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4人に1人の若者が「家に居場所がない」。''寄り添わない''支援で生き抜くための手札を #豊かな未来を創る人

    

サストモ編集部

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近年、メディアでも度々取り上げられるようになった「親ガチャ」「毒親」などの言葉。自分では選ぶことのできない家庭環境への悩みや生きづらさの実態が、社会的に認知されるようになってきました。

そうした家庭環境の問題を抱えながらも、既存の制度では支援の対象にならない「制度のはざまの少年少女」たち。彼らをサポートするために、デザイナーの奥村春香さんが立ち上げたのは、NPO法人「第3の家族」です。若者たちが本音を吐き出せる掲示板「gedokun」や、新たな居場所を見つけるための情報サイト「nigeruno」を運営しています。

奥村さん自身、グレーゾーンの家庭で育ち、その中で弟の自死を経験した当事者です。「まずは大人になるまでの間、なんとか生き延びてほしい。家以外の安全地帯となる居場所を見つけられるように、私たちは"寄り添わない"支援を行っています」と語る奥村さん。自ら抱えてきた生きづらさが、どのように他者の未来の選択肢を広げるサービスにつながっていったのか。"寄り添わない"支援とはどういうものなのか。そして、少年少女たちに向き合う上でどのような想いを大切にしているのかを聞きました。

奥村春香(おくむら・はるか)

1999年、東京都生まれ。自らが家庭環境の問題を抱えていた経験から、2021年法政大学デザイン工学部システムデザイン学科在学中に、掲示板「gedokun」をリリース。第3の家族の活動を始める。新卒でLINE株式会社にプロダクトデザイナーとして入社。2022年にグッドデザイン・ニューホープ賞で、最優秀賞を受賞。2023年3月にNPO法人化。同年9月にLINE株式会社を退職し、現在は第3の家族の活動に注力。デザイン、マネジメント、エンジニアリングの統合的な視点で、サービスの運営や設計、開発を行う。また、横浜市立大学の特任助手として、困難を抱える若者のバーチャル空間でのケアについての研究も行っている。

家庭に居場所がない若者たち

── 第3の家族でサポートしている「制度のはざまの少年少女」というのは、どのような状態の若者を指すのでしょうか。

ひとことで言うならば、自分の家が居場所になっていない若者たちです。法律における保護の対象にはならないけれど、家庭環境が原因で何らかの生きづらさを抱えている若者たち。彼らのことを「制度のはざまの少年少女」と言っています。

第3の家族では、15歳~25歳の全国の男女400人を対象に、家庭環境についてのWEB調査を行いました。すると「自分の家庭が居場所になっている」と答えた人は76.3%。つまり4人に1人が、家庭が居場所だと感じていないという結果でした。

また「これまでに死ねたらと本気で思ったことがありますか」という質問。これに対して「ある」と答えたのは、「家庭問題の経験がない」と答えた人が33.2%だったのに対して、「家庭問題の経験がある」と答えた人は73.6%にものぼりました。

さらに「パパ活やママ活をしたことがありますか?」という質問に対しては、「家庭問題の経験がない」と答えた人が1.0%だったのに対して、「家庭問題の経験がある」と答えた人が5.5%という結果に。これらの調査の結果からは、家庭問題がさらにその先の苦しい循環を生み出す可能性があることが見て取れます。若者たちが一人で問題を抱えた先に、心の病や自殺、いじめ、オーバードーズ、トー横キッズなどのさまざまな社会問題に発展するリスクがあると考えています。

── 家庭環境の問題というのは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

実際に、私たちのサービスを利用する若者たちのケースを見ていくと、例えば親から「お前はできない」などと人格を否定される。親が過干渉で、子どもの行動を常にコントロールする。親が子どもに無関心で病院にも連れて行かない。兄弟や姉妹間で差別のある扱いを受ける。親から精神的あるいは経済的に依存される。宗教観を押しつけられるなど、各家庭によって本当にさまざまです。

こうしたことは、家庭の中で抱え込んでいることで、なかなか表に出てこない。子ども自身、周囲に言いたくなくて、いわゆる「普通の子」として振舞っていることもあります。明らかな貧困やDVなどと異なり、一見緊急度が低いようにも見えますが、実は深刻な状況にいる若者は少なくありません。

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生き延びるために必要な"その場しのぎ"支援

── 家庭環境の問題を抱える若者たちを、どのようにサポートしているのでしょうか。

「自分の状態に気づいてもらう」こと。そしてそこから「大人になるまで生き抜いてもらう」こと。私たちはその2つのアプローチをしています。

まず「自分の状態に気づいてもらう」ことが必要なのは、若者たち自身が傷ついていることを自覚していないことも多いからです。特に幼い頃は、自分の家庭の状態を客観的に捉えることは難しい。嫌なことをされても、親だからそれが当たり前、もしくは自分が悪いからだと思ってしまう。無意識に傷が蓄積していった結果、気づいた頃には自分や他者を傷つける事態が起きていることもあるのです。

それを少しでも早い段階でくい止めるために、冒頭でお話した調査データをグラフィックアートで表現した展示会や、家にいたくない若者たちを集めた音楽フェスなど、クリエイティブによる気づくきっかけ作りを行っています。気づくタイミングが早ければ早いほど、事態の悪化を防げると考えています。

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2023年11月に行った「家庭環境データ展」の様子。若者たちの「死にたくなる」事象を「沸騰して溢れそうな鍋」という視覚比喩で表すなど、ちょっと考えさせられる表現で、当事者や社会が立ち止まって考えるきっかけ作りを目指した。

── そこから、生き延びるためのサポートというのは?

一つ目が「gedokun(ゲドクン)」という掲示板。これは家庭環境に困難を抱える若者たちが、大人に言えない本音を吐き出すための場所です。ゆるやかなつながりの中で、互いに共感したり、励ましあうことで、一日一日を乗りきっていく。その積み重ねが、次の一歩を踏み出す力につながっていくと考えています。

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家庭環境の悩みが集まる掲示板「gedokun」。会話や返信は原則なし。「わかる」や「エール」のボタンで、遠くに仲間の存在を感じることができる。

二つ目は、「nigeruno(ニゲルノ)」という情報サイトです。つらい体験をした当事者たちが家庭以外の居場所を見つけたリアルな体験談や、公的施設以外にも使えるサービスなどを掲載しています。

ここで私たちが定義する居場所というのは、公的な施設も含みますが、音楽や美術などの‟趣味"、友だちや彼氏のような‟人"、一人暮らしや留学などの‟手段"など、何でも良いんです。まずは家以外にも、自分の安全地帯があるのだと思える状態構築を目指しています。

やはり、いかに多くの選択肢を持っているかが重要です。先日、家庭環境に悩む子どもから「もう歌舞伎町に行くしかないです」というメッセージが送られてきました。八方塞がりになったときに選択肢が少ないと、トー横のような場所が輝いて見えてしまうのです。だからこそ、「nigeruno」では、建設的な行動につなげられる手札を、一つでも多く示していきたいです。

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つらい状態をハックするための情報サイト「nigeruno」。困ったときに役立つ手札と、それぞれのメリットやデメリット、経験者の声などを知ることができる。

── 従来からあるような、電話やチャットで話を聞くといった支援のスタイルではないのですね。

そうですね。私たちはあえて直接的な支援は行っていません。むしろ"寄り添わない支援"をとても大事にしています。そもそもこうした問題に直面している子どもは、大きな介入を望んでいない場合も多いのです。いくら「死にたい」と口にしていても、親と離れ離れになりたいわけではない。矛盾した感情があるからこそ、適度な距離感でサポートすることが大切だと考えています。

また、第3の家族という場所から抜け出せなくならないよう、コミュニティ化し過ぎないことも心がけています。あくまで役割は、家以外の安全な居場所を見つけるサポートをすることであって、私たち自体が居場所になることではないんです。つまり、第3の家族は通過点にしか過ぎず、ものすごく雑な言い方をすると、"その場しのぎサービス"なんです。

── その場しのぎサービス?

はい。根本的な解決をするのではなく、今をしのぐためのサービス。これが、子どもたちにとって、重要だと思っています。

そもそも、家庭環境の問題というのは、さまざまな社会問題に起因しています。理不尽な労働環境や子育ての孤立化、希薄化した地域コミュニティ......。各ソーシャルセクターの方々が日々懸命に取り組んでいるそれらの問題を、一足飛びに解決することは難しい。

一方で家庭環境の悩みは、精神的にも経済的にも自立ができる大人になれば、何らかの対処の仕方が見えてくることもあります。でも、家や学校の限られた世界に生きる子どもにとってそれは難しい。逃げ場がないからこそ、家以外の居場所があることが大切なのです。まずは大人になるまでの間、安全な居場所を見つけるための、いわば"その場しのぎ"な支援が必要であり、私たちがその受け皿の一つになれたらと考えています。

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どうすれば弟の命は救えたのか

── 現在の支援活動を始めたきっかけを教えてください。

私自身、"制度のはざま"、いわゆるグレーゾーンの家庭環境で育ちました。でも、幼い頃はそのことに気づいていなかったんです。小学生の頃、地域のスポーツチームで、他の家の保護者に温かく接してもらう機会があって。「〇〇ちゃんちのお父さんが、うちの親だったら良かったのにな」ということは、ずっと思っていました。

高校生になった頃、美大に進学したいと親に話をしたんです。すると「お前に才能なんてない」と人格を否定される言葉が返ってきました。後になって親が精神疾患を抱えていたことがわかったのですが、当時はそれがわからなかった。日々繰り返される罵倒に心がまいってしまい、自治体が運営する無料の悩み相談窓口に電話をするようになりました。

最初は誰かに話を聞いてもらうことが、ただ嬉しかったんです。でもあるとき、「それはきっと親の愛情なんだよ」と言われて。当時の私はその言葉を受け止め、「自分が甘いんだ」と言い聞かせていました。一方、そうやっていくら話を聞いてもらっても、目の前の苦しい現実は変わらなかった。しばらくして、電話をかけるのをやめました。

── そこから自身の家庭環境の状態を客観的に把握したのは、いつ頃だったのでしょうか。

大学2年生のときです。当時は、メディアで「毒親」というワードが盛んに取り上げられていた時期でした。チェックリストを見ると、明らかに該当していたんです。でも、やっぱりどこか信じたくない気持ちもあって。

複雑な思いを抱えながらも、親に強く反抗するようになりました。そこから毎日言い争う状態が続き、家庭環境はさらに悪化。次第に私は、家に帰らなくなっていきました。

そして大学3年生になったとき、中学2年生だった弟が、家で自ら命を断ったのです。家庭内では、親の心理的な虐待がエスカレートしていた時期のことでした。それから私は、貯めていた僅かなお金でシェアハウスに引っ越すことに。1年間、怒りや喪失感、無力感で動けない日が続きました。

もっと自分が問題に早く気づいていれば、弟は命を落とさずに済んだのかもしれないーー。そんな後悔や自問自答を繰り返すうちに、あのときの自分に何ができたのか、そして今できることは何なのかを考えるようになりました。

当時私が大学で学んでいたデザイン工学。それを使って、渦中にいる子どもたちに役立つ物づくりをしてみようと思うようになりました。それで2021年3月、試行錯誤しながら開発した掲示板「gedokun」をリリース。そして第3の家族としての活動を一人で始めました。

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── 掲示板という形にしたのは、なぜですか。

私自身つらかったとき、当時のTwitterでフォロワー0人の鍵アカウントを作って、悩みを吐き出していたんです。そうしたら、ちょっと心が楽になって。そのとき誰かに共感してもらえていたら、もっと嬉しかっただろうなと。それで、同じような悩みを持った子どもたちが、大人にお説教されることなく安心して本音をつぶやける場を作ることにしたんです。

実際にリリースしてみると、想像以上にたくさんの声が集まり、ニーズがあることを実感しました。もっと力を入れてやっていかなくては。そんな思いと同時に、この活動が社会できちんと認められるのかという不安もあったんです。家庭環境の問題というのは、「自己責任」のような言葉で片づけられてしまうこともある分野だと思っていたので。

そんな中で挑んだのがグッドデザイン・ニューホープ賞でした。そこでサービスが社会に評価されるのであれば、続けていこうと。そんな思いで、選考に挑んだのです。その結果、無事第3の家族のサービスが最優秀賞を獲得。実社会に展開していく上での、有意義な仕組みとして評価をしてもらうことができました。

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2022年グッドデザイン・ニューホープ賞の授賞式。

そこから本格的に取り組む覚悟が決まったのです。大学卒業後、企業デザイナーとして働きながら、第3の家族をNPO法人化することに。活動を続ける中で、次第に投資・協働してくれるパートナー組織が見つかったり、大手企業の社会起業家育成プログラムに採択してもらったり、資金や体制が整ってきました。それで2023年9月に、新卒から勤めた企業を退職。現在は28人のメンバーとともに取り組んでいます。

大人への嫌悪感をずっと覚えていたい

── ここまでの取り組みについて、どのような手ごたえを感じていますか。

これまで、年に数回のオフラインイベントを除けば、基本的に私たちはオンラインを中心とした、いわば半無人的な支援を行ってきました。その支援の在り方に、まずは一定の手ごたえを感じています。

というのも、やはり従来の電話相談などの対人支援では、親身に話せる一方で、人手と時間が必要なぶん、支援できる人数は限られてくる。取りこぼしてしまう若者たちがいる現実もあったのです。これに対して、半無人的な支援であれば、より多くの若者を支えるための、大きな循環を作っていけるのではと感じています。

── その上で今後力を入れていきたいことは?

一つ目は、一人ひとりに対して、さらにきめ細やかな支援ができるシステムの構築です。具体的には、機械学習の仕組みを取り入れたい。ユーザーのデータをもっと活用して、個人の悩みに応じてパーソナライズ化された情報を、適切なタイミングで提供していきたいと考えています。

例えば「gedokun」で、緊急を要するような投稿が見られたら子どもシェルターなどの避難先があること、近くに支えてくれる人が必要そうであればNPOなどの居場所があることなど、一人ひとりに合った情報を必要なときに提示していくことで、さらに役立つ支援ができたらと考えています。

二つ目は、先ほどお話した、傷ついていることを自覚していない若者たちに、さらにリーチしていくことです。そのためのフックとしては、やはり表現コンテンツを積極的に活用していきたいです。

例えばボカロ(ボーカロイド)や、歌手Adoさんの「うっせぇわ」のような曲は、具体的な社会課題について啓蒙するわけではないけれど、若者の生きづらさを歌っていて共感性が高い。そうした日常に溶け込みやすいコンテンツが、少年少女にリーチするためには必要です。今後はSNSのリール動画も活用しながら、どうすれば若年層にメッセージが届けられるのか検証していきたいです。

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── 今後、若者をサポートしていくうえで大切にしたいことを教えてください。

「大人は助けてくれない」。あの頃私が大人に抱いていたそんな嫌悪感を、大人になっても、ずっと忘れたくないと思っています。

社会人となった今、少しずつではありますが世の中のことがわかるようにもなってきました。例えば、今の取り組みもさまざまなセクターの大人たちを巻き込んでいけば、もっと動くお金も大きくなるし、見栄えも良くなるかもしれません。でも、大人の都合に立った正論や綺麗ごとでサービスを発展させたところで、少年少女たちのことが見えなくなる気がしていて、それでは続ける意味がないと感じています。当事者として、あくまで当事者のために物づくりをするピュアさを持ち続けていたいと思います。

「gedokun」では、「ここだけは、安心して気持ちを表現できます。ありがとう」といった声をもらいます。「nigeruno」では、「新しい居場所を見つけられました」と報告してくれた子たちも複数人います。

「死にたい」「消えたい」「助けて」。そんな検索キーワードで私たちのサービスに辿り着いた若者たちが、現状から一歩踏み出すことができた。そう感じる瞬間に立ちあえたときが、一番嬉しいんです。当時の弟と私は、救われなかった。その事実を変えることはできないけれど、同じように生と死の間で揺れる誰かが、再び前を見て生きるための光を見い出せること。それが今の私にとっての救いであり、生きる希望です。

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  • 取材・文 木村和歌菜
    撮影 荒井勇紀

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