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豊かな未来のきっかけを届ける

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原爆投下から77年。人類は学ぶことをしないのか。映画で伝える「平和と原爆」

SDGsシェアプロジェクト

森重昭さん
オバマ元大統領からハグされた森重昭さん 「for you 人のために」より

原爆が広島と長崎に投下されてから77年を迎えます。終戦から日本は戦争を経験することなく過ごせてきました。しかし世界は常に紛争、戦争が繰り返されてきています。今年に入ってからウクライナ・ロシアの戦争がより身近に考えるきっかけになった方は多いのではないでしょうか。特に核兵器の言葉が飛び交うことに、違和感を感じている方も多いと思います。
世界で唯一の被爆国として、世界とどう向き合うべきかを改めて考えるのが8月なのかもしれません。
その中で、広島、長崎の被爆者の皆さんの声を集めたオーラル・ヒストリードキュメンタリー映画が連続して公開されます。

広島と長崎 二本の映画で伝える「平和と原爆」

8月5日から公開された"for you 人のために"は、広島の被爆者の方々の映画です。オバマ元大統領が広島を訪問した時にハグされた森重昭さんを中心に、人のために動いた方々を追いかけたオーラル・ヒストリーになっています。
森さんは40年以上かけて広島で被爆したアメリカ兵捕虜の調査を行い、遺品を調べ上げ家族に戻しました。そしてそれらを調べる中で、実は被爆した外国人は捕虜だけではなく、広島にはドイツ人を中心とした神父たちもいたことが分かりました。彼らは自分たちも被爆しながらも広島市民の救護活動を行っていたのです。そして空白の10年と言われた国からの支援がない期間があり、その状態を何とかし、今も被爆者手帳の取得に尽力している裏側に迫りました。

そして8月19日からは長崎編の「生きる FROM NAGASAKI」が公開されます。前作の「a hope of NAGASAKI 優しい人たち」に続く、長崎被爆者のオーラル・ヒストリーです。
先日亡くなってしまったのですが、被爆マリア像の修復を行った西村さんにもお話を聞いています。そして長崎の永井隆先生と一緒に救護活動を行った椿山さん、終戦後直ぐに進駐軍と音楽でコミュニケーションができ、妹を娘に欲しいと言われたおじいさんが、思い出の曲をオルガンで弾いてもらったりと、人のつながりと生きる力を表現しています。
前作の「a hope of NAGASAKI 優しい人たち」もウクライナの状況を見てイギリスの映画配信会社 FilmDooの協力で全世界無料配信した結果、ウクライナやロシアでも観てもらえたようです。それの国内配信も8月3日から始まっています。

戦争はまだ終わっていない?

被爆者のことは<かわいそう>と決めつけてしまいがちですが、果たしてそうでしょうか? 
第三者がそう思ってしまう情報の根源は、<辛かった、悲しかった>などの継承が主だったからだと私は考えています。30名近くの被爆者の皆さんに取材をしてきましたが、かわいそうどころか、生きるチカラの強さ、惨劇を生き抜いてきた精神力に対して尊敬の念しかいだきませんでした。今に至るまでに"差別"や"偏見"と戦いながら生き抜き、自分の体調を心配しながら生きてきた皆さん。同じことが自分にできるだろうか...と考えた時に、知られていない一面も後世に残していくことが大切だと思ったのです。
偏りが見え方を固定化してしまい、やがて差別にもなり得て、それが課題化していく。これは被爆者に限らず、社会課題の主体とされてしまっている人たちにも言えることです。彼らを<かわいそう>の目線ではなく、<大変なだけだよね>で関われたら、もっと課題化することが減るのかもしれません。そして当事者への"差別"や"偏見"も生まれにくくなると思います。

多くの被爆者の皆さん、支えている皆さんから教わったのは、戦争行為は77年前に終わっているけれども、皆さんの心に残るしこりは拭えていないと言うことです。
特に広島での取材では、皆さんが口を揃えたように、"終わっていないんだなぁ..."とため息をつきながらお話していました。それを見た時に、頷くことしかできず、この解決方法は無いのかもしれないとも思いました。だからその思いを残して行き、次の世代が多面から判断できるようにすることが大切だと考えたのです。

長崎の中学校での授業で上映「a hope of NAGASAKI 優しい人たち」より

オーラル・ヒストリーと『どアップ』にこだわる

歴史研究のために関係者から直接話を聞き取り、記録としてまとめることを『オーラル・ヒストリー』といいます。
ドキュメンタリーは事実やシチュエーションの理解を主として構成されているものが多いと思います。いろいろな場所や人が変わっていき、背景をわかりやすく映し出していく方が画的にも理解されやすいでしょう。
ただ当事者の思いをそのまま伝えるには、その人の言葉や表情からにじみ出てくるものを映し出せるかだと思います。そして何よりも、その言葉から状況や思いを想像してもらいたいのです。
わかりやすさよりも、画的な説明がなくわかりづらくても、想像して感じてもらうには、オーラル・ヒストリーがやはり良いと思っています。あえてナレーションも入れず、こちらからの説明はしないようにしています。

私の映画は『どアップが印象的』と良く言われます。
人間のエネルギーが一番出やすいのが"目"です。言葉がなくても、その人の目をみればその時の感情はわかります。怒っている人から目を背ける行為はその証拠です。逆に言えば、目にエネルギーがなければ"作られたもの"と思われてしまいます。
平和と原爆を伝える、ということにおいても、実際に体験した皆さんの本当の思いを伝えるため、オーラル・ヒストリーや『どアップ』を貫きました。
また、悲しくもこの先の映画を観るツールはスマホになっていくでしょう。その時に引きの画で当事者の思いは伝わるか、ということを考えると、何が何でもTalking Head(語り手の顔) だよなと...。
『どアップ』じゃないと小さい画面ではますます伝わりませんもんね。この先もずっと、映画は劇場で観てもらいたいですが。

インタビュー中に込み上げてきて 「a hope of NAGASAKI 優しい人たち」より

SDGsシェアプロジェクトとは?

これらの映画は"SDGsシェアプロジェクト"というプロジェクトから製作されました。
これは私がテアトルシネマグループと一緒に立ち上げたもので、社会課題の共有を<映画を作る、映画を上映する、映画を観る、そして映画を作ることを支える>の四者で循環を作ることを目指しています。

SDGsシェアプロジェクトの仕組み説明図

もともと私は社会課題をテーマにした作品を作っていて、一作目がシングルマザーの内心を描く長編映画、二作目が長崎の被爆者で今までメディアなどで話したことがない普通の人たちの声を集めたオーラル・ヒストリードキュメンタリー映画です。
そして今年は児童虐待、ネグレクトなどから居場所を失った大人を信じられない子どもたちと、それを支えようとする大人たちを、自立援助ホームを中心に描いたものを公開しました。その映画の打ち合わせのためテアトルに行った時に、任意で始めようとしていた"SDGsシェアプロジェクト"の説明をしたら、テアトル側も映画の世界でどのようにSDGsに取り組めば良いか試行錯誤しているところだったようで、社会課題を映画化し、それを世の中に出していくことで『まずは課題を知ってもらう』アクションに理解をもらいました。
例えば『虐待』の言葉は知っているけれども、実は何が起きていて、子どもたちの本当の気持ちは意外に知らないものです。だから課題化していくのだと思います。その見えていないところを映画を通して知ることから始めましょう、と言うのが"SDGsシェアプロジェクト"です。

虐待を受けている子どもからのSOS 「旅のはじまり」より

ニュースやYouTubeは消費されていくが、映画は残っていく

今の時代、人が情報と接する時に"残さなくてはいけないこと、残らなくていいこと"がごっちゃになっていると感じています。
ニュースを見ても、深刻なウクライナ情勢をやっていた次の瞬間に、美味しいラーメンの話が展開される。見ている人たちは美味しいラーメンとウクライナを同格でインプットしてしまう危険性があります。
つまり消費されていく情報も、ストックされなくてはならない情報も一緒になってしまっている。
かたやネットでオーソライズされていない私見で展開されている情報が独り歩きする。人間の処理能力を超えた情報が溢れていて、消費することで精一杯なのかもしれません。
だからパーソナルな空間、時間、そして大画面で没入できる映画はそれらとは立ち位置が違うのだと思います。そして良くも悪くも映画は"映画史"というところに残っていきますので、私は課題を扱う媒体として映画にこだわっているのです。

特に社会課題系のドキュメンタリー映画は劇場で公開することのハードルが非常に高く、どうしても自主上映会が中心になってしまいます。
その中で映画館が協力して上映に関わってもらえることは、課題へのリーチとしては心強いものです。
そして観客の皆さんも観ていただくことで課題への理解が一歩進むと思っています。<作る→上映する→観る→共有(シェア)する→解決に向けた一歩を踏み出す>のサイクルが出来上がれば、知らなかった、気づかなかったことが身近になると思います。
実際に子どもをテーマにした映画の反応として、観た後に<家に帰ったら子どもに優しく接してみよう>というような感想もいただきました。

作品に使われている名曲たちの力

このプロジェクトでは、ありがたいことに多くの著名人・音楽界の皆さんに協力していただいています。
特に子どもの映画の時には川嶋あいさんの『旅立ちの日に』を即答でボランタリー提供いただき、それだけでも素晴らしいことなのですが、TUBEの『灯台』も挿入歌として提供いただきました。
もともとTUBEの前田亘輝さんとは長い付き合いなのですが、こんなの作っているよと予告編を送ったら、自分たちの曲でこの映画にぴったりのがあるので使えないかと申し出てくれたことで実現しました。彼自身も児童養護施設でのボランタリー活動を行っていたのもあり、思うところがあったのだと思います。
その後の展開は大手のソニーミュージックを巻き込むことなので大変でしたが、理解はいただけました。
この規模の映画で皆さんが知っている楽曲を提供していただけたのは、今でも奇跡だと思っています。
そして今回の広島、長崎の映画ではBONNIE PINKさんからボランタリーで書き下ろしの曲を提供いただきました。
そこで思うのは、やはり感受性の強い皆さんだからこそ社会のあり方、関わり方に思うところがあるのだなと。そして彼らのファンの方々を通じて、自分たちではできない広がりもでき、音楽界の皆さんの協力、関心に感謝しています。

TUBEの前田亘輝さんからの申し入れで実現・舞台挨拶 「旅のはじまり」より

そもそもSDGsとは? 一番の解決方法は「人間が変わること」

私がいろいろなテーマを見てきて思うことは、社会課題は人間が作り出しているものだということです。そんなにキラキラしたものではないと思うのです。
また当事者になっていない人たちは自分には身近にならないので、一情報でしかなくなってしまいます。もしかしたら知らないままの方が多いかもしれません。
でも、シングルマザーにしろ虐待にしろ、戦争や平和にしろ、明日のことを見える人はいないので、死別や事故、失業、ウクライナのように、突然起きて巻き込まれる事もあるのです。
そう考えた時に、"明日は我が身だよなぁ"と思えるのか。実は見えていないだけで、隣り合わせにあるのが"課題"と呼ばれているものかもしれません。

社会課題は人が作り上げた負の部分であると思った時に、見えているところだけで諸策を考えても、その表面は変えることはできるかもしれません。
でも表面だけを変えても、形を変えて、より複雑化して新たに違う課題が出てきてしまいます。
そう思うと、持続可能な社会とは、木を植えることだけではなく、人が自分勝手にではなく人にも動物にも、植物にも今までと違う関わり方を作らないと、持続は難しいと思うのです。

御殿場SDGsフォーラム2022での上映会 「旅のはじまり」より

SDGsという言葉の意義

そもそも最近は、「SDGsって古いよね」という人たちもいます。
私も同じ感覚を一時期持っていました。古いと言うか、軽いよね、という感覚でしょうか。
でもそれって、いつの間にか自分を高見に置いていることだと思うのです。仕組みを作った責任、言葉を使った責任、それを広めようとした責任ってないのだろうか?と思ったのです。社会の反応が最初に描いたものとは違うのかもしれませんが、関わったことを投げ出すようなことって、消費されていくニュースと同じなのでは。
また変な言い方になりますが、今であれば"SDGs"を掲げると耳を傾けてくれる状況もあるのです。
そもそも"知らないこと=無いこと"になっているのが課題の根本なので、こう言うことが本当にあるんだ、こんな事になっていたんだ、と気づいてもらうキッカケができたと思えれば、ある意味ありがたい言葉でもあると思います。
この言葉を使い、コツコツと向き合ってやっている人たちもいるのです。だってこの言葉がなかった時には振り向いてももらえない事を経験しているのですから、この言葉をどう使っていくかも人次第ですね。だから私はあえて使っています。

森さんのインタビュー撮影をする松本監督

SDGsシェアプロジェクトの向かう先

"Tickets for children"という、大人が経済的に厳しい子どもたちに映画のチケットをプレゼントする仕組みも作りました。前作では11団体、500名近くの子どもたちの手に渡っています。
お付き合いでタンスに眠ってしまうチケットも多いですよね(笑)。だったら無駄にしないで...。また若手クリエーターにもどんどん参加してもらいたいと思っています。
社会課題系の映画って劇場公開が難しいと書きましたが、テアトルの理解をいただき、当SDGsシェアプロジェクトが推薦する映画を上映してもらえる仕組みも作りました。社会課題をテーマにしていることが前提ですが、ドキュメンタリーに限らず、劇映画でもOKです。
私は何よりも人も動物も全てが"生きやすい"社会が訪れて欲しいと思っています。人と比べることで自分を苦しめ、他人を巻き込み負の連鎖を作っていくことの無意味さを、映画を通してお伝えできれば、と。
生き方をシンプルにできれば、課題と思えることも違う答えになる可能性は大きいと思います。やはり人の心が変わっていくことがSDGsであるのではないでしょうか。

Tickets for Childrenの寄贈先団体と
松本和巳

松本 和巳

映画監督・演出家・脚本家
ソーシャル・イノベーター
一般社団法人 シンプルライフ協会 代表理事

マツモトキヨシ創業家であり取締役、衆議院議員も歴任。その後、劇団を立ち上げ、長編映画「singlemom 優しい家族。」を監督。そこから見えた社会課題の根本を「人と比べること」「コンプレックス」と読み解き、自分らしく生きるライフスタイルを提案するため「一般社団法人シンプルライフ協会」を旭川市に立ち上げる。
人生の中で幾多の失敗も経験し、失敗を許さない社会を目の当たりにしたが、その経験を活かせるよう社会活動への落とし込みを行っている。

\ さっそくアクションしよう /

映画を通じて課題の本質を見出し、共有(シェア)し合うプロジェクト

SDGsシェアプロジェクト(外部サイト)
https://sdgsshare.info/

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