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コロナ禍で再燃「家事・育児分担論争」 夫婦間の不公平感や感情のすれ違い、解消の糸口は?

    

Yahoo!ニュース オリジナル 特集

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家の中のいろいろな場面に夫への不満が(白目みさえさんのInstagramより)

「リモートワークや外出自粛などで家にいるのに夫が家事をやってくれない」――。

長引くコロナ禍による在宅時間の増加により、子育て世帯の「家事・育児分担論争」が再燃している。コロナ禍以前から妻のほうが5時間以上長かったといわれる家事育児の時間。その差はさらに広がっているという東京都の調査結果もあり、不満を抱える妻と夫の間に深刻な意識のズレも浮かび上がる。

取材班では、双方の本音を、年間90億種類もの検索ワードが飛び交うYahoo!の検索データや、SNS上で数十万人のフォロワーに支持される人気ネット漫画などから分析。さらに、デジタル技術を駆使して社会課題の解決に挑む有志の市民団体に分析結果を持ち込み、そこで課題解決につながるアプリの考案も行われた。夫婦にとって"永遠の課題"ともいわれる家事育児分担論争。その解決の糸口は見いだせるのか。(取材・文・写真:NHKスペシャル「つながれ!チエノワ #子育てのもやもや解消」取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

「夫」×「〇〇」 検索履歴から見える妻たちの本音は?

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子育てに疲れた妻たちが「夫」とともに検索する言葉(分析:ヤフー・データソリューション)

「イライラ」「嫌い」「ストレス」「ムカつく」......。これらの辛辣なワードはすべて、インターネットのYahoo!で、子育てに疲れた妻たちが「夫」という単語とセットで検索していたものだ。

子育てに関する検索をしているのは、8割以上が女性。世代は30~40代が中心で、検索時間帯は夜9時以降。ようやく子どもを寝かしつけたあと、多くの妻たちが検索を通じて自身の悩みや怒りを吐き出している姿が想像される。

「在宅勤務が増えた夫は、部屋にこもっていたり、好きな時間に起きてきたり、お昼なに?と聞いてきたり......。もやもやが絶えない」(東京都・30代女性)
「夫とは家事育児に対する意識の違いがあり、無数の名もなき家事には気づきもしない。『在宅勤務だからって何でもやれると思わないでほしい』と言われ悲しくなった」(秋田県・40代女性)
「激務の夫は在宅でも遅い時間まで仕事。子どもの朝の支度やお風呂、夕食......とバタバタの時間も我関せずで、かえって負担や孤独感が増してしまっている」(福岡県・40代女性)

夫の言動に思わず"白目"? 人気ネット漫画家が描く不公平感

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妻側のイライラはネット漫画にも......(白目みさえさんのInstagramより)

では妻たちは、具体的に夫のどんな言動に怒り、何に課題を感じているのだろうか? 私たちは"夫への不満"を描いて共感を集めているSNS上の漫画に着目した。夫や小学生の2人の娘たちとの日常で生まれる"育児あるある"をカルタ風にまとめる、白目(しろめ)みさえさん。インスタグラムで9万人近いフォロワーをもつ人気漫画家だ。

最近、特に反響を呼んだのが、"夫との家事の認識のズレ"を描いたこちらの投稿だ。

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夫との認識のズレが鮮明に......(白目みさえさんのInstagramより)

やるべき家事や育児の種類を可視化するため、夫とお互いに思いつくものを書き出してみたところ、その総数は白目さんの200種類に対して、夫は10種類だけ。

白目さん一家の休日をのぞいてみると、確かにいくつもの細かいズレがみられた。洗濯物を畳みはするものの、収納せずテレビの前に放置して娘とゲームに興じる夫。皿洗いにしても、流した食べ残しや油がこびりついたシンクや排水口の掃除までは気が回らない。一つひとつはささいなことだが、そのたびに白目さんのイライラと不公平感が募っていく。

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シンクの掃除をめぐってもちょっとした口論が......(NHKスペシャル「つながれ!チエノワ」より)

上記の家事の書き出しでは、例えば夫が「掃除」を1種類として挙げた一方、白目さんは「玄関を掃く」「お風呂を磨く」「布団を干す前にベランダを拭く」「乾燥機にたまったホコリを取る」など、細かく分けて挙げていた。

「常に頭の中に小さいタスクがいっぱいあるっていう感じ。夫が家にいる時間が長くなることであらが目につきやすくなるし、『いるならやってよ』という気持ちになってしまう。やり残しを放置しているとストレスがたまるから片付けてしまうけど、なぜ私ばかり......とどんどんしんどくなる」

夫側も"絶叫"しながら葛藤「仕事が...」感情のすれ違いに悩む

妻が夫に不公平感を募らせる一方で、Yahoo!検索の履歴分析からは、悩める夫側の気持ちも見えてきた。

「妻」とセットで検索される言葉には、「怖い」「嫌いすぎる」などネガティブなものだけでなく、「妻のイライラ」を何とかしたい、「不仲を解消したい」という関係改善を探る言葉もあり、切実な思いが浮かび上がる。

「家事分担を、半分ずつやるものと思い込んでいる嫁。家にいる時間は全力で家事炊事、休日の食事は全部俺の役割。そこまでやって半分どころか10分の1以下だと言われたら......」(北海道・30代男性)
「家事育児をもっとやろうという気はあるが、妻と同じレベルを求められても応えられない。そのレベルに至らずに小言を言われても、何で怒られるんだろうと思ってしまう」(東京都・30代男性)

夫側の本音と内に秘めている課題に迫るべく、次に私たちは世の男性たちから共感を呼ぶネット漫画に着目した。作者は、夫婦共働きで2歳の子どもを育てる"新米パパ"の犬犬(いぬいぬ)さん(39)。家事や育児の葛藤をありのままに描いた2コマ漫画をTwitter上に投稿し、フォロワーは21万人を超えている。

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(左)4月18日・息子の発熱で仕事ができず......(右)4月20日・保育園からの呼び出しや通院も(犬犬さんの2コマ漫画より)

犬犬さんは夫婦で協力して育児に取り組み、妻が育児休業を取得していた今年3月までは比較的ほのぼのとした内容の漫画を描いていた。しかし、4月に妻が復職して息子が保育園に入ると、状況は一変。息子の発熱には有休や在宅勤務で対応し、隙をみて仕事を進めようとしたものの、なかなか思い通りに進まない。次第に看病や通院で仕事が滞り、叫び出してしまいそうな状況に追い込まれた。

「うちは共働きだから僕も育児をしないわけにはいかないんですけど、ちょっと仕事のほうが破綻しかけていますね。進まないです、仕事が......」

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子どもの朝の支度や保育園への送りは犬犬さんが担当

私たちが朝から密着した4月22日、会社に出勤した犬犬さんが帰宅したのは、夜8時半。妻と息子はすでに眠りについていた。犬犬さんは一人寂しく味噌汁をすすりながら、妻とのコミュニケーション不足からくる感情のすれ違いに頭を悩ませていた。

「顔を合わせる時間が減り、衝動的に俺ばっかり大変だなと思う瞬間がある一方で、妻も言わないだけで言いたいことは結構あると思うんですよね。ため込んだ不満があふれたらもう元に戻らないという話も聞くので避けたいけれど、どうしたらいいのかわからない」

それぞれの家事の負担感を可視化 アプリが解決への糸口に?

夫婦間の家事育児分担論争を引き起こす原因になっている不公平感や感情のすれ違い。私たちは、市民有志がデジタルの力で社会課題の解決に挑むシビックテック(Civic tech)に取り組む「コード・フォー・ジャパン」に協力を依頼したところ、課題ごとのチームに分かれて解決につながるアプリを考案しようというアイデアが出てきた。

まずは「家事育児分担の不公平感」を解消するアプリ。議論をリードしたのは、世界的な課題解決に挑む日本の若手15人にも選ばれた気鋭の研究者・五十嵐歩美さん(32)だ。五十嵐さんは国立情報学研究所の助教で、「公平な配分とは何か」を数学的に研究してきた。家事育児という複雑な意思決定に自分の研究を役立てたいと参加したという。

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国立情報学研究所の五十嵐歩美助教

家事の公平な配分というと、数を半分ずつ分けることだと考えがちだ。しかし、五十嵐さんたちが不満解消のカギとして挙げたのは「負担感」。受け持つ家事の数だけでなく、その家事に対する好き嫌いやかかる時間を考慮し、精神的な負担を減らしていこうという提案だった。

アプリの試作版では、夫婦それぞれが、好きな家事・嫌いな家事や、その家事に要する時間を入力。すると、夫婦それぞれが現在担当している家事とその負担感が円グラフで可視化される。最終的に、夫婦どちらの負担感も減らせるように分担の見直しをアプリ上で提案するところまでを目指すという。

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(左)家事の好き嫌い・かかる時間などを入力すると......(右)理想の分担が提案される(アプリ「家事分担コンシェルジュ」試作版より)

「夫婦の感情のすれ違い」解消へゲームの要素を取り入れる試みも生まれた。1980年代に登場した、爆弾がある場所を避けながらマス目を開けていくゲーム「マインスイーパー」をイメージしたアプリだ。その名も「ママ マインスイーパー」で、ネット漫画家・白目さんのイラストを活用した。まず妻が、画面上のイラストの吹き出しに、夫には普段面と向かって言いづらい不満や愚痴などを"怒りポイント"として書き込む。そのイラストをマスの中にしのばせておくことで、面と向かってではなく、ワンクッション置いて本音を伝えようというアイデアだ。不満は面と向かって伝え合うとケンカになりがちだが、それを避ける狙いがある。

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(左)マス目は全部で9つ(右)日頃言いづらい不満や愚痴をしのばせておく(アプリ「ママ マインスイーパー」試作版より)

今回のアプリ開発は、こうした夫婦間の課題の解決への糸口になる視点やアイデアを提示している。しかし開発者たちは、アプリは問題を解決するものではなく、あくまで"ツール"だと口をそろえる。

自身は子育て中ではないが、同世代の友人からよく悩みを耳にするという五十嵐さん。「アプリを冷静な話し合いのきっかけにして、より公平な分担とは何かを夫婦で考えてもらえれば」と語る。

"家事分担論争"は時代の進歩? 夫婦間の「足りない」モノとは

子どもの発達心理学が専門で、半世紀近くにわたって子育て中の夫婦の悩みに耳を傾けてきた、恵泉女学園大学の大日向雅美学長。家事育児分担に夫婦間で論争が生じていること自体は、意外にも"よい傾向"なのだという。

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恵泉女学園大学の大日向雅美学長

「昔は妻が一人で家事育児にもんもんとしていて夫は高みの見物、愚痴も言わなければぼやきもしなかった。夫が『自分はこれだけやっているのに妻にわかってもらえない』とか『妻と会話がもてない』と悩み始めたのは、夫が妻に寄り添い始めたことの証し。ようやく、夫婦がともに問題を解消していくステージに近づいてきた」

そのうえで夫に対しては、日頃の感謝を具体的な言葉や行動に移すことを提案。

「妻が『足りない』と感じているとき、その『足りない』は家事育児の量ではなく、ねぎらいの一言であることも多い。『お疲れさま。コーヒーでも入れるから一緒に飲もうか』と声をかけたり、時にはサプライズで花束を用意してみたりすると、夫婦がゆっくり話す機会につながる」

二人の結婚前や子どもがまだ小さい頃の昔の写真を見ながら「こんなことがあったね」と、お互いにママとパパではなかったときを思い出すことも効果的だという。大日向さんはこう強調する。

「夫婦とはそもそも一人の男性と一人の女性で、『子育てを一緒に頑張る同志』ではなく『人生をどうやって生きるかを分かちあう同志』であることに立ち返ってほしい」

元記事は こちら

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