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「ずるい」「わがまま」ではない 障害者の社会的な壁どうなくす #令和の人権

    

Yahoo!ニュース オリジナル 特集

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4月に「改正障害者差別解消法」が施行され、民間の事業者も障害のある人の求めに応じて「合理的配慮の提供」を行うことが義務づけられた。しかし、まだまだ世間の認知度は低く、障害のある人の申し出に対し「わがまま」という声が出ることも少なくない。

障害のある人も多く外出するであろう夏のレジャーシーズンを前に、「合理的配慮とはどんなことを意味しているのか」「なぜ合理的配慮が必要なのか」について、インクルージョン研究者の野口晃菜さんに聞いた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:野口晃菜)

目次

  1. 合理的配慮って? みんなの意識とギモン
  2. 合理的配慮はなぜ必要? 障害は「社会」にある
  3. 合理的配慮の提供、実際にどうすればいい?
  4. 合理的配慮の考えが及ぼす社会的メリット
  5. 困ったらどこに相談すればよい?

1.合理的配慮って? みんなの意識とギモン

合理的配慮とは

障害のある人から「社会の側にこういう障壁がある。だからその障壁を取り除いてほしい」という申し出があったときに、申し出を受けた事業者が過度な負担にならない範囲で、その障壁を取り除いていくための対応をすることを合理的配慮という。

合理的配慮について、世間の認知度を調べるため、今回、Yahoo!クラウドソーシングで、現在顧客と接する仕事に従事している18〜65歳の計1681人に「障害のある人への合理的配慮」に関する意識調査を行った。

「合理的配慮の提供」について「あまり知らなかった」「知らなかった」と答えた人がおよそ7割を占めるなど、やはり認知が進んでいない現状が明らかになった。その一方で、障害のある顧客に接したことがあると答えた人の多くが「迷いやトラブル等なく対応できた」と答えており、何らかの対応をしていることもうかがえた。

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障害のある顧客に接したことがあると答えた人に「どのように対応したか」「対応に悩んだ点」について記述してもらったコメントのなかから抜粋し、次の図にまとめた。

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当事者と対話をした上で合理的配慮の提供をしたことがうかがえるコメントがあった一方で、対話がなされず個人の善意を前提に対応をしていると思われる状況や、正しい対応がわからずとまどっている声も見受けられた。

こうした結果に対し、野口さんは次のように語る。

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野口さん

私たちの多くが、障害者に対して「思いやりを持って接しましょう」「手を貸してあげましょう」といった教育を受けてしまっていることもあり、良かれと思って何かをやってあげるケースは少なくありません。しかし、実際にはそれが本人にとっては望んでいないことだったりすることも多い。

本来の合理的配慮というのは、当事者との調整、対話の上で実施していくもの。もちろん事業者の側から提案することは大切です。なぜかというと、そもそも申し出ることが難しい人もいますから。しかし、本人がそれを望んでいるか確認せずに勝手にやってしまうのは合理的配慮ではありません。 建設的対話によって本人との合意形成ができているかどうかが大切です。「善意」や「優しさ」とは違います。

2.合理的配慮はなぜ必要? 障害は「社会」にある

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かつて障害(=バリア)は個人の心身機能の障害によるものと考えられてきた。これを障害の「医学モデル」という。しかし現在では、障害は社会(モノ、環境、人の考え方など)と心身機能の障害があいまってつくりだされている、つまり障害は社会にあるという考え方になっている。これを障害の「社会モデル」という。この社会にある障害を取り除く手段の一つが合理的配慮だ。野口さんは次のように説明する。

野口さん

今の社会は、障害のない人を中心につくられているので、障害のある人にとっては当然使いづらい社会になってしまっています。そのことによって格差が生じているということを、まずは知ることが重要です。ゆくゆくはたとえば建物のバリアフリー化のように、障害のある人がいることを前提に社会を変えていくことができるのが一番いいのですが、今、この瞬間、そこにバリアがあることに対しては間に合いません。その部分を個別に調整していくのが合理的配慮なのです。

「障害者だけ配慮されるなんてずるい」などと考える人もいるかもしれませんが、合理的配慮というのは「プラスアルファ何かをするもの」ではなく「マイナスをゼロにするもの」「同じスタートラインに立つためのもの」なのです。「なぜ合理的配慮が必要なのか」を理解するためには、障害のない人はすでに障害のある人より配慮されている、ということを受け止めることが欠かせません。

また、「合理的配慮」は、リーズナブル・アコモデーション(reasonable accommodation)の日本語訳だが、野口さんはこの訳に違和感があると話す。

野口さん

accommodationには、本来は「調整する」といった意味があります。配慮というと、どうしても「してあげる・してもらうもの」という上下関係があるイメージで捉えられてしまうように思います。『ハンチバック』という小説で芥川賞を受賞した市川沙央さんは、「合理的調整」という言葉を使うと述べられていましたが、私も合理的配慮ではなく、合理的な調整という言葉を使うようにしています。

3.合理的配慮の提供、実際にどうすればいい?

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合理的配慮はおおまかに「物理的な障壁の解消」「意思疎通の工夫」「ルール・慣行の変更」に分けられる。例えば上の図のように、飲食店で障害のある人から「車いすのまま着席したい」との申し出があった場合に「机に備え付けのいすを片付けてスペースを確保する」といった対応は物理的な障壁の解消に当たる。

いずれも、事業者と障害のある人が建設的対話を重ねて、共に解決策を検討することが重要になる。また、障害を理由に、障害のない人と異なる取り扱いをして不利に扱うことは障害者差別解消法で禁止されている「不当な差別的取扱い」に当たる。

解決のための対話って?

合理的配慮の提供における対話の具体例を見てみよう。車いすを利用しているAさんが、介助者のBさんをともなって洋食店に来店した。Bさんは、介助の仕事後に自身の家族との食事を控えており、Aさんのみが食事を注文した。

Aさん

ハンバーグセットを1つください

従業員

すみません、当店はワンオーダー制です。お連れ様にも何か注文していただく必要があります

Aさん

私は介助なしに食事をとれません。Bさん(介助者)は飲食をしに来たわけではなく、私を介助する仕事のためにここにいます

従業員

ワンオーダー制が本来の決まりではありますが、事情がわかりました。お連れ様は注文なしでも大丈夫です

対話を行う上で、前例がないことや漠然としたリスクの可能性は断る理由にならない。個別の状況に応じて柔軟に検討する必要がある。

対話の際に避けるべき考え方

  • 前例がないので対応できない
  • 障害のある人だけを特別扱いできない
  • もし何かあったらいけないので対応できない
  • ○○の障害がある人には対応できない

4.合理的配慮の考えが及ぼす社会的メリット

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これまで障害のある人への合理的配慮について説明してきたが、障害のある人だけでなく社会全体にとってもポジティブな影響を与える考え方であると野口さんは語る。

野口さん

合理的配慮の提供の範囲は、今は障害のある人が対象になっています。しかし、車いすユーザーのためにエレベーターが設置されたことで、高齢者やベビーカーの利用者の移動が楽になったように、社会全体がその恩恵を享受します。合理的配慮が広がっていくことで、同じようなことが起きると思っています。

また、合理的配慮に欠かせない建設的対話についても、「自分はこういうふうにしたら働きやすい」とか「自分はこういうふうにしたら学びやすい」といったことを、障害の有無に関係なく誰もが口に出し、「どうしたら可能な範囲で実現できるのか」ということを、お互いに話し合えるような社会の土台を築くことにつながる概念であると考えています。

5.困ったらどこに相談すればよい?

合理的配慮の提供や不当な差別的取扱いについて相談する場所として「つなぐ窓口」があり、事業者・障害のある人ともに利用できる。つなぐ窓口に相談すると、つなぐ窓口が地方自治体や各府省庁の適切な相談窓口と調整を行い、相談内容の取り次ぎが済むと、相談者へ取り次ぎ先の窓口の情報が伝えられることになっている。相談者が伝えられた窓口に相談すると、すでに伝わっている相談内容を踏まえた上で、問題解決に向けた調整が行われることになっている。

元記事はこちら

#令和の人権 」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。日常生活におけるさまざまな場面で、人権に関するこれまでの「当たり前」が変化しつつあります。新時代にフィットする考え方・意識とは。体験談や解説を通じ、ユーザーとともに考えます。

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