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「シンプルに言ってしまえば、詐欺の上に成り立っている性行為です」――子どもを手なずける「グルーミング」とは #こどもをまもる

    

Yahoo!ニュース オリジナル 特集

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西田公昭さん(左)、櫻井鼓さん(右)

ジャニー喜多川氏による性加害が社会問題になっている。報道によく登場するのが「グルーミング」という言葉だ。もともとは「毛づくろい」という意味だが、まるで毛づくろいをするかのように相手の警戒心を解き、性的な目的を達成しようとするところから、この言葉が使われるようになった。「性的グルーミング」や「チャイルド・グルーミング」と呼ばれることもある。
性被害を受けた子どもが、ときに加害者への信頼や親愛の情を示すのはなぜなのかが、この言葉によって説明される。その性質上、加害の事実が隠蔽されやすいが、グルーミングは性的虐待の一形態だ。被害に遭うのは女子とは限らず、男子も女子と同じぐらいリスクがあることがわかってきている。具体的にはどのようなことが行われるのか。識者は「詐欺みたいなもの」「マインド・コントロールの一種」と解説する。(取材・文:篠藤ゆり/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

性的な目的を隠して未成年者を手なずける「詐欺」

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櫻井鼓さん

塾の講師やスポーツのコーチなどが、教え子に「個人的に指導してあげる」「あなたの才能を伸ばしてあげたい」などと親切を装い、1対1で会うように誘導する。あるいはSNSでもつながり、友だち関係や親子関係の悩みなどの相談に乗り、「理解者」だと思わせる。

そして「家に居場所がないならうちに来てもいいよ」と誘い、勉強を教えるなどして十分信頼関係ができたところで、キスを迫る。「つきあっているわけじゃないから」と拒否をしても、「好きだ」と言われると、子どもはつい要求に応じてしまう――。

これはグルーミングの典型的な例のひとつだ。子どもは相手の"下心"に気づかず、「自分を理解してくれるいい人」「自分を導いてくれる人」といった認識を持ち、信頼を深める。その結果、性被害に遭ってしまう。

犯罪心理学者の櫻井鼓(つつみ)さん(追手門学院大学心理学部准教授、横浜思春期問題研究所研究員)は、警察で20年以上にわたり、犯罪に巻き込まれた子どもなどに対する相談活動を行ってきた。現在、性暴力被害やグルーミング、トラウマの研究、被害者の鑑定をしており、横浜思春期問題研究所ではさまざまな思春期の問題に携わっている。

櫻井さんは、加害者は大きく分けて、「見知らぬ人」である場合と、「もともとの知り合い」である場合があるという。

「見知らぬ人の場合、SNSのやりとりを通じて十分に未成年者の信頼を得たあと、わいせつな画像を送らせるのがよくあるパターンです。または実際に会い、子どもが好むゲームなどで懐柔し、家に連れていくなどして性的接触を持つ。一方、もともとの知り合いの場合、塾の講師や学校の教師、スポーツのコーチなど、社会的な地位を利用しているケースが多いですね。上下関係を利用して巧みに誘導し、『勉強を教えてあげるよ』とか恋愛感情を起こさせるような言動を取り、最終的に性的接触へと誘導します」

最初から性的な目的があるのに、それを隠して未成年者を手なずけていく。いわば「詐欺」のようなものだと、櫻井さんは言う。

グルーミングは一種のマインド・コントロール

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西田公昭さん

社会心理学者で、マインド・コントロールについて実証研究を行っている西田公昭さん(立正大学心理学部対人・社会心理学科教授)は、グルーミングはマインド・コントロールの一種だと捉えている。

マインド・コントロールとは、相手に気づかれないよう行動や考え方に影響を与え、意思や行動を誘導するコミュニケーション手法のこと。未成年者の場合、まだ性について知識不足で価値観が確立していないため、加害者の価値観を植えつけやすい。

加害者の社会的地位が高かったり、スポーツや音楽、アートなど未成年者が憧れる分野で才能や技術を持っていたりする人の場合はなおさらだ。尊敬できる人から"目をかけられる"と、マインド・コントロールされやすくなる。

「まず信頼関係をつくり上げ、自分がいかにすごい人間かという権威を植えつけ、すべて自分に任せればうまくいくと誘導していく。たとえばスポーツの監督やコーチ、塾や学校の先生など、強い好意を抱き、信頼している存在で、しかも相手が『教える立場』である場合、自分にとって悪いことをするはずがないと思いがちです。わいせつ画像や性行為の要求にしても『自分を誰よりも深く愛してくれる人の自然な要求なのだから、それに応えないといけない、いやらしいなどと嫌悪を感じる自分は、悪い子だ』とか、スポーツの世界の場合、『強くなるためには性的感情に慣れて大人にならなきゃいけない、これは訓練だ』などと言われて、信じてしまう。それから宗教者、霊能者や占師にマインド・コントロールされて、オカルト的な恐怖から逃れる特別な力を与えるためなどといった理由づけで、性被害に遭うケースもあります。被害者は、犯人の説明に疑問を抱いても否定する確証がなく、大人の言うことに従わないといけないと思ってしまう」

男子が被害者になるケースも少なくない

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出典:櫻井鼓「性犯罪・性暴力被害の実態と課題 ~ネットを介した性被害調査~」に関する報告資料より抜粋(「全国犯罪被害者支援フォーラム2022」 2022年10月17日報告)

これまではグルーミングというと、どちらかというと女子の被害について語られることが多かった。しかし実際には、男子が被害に遭うケースも少なくない。

櫻井さんの研究グループが行ったオンラインによるモニター調査によると、18歳未満で「性的な自画撮り画像の送信経験」は、男女比較で男子のほうが多かった。また、ネットを介して知り合った人とその後、会うことになり、身体的な性被害に遭った割合も、男女でほとんど差がなかった。

男子の場合、女子以上に、被害を親などに言えない傾向が強いという。言ってもわかってもらえないという気持ちもあるし、被害を受けていること自体が恥ずかしいと感じ、親に打ち明けられないケースは多い。

櫻井さん

「たとえ親がわが子の被害を知ったとしても、男子の場合、女子以上に、親が被害申告をためらうことが多いようです」

背景にある子どもの孤独感

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(提供:アフロ)

では、子どものどのような部分が利用されるのか。櫻井さんの研究によると、「孤独感」がキーワードだという。とくにSNSを介してのグルーミングは、その傾向が顕著に表れる。

「親との関係がうまくいっていない、友人関係に悩んでいるなどの理由で孤独感を抱いていると、加害者はその孤独感を利用する。そして親身を装って相談に乗り、『理解者』を装い、相手の信頼を得ます。十分信頼を得た段階で、たとえば居場所がないと感じている子どもに『うちに来たら居場所があるよ』などと誘導する。また、自信のなさを抱いている子は、ほめられるとうれしくなるので、上手にほめるわけです」

加害者側がわざと自分の悩みを打ち明けたりする場合もあるという。

「孤独感を抱いている子どもは、自分も傷つきを感じているので、相手が悩みを語ると共感してしまう。その結果、相手に寄り添ってあげたいという感情が湧いてくる。そういったなかで、画像を送るようにとか、会おうと持ちかけられると、応じてしまうわけです」

難しいのは、子どもの側がなかなか「自分は被害者だ」という実感を持てないことだ。自分の裸の写真を相手に送ったとしても、相手がほめてくれると、「信頼している相手からほめられてうれしかった」と感じることもある。

「性被害に遭った子どもに話を聞くと、『だまされてなんかいない』と主張することもあり、被害を被害と認識できないでいることがあります」

小学生など年齢が低い場合は、知識もあまりないので、自分がされていることの意味がわからない場合がある。思春期になり、いろいろな情報や知識を得て初めて、自分が性的な被害を受けたのだと気づく。数年たって初めて親に相談し、性被害が発覚する場合もある。

また、子ども時代のグルーミング経験がトラウマとなるケースも少なくない。その影響で、大人に対する不信感をぬぐえない、恋愛関係に自信を持てないなど、生きづらさを抱える場合もある。

"集団の心理・論理"が働くケースもある

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西田公昭さん

西田さんによると、マインド・コントロールを強めるために「社会的遮断」が行われるケースも多いという。

「『2人きりになろう』とか、『うちにおいで』などというのは、物理的な遮断です。『あんな親はダメだ』『親は君のことをまったく理解していない。でも、自分がついているからもう大丈夫だよ』とか、『友だちにも言っちゃだめだよ』『邪悪な社会から守ってあげたい』などと言うのは、心理的遮断です。ただでさえ、性的なことに関しては誰かに相談しにくい。親にも友人にも話せない場合が少なくありません。さらに『2人だけの秘密だよ』などと約束させられると、ますます誰にも言えなくなります」

物理的に「社会的遮断」が起きやすいのが合宿生活だ。家庭や友人からまさに物理的に遮断され、閉じられた世界で生活していると、集団の論理が絶対化されやすい。とくに日本のスポーツ集団などはヒエラルキーがあり、コーチや監督の指示を絶対視して崇拝さえする傾向があるので、マインド・コントロールされやすいともいえる。

「部活や特殊技能の集団の場合、先生やコーチなど上の立場の人に対して、批判的な見方をしてはいけないといった刷り込みが生まれやすい。コーチの要求にこたえるのが『正しい行動』だと思い込んでしまうわけです。そのため、高校生くらいの年齢で性的な知識はある程度あったとしても、自分がされていることを、別の意味合いに解釈しがちです。いわば通過儀礼のようなもので、これを受け入れて乗り越えないといけない、という心理を働かせて自分を説得させるのでしょう。日本は同一性や同調圧力が強いので、立場が上の者から『そういうものだ』『仕方がない』と言われると、考えることをやめて、誰にも相談できず、ただ我慢してしまう場合があるのです」

被害を防ぐためには

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写真はイメージです(写真:アフロ)

では、グルーミングの被害から自分自身、あるいは子どもを守るには、どうしたらいいのだろう。西田さんは、次の3点をあげる。

  1. グルーミングという手法の存在を、未成年者に知ってもらう。その場合、「自分の言うことさえ聞いていれば、うまくいく」といった言い方をする人は怪しいといったように、具体的に説明する。

  2. たとえ信頼している相手でも、裸の画像を送れと言ってくるなど性的な要求や話題を振ってきた段階で、「これを受け入れてはいけない」とシャットアウトすることの重要性を繰り返し伝える。また、そういうことがあった場合、親か第三者に報告か相談するよう教える。

  3. 学校やスポーツクラブ、なんらかの集団の場合は、集団としてグルーミングから未成年者を守ることを責務とする。具体的には、1対1の個別指導はしない、常に第三者の目が入るような組織にしておく、など。

相談窓口の存在を広く知ってもらうことも大事だ。なかには、親には相談しにくい未成年者もいるだろう。最近は、電話で話すことが苦手な未成年者も少なくない。そこで性犯罪や性暴力被害者の支援団体では、SNSによる相談を受け付けているところもある。

刑法改正で「グルーミング罪」が成立

未成年者を性被害から守るため、今年3月、刑法改正案が閣議決定され、6月16日、参院本会議で可決・成立した。改正刑法には、新たに「グルーミング罪」が盛り込まれている。最終的にどのような性被害に遭うかとは別に、その過程を罰する点が特徴である。

今回の改正では、16歳未満にわいせつ目的を隠して、お金を渡したり、拒まれたのに何度も会うことを要求したりする行為は処罰の対象に。また、16歳未満に性的な姿態や裸の写真を自撮りさせて送信することを要求する行為も、処罰の対象になっている。

西田さん

「まずは身近で起こりうるグルーミングの存在を、社会に広く知ってもらい、各自に警戒してもらうとともに、皆で子どもたちを守っていただきたい。そのためには、こんな被害を受けた人がいるという事実を公表することも大事です。グルーミングは絶対に許されない。その共通認識を持っていただきたいと思います」

*相談窓口

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター・全国共通短縮番号 #8891(はやくワンストップ) | 内閣府男女共同参画局

各都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号「♯8103(ハートさん)」|警察庁

SNS相談を受け付けているCure time(キュアタイム)

元記事は こちら

「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。

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