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知る、つながる、はじまる。

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虫を殺さず追い払う。 生態系を壊さない「菊花せんこう」

    

エールマーケット

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天然の除虫菊を原料に使用し、虫を殺さずに追い払う。使う人だけでなく、虫や鳥などの生き物への影響まで配慮し、天然成分でつくられた防虫線香「菊花せんこう」は、化学物質に敏感な方や、小さい子どもやペットのいる家庭を中心に支持を集め続けている商品です。

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「菊花せんこう」を製造・販売するのは、愛知県津島市にある自然食品と雑貨の店「りんねしゃ」。菊花せんこう以外にも、北海道の自社農場で無農薬栽培した国産薄荷(ハッカ)を使った「赤丸薄荷オイル」や、季節の薬草を用いたハーブティなど、人の体と環境にやさしい数々のオリジナル商品を手がけています。

りんねしゃがこだわるのは、つくり手にも、お客さんにも、地球の環境にも、すべてにとって「いいもの」を扱うこと。40年以上続くりんねしゃのものづくりについて、副社長を務める大島幸枝(おおしま・さちえ)さんに伺いました。

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今回ご紹介する現場
りんねしゃ

愛知県津島市で、約40年前から全国の生産者が手がけるこだわりの調味料や農産物、食品などを扱うお店。オリジナル商品の開発・販売や、ワークショップの企画、イベント出店なども行っている。2021年、姉妹店となる「本草研究所RINNE」を三重県多気町にオープン。
りんねしゃの菊花せんこう

お母さんたちの「共同購入」から生まれたお店

りんねしゃの創業は1977年。まだ「無農薬野菜」や「無添加食品」という言葉自体が認知されていなかった時代です。創業の経緯について、大島幸枝さんはこう話します。

「当時、私の母が『子ども達に安全なものを食べさせたい』という思いから、同じ考えのお母さん達と一緒に『共同購入』をするようになったんです。皆でお金を出し合って、農家やパン屋さんに『無農薬・無添加の食品をつくってください』とお願いして費用を前払いし、まとめて購入した無農薬野菜や食品添加物を使わない天然酵母のパンなどをグループで分け合っていました。今で言うクラウドファンディングのはしりですね」

「津島エプロン会」というグループ名で活動を続けていたところ、規模が大きくなってきたため「グループ輪」という団体を設立。それでも時代の流れと共に安全な食品を求める会員が増え続けたため、夫の飯尾純市さんを代表として「株式会社りんねしゃ」が創立されました。その後の1996年に、娘である幸枝さんもりんねしゃに入社します。

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現在では愛知県津島市に立込店と宇治店の2店舗を構え、通信販売も行なっています。とくにオリジナル製品の「菊花せんこう」は、「化学物質に敏感な体質で、市販の蚊取り線香が使えない」という人や、「ペットを飼っているからやさしい成分の防虫線香を使いたい」という人達からの需要が増え続けています。

また「菊花せんこう」の原料である「除虫菊」の一部は、北海道紋別郡滝上町にある自社農場で栽培したもの。自社農場は、除虫菊の栽培を後世に伝えるための実験場としての意味合いもあるそうです。

そんな「菊花せんこう」が完成するまでには、製造工場の資金難や原料の確保の問題、また成分の配合の割合など多くのハードルがありました。

生態系にとってベストなバランスの「菊花せんこう」

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「菊花せんこう」は、元々、創業者の飯尾純市さんが愛用していたのだそう。

「父は化学物質に敏感な体質なので、市販の蚊取り線香は体調が悪くなってしまって使うことができなかったんです。そのため父の知り合いの会社でつくられていた『除虫菊のかとりせんこう』を使っていました」

しかし市販品が市場を占有する一方、除虫菊を使用しているため割高な「除虫菊のかとりせんこう」の需要は年々減り続けていました。

「20年程前に、とうとうその会社の方に『資金難なので会社を畳むことにした』と告げられました。父は『除虫菊のかとりせんこうがなくなってしまったら俺が困る』と、製造を続けてもらう方法を考えたんです」

そこで純市さんは、りんねしゃが創業前に行なっていた「共同購入」の仕組みを応用することにしました。

「自然食品業界の仲間達に呼びかけて『天然成分を使った防虫線香をつくりたいので、一年分を先に買い取ってください』と企画を持ち込んだんです。集まった資金だけで足りない分は、父が自腹を切って投資をしました」

こうして資金難を乗り越え3年程経った頃、製造会社から「飯尾さんがここまでやってくれたんだから、りんねしゃさんオリジナルの商品にしましょう」と話が持ち上がり、オリジナルブランドとしてリニューアルした「菊花せんこう」をつくることになりました。

リニューアルの際、最もこだわったのが原料である除虫菊を配合する割合でした。

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除虫菊の割合を少なくすると、薬事法の規定で「雑貨」扱いとなり、「蚊取り線香」という名前で販売することはできなくなります。それでも「生態系にとってベストなバランスのものをつくりたい」という思いから、現在の「菊花せんこう」が誕生しました。

しかし、販売を始めた頃は取引先のなかに「市販の蚊取り線香の真似をした、インチキな商品じゃないか」という人もいたと言います。

「『蚊取り線香』と名乗れない商品なんて、信用できない!と言うんですね。そこで私と父で取引先を一軒一軒訪ねて、なぜこの天然成分の防虫線香をつくったのか説明し、納得してもらった上で仕入れていただきました。すると最初は冷ややかな反応だった人からも『使ってみたら虫が来ないし、喉も痛くならなくていいね』と言っていただけるようになったんです」

「フェアトレード」の原料づくりを目指し、JICAと共にケニアへ

現在、北海道でりんねしゃが運営する滝上農場では純国産の除虫菊生産を目指し、様々な栽培実験を繰り返しています。約15年にわたる自社栽培の挑戦を通じ、除虫菊の特性と、その素晴らしさを発見すると同時に、栽培の難しさにも直面していると幸枝さんは言います。

「自社栽培を断念することはありません。ただし、これまでの経験から、すべての原料を国産に頼るのは現実的ではないこともわかってきました。栽培面積の問題、機械化の課題、育苗育種の問題......挙げればきりがないほど、さまざまな壁があります。しかし、そのおかげで、除虫菊の栽培に関するノウハウを社内で積み上げることができました」

そのノウハウを活かし、りんねしゃではケニアで除虫菊栽培のプロジェクトを開始しました。現地生産者と連携して栽培を行いながら、菊花せんこうの原料をフェアトレードで獲得していく試みです。

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ケニアでの活動風景。金髪の男性(左から2番目)は、幸枝さんの弟で、りんねしゃ専務取締役の飯尾裕光(いいお・ひろみつ)さん

「日本の国際支援で活躍するJICAへ、ケニアでの除虫菊栽培と蚊取り線香生産のプロジェクトを提案し、2019年に採択されたんです。コロナの感染拡大による影響で国際的な活動が制限され、まだ本格的な活動は始められていませんが、ようやくコロナ禍におけるプロジェクト推進の目処が立ってきました」

このプロジェクトでは、単にケニア産の除虫菊を輸入するのではなく、現地の生産者へ天然成分100%の蚊取り線香づくりを教えています。そしてマラリアなどの蚊が媒介する感染症に苦しむケニアの方々が、より安全で安心、そして安価に使える現地生産の蚊取り線香を6次産業として広めていく活動でもあります。

「単に原料を海外から輸入するのではなく、自ら国産栽培にも取り組み、その上で不足分の原料を連携するケニアの農家からフェアトレードで買い取る。現地農家の方々を経済的に支えると同時に、ケニアでも蚊取り線香の文化を広めていきたいと思っています」

天然成分100%の蚊取り線香は、化学合成の殺虫剤耐性を持ちつつある蚊に対しても有効であることが証明されており、SDGsの観点からも、ケニアでのプロジェクトは大きな注目を集めています。

お客様に「いいものです」と言い切れる根拠がほしい

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りんねしゃは、なぜここまで原料にこだわって、ものづくりをしてきたのでしょうか。幸枝さんはこう話します。

「"りんねしゃらしさ"とは、原料やそのつくり手が主体になった商品を提供することだと思っています。お金を儲けることが一番の目的ではなく、素晴らしいつくり手さんが手がけたものを、お客様に届けたいんです。全部の商品が、生産現場を見たり、つくり手さんと話したりして、お客様に自信を持って『いいものです』と言えるものばかりです」

目指すのは、お客様にとって「本当にいいもの」を届けること。「菊花せんこう」は化学物質を使わず天然成分にこだわっているからこそ、色合いが均一ではなく変化することがあります。

「時々『去年買ったものより色が黒っぽいのですが』と仰る方もいます。ですが、自然のものなので、その年々の植物によって、色がベージュぽかったり黒っぽかったりとブレるのは当たり前なんです」

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「人間は自然からいただく側だから、無理やり自分達の思う通りのものをつくろうとは考えない」という大島さん。

「市販品はそのブレが分からないように着色したりします。でも、より自然に近い、いいものを求めるのであれば、ブレがあって当たり前なんです。そういうことを伝えられる商品を作りたいと思っています」

ただ、信頼できる取引先を厳選して原料を確保し、こだわりの強いものづくりをしていると、商品がいくら人気になっても規模を大きくすることは難しくなります。

「会社の規模を大きくしようとは思っていないんです。『今年は5kgしかつくれない』という生産者さんに『そこをなんとか10kgつくってよ』とは絶対に言いたくないんです。それを無理強いしようとすると、自然なつくり方から外れたり、何かをごまかしたりといった問題が起きてしまうんです。

無理に大量生産するよりも、なぜ菊花せんこうはこれだけしかつくれないのか、そのストーリーをお客様に共有することが大切だと思っています」

地域の薬草の知恵を伝える「本草研究所RINNE」

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りんねしゃは、2021年に三重県多気町にグランドオープンした商業リゾート「VISON(ヴィソン)」に姉妹店「本草研究所RINNE」を出店しました。本草研究所RINNEでは「薬草」をテーマにした生活雑貨に加え、オーガニックやヴィーガンをテーマにしたカフェを併設し、オリジナルの和草茶も提供しています。

「10年ほど前に、北海道の自社農場で在来種の薄荷である『赤丸薄荷』を発見したことがきっかけで、薬草に興味を持ちました。北見ハッカ記念館の方に見ていただくと『品種改良されていない在来種の和薄荷です。大事に育ててください』ということでした。

その赤丸薄荷を育てて『赤丸薄荷オイル』などに商品化していったのですが、『きっと忘れられている薬草は他にも沢山あるんだろうな』と思ったんです」

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その土地の薬草を自分で摘んでお茶にして飲むような、昔ながらの知恵が徐々に失われています。「そういう習慣を大切にすれば、人はもっと手軽に健康でいられるのでは」と考えて「本草研究所RINNE」を始めました。

「今では薬草が雑草として取り除かれてしまったりして、使い方の知恵が受け継がれなくなってしまっています。でも地方には、まだおばあちゃん達の知恵が残っています。薬草や野草をつくっている人達がその知恵を交換し合ったり、最終的な発表の場としてお茶にして、一般の方にも飲んでもらえるお店をつくりたいと思ったんです」

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近年、ハーブティの人気が高まっているものの、「ハーブティ専門店で産地や生産者について聞いても『わからない』と言われることもあった」と大島さんは言います。

「うちなら北海道の農場もありますし、原料も自社で調達しているので、ちゃんと『いいもの』である理由を自分たちで説明できます。せめて本草研究所では、産地が明確で植物の力を感じられるようなお茶を飲んでもらいたいと思っているんです。りんねしゃの商品づくりの集大成のようなお店ですね」

そんな大島さんは、本草研究所で次のやりたいことが見つかったそうです。

「行き場のない黒松をレスキューしたいと考えています。今、敷地の広い日本庭園のあるお家がどんどん減っていて、そこに植えられていた庭木の行き場がなくなっているんです。その活動をしている庭師の友人と協力して、本草研究所の敷地に黒松を移植してもらい、展示場のようにしようと思っています」

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黒松は文化的価値があるだけでなく、新鮮な松葉を使った「松葉ジュース」をつくることもできるそう。

「松葉ジュースには健康にいい様々な効果が期待されて、注目が高まっているんです。これからは黒松のオーナーを募って黒松を維持するための資金を集め、松葉ジュースを販売した利益をオーナーさんにお返しする仕組みをつくりたいと思っています。これも、りんねしゃのルーツである『共同購入』的ですよね。きちんとビジネスとして成立させることで、黒松を救いたいんです」

次の目標をいきいきと語る大島さんは、「新しい動きが生まれた瞬間がとても幸せ」だと言います。

「いいものをつくっている生産者さんや商品のつくり手さんが、ちゃんと潤うようになってほしいんです。そのために、どんな風に紹介すれば、彼らのつくるものの魅力が最大限伝わるか、いつも考えています。『菊花せんこう』も『赤丸薄荷』も、その結果生まれた商品ですね。

自分が出会って惚れ込んだ生産者の方に、どれだけお返しできるか。それだけが私のやりがいです。そういう人たちがちゃんと価値を知られて、対価としてのお金が還元されるようになれば、きっとさらにいいものをつくりたくなるはずですから。そうしていい循環を生んでいきたいんです」

  • 取材・文都田ミツ子

    撮影(菊花せんこう、和草茶の写真)タケバハルナ

    画像提供(上記以外)りんねしゃ

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