何でもポイ、ゴミ袋代も節約。ベランダにも置ける生ゴミ処理機「キエーロ」が便利すぎる
「キエーロ」というめちゃくちゃ便利な生ゴミ処理機をご存じでしょうか?
キエーロは、土中にいる微生物の働きで生ゴミを分解するもので、木箱のなかにぎっしり黒土がはいっており、日光と風を通すために、透明な樹脂製の屋根が斜めにかかっているのが特徴です。
庭土の上に直接木枠を置くタイプと、上記の画像のように、足のついた木箱を設置するベランダ用があります。
いま、全国のさまざまな自治体で各家庭への導入が進んでいるプロダクトで、我が家も市の助成金を使ってベランダ用のキエーロを購入しました。
生ゴミの処理はざっくり言うとこうです。
土に穴を掘って、
生ゴミと水、土をよく混ぜて埋め、
最後に乾いた土で蓋をするように覆う。
これだけです。その後はとくにすることもなく、夏場なら5日、冬場なら2週間程度で生ゴミは土に還ってなくなっています。
生ゴミの水分が土中の微生物の動きを活発にし、目に見えない小さな生き物たちが勝手にゴミをゼロにしてくれるのです。乾いた土を表面に被せておけば、臭いもしないしアブやハエなどの害虫も寄ってこない。分解しきるので、土の量が増えることもない。
そして何が便利って、基本的に生ゴミだったらなんでも分解してくれること。さすがに貝殻や太い動物の骨、繊維がカチカチなものは難しいけれど。野菜の切れ端も、卵の殻も、肉も魚も土に還してくれる。分解に水分が必要なので、食べ残したラーメンのスープだとか、漬物の汁だとかそんなものもいける。
さらに油モノも全然OK。揚げ物の残り油、鍋肌にこびりついたカレー、豚バラを焼いた後に残る白い脂のかたまりなど、排水溝を汚してしまいそうなものも、全部キエーロが引き受けてくれるんです。
......キエーロ、優秀すぎる!!!
我が家では導入以降、ゴミ収集に出す生ゴミの量が圧倒的に減りました。在住地は可燃ゴミの袋がかなり高いので、キエーロでゴミを土に還すことは節約にもなっています。
あまりに便利で楽なこの生ゴミ処理機は、神奈川県・葉山に住む松本さんという方が考案したらしく......。
どういう経緯でキエーロが生まれたのか、また考案者はどんな使い方をしているのか、うかがって話を聞いてきました。
「腐葉土にたまたま埋めたらゴミが消えた」偶然の産物でできたキエーロ
── キエーロはどんな経緯で生まれたんでしょうか?
信夫
葉山に住んで43年くらいになるんですけど、もともとゴミ問題に興味は持ってたんです。最初は、生ゴミを堆肥に変えるコンポストを庭に置いていました。一般的な、円柱型の緑色のやつですね。ただ、あれはけっこう臭いが出るのと、アメリカミズアブっていう虫が大量発生することがよくあるんですよ。
恵里子
アメリカミズアブは生ゴミの分解を速める虫ではあるんだけど、うじ虫なんかもけっこう大きくて、見た目がね......。
信夫
そしてコンポストは活用に場所をとります。ゴミを溜めていくと、コンポストの中身はいずれいっぱいになりますよね。分解された中身は「堆肥のもと」というのかな、そのまま堆肥として使えるわけじゃないんですよ。ブルーシートなどで養生して置いておいて、熟成させないと堆肥として使えないんです。
恵里子
つまり、堆肥として熟成させておくスペースと、生ゴミを溜めるスペースと、ふたつ必要になっちゃうんです。
信夫
そのあと、電動式の生ゴミ処理機なんかも使ってみたんですが、入れちゃダメなものも多いし、故障もたびたびあった。なにかいい方法は無いかなあって思った時に、ふと庭の一角につくっていた腐葉土のことを思いつきました。
── 腐葉土?
信夫
ええ。庭にケヤキの木があるんですけど、木が成長していくにしたがって、秋の落葉がものすごいことになっちゃって。その葉を土と混ぜて、庭の一角に溜めて腐葉土をつくっていたんです。で、なんとなく腐葉土のあいだに生ゴミをサンドするみたいにして、埋めてみたんです。そしたら、何日かしたらゴミが消えていた。
恵里子
臭いもなかったし、不快な虫も発生しなかった。土に埋めて分解されるなら「だったら、それでいいじゃない」ってことになったんですよ。
信夫
で、このへんはタヌキとかハクビシンとか野生動物も多いので、埋めている一角に囲いをつけて、掘り返されないよう屋根をつけて......としているうちに、キエーロの原型ができあがったという感じです。
── 松本さんの思いつきが、世の中に広く知れ渡るようになったのはなぜでしょうか?
信夫
2008年ごろだったかな。葉山町全体でゴミをなくす、ゼロウェイストを推進する動きが加速したんです。先駆けとなっていた徳島県の上勝町から、ゼロウェイストアカデミー出身の方を町役場の環境課に招いたりしてね。町全体で生ゴミの量を減らしましょうという取り組みがいろんなところで言われるなかで、たまたま町のブログに「僕はこうやってますよ〜」という僕のゴミ処理方法が載ったんですよ。
恵里子
そしたら翌日に視察に来る人が出てきたんです。その人はうちに来た帰りに、ホームセンターで材料を買ってすぐつくっちゃったらしいの。そのあと、葉山のなかで、家庭で生ゴミ処理を進めるためにいくつかのモデル地区が設定されました。助成金を出すからモデル地区の住民たちに自宅で生ゴミ処理をしてもらおうっていう取り組みです。その取り組みに、キエーロも採用されたんです。
信夫
モデル地区での活用のためにその時は50台くらいつくったんですが、まあ、なかなか使い勝手もいいという声があったのかな、モニター期間が終わっても助成の対象になって、ゆっくり全国に広がっていった感じですね。
速い分解には「フープロ」が便利! 考案者に聞くキエーロの使い方
考案者はどんなふうに生ゴミを処理しているのか、日々の生ゴミ処理の様子をうかがいました。
信夫
うちには土の上に直置きするタイプのキエーロと、底のある足つき木箱に土を入れるベランダ型タイプのものと2種類置いています。
── 庭に直置きするタイプとベランダ型では、生ゴミの処理に違いはありますか?
信夫
そうですね。庭に直置きしているものは、周囲の土と空間を共有しているというか、木枠の下で土が繋がっているので、微生物の総量は多いんです。ダンゴムシやミミズのような分解を速める虫も居つきやすい。
── 分解力は庭に直置きするほうが強い?
信夫
そうだと思いますよ。うちでは、出た生ゴミをザクザクっと切って、溜めています。たとえば野菜の切れ端、キャベツの外葉なんかも、荒めでも切り刻んであげたほうがいいですね。そのままよりも表面積が増えて、分解が速くなります。
信夫
微生物が生ゴミを分解するには、水分が必要不可欠です。庭型のキエーロは土の総量が多いので、僕はけっこうドバドバ水を入れちゃいますね。
── 水分が多くても、庭の土全体に染み込んでいきますもんね。
── ベランダ型の方は処理にコツはありますか?
信夫
土の総量が少ないので、よりゴミを細かくした方がいいと思いますね。ベランダ型キエーロは、妻が担当しています。
恵里子
私が生ゴミ入れにしてるのは、ガラス製の小さいフードプロセッサーなんです。便利なのよ、これ。ゴミを溜めておけるし、蓋もついてるし。「なんだか汚い」って思う人もいるかもしれないけど、生ゴミって、そもそもさっきまで食べ物だったものじゃないですか。
── 確かに......。
恵里子
私はこれを台所のシンク横に置いておいて、調理中に出るゴミを溜めておくんです。それで、いっぱいになったらフードプロセッサーを回して、どろどろのペースト状にしちゃうの。
信夫
「微生物が生ゴミを食べやすいかどうか」が大事なんですよね。目に見えない大きさの生き物が巨大な物を食べ尽くそうとすると、もちろん時間がかかっちゃう。「分解が遅い」って人は、ゴミが大きすぎることが多いんじゃないかな。
あとは水分ですね。普通生ゴミって、捨てる時は水分を切れって言うじゃないですか。その感覚があるからなのかな、土に還らないっていう人は、分解促進のための水分が足りてない場合が多いです。掘り返してみて進捗が芳しくなかったら、適宜水を足してかき混ぜ、様子を見てほしいですね。
信夫
分解に水分が必要ということは、逆に土が乾いていると微生物の働きは休止します。臭いや虫が発生しないよう、乾いた土で蓋をするのはそのためですね。ゴミを埋める穴を掘る時は、乾いた土を横に避けて確保しておくといいですよ。
運用に絶対のNGはない、自分なりの「正解」を探していけばいい
── キエーロって入れちゃダメな生ゴミってないんでしょうか?
信夫
うーん、なにをダメとするかは人それぞれだと思うんですよ。
── と、言いますと?
信夫
たとえば、とうもろこしの芯が一切合切なくなるようにするのはなかなか時間がかかります。でも、何年かかっても別にいいやって人は、掘り返すたびに芯が土から顔を出しても何も思わないじゃないですか。
── ああ、確かに......。
信夫
「枝豆のさやはどうですか?」とか、「肉はどうですか?」とか、いろいろ聞かれるんだけど、自分で試してみたらいいんじゃないかなって思うんですよ。硬いものを分解したかったら細かくしちゃえばそれだけ分解は速まるし、何日で分解されないとダメだ!ってこともないんです。
恵里子
ちなみに土の微生物はさ、肉とか魚とか大好きだよね。
信夫
そうそう、たとえば魚のアラなんかでも、いったん入れちゃえばいいんですよ。分厚い骨は分解しないけど、骨の周りについた肉や内蔵は綺麗に微生物が食べてくれます。それで後日、骨だけを可燃ゴミに出せばいいじゃないですか。
── なるほど、確かにそうですね......! 手羽元とか魚の頭とか、捨てちゃってたなあ。今度から埋めてみます。
信夫
お茶パックやだしパックもそうです。わざわざ不織布を裂いて中身だけ取り出すのは面倒でしょ。そのまま土に入れちゃえばいいんですよ。そのうち、土の中から不織布だけが出てきますから。
── キエーロの土は肥料にもなるんですか?
信夫
分解の過程でいろんなものが入ってますし、肥料にもなりますよ。まあこれも、何を普段から埋めているかによって土中の栄養成分は変わってくるので一概にはいえないんですけど。肥料として使えそうだなと思ったら、使ってみてもいいと思います。
恵里子
分解の発酵熱を利用して家庭菜園の発芽に使っている家もありますよ。キエーロの半分をプランターにしている人もいるし。メロンのワタなんかは、そのまま埋めると発芽することもあるんです。キエーロから何かが生えてくるのが嫌だって人は、埋める前に加熱するとか、そもそも種があるものは埋めないとか、選択すればいいんですよ。
信夫
まずは自分でトライアンドエラーを重ねてみること。キエーロに限った話ではないけど、多くの人は「世間一般の正解」を求めすぎているような気がしますね。
── うっ、耳が痛い話です......。
信夫
キエーロの大きさや土の量も、ライフスタイルも人によって違いますよね。気候も違います。自治体でキエーロ促進をおこなっているところだと、北は北海道の苫小牧から、南は沖縄県の石垣島など、かなり土地の特徴に差があります。土中の微生物は暖かいほうが活性が強くなるので、北に住む人は、寒い時期でも分解がしやすいような工夫が必要になります。
恵里子
秋冬が厳しい地域は、キエーロを使うのを春夏だけにするのも手ですよね。2シーズンだけでも土に還せるなら、年間のゴミの量はずいぶん減りますよ。
信夫
埋めるのが面倒になったらいったん休止したっていいし。各家庭の状況に違いがあるからこそ「世間一般の正解」みたいなものはないんです。自分のペースで、自分が心地よく運用できるような方法を見つけていくことが大事なんですよね。そうじゃなきゃ、家で生ゴミを処理することが日常生活から遠いものになってしまいます。
ちなみに、導入から1年を過ぎて我が家のキエーロはミリ単位の小さな虫が無数に湧くように。土ごとおふたりに見せたところ「たぶん有機物を分解するダニじゃないかな」「嫌じゃないならいいんじゃない?」という回答でした。じゃあ、いっか!
衣装ケースでも自作できる儲からなさだからこそ、全国に広がっている
── 北は北海道の苫小牧、南は沖縄県の石垣島など......とお話していましたが、いろんな自治体で導入促進がされていますよね。私の住んでいる逗子市だと、震災復興のために陸前高田の間伐材が使われていて、市の商工会が販売委託を受けているような流れなんですが。
信夫
そうですね。自治体や市で販売ルートをつくっているところが多いですね。自治体の助成がまだないとか、既製品だと大きさが合わない方なんかは自作されてもいます。僕のWebサイトでもつくり方を載せていますし、それほど難しいものでもないので。
── 民間のショップがキエーロを売り出すこともあるんですか?
信夫
ありますよ。建築古材や古道具を引き取って販売している「ReBuilding Center JAPAN」というお店が長野県の諏訪市にあるんですが、そこが東京の「DEPT TOKYO」というヴィンテージショップとコラボしたキエーロを販売していましたね。都会のスタイリッシュな家にも合いそうなデザインで......。
── いやらしい質問ですが、キエーロ発案者としてお金稼ぎをしようとは思わなかったんでしょうか?
恵里子
ふふっ、お金儲けっていってもね......。
信夫
田舎の方だと、生ゴミは庭に埋めちゃってるよって人も結構いますし、そもそも生ゴミが土に還るというのは真新しい発見でも無いわけです。至極当たり前のことを提案しているだけなので、お金稼ぎの手段にはならないんですよ。
恵里子
衣装ケースに土を入れてもキエーロになりますからね。いろんな自治体や人が、キエーロのつくり方を紹介してますよ。
信夫
要は土に埋めて生ゴミを還すスペースをつくりましょうってことなので、お金儲けにはならないんですよ。キエーロは、この「儲からなさ」が魅力だと思っています。
── 「儲からなさ」が魅力ですか?
信夫
もしこれが複雑な機構でお金もかかってビジネスチャンスになるなら、各自治体で導入されるようなことはなかったでしょう。多くの人が「やってみよう」と思える気軽さと利便性があって、全国いろんな家庭が生ゴミを家で土に還すような世の中に繋がるんだったら、キエーロ自体に金銭的な価値はないほうがいいんです。
恵里子
うちに来て「これをビジネスにしていいですか?」って言う人もいますけどね。
信夫
僕はどうぞどうぞ、って言ってます。むしろ、儲かったら教えてくださいって感じです(笑)。
── お金にならないからこそ普及率が上がるとは......。参入障壁が低いからこそ、誰もがゴミ処理について考えるきっかけにもなるんですね!
単身者や都会暮らしの若者にもキエーロは便利
── キエーロ、いちユーザーとして本当に便利さを感じているので、各家庭に導入がなされるといいなと思います。
信夫
そうですね。各家庭はもちろんですが、単身者や、都会で暮らす若い世代にもっと使ってほしいなと思います。仕事が忙しい人って、なかなかゴミ出しができない人が多いじゃないですか。ひとり暮らしだと誰かに頼むのも難しいし。
── 私も会社員で激務だったころ、そういう経験があります。結局2週間くらい可燃ゴミを袋のまま溜め込んじゃって、臭うしコバエも湧くしで大変でした。
信夫
そういう人こそ、ベランダにゴミを埋めてしまえる場所があると楽ですよね。出張や旅行で長期間家を空けることがあっても安心です。最近は、竹チップを用いたキエーロにも注目しています。放棄竹林の活用にもなりますし、竹チップは軽量なので家に運びやすいなど黒土にはないメリットもあります。
恵里子
しっかり分解もしてくれるもんね。
── キエーロは、やっぱり各家庭にひとつあった方がいいんでしょうか? マンション全体で大きなキエーロを持つというパターンは考えられますか。
信夫
ディスポーザーのようにマンションで共用のキエーロがあると、おそらくゴミの捨て方で住民同士が喧嘩になっちゃうので(笑)。やはりひと家庭にひとつ単位での普及が好ましいでしょうね。
── なるほど......(苦笑)。そっちの方が気が楽かもしれませんね。
家ごとに生ゴミを処理する未来が当たり前になればいい
キエーロを導入して、可燃ゴミの日に出す生ゴミの量が圧倒的に減ったことだけではなく、暮らし方そのものについても意識が変わってきました。
もちろん、毎回そんなに手をかけられる訳でもないんですが、今まで捨てていた野菜の硬い葉っぱも、加熱したり刻んだりして食べられるようにしようとか、玉ねぎの皮やカボチャのワタは捨てる前にスープの出汁にしてみようとか、そんな「一手間」の頻度が上がりました。
と、これだけ書くと意識が高いように見えますが、忙しさにかまけて食事に何の手間もかけられない日が続いたり、冷蔵庫に突っ込んだまま忘れてうっかり腐らせてしまったりすることもあります。
いたずらに腐らせたうえ、可燃ゴミとして燃やしてしまうと罪悪感マシマシですが、土に還せばちょっとだけ気が楽でもあります。その土でいずれハーブのひとつでも育ててやればより気が楽に......。いや、ロスを出さないことがベストではあるんですが!
生きている以上、なにがしかのゴミはどうしたって出てしまいます。だからこそ、自分で処理ができる範囲のものは自分で処理するのが「これからのゴミとの付き合い方」かもしれません。
莫大なエネルギーも不要で、運用が楽で、捨てちゃうことの罪悪感も軽減されるキエーロは、日々の暮らしにユルく並走してくれる存在。各家庭でゴミを処理することが当たり前の未来になればいいなと思います。
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取材・文ヒラヤマヤスコ
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