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ママと区議のタッグで学童への弁当宅配が可能に――子育て行政に変化を促す「ママインターン」とは?

    

Yahoo!ニュース オリジナル 特集

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写真はイメージです(写真:アフロ)

いまや、子育て世帯で母親が働いている割合は7割を超える。働く母親からすると、保育所や学童には「使い勝手が悪い」と感じる部分が多々ある。しかし誰に訴えればいいのかわからない。そういった声を拾うために始まったのが、区議や町議と区民・町民が直接つながる「ママインターン」という取り組みだ。発案者の本目さよ台東区議と、インターンとして活動する人たちに話を聞いた。(ライター・川口有紀/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

「毎日学校からタブレットを持ち帰ってくる必要ある?」母の素朴な疑問を投げられる場所

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写真はイメージです(写真:アフロ)

東京都台東区に住む小林美保さん(47)は、夫婦共働きで、高1、小4、小1の3人の子どもを育てている。夜になり家事・育児が一息つくころ、パソコンでチャットツールを立ち上げる。チャットでは、例えばこんな会話が交わされている。

「子どものかかりつけ小児科医をどこにするかで悩んでるんだけど、どうしてる?」
「私は○○にしてるよ。区外だとインフルエンザワクチンの補助が出ないしね」
「そういえば、どうして区外だと補助が出ないんだろうね?」

メンバーは十数人で子育て中の人が中心だ。母親であること以外のもう一つの共通点が、台東区議の本目さよさんのもとで「ママインターン」として活動していること。

インターンといっても、議員秘書として働いたり、事務所運営に直接携わったりはしない。報酬もない。主な活動は、本目さんと定期的にミーティングをすることと、チャットツールを通じて意見交換会に参加すること。夜ごとのチャットは、れっきとしたママインターンの活動なのだ。小林さんはこう話す。

「例えば、小1の娘がタブレット学習をしているんですけど、なぜか毎日タブレットを持ち帰ってくるんです。タブレット学習は子どもの荷物を軽くするという目的もあったはずなのに、教科書に加えてタブレットも持ち帰ってくるから、ランドセルがすごく重いんです。担任の先生に(なぜ持ち帰らせるのかを)聞いたら、『タブレットに慣れてほしいから』と。でもデジタルネイティブの子どもたちに、今さら慣れるもなにもないですよね。そういう日常の細かな疑問をママインターンのチャットにポッと投げると、ほかのママインターンの方から『うちの子の学校ではこうしてますよ』という事例が聞けたり、本目さんが拾ってくれて『じゃあこうしてみましょう』という話につながったりするんです」

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小林美保さん

月に1回ぐらいの頻度で勉強会を開催することもある。インターンの誰かが「このテーマでやりたい」と手をあげる。

「台東区では今年の1月から当面の間、区立小中学校の給食費が無償になったので、その勉強会も(本目さんに)していただきました。『無償になった、ラッキー』で終わるのではなくて、可能になった経緯や予算の話を知ることができておもしろかったです」

ママインターンを始めてから見つけた楽しみが、区議会の映像を見ることだ。台東区は本会議をはじめ、予算特別委員会や保健福祉委員会などの委員会を録画してYouTubeで公開している。

「子どもの教育や福祉に関わるものを選んで見ています。区議会って国会よりシビアで、『異次元の』なんてふんわりしたことを言ったらすぐ突っ込まれる。『この人はなぜこの問題に熱を入れているのだろう?』とその議員さんの背景が気になったりすることもあります。議会の傍聴がこんなに楽しいなんて思ってもみませんでしたが、それはやっぱり本目さんを通じて区政が身近になったからだと思います」

「赤ちゃん訪問の保健師さん、女性じゃなきゃダメ?」チャットで気軽に意見を聞くことができる

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写真はイメージです(写真:イメージマート)

小林さんはもともと政治への参加意識を強く持っていた。一番上の子が小さかったころ、当時住んでいた地域で子どもに関わる仕事をしたのをきっかけに、相対的貧困や社会的養護が必要な子どもたちの実情を学び、子どもたちの未来を考え始めた。

「どんな親も、自分の子どもが生きやすくなるように教育にお金をかけたりすると思うんですが、社会全体として見たときに、それだけでいいのかなと思ったんですよね。少なくとも私は、格差が大きい社会ではなく、みんながある程度幸せで、がんばったら報われる社会を残したいという気持ちがありました」

本目さんのブログで「ママインターン募集」を見つけたのは2020年1月ごろ。まもなく、新型コロナウイルス感染症が流行し、社会全体に不安が広がり始めた。

「区民として声を届けたいけど、何をしたらいいのかわからないという時期でした。ママインターンがどういうものかもよくわかっていませんでしたが、思い切って応募したんです」

区議である本目さんからすると、ママインターンのチャットは子育てする女性たちの本音や困りごとの宝庫である。

「コロナ禍の行動制限が始まったころ、公園の複合遊具(滑り台やブランコ、ジャングルジムなどを組み合わせた遊具)が一時期使用禁止になりました。『みんなのところはどう?』とか『解除された?』とか聞くと、返事が返ってくる。『ゾウさんの滑り台がまだ閉鎖されてるんですけど』という連絡がきたので、区の担当課に確認したら『間違いでした』ということもありました。小さいことですが、子どもにとっては滑り台一個あるのとないのとでは全然違うので」

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本目さよさん

「あと、新生児のいる家庭を訪ねる『赤ちゃん訪問』の保健師さんは女性じゃなきゃいけないのか、男性でもいいのかを知りたいと思ったときに、意見を聞けたのも助かりました。男性の保健師も増えてきていますから。私は、おっぱいのケアをする場合もあるし、女性のほうがいいのではと思ったんですが、『専門職なら男性でもいい』という人もいました。自分では気づかないところです。しかもママインターンの人たちは、行政がモニターとしてとりづらい層なんです」

本目さんは2011年に29歳で初当選。子育て政策をメインに活動している。ママインターンを思いついたのは2019年のこと。

「『何代も前から江戸っ子だよ』みたいな人たちは、何か困ったら区へ陳情したり、地元の議員に相談したりという回路が生活のなかにあります。でもほかの土地から転入してきた子育て世代の方たちには、そういう発想もつながりもない場合が多く、議員としても声が拾いにくい。私がもっとも支援したいと思っているのはそういう人たちなので、こちらからリーチする方法はないかと考えたんですね」

「うちの区の学童、共働き世帯にやさしくないよね」言うだけでなく、行動してみる大切さ

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本目さよさん

本目さんの取り組みを見て「自分もやりたい」という議員が現れた。これまでママインターンを受け入れてきた地方議員は11の市区町および都の16人、うち2人は男性議員だ。ママインターンは延べでおよそ80人にのぼる。

インターンと議員のタッグで具体的なアクションにつながった例もある。

東京都江戸川区に住む林亜妃子さん(38)は、2020年から区議の小林あすかさんのもとでインターンを始めた。夫婦共働きで、小6、小2、3歳の3人の子どもを育てている。

「結婚して子どもが生まれると、行政と関わることが一気に増えるんですね。そんななかで『江戸川区の子育て行政、こういうところに問題があるのでは』という思いがあったんです。学童保育の預かり時間も短いし、保育園も0歳から預けられないところが多いし。そんなときに(小林)あすかさんのSNSでママインターン募集を見たんです」

ママインターン活動のなかで始めたのが、「学童への弁当の宅配」である。学童に子どもを通わせていると、学校の長期休みは毎日弁当を持たせる必要がある。保護者にはその準備が負担だ。渋谷区などすでに実施している自治体はあったが、江戸川区では前例がなかった。

「あるとき、あすかさんとやりとりしていて『学童への宅配弁当があったらいいですよね』という話になったんです」

小林さんも子どもが2人いて、議会で「学童の弁当問題」について質問したり、教育委員会にかけあったりしたことがあった。

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小林あすかさん

「江戸川区の学童が共働き世帯にやさしくないというのは、私が議員になる前から言われていて。なんとかならないかなと思って働きかけましたが、母親は子どもとともにいるべきという考えも根強くて、らちがあかず。大変なのはわかってます、でも子どもたちはおうちの人のお弁当が一番おいしいと言ってますから、がんばってください、という感じで」

そういう経験から、今回は林さんが主体となり、小林さんが後方支援にまわる作戦をとった。

林さんは、学童に配達可能な弁当配達サービスを探した。利用したい人がオンラインで個別に注文できると理想的だ。当てはまるサービスが2社あったが、江戸川区はサービスエリア外だった。そのうち1社は「区と契約できれば配達は可能」という。

江戸川区には78の学童がある。区からすれば、宅配弁当のニーズがどれくらいあるかを調べるだけでも大変だし、弁当を誰が受け取るのかなど実務面の調整も必要になる。結局、区が契約することはできないが、「保護者が個人としてやるというかたちなら」ということで宅配弁当の利用を了承してもらった。

林さんは、区内で宅配をしてくれる弁当店を見つけたが、その店は個別で注文ができず、代表者がとりまとめる必要がある。弁当が必要な時期になると、林さんがほかの保護者の分もまとめて注文をファクスで流す。

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写真はイメージです(写真:イメージマート)

そのやり方を続けて1年半が経った今年2月。江戸川区は、2023年度の夏休みから、すべての学童で宅配弁当を利用できるスキームを導入すると発表した。2人の働きかけが実ったかたちだ。

小林さんはこう話す。

「こんなに早く実現できるとは思いませんでした。区側の金銭的負担が少ないこと、ニーズがあることがきちんと伝わったのが大きいのではないかと思います。子育てに限らずですが、議会に当事者がいること、当事者の声を聞かせてもらうことがいかに大切かということなんですよね」

ママインターンのチャットは「自分の意見を安心して言える場所」

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橋本絵美さん

1期生の橋本絵美さん(42)は、2021年にママインターンを卒業したが、その後もOGとして本目さんの活動にゆるやかに関わっている。

応募したときは、双子を出産して育休中だった。双子の4つ上に長男がいる。

「子どもを育てながら『世の中ってこういうふうになっているんだよ』と教えてあげられる親でありたい、と思いました。子どもたちとこの町でずっと暮らしていくんだと考えたら、生活に一番近いところ、自治体について知ることってすごく大事だなと思って」

橋本さんにとって、ママインターンが集うチャットは、自分の意見を安心して言うことができる場所だ。

「テレビとかで政治について話していても、自分はどう思うかをまわりの人と話すことはほとんどありません。でもここだったら、自分の意見をどんどん言い合える。母として、妻としてではなく、会社での自分としてでもなく、私という個人でいられるというか。大事なサードプレイスになっています」

ママインターンをしている人から異口同音に聞かれたのが、「ここでは『意識高い系』と揶揄されることがない」という言葉だ。

本目さんは、日常生活で女性が政治の話をしづらいことについて、こんなふうに言う。

「一つには、野球と政治の話はするなみたいな、昔ながらの風習がありますよね。もう一つ、女性は政治なんてわかんないでしょと思われている部分もあると思います。このあいだ(ママインターン志望者に)ヒアリングをしていたら、そんなふうに言われたという方がいて。その方は海外育ちで、政治の話もふつうにしてきたのに、日本の会社に勤め始めたら、『ごめんね、女性には難しい話はわからないよね』と言われたと」

もともとは、日々のちょっとした気づきを聞かせてほしいという思いで始めたママインターンだが、女性が政治や社会についてのびのびと語り合える場所になりつつある。

「新しい時代の政治参画の仕方になってきているな、というのは実感します。それは、議員にとってもママにとっても、両方ですね」

元記事は こちら

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