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「合わない人もいる商品です」正直さが人を惹きつける木村石鹸のものづくり

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「正直さ」を貫く姿勢が共感を呼び、ファンの輪を広げ続けている会社があります。大正13年から続く老舗石けん・洗剤メーカー『木村石鹸』です。

合成界面活性剤や添加物など、石けんや洗剤の領域では悪者とされてきたものにもフラットに向き合い、"本当にいい"といえる商品を届けるために、日々開発と情報発信に取り組んでいます。

丁寧に思いが綴られたブランドサイトやSNSを覗いてみると、なかには「合わない人もいます」や「万人向けではありません」といった、商売にはいささか不利になりそうな正直すぎる言葉も。

それでも聞こえのいい言葉でごまかさず、正直さを貫こうとするのはなぜなのでしょうか。

木村石鹸のものづくりへの姿勢やこだわりについて、4代目で代表取締役社長の木村祥一郎(きむらしょういちろう)さんにお話を伺いました。

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今回ご紹介する現場

木村石鹸
大正13年創業の石けんメーカー。創業以来、職人の手作業による「釜焚き製法」での石けんづくりを続けています。「洗浄力」「成分の安全性」「使い心地」のバランスがとれた、科学的根拠に基づいた安心で安全な製品づくりに取り組んでいます。
木村石鹸の「SOMALI」シリーズ

判断基準は、「木村石鹸っぽい」かどうか

大正13年の創業以来、「釜焚き法」という昔ながらの製法を続ける木村石鹸。さまざまな製品の原料となる「純石けん」を、職人が目や舌でたしかめながら高温の釜で一から手作りするため、非常に手間がかかります。

近年では製造時間が短縮できる中和法や、海外から輸入した石けんの原料を加工する方法が主流になるなか、木村石鹸は非効率ともいえるこの製法にこだわり、長年守り続けてきました。

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「単純に、先代の親父が釜焚きで石けんを作るのが好きだったんですよね。でも実際、とても手間がかかるし、面倒ではある。僕が家業に戻ってきたときにも、効率化を図るために『釜焚き法は続けるべきなのか?』という意見や、老朽化した工場を新しく拡張することにも慎重な声が上がっていました。たしかに合理的に考えたら、釜焚き法をやめて、製造をアウトソーシングするという選択肢もあったんです」

木村さんは悩んだ末、ひとつの答えにたどり着きました。

「でも、それで本当にいいのか考えたときに、"木村石鹸っぽいかどうか"がポイントになりました。経営や事業よりも石けんづくりが好きだった親父がいて、そこに釜焚きの技術に誇りを持って長年ついてきた社員がいる。それなのに、製造をせずに企画と販売だけの会社にしてしまうのは木村石鹸っぽくないなって。だから、細かい業務上の仕組みは効率化しても、木村石鹸らしさを築いてきた石けんづくりの部分はそのまま残そうと、ここまで続けてきました」

現在、社内にいる釜焚き職人は4名。一番若い職人さんでも、釜焚き歴は15年以上だといいます。

自分たちの手で作っているからこそ、繊細な石けんの質をコントロールでき、純石けん以外の天然成分をブレンドして用途に合わせた商品も作れる。自社でそういった細かいチューニングが可能であることが、木村石鹸の強みです。

先代までは業務用石けんやOEM製造が中心だった木村石鹸ですが、自社で作れる強みを生かし、オリジナルブランドの開発を開始。2015年には、必要最小限の素材と天然成分のみを使用した『SOMALI(ソマリ)』が誕生しました。

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「洗たく用洗剤などのハウスケアシリーズの好評を受け、ボディケアシリーズも開発。手荒れや乾燥肌に悩んでいる方や、合成界面活性剤などの化学成分が肌に合わない方に支持されています。しかし、このSOMALIの製品はいわゆる「無添加」とは違います。

「世の中では『無添加』が良しとされる風潮がありますが、実はそんなことはないんです。技術の進歩によって、環境負荷も低く、安全性が非常に高い添加物はたくさん存在しています。むしろ、それらを加えないことで、石けんの本来の能力を発揮させられないことがよくあるんです。

そこでSOMALIでは、石けんの能力を一番引き出す添加剤は配合しています。なるべく石けんを使いたいけれど、今までの無添加の石けんでは満足できなかったという方に、ぜひ試していただきたいです」

安全・安心のためには、正直で公平な情報を

このように、消費者の気を惹くための一種のマーケティングによって、知らず知らずのうちに偏ったイメージを抱いてしまっているものが、世の中には数多くあるのかもしれません。たとえば「合成界面活性剤」。

「石けんの安全性を謳うために、メーカーではよく『合成界面活性剤』を悪者にした売り方をします。でも実際には、石けんだからよくて合成界面活性剤だから悪いとは、決して一概には言えないのです」

この100年でかなり研究が進み、今では環境によくて安全性が高い合成界面活性剤がたくさん存在しているのだそう。一方で純石けんは、それ自体は環境負荷が低いといわれていますが、十分な洗浄力を求めて大量に使えば、必ずしも環境にいいとは言えません。

「石けんメーカーがそういった売り方をすることで、環境意識が高い人たちほど誤った認識を持ったり、『石けんが一番いい』と信じ込んだりしてしまう状況はよくない」と感じていた木村さん。そこではじめたのは、石けんづくりや自社の商品にまつわるさまざまな情報発信でした。

「そもそも『安全・安心』は、使う人に商品についてきちんと知ってもらった先に実現できるものだと思うんです。だから、なるべく公平な情報を提供することで、お客さん自身が考えて、自分の選択に納得して使ってもらえるのが一番いいなって。一人ひとりが考えた結果、『やっぱり石けんにしよう』でもいいし、『これだったら別に石けんじゃなくてもいいや』でもいいと思うんです」

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SOMALIなどのシリーズでは、本来全成分開示が必要ない雑貨においても、配合成分を開示。すべての成分がすべての人にとって安全なわけではないからこそ、情報をオープンにすることで、ユーザーは「使わない」選択もできるということです。

正直で実直。話を聞いていると、木村石鹸にはそれらの言葉がとても似合うと感じます。実際に「なるべく正直であること」は会社としてとても大切にしていると、木村さんは言います。

その姿勢は公式のサイトやSNSなど、至るところで見ることができます。たとえば『SOMALI』のブランドサイト。新しく開発したボディケアシリーズで、もともと使用しないと明示していた「合成界面活性剤」や「防腐剤」にあたる添加剤を使用するに伴い、ルール変更の背景と内容をサイト内で丁寧に説明しています。

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SOMALIサイト上で、ルール変更の経緯や変更内容の詳細を公開している

これらの添加剤は植物由来の成分や天然ミネラルで作られているため、人体への影響も少なく、そもそも細かな変更自体に気づかない人も多いかもしれません。それでも明記するに至ったのは、社員の声がきっかけでした。

「社員から『安全性やこだわりを明確にするために示していたルールを変えたのだから、きちんと説明すべきだ』という声が上がったんです。誰にも気づかれないかもしれないけれど、しれっとやってしまうのはよくないという感覚が、社員たちの中に染みついているんですよね。そこに僕は、木村石鹸らしさを感じています」

目指すは、憧れと無関心のちょうど真ん中

「うちの会社は、めちゃくちゃいい人ばかりですよ」と、正直に社員を誇る木村さん。先ほどのエピソードからもわかるように、素直で真面目で、心からお客さんのことを思っているメンバーが多いといいます。そうした社風やスタンスは、いつから醸成されていったのでしょうか。

「以前からその土壌はありましたが、特に自社ブランド事業をはじめて、直接お客さんの声と向き合うようになってから、より一層そういう意識が高まったと思います。

最近、社員たちとの会話に『社員が一番自慢できる会社にする』という言葉が出てきたんです。これが、今の木村石鹸の価値観を一番表しているかもしれません。外在的な価値や誰かのためではなく、自分がどうありたいか。自慢するためには後ろめたいことはできないし、やはり正直であり続けることに繋がってきますよね」

一方で、正直さを貫くがゆえの「合わない人もいます」といった言葉は、一見ユーザーをふるいにかけることになりかねないようにも感じます。それでも木村石鹸がその姿勢を崩さないのは、ユーザー自身にきちんと納得して選択してもらうことが、結果的に熱量の高いファンを増やし、会社とってもメリットが大きいと感じているからだそう。

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ダメージヘアやくせ毛(波状毛)の悩みに特化した「12/JU-NI」シリーズのサイトでも、「万人向けではない」と表明。しかし、モニター調査の段階から反響は大きく、予約販売のために行われたクラウドファンディングは1600%を超える達成率に

「ただ、本当に正直であろうと思うと、さまざまな部分でねじれが起こる場合もありますし、会社としての強度がないと難しいんですよね。だからこそ『正直であり続けるためには、どういうビジネスをするべきか』という考え方をしていかないと」

昨今のSDGsブームでエシカルやエコ、サステナブルといったキーワードに関心を持つ人が増える一方、そういった感度の高い人たちを取り込むような新しいブランドが乱立していくことにも懸念を感じている木村さん。そもそも製品作りは地球に負荷がかかるという前提をきちんと踏まえたうえで、木村石鹸では、なるべく環境負荷を下げて持続性を上げていく仕組みを模索し続けると言います。

そして2024年にはついに、創業100周年を迎える木村石鹸。伝統を守りながら、さまざまなチャレンジをしてきた木村石鹸がこれから目指していくのは、ずばり「ちょうどいい商品」づくりだそう。

「『ちょうどいい』というのは、憧れと無関心のちょうど間にあるんじゃないかと思っていて。無理なく取り入れられて自分の生活にフィットすることと、自分で納得して選んでいるということ。それらが両立するような『ちょうどいい商品』を目指して、これからもものづくりをしていきたいなと思っています」

  • 取材・文むらやまあき

    画像提供木村石鹸

\ さっそくアクションしよう /

植物オイル100%の純石けん、天然ミネラル、植物由来の成分だけで作られた「SOMALI」シリーズ。必要最小限の素材のみを使用し、小さなお子さんも安心して使用でき、環境への負荷も少ないものが揃っています。

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