国連総会ハイレベル・ウィークでも、グテーレス事務総長は世界の指導者たちに気候変動対策の優先度を上げるよう訴えている。

仕事柄、私は多くの報道に目を通しているが、日本では社会でよく知られるようになった「 持続可能な開発目標(SDGs) に比べると、 気候変動 に関するニュースや露出がまだまだ少ないように感じるのが正直なところだ。私たちの暮らしの基礎にある地球の健康が損なわれれば、脆弱な立場にある地域や人々は真っ先に打撃を受ける。気候変動を含む「プラネット」の課題は、SDGsの13・14・15番目のゴールという環境関連の個別目標にとどまらず、17つの目標全体を支える礎だ。土台が揺らぐと、社会も、経済も成り立たなくなる。さらに、SDGsの「つながり」の枠組みや「誰一人取り残さない」という大原則こそ、気候変動の影響や対策を幅広く捉える際の強みであるはずだ。

世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5°Cに抑えるのが、国際社会の事実上の目標だが、そのためには二酸化炭素の排出量を2030年までにほぼ半減、2050年までに実質排出ゼロにしなければならない。しかしながら、各国の排出削減目標を足し合わせても、2030年までに減るどころか14パーセントも増えてしまうことがわかっている。私たちが適応できるスピードをはるかに上回るスピードで気候変動が進行し、今対策を取らなければ手遅れになり、後世に大きな禍根を残しかねないという状況を正しく理解してもらい、自分にどう関わりがあり、自分そして社会の仕組みとして何ができるのかということを考えてもらうことが圧倒的に必要だ。気候変動への危機感の高さは、日本も対象とする最新の国際世論調査( Pew Research Center Open Society Foundations )からも明らかだ。

ありがたいことに日本では多くのメディアが、国連とメディアとの連携の枠組み「 SDGメディア・コンパクト 」に加盟し(9月8日現在、グローバルな加盟メディア数は294、うち日本のメディアは全体の6割の185)、SDGsの自分事化につながるキャンペーンや特集企画を積極的に推進してくださっている。この幅広い連携のネットワークをベースに、国連広報センターでは、加速度的に深刻化して人類を脅かしている「気候危機」に歯止めをかけるための野心的なアクションを呼び掛けるキャンペーンを、メディアと一緒に行いたいと考えた。国連がSDGメディア・コンパクト加盟メディアに対して国レベルでの共同キャンペーンを提案するのは世界でも初めてのことで、2022年初めから国連広報センターのチーム内および米国・ニューヨークの国連本部と議論を重ねてきた。

この日本を出発点にした世界初のプロジェクトでは、2016年初めに SDGsのゴールとアイコンの日本語化で協力してくださった博報堂DYホールディングス の方々が、再び私たちに併走してサポートしてくださった。同社の「クリエイティブ・ボランティア」という、コピーライター、デザイナー、PRプラナー、ストラテジックプラナーが社会課題の解決に向けて貢献するという制度を通じた協力で、国連本部と協議しつつ博報堂チームの皆さんとともに練ったたたき台をベースに、SDGメディア・コンパクト加盟メディアの方々に「私たちと一緒にキャンペーンに加わっていただきたい」と提案した。加盟メディアからのコメント・要望・質問を受け付け、それに対応し、素案をキャッチボールしながら計画を練っていった。また、SDGメディア・コンパクト関係者を対象に、気候危機の現在地をより深く知っていただくための勉強会を開催して、気候課題への熱量を高めていった。

こうして6月17日に発表に漕ぎつけたのが、「 1.5°Cの約束―いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。 」キャンペーンだ。気候変動への理解促進・自分事化・取るべきアクションの推進(メディア企業としての対応も含め)を、メディアが持つ発信力やネットワークをフル活用してリードしてもらう、というのが趣旨だ。キャンペーン加盟メディア数は立ち上げ当初で108、9月6日時点で136。国連からの呼びかけで、公共放送、民放テレビキー局、地方局、全国地、業界紙、地方紙、ラジオ、総合出版社、専門雑誌社、オンラインメディア、ケーブルテレビ、コミュニティーラジオなど、業態・規模・地域において多様性に富んだメディアが気候アクションの名のもとに集まったことが、このキャンペーンの特色の一つでもある。

博報堂の緊急調査によると、キャンペーン立ち上げに際して参加メディアがタイミングを合わせて積極的に発信したおかげで、「1.5°Cの約束」という言葉の浸透が見て取れた。ニューヨークでの国連総会ハイレベルウィークの初日の9月19日から、気候変動対策を話し合う国連の「気候変動枠組条約第27回締約国会議」(通称「COP27」)の最終日の11月18日までの2ヶ月間が、プロモーション強化期間だ。アクセルを踏み込むにあたり、国連広報センターでは、キャンペーン参加メディアに活用していただけるキャンペーン・ロゴやステートメントに加え、 告知用の動画や音声 も、参加メディアから協力してもらいつつ制作した。まさに「みんなで」という協力と支え合いの精神に支えられている。

私がこの「1.5°Cの約束」キャンペーンに特に期待するのは、個人も含めあらゆる担い手に自分たちが持つ可能性に気付いてもらいたい、ということだ。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のプリヤダルシ・シュクラ第3作業部会共同議長は 2022年4月の報告書発表 にあたり、「私たちの生活様式と行動の変化を可能にするための正しい政策、インフラ、テクノロジーを導入することで、2050年までに温室効果ガス排出量を40-70%削減することができる」と強調している。私たちの暮らしと美しい地球を将来につないでいくためには、スマートな政策誘導、インフラ、テクノロジーを通じて、 私たちの行動変容 に結び付けられるかがまさに大きなカギとなるのだ。

状況は厳しい。気候危機はもとより、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行、ウクライナでの戦争とそのグローバルな影響など、私たちの世界はこれまでにない規模の打撃の集中砲火を浴び、連帯・協調の求心力よりも分断・排除の遠心力が目立ちがちだ。9月8日に発表された国連開発計画(UNDP)の「 人間開発報告書 」のタイトルは、ずばり「不確実な時代の不安定な暮らし:激動の世界で未来を形づくる」。不確実性が幾重にも重なり合い、絡み合うことによって、これまでにない形で暮らしが不安定になり、UNDPが32年にわたって算定を行ってきた各国の健康や教育、生活水準の指標として「人間開発指数(HDI)」が初めて世界平均で2年連続して低下して2016年の水準にまで落ち込んだことを指数で明らかにしている。

コミュニケーションに携わる者として同報告書で注目するのは、不安全感(human insecurity)と分極化が相まって、あらゆるレベルで危機に対処するために必要な連帯や協働が妨げられているという点だ。例えば、UNDPは今回のHDIの算定結果から、最も強い不安全感を抱えている人々は、極端な政治的意見を持ちやすいことが分かる、と指摘している。アヒム・シュタイナーUNDP総裁が同報告書発表にあたり強調するように、不確実な世界と強烈な不安全感を乗り越えるグローバルな連帯感を取り戻し、相互に絡み合う共通課題に取り組んでいけるかが非常に重要だ。ここでコミュニケーションが果たす役割が非常に大きいだろう。気候変動について言えば、切迫する状況と課題の大きさについて正しい理解を促進すると同時に、個人・地域・都市・企業レベルで取り得る解決策や、解決への具体例を巻き込み型で伝えていくことで、解決への担い手としてより強く意識してもらうことが不可欠だと考える。膨大な量の悲惨で不幸な危機のニュースにだけさらされていると、感覚がマヒし、共感やモティベーションが失せてしまう。

加速する気候変動が若者らのメンタルヘルスに与える影響について警鐘が鳴らされいるが、世界保健機関(WHO)も「 気候変動とメンタルヘルスに関する政策要綱 」を今年6月に発表している。調査研究・政策領域としてはまだ新しい分野ではあるが、気候変動を止めることや変化を起こすことは不可能だと感じて、喪失感、無力感、欲求不満、不信感を強く持ってしまいかねない。同政策要綱は、対策の一つとして、被害・影響を受けている人々を支援や援助の受け手を越えて、メンタルヘルスと幸福を改善する参加者やリーダー、気候変動対策のためのアクションの担い手とする必要があると指摘している。

この夏、自分が変えれば社会も変わる、新しい「当たり前」が生まれると意を強くしたことがある。現代アートが大好きな私は、今年の夏休みに3年ごとに開催される 瀬戸内国際芸術祭 に行き、島巡りをしながらアートを楽しんだが、実に多くの作品が廃材とゴミを素材にして、時にユーモラス、時に直球の社会的なメッセージを含むものだった。2016年、2019年の回の同芸術祭にも足を運んだが、そうした作品展示はまだ少なかったと記憶している。今やそれが新しい「当たり前」になりつつあるように感じた。それだけアーティストも壊れつつある地球を直視せざるを得ない状況に追い込まれている、ということだろう。2017年に「 国連海洋会議 」が開催されたのを契機に、「 やめよう、使い捨てプラスチック汚染 」と呼びかけ、さらには気候変動とのつながりも示しながら訴えてきた。

「櫂より始めよ」でいち早くマイボトルを使い始め、国連広報センターの関わる会議やイベントではガラス容器での水提供に切り換えてきた立場として、このアート界の動きは嬉しい驚きだった。今や使い捨てプラスチックの撲滅を目指した条約を作っていくことが国際的に合意され、取り組みが進みつつあるのは、個人、研究者、地域、自治体、企業、国、そして国際社会の願いとアクションとがつながった好事例ではないか、と思っている。まず変えられるのは自分についてだが、それが多くの人々をインスパイアして巻き込むことができれば、社会が変わっていき、新しい「当たり前」につながっていく。

「1.5°Cの約束」キャンペーンから、気候危機を自分事として考えてアクションに移し、それが社会の仕組みレベルの変革につながる事例が様々なレベルで生まれることを心から願っている。

根本かおる

根本 かおる

国連広報センター所長
1986年テレビ朝日入社。アナウンサー、記者を経て米コロンビア大学大学院にて国際関係論修士号取得。1996年から2011年末までUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。WFP(国連世界食糧計画)広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年より現職。
2021年度日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤー」受賞

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