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アスパラの茎をお茶に!? 生ゴミを減らし、地域の雇用と事業を生んだアイデア

    

エールマーケット

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香ばしさの中に甘みを感じる、なんだか懐かしいのに新しい味わい。2021年6月に生まれた「翠茎茶(すいけいちゃ)」はアスパラガスの茎から生まれたお茶です。

いわゆる和風なお茶の雰囲気とは違うデザインのパッケージ。セレクトショップや雑貨屋に並んでいても違和感のないこのお茶が、実は年間800kgの生ゴミ削減につながるかもしれないというのです。

「『翠茎茶』の製造工程は、新しい経済循環のモデルなんです」

そう話すのは、「翠茎茶」の企画・販売をおこなうデザイン会社、株式会社REDDの代表・望月重太朗さん。
ひとつのお茶が生み出す、いくつもの価値とは? 「翠茎茶」が生まれた経緯と、商品に込めた思いを伺いました。

今回ご紹介する現場
REDD

デザイン、教育、R&Dの視点から、企業や自治体と共に実験ファーストで新規ビジネスに繋がる社会価値づくりを軸に展開。国内外を問わず、新たな未来を作るためのワークショップやセミナーの実施、プロトタイプの開発サポートなど、幅広く行っている。
REDDの翠茎茶

捨てるはずだった素材を活かし、労働を生み出す

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「夏は麦茶などのボトルで水出ししてもおいしいし、冬ははちみつ小さじ1と粉山椒を2振りして飲むのもおすすめです!」と、望月さん

「翠茎茶」の製造工程には、大きな特長が二つあります。
ひとつは、今まで捨てられてしまっていた「切り下」と呼ばれるアスパラガスの茎の部分を活用していること。
「生ゴミの焼却は、ほかのゴミよりも環境負荷が高いとされています。なぜなら生野菜は水分が多く、燃やす際に多くのエネルギーを使うからです。『翠茎茶』は、本来廃棄されてしまう茎を活用するだけでなく、乾燥と焙煎でお茶にしています。一度乾燥させることで、お茶を楽しんだ後の出がらしも燃やしやすくなり、環境負荷の軽減につながるのです」

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もうひとつは、農業、クリエイティブ、福祉の3つの事業連携によって商品が生まれていること。翠茎茶に関わるすべての事業者が、東京都練馬区内に事業所を持っていることも大きなポイントです。

「近年、農業の世界では、農業者と福祉施設とで事業を生み出す『農福連携』が注目されています。福祉施設の利用者が農業分野に取り組むことで、新たに就業機会や雇用が生まれ、生きがい創出にもつながります」

「翠茎茶」は、その枠組みに、デザインや創造といったクリエイティブの要素を加え、「農・創・福連携」の新たな経済循環モデルを生み出しているのです。

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自分と家族が住む街で、形に残る、地域に根ざした仕事を

元々、広告代理店でWebページの制作を担うデザイナーからキャリアをスタートした望月さん。その後、デジタルやテクノロジー領域の最前線で企画の立案やディレクターとして活動し、これまで数多くの新しい体験やサービスを生みだしてきました。

既存の物事に新たな価値をつけたり、見る角度を変えることで、より多くの方の手に届きやすくする。
望月さんの行ってきた仕事は、このように考え方の枠組みをデザインし、新たな取組みをおこなう企業に提供することです。
「翠茎茶」も、そのような望月さんのキャリアを活かし、廃棄されるはずだったアスパラに新たな価値を生み出した商品です。

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どうしてお茶をつくろうと思ったのか、そう問われた望月さんは「手に取れる、形に残るものをつくりたかった」と答えました。デジタルの仕事は、楽しさと刹那的な側面を持つ、と望月さんは言います。

「たとえば、自分が手がけたWebページがあったとして、今後スマートフォンがアップデートしたり、Webの運用をやめたりしたら、そのページは見ることができなくなりますよね。つくった人の頭の中にしか残らない。
それすらも忘れる可能性があると考えたときに、とても悲しい気持ちになったんです。だったら人の記憶や形に残るものを手がけたいと思い、食の分野の活動をはじめました」

2018年、会社員として働くかたわら、実験的な活動として行なった『UMAMI Lab.』。スーツケースに出汁をひくための機材一式を入れ、どこでも旨味にまつわるプレゼンテーション体験をできるこの取り組みの中で、「翠茎茶」の製造に至る気づきを得たと話す望月さん。

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出汁の引き方をプレゼンテーション形式にすることで、視覚的に出汁や旨味について知ることができる『UMAMI Lab.』。オランダで行われたテック&デザインのカンファレンスで実演した経験も

「あるとき、『UMAMI Lab.』の活動を、NHKの番組で取り上げていただく機会があったんです。それを知った娘の幼稚園の園長先生に『NHKに出るんですか、すごいですね!』と言われて。そのとき、ふと自分が地域のためになにができるか、考える必要性を感じたんです」

これまで日本全国、そして全世界の舞台で活動してきた望月さん。この出来事をきっかけに、自分の家族が住む場所で、地場に接続する仕事をすることを意識しはじめたそう。そこで望月さんは、まずは幼稚園のママたちに向けて、出汁と蒸留のワークショップを実施しました。

「当日は、40人のママやパパたちが参加してくださいました。今まであらゆるプレゼンをしてきましたが、一番緊張しましたね。皆さん、僕のことを知らないし、なにをやっている人かもわからないですから(笑)。結果的に、楽しんでくださったようで安心しました。

ワークショップの翌年、妻から『あのとき、出汁のワークショップをされた方の奥さんですよね』と幼稚園で声をかけられたと聞きました。そのとき、『やっぱり自分の住むこの地域で活動をしていきたいな』という思いが強まったんです」

2019年、望月さんは自治体や企業に向けて、クリエイティブや実験的な考えをもって事業展開したいと考え独立。地域との接点を増やすために、自宅から自転車で通える範囲に事務所を構えました。

「地域に滞在する時間を増やしたおかげで、お祭りに出汁屋さんとして出店したり、地域活動の盛んな団体でお話しする機会をいただいたりと地域の人との活動につながっていきました」

地域とのつながりの中で生まれた「翠茎茶」

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そうして地域の人々との接点を増やす中で出会ったのが、練馬区大泉町で「翠茎茶」の原料となるアスパラの生産を行う「白石農園」です。

「実は、練馬区には多くの農家さんがいらっしゃるんです。その中でも、白石農園さんは約350年前から野菜をつくり続けている歴史があり、一方で新しいことにもどんどん取り組む意欲的な農家さんです。パン屋やレストランなどにも野菜を卸していて、飲食店にもファンが多いんですよ」

白石農園は、冒頭で触れた「農福連携」に取り組んでおり、生産したアスパラの選別と梱包を福祉作業所に依頼。「東京アスパラ」として販売を行っています。

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ある日、白石農園からアスパラの茎の活用方法について相談を受けた望月さん。製造の許認可のハードルが比較的低いことから、お茶への加工を提案したと言います。

「アスパラの茎を1kg預かって、まずは自分でお茶にしてみました。ザルに入れて天日干ししたアスパラを、フライパンで焙煎したんです。アスパラのお茶なんてどんな味なんだろうと思ったのですが、一口飲んで『これはおいしい!』と手応えを感じましたね」

すぐに白石さんにも試作品を飲んでもらうと、「アスパラの青臭さもないし、甘さもちゃんと出ていておいしい」とお墨付きをもらった望月さん。3日ほどでデザインの試作を完成させ、商品化に踏み出そうとしたタイミングで、福祉作業所との連携の話が持ち上がりました。

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「翠茎茶」のデザイン試作。現行品にほぼ近いデザインであることがわかる

「当初、お茶の製造は仕事のかたわら自分で行おうと思っていたんです。そうしたら白石さんが『加工作業をやってくれる福祉施設もある』と、探してくださって。結果、『かたくり福祉作業所』と『社会福祉法人あかねの会』の二箇所にお願いすることになったんです。

僕が『かたくり福祉作業所』からアスパラの切り下を仕入れ、仕入れた切り下を『社会福祉法人あかねの会』に加工してもらい、商品のパッケージ封入までお願いしています。この流れによって、新たに二つの事業所に利益を生み出す経済循環モデルができました」

お茶の枠組みを若手デザイナーの挑戦の場に

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2021年6月、望月さんはリリースしてまもない「翠茎茶」を持って、音楽フェス『森、道、市場2021』に出店。実際に多くの人々にお茶を飲んでもらい、販売する中で、商品普及への手ごたえを感じたそう。
また、2021年12月には、練馬区で食育や都市農業の推進をおこなう団体「Best Dishes!」とイベントを実施。練馬区の農家さんがつくる野菜をお茶にするワークショップの場を設けるなど、お茶の販売にとどまらずアクションを起こし続けています。

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ワークショップでは、ワサビ菜、カリフラワー、アロマティカス、果林、里芋、レモンの葉、人参、トマト、ネギ、アロエなど約10種類の食材をお茶に

プロジェクトを進める上で、常に実験する気持ちを大切にしてきたという望月さん。「翠茎茶」は発案からわずか4ヶ月弱で商品化まで進めたと言います。

「うまくいくかわからないけど、僕は常に実験を通じてものをつくることが、新しい可能性をひらくと感じています。地域資源を、その地域に形として残すものづくりがしたい。そんな思いを抱えながら活動してきた中で、ようやく巡り合えたのが『翠茎茶』なんです」

今後の展望を伺うと、「お茶という枠組みで、若手デザイナーの活躍できる場をつくっていきたい」と望月さん。

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「ヨーロッパなどのクラフトビールって、デザインが個性的で豊かで、見ているだけでも楽しいものが多いんです。缶や瓶の規格自体は統一されているので変えられない。じゃあみんなどこで独自性を表現するかというと、ラベルなんです。決められた枠のなかでいかに独自性を出すか、デザイナーの手腕が試されるとも言えます。『翠茎茶』のような地域性を持った、野菜加工茶でもそんな動きができたらいいなと思うんです。

今回、僕が行ったのは、『翠茎茶』を通してひとつの枠組みをつくること。今後は、練馬の農家さんたちの間で、他の食材を使ったお茶が生まれる動きも出てくるかもしれません。そのときに、僕の会社でデザインをやるのではなく、若手のデザイナーさんと組んで、その人の名刺代わりになるような商品ができたらいいなと。若手デザイナーのアイデアがパッケージに添えられて展開される未来を思うと、すごくワクワクしますね」

  • 取材・文ナカノヒトミ

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