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ジェンダー平等は経済力アップにつながる? アイスランドに学ぶ、誰もが生きやすい社会のヒント

    

サストモ編集部

レイキャビクの街並み
画像:アフロ

SDGsのゴールのひとつである「ジェンダー平等を実現しよう」。日本は、世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2021」で156ヶ国中120位という評価を受けています。

こういった評価を受けて、日本国内でも格差をなくしていくための動きは、近年ますます盛り上がりを見せています。

ジェンダーギャップは、倫理や人権の観点から解消したほうがいいものであることは、間違いありません。ですが、そういった意識が高まる一方でジェンダー平等が実現した社会において私たちの生活はどのように変わり、どんな利益をもたらすのかをリアルに想像できている人は多くないのではないでしょうか。

Yahoo! JAPAN SDGs編集部は、そんなぼんやりした未来像をもう少し客観的かつ具体的に理解していきたいと思い、「ジェンダー・ギャップ指数」で12年連続1位を獲得し続けているアイスランド大使館のドアを叩きました。

アイスランドの国会議員の男女比率は半々で、育休制度もジェンダー平等に配慮しながら設計されています。2018年には、性別による賃金格差を禁止する法律を施行している、世界で一番ジェンダー平等が進んだ国です。

大使館前で微笑む駐日アイスランド大使

駐日アイスランド大使であるステファン・ヨハネソンさんは「ジェンダーギャップをなくすことは、誰もが平等なチャンスを得られる環境をつくることでもあり、ビジネスのリスクを減らしながら国全体の幸福度と経済力をあげていくことに繋がります」と語ります。

お話からは、アイスランドがジェンダーギャップを埋めていくことに対して、長年真摯に向き合ってきたからこその、冷静でありつつも穏やかなまなざしを感じました。

そこには、私たちがこれからどのようにジェンダーギャップに向き合い、これからの社会をつくっていけばいいのか、そんなヒントが隠されているのかもしれません。

世界ではじめてジェンダーによる賃金格差を法律で禁止した国

椅子に座って語る駐日アイスランド大使

── アイスランドの性別による賃金格差を禁止する法律は、どのようなものなのでしょうか?

この法律は、企業や一定の人数以上の団体が、ひとつの職に対して性別関係なく同等の給与を支払うことを義務づけるものです。

企業や団体は給与を支払うだけでなく、その証明のための認証取得まで義務付けられているのが特徴で、審査機関による認証を取得すれば企業の公式サイトや書類にロゴをつけることができます。働く人は、ロゴの有無によってこの企業がきちんと法律を遵守し、認証を得ているかがわかるようになります。

スマホで認証ロゴのついたサイトを見せる駐日アイスランド大使

── 2018年ということは、すでにジェンダー・ギャップ指数で1位を取り続けている中で、さらにこの施策を行ったのですね。反発などはなかったのでしょうか。

特に大きな反発などはなく、労働基準局や経営者などさまざまな人の合意を得ることができたので国会でこの法律が通過しています。そもそも、国がこういった法律を制定するためには、社会がその必要性を認識し、きちんと同意を得ていることが前提だと思います。

── 中には自分の役職や仕事を奪われてしまうと感じる男性もいるのでは......と思ってしまうのですが、そういうことはなかったんでしょうか?

逆にそれは、今まで男性が仕事の機会を得ていた分だけ、女性が機会を失くしていたとも言えます。本来、チャンスというものは誰もが同じように享受するべきものなのではないでしょうか。

私たちがやっているのは、奪う、奪われるということではなくチャンスを平等にするということなのです。

── 給与差を是正するために、ここまで厳しい法律の制定に踏み切った理由を教えてください。

大きな理由としては、新しい社会のルールを実現するためには効力を持った法整備が必要だったことになります。

実はアイスランドは、1961年の時点ですでに性別による給与差をなくすことを企業に義務づける法律を制定していました。ですが、証明責任がないため制定後も依然としてジェンダーによる給与格差は存在し続けていたのです。

この課題について議論を重ねつづけた結果、何かを変えるための法律にはある程度強制力が必要だということになりました。

── 日本の男女雇用機会均等法も少しずつ改正を重ねていますが、もっと実効性を持った法律を目指していくべきなのかもしれません。

法の整備はもちろん重要ですが、そのほかにインフラをきちんとすることも重要だと私たちは感じています。

── インフラ、ですか......?

たとえば、誰もが子育てと仕事を両立できる社会には、保育園などの存在は欠かせません。

アイスランドでは誰もがすぐ入園できる、質が高く比較的安い保育園や幼稚園が充実しています。こういったインフラが整うことで、性別関係なく就業したり、仕事に復帰したりしやすくなる社会に一歩近づくのだと思います。

子育てに関しては、法律の面で育児休暇制度も整えていますが、それだけでは働きやすい環境にはならなかったでしょう。

微笑む子ども
画像:アフロ

── いくら法律をつくっても、働く人がちゃんとそれを実行できる環境をつくってあげないとダメ、ということですね。ちなみに育休制度はどのようになっているのでしょうか?

まず男女が各6か月ずつ育児休暇を取ることができ、その後に6週間の「共有可能な育休期間」があります。最後の6週間は、女性が4週間、男性が2週間でもいいですし、双方が3週間ずつ育休を取得することも可能です。

── 双方がしっかり育休をとった後、最後の6週間を各家庭の事情によってバランスを決められるのはいいですね。

育児休暇制度とインフラを整えたことによって、父親が声高に育児休暇を主張するのではなく、男性も当たり前のように育児休暇を取るんだという前提が社会の中でできました。

そうすると企業も、性別関係なく誰もが育児休暇を取る可能性があるという認識のもと採用活動を行うようになります。こういった取り組みも、誰もが平等に仕事のチャンスを得られることに繋がっていきます。

意識が大きく変わった「女性のストライキ」

語る駐日アイスランド大使

── そもそも、アイスランドはなぜジェンダー平等の議論がここまで活発なのでしょうか。

やはり、人々の意識がそちらに向いているというのが大きいと思います。ですがこれは長い年月の中で様々な出来事があり、その中で私たちの認識が少しずつ変わってきた結果でもあります。

最も大きなきっかけとなったのは、1975年10月24日に起きた「女性の休日」と呼ばれるストライキです。

── きっかけは50年近く前のストライキ......!

この日、国民の女性のうち約90%の人が、女性も社会の柱であるということを証明するために自分の仕事や家事をすべてストップして、首都であるレイキャビクの広場に集まりました。

大勢の女性によるデモ活動
画像:Women's history archives

多くの女性がストライキに行ってしまった後、男性はどのように家事や子どもの世話をしたらいいのかわかりませんでした。要するに、仕事や家事を女性が止めることによって、社会も家庭もうまく機能しなくなってしまったのです。

── 9割の女性が仕事や家事を休んだら大変なことになりそうですね。

このストライキによって、女性が社会からいなくなるとどうなってしまうのか、アイスランドは認識したと言っても過言ではないと思います。

その後、政治の世界で女性が活躍していくようになり、5年後の1980年にはヴィグディス・フィンボガドゥティル氏が、世界ではじめて民主的に選ばれた女性大統領として当選しています。彼女はその後16年間にわたり大統領であり続けたのですが、それによって「女性でも大統領になれるんだ」ということを社会が認知し、ロールモデルにもなりました。

また1982年には女性だけで構成された政党が自治体で生まれ、翌年の1983年には国会にも女性だけの政党が誕生しています。

アイスランド首相官邸
画像:アフロ

── 人々の意識が変わった後、政界に女性がどんどん進出していったのですね。女性が政治に参加するようになった結果、どんな変化が起きたのでしょうか?

女性だけの政党は主にジェンダー平等や児童福祉、健康保険について国会での議論を推進してきました。

そうすると、他の政党もジェンダー平等に関するトピックを公約に盛り込まないと当選しづらくなってきました。どの政党も女性議員を増やしていく流れができ、徐々にそれがメインストリーム化していったのです。

2009年には閣僚の男女比率が半々になり、同時に初の女性首相(*1)も誕生しました。彼女はレズビアンを公言していていましたが、社会はそれを当たり前に受け入れていたので、その頃にはあらゆる人が平等に機会を得られる社会になってきたと思います。

(*1 アイスランドには大統領と首相がいる。大統領は国民投票で選ばれるが、首相は議会の指名に基づき、大統領により任命されており、政治的な実権は首相が持つ)

椅子に座って語る駐日アイスランド大使

── 性別を問わず、人の権利がきちんと認められる社会......いいですね。

ジェンダー平等は人権の話でもありますが、同時に経済的なメリットも大きいことも強調しておきたいです。経済協力開発機構(OECD)の調査(*2)によると、女性が経済活動に参加することによって、その国全体の経済はよくなるとされています。

── えっ、そうなのですか!? 一見関係ないように見えますが......。

意思決定の場では、女性の視点をはじめとした多様性があったほうがリスクを回避できるのが、主な理由だと思います。

実は、アイスランドはこの事実を2008年に国内で起きた金融危機で体感しています。当時、金融業界の中でも意思決定権を持つ層はほとんど男性でした。ですが、男性はリスクを取りすぎてしまうなどの傾向があり、それが原因のひとつとなって金融危機が起きたとされています。

その後、上場企業の役員の性別比率を6対4にすることを義務づける法律も制定されています。ちなみにこの比率は女性が6割でも問題ありません。

── 金融危機から学んで、しっかり法律までつくっているのですね。

もちろん意思決定層の女性比率を上げるときは、社会の中で多くの議論が起きました。それでも金融危機の深刻さを考えると必要な変化だと多くの企業が判断し、受け入れていきました。

またジェンダー平等な社会が実現すれば、国全体の幸福度も上昇します。各家庭が幸せであることが結果的によい経済効果をもたらすことも、経済協力開発機構の調査では言及されています。(*2)

(*2 OECD Closing the Gender Gap / Gender equality: The economic case, social norms, and public policies

大切なのは、その国らしく変わっていくこと

椅子に座って語る駐日アイスランド大使

── ジェンダー平等を着実に実現してきたアイスランドですが、今見えている課題や今後取り組んでいきたいことはありますか?

アイスランドでも、給与格差は完全になくなったわけではありません。教育や看護、介護など、女性の従事者が多い職種に対しての給与は低いままです。

ほかにDV問題もあります。世界的なムーブメントを巻き起こした#MeTooがアイスランドにも入ってきた結果、女性が自身の暴力を受けた体験を共有しはじめ、社会的にそういったことが言いやすい雰囲気が醸成されています。

女性が声をあげることで、過去のセクシャルハラスメントなど、今まで表に出てこなかった問題が露呈し、芸能人が引退することもありました。

── #MeTooの動きは、世界の国々が新たな問題を認識したように思います。アイスランドが、この課題にどのように向き合い変えていくのか楽しみです。

私たちもこの動きから学ぶこと、気づかされることが多かったです。このムーブメントによって、多くの問題が表に出てきて、議論がなされました。その議論によって男女双方がどこまで許容できて、どこから許容できないかの線引きを明確にすることができたのではないかと思います。

── 何かを変えるというのは勇気のいることだと思うのですが、なぜアイスランドは新しい価値観へと変わっていけるのでしょうか。

現代社会は気候変動や経済の動きなど、あらゆるものが劇的に変化しています。たとえば、スマートフォンひとつで世界中の人たちと連絡を取ったり、写真や動画を撮ったりするなんて、昔はまったく想像ができなかったはずです。

そして、こうして急激に変化している社会やそこにある問題に対して、自分自身の意識や態度を常に変えていくことは、もはや必須であると感じています。

── 変わりたい、ではなく変わらなくてはいけないのですね。他の国がアイスランドのようになるためには何が必要なのでしょうか。

私たちが辿ってきた過程を共有することはもちろんできますし、対話を重ねていくことは非常に重要だと思っています。ですが、アイスランドの経験や取り組みや政策が他の国で必ずしも使えるものではないのも事実です。

アイスランドは人口約37万人の非常に小さい国で、だからこそ新しい問題にも素早く柔軟に対応することができます。国の規模も人々の意識もそれぞれ違うので、私たちの取り組みをすべて取り入れるのではなく、その国に沿った形に変えるのが重要だと思います。

ただ、その中でひとつ確実に言えるのは、ジェンダーギャップのない社会を実現するためには人々の意識と、実効性のある法律、そしてそれをサポートするためのインフラの3つが必要だということです。

レイキャビクの街並み
画像:アフロ

── アイスランドはまさにこの3つを柱にして、働く環境をはじめとしたジェンダーギャップを解消してきたのですね。「変わっていくこと」と向き合うためのヒントになりそうです。

何かを変えていくことはとても大変です。ですが、若い人を見ていると「社会を変えていくこと」に対して希望を抱いてもいいのではないかとも思ってもいます。ジェンダーギャップに限らず環境問題などのさまざまな課題に対して、きちんと信念を持って取り組んでいる人たちがとても多いと感じます。

彼らの力を信頼しながら、社会を構成するすべての世代が変わっていく努力をしていけるといいのかもしれません。

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