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豊かな未来のきっかけを届ける

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布団回収で日本が資源大国になる?『サステブ』が目指す循環の未来

エールマーケット

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みなさんは日々どんなお布団で寝ていますか? 健康において何よりも大事な睡眠。どんな人でも睡眠はとるし、そのために布団は欠かせません。

一口に「布団」と言っても素材やサイズ、厚みや硬さなど、それぞれに十人十色の好みがありますよね。また季節ごとに寝具を買い足したり、使い込んだものを新品に買い換えるものでもあります。

では、役目を終えた寝具はどうなるかご存知でしょうか? 自治体によっても扱いは異なりますが、多くは粗大ゴミとして廃棄されている現状があります。多くの場合、寝具はリサイクル可能な資源として認識されていません。つまり、私たちが快適に眠り続けるために、廃棄される寝具も多くあるということ。ある調査では、一年で廃棄される量はおよそ一億枚にも及ぶそうです。

そんな中、どんな寝具でも回収してくれ、再生素材に変えてしまうサービスがあります。今回ご紹介するサービス「susteb(サステブ)」では、これまで廃棄されていた寝具を回収・再生素材として再資源化する取り組みを行っています。これまでゴミ処理場で焼却処分されることが一般的だった布団。これを再生素材にしていけば、日本は資源大国になれる、と株式会社yuni 代表・内橋堅志さんは話します。

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今回ご紹介する現場
株式会社yuni

「焼却処分場を再生工場へ。日本を、廃棄大国から資源大国へ」をビジョンに、寝具等の綿・羽毛・ウレタン・ブレス製品の再生素材化サービスのsusteb及び再生素材を使用したブランドを運営。現在自治体を中心に月約1.8万枚をお引き取りし、25トンの素材に再生している。
サステブお片付けプラン

寝具とエンジニアリングを掛け合わせ、新しいサービスに

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「寝具の再資源化」と言っても、寝具に使われている素材はさまざま。コットン、羽毛、ウール、ポリエステル...さらには新たな素材も続々と生まれています。メーカーによっては自社製品を回収している場合もありますが、サステブが他サービスと大きく異なるのは素材やメーカーに関わらず、回収を行っていること。

「サステブがほかの回収サービスや下取りと大きく異なるのは寝具全般が対象なんです。布団に限らず、クッションや枕も回収しており、範囲は北海道と沖縄、離島を除く全国が対象です。現在は兵庫県西脇市に洗浄工場と再生工場が一つずつ、他の機能も担いつつ再生も行っている工場が二つあり、そこに回収した布団を集約して処理しています。

これまでの寝具回収は、メーカーや素材によっては対応している場合もあるという状態でした。例えば羽毛は素材としての価値が高いため回収を行う会社も多い。一方で綿の素材単価は安く、むしろリサイクルする方がコストがかかってしまう。そのため価値の高い素材以外は、粗大ゴミとして焼却処分されることがほとんどでした。寝具業界としても『ゴミとして扱うもの』という共通認識です。

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工場に集められた布団たち。一日で倉庫がいっぱいになってしまうそう

また、再資源化・再生するにしても大きな敷地と設備が必要です。ご存知の通り布団ってかさばりますし、設備を整えるためにコストもかかるから。誰もやりたがらないんです。それを弊社ができたのは、僕の実家に広いスペースがあって、倉庫や布団を選別する作業所を設けたり、広い機械も置けたから。高校時代にリサイクル事業も手伝ったことがあって、ノウハウがあるのも大きな助けになりました。」

もともと、実家が寝具メーカーだったという内橋さん。高校時代には家業を手伝い、寝具のリサイクル事業にも携わっていたそうです。大学卒業後は寝具とは全く関係ないデジタル領域の会社を起業したのち、再び寝具業界へ足を踏み入れました。

「実家は寝具メーカーで、経験と知識がある。一方、僕は大学でエンジニアリングを学んでいました。布団とエンジニアリングの掛け算って少ないし、そもそも寝具業界に若い人は少ない。ここなら『僕だからできること』があるだろうなと思ったんです。そこで、これまで全国的に整備されてこなかった布団回収と再資源化のプロセスを整備し、全国で布団を回収できる仕組みを整えようと考えました。そうして生まれたのがサステブです」

再資源化へのプロセスは「洗って/切って/くっつける」

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届いた布団を開き、綿を出す工程

ここまでお話を聞くと気になってくるのは、再資源化するためにどんな工程があるのか?ということ。毎日寝ている布団が再び資源になる...考えたことがなかった発想であるがゆえに、その再資源化までのプロセスも想像がつきません。

1. 素材を選別・洗浄、2. 細かく切断、3. 再素材化する。オリジナルの機械や特許技術といった細かな話は素材ごとにあったりするんですが、端的に言うとこのシンプルな3ステップですね。回収作業は自治体と連携したり、もしくは個人から専用の圧縮袋で送っていただき、工場へ集荷されます。

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送付用の専用圧縮袋

『選別・洗浄』は届いたものを確認、どんな状態でどんな素材かを分別し、素材ごとに洗う工程です。現在は一日に1000枚の布団が運び込まれ、あっという間に倉庫がいっぱいになってしまうので、届いたそばからどんどん分別していきます。

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工場では障害者の就労支援を積極的に行っている。拠点が増え、回収する布団が増えれば増えるほど、その地域に仕事と資源が生まれていく

次に行うのが『裁断』です。うちに届く布団ってぐちゃぐちゃに絡まった毛玉みたいな状態なんですね。初めは糸同士が反発しあっていたのが人の体重で潰され絡み合い、巨大な毛玉みたいになるんです。そうなるとほどけないので、洗浄したら一度細かく裁断します。最後に裁断したもの同士を繋げたり、長い糸の周りにくっつけるなどして、『再素材化』していきます。」

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コットン、化繊、ポリエステルの再生素材

完全国内生産の糸としての可能性

2021年のサービス開始当初、一ヶ月で集まったのは自治体と個人回収を合わせ5000枚。そこからさらに増え、現在は一ヶ月に18,000枚の寝具が送られてくるそうです。これだけでもすごい枚数ですが、今後破棄されるであろう寝具は国内だけでも12億枚あるのだとか。

捨てるのが面倒で押し入れに入れたままの布団や、来客用ではあるけれど出番のない布団...実家で昔使っていた寝具など、心当たりがある人も多いのでは? 仮にこれらを全て回収して再資源化できれば、日本は廃棄大国から資源大国になるはず、と内橋さんは続けます。

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「去年のロシアによるウクライナ侵攻で、いろんな輸入品が値上がりしました。加えて円安の影響もあり、布団に使う繊維素材も高騰しています。日本は繊維素材の自給率が限りなく低いので、影響をもろに受けるんです。でも廃棄物から作る糸って完全国内生産なんですよ。それに、日本の一人当たりのゴミ廃棄量はトップクラスで多い。逆に考えれば、そのゴミが資源になるんだったら海外から輸入しなくていいんですよね。つまり、いま廃棄される布団は未来の資源なんです。」

海外依存から抜け出す一縷の望みである、寝具の再生素材。一方で業界では再生素材という存在はまだまだ新しく、現時点では様子見をしているメーカーも多いそう。

よく「値段が高いのでは?」と思われるそうですが、サステブの再生素材はその点150〜200円/kg(再生綿の場合)※と製造者側がハードルを感じないような価格設定。その値段設定からも環境へのリテラシーが高い大企業だけでなく、あらゆるメーカーにとって利点の多い素材であることがわかります。

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そして、今後は生産者だけでなく消費者も積極的に再生素材を選べるよう、新しい試みも誕生しました。2月にローンチされる寝具ライン『RBRTH』は、サステブから生まれた再生素材を使った寝具ブランド。消費者にとっても再生素材が身近な存在になったほうがいい、と内橋さんは語ります。

「事業を始めて、布団には持ち主のストーリーが詰まってることがわかったんです。というのも、サステブをご利用いただくときに『捨てるのは抵抗があるけれど、これがリサイクルされるなら』と託していただくことが多くて。その人たちが思い出を手放すだけじゃなく、新しい寝具に繋がるような仕組みにできればいいなと考えました。なので、販売用サイトでは、サステブに布団を送った人は割引価格で購入できる仕組みを採用しています。そうすれば布団を下取りに出すモチベーションも上がるし、再生素材の存在も身近になっていくのかなと。

言うなれば、このサービスは現代版の打ち直しですね。本来の打ち直しは自分だけで完結するけれど、『RBRTH』では誰かが使わなくなった布団を新品に変えて、それからできた再生素材の布団をまた誰かが買う。シェアしあう打ち直しみたいな、そういう仕組みだと僕らは思っています。」

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内橋さんが掲げる今後の処理目標枚数は、100万枚。途方もない数字ですが、実現のために各自治体とさらに連携し、地域ごとに工場を設けていけるよう、さまざまな提案を続けてる最中なのだとか。そこで大事にしているのは「ローカル性のある循環」だと言います。

「『循環する仕組みを社会で作る』って社会的なテーマだし、いろんな取り組みで掲げられてるじゃないですか。一方で大きな循環はいろいろな歪みが生まれやすいですよね。そのジレンマをなくすには、循環はできるだけローカルである必要があると思っています。その土地内で完結し、循環し続けることが一番健全ですから。僕らは全国に再生工場を増やしたいんですが、それも各自治体で資源を生むことができ、雇用も創出できるからです。長距離輸送による排出ガスや、処理数の増加によって労働量が増えてしまうのは、持続可能とは言えません。

一昔前に家電の不法投棄が話題になりましたけど、今は下取りサービスが充実しているから、回収するものとして認識されている。そうやって、人の認識ってちゃんと変えられるんですよ。布団も粗大ゴミとして捨てるものではなく、引き取り依頼できるような正規の仕組みが当たり前になってほしいですね。というか、 そこまで持っていきたいですよね。その先に、日本が資源大国になる未来があると思ってます。」

終わりに

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日々触れている布団を、どのように循環させていくか。睡眠をとる限り、この課題に無関係な人はそうそういません。しかし、無関係な人がいないからこそ、誰にも使いやすい仕組みでないと意味がない。

内橋さんのお話は一見途方もない活動に見えて、利用者と社内で働く人たち、そしてそれを行う地域への細やかな眼差しが常にありました。そして、こんなに身近な道具について、廃棄後の行先を考えてこなかったことに少し恥ずかしくなりました。それだけ現代を生きる私は「捨てる」という行為に対して鈍感になっていたのだなと感じます。

まずは手始めに、押入れに入れっぱなしの布団の枚数を数えてみようと思います。12億枚のうちの数枚でも、それをサステブに託せば未来に繋がる。個人個人が無理することなく循環に身を置くことができる、素晴らしいチャンスを秘めたサービスだと感じました。

  • 編集株式会社 Huuuu
    Web: Huuuu

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