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「奨学金は苦しいもの」そんな日本を変えるために。ガクシーの奨学金改革とは?

    

サストモ編集部

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日本は今、大学進学のために、ふたりにひとりが奨学金を利用している時代です。

奨学金については、近年は"負"な側面も含めてさまざまな話題があがります。奨学金をもらえないことで、学生生活がバイト漬けのようになってしまったり、奨学金を借りられても返済の苦しさが結婚や子どもを持つことを躊躇させたりといったケースは、少なくありません。

1990年代は約2割だった奨学金の受給者が、20〜30年で倍以上になった背景には、高等教育の学費高騰や、世帯年収が低下していることなどが挙げられます。今後もニーズが高くなっていくことが予想されるからこそ、ひとりでも多くの学生がよりよい環境で学べるために、奨学金のあり方を見直さないといけないのでは?

その必要性にいち早く気づき、デジタルの力で奨学金市場を改革する取り組みをする企業が、株式会社ガクシー。

代表の松原良輔さんにお話を伺うと、現状は、多くの学生・保護者が国内に約3,000以上の奨学金提供団体があることを知らないと言います。

それによって「返済不要の給付型の奨学金をもらえる機会」や、「条件を満たしていれば借りられる可能性があった奨学金を借りられない」という機会の損失につながっているのです。

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ガクシーが掲げるのは、「奨学金の基本的な役割は、人々が希望や夢を実現するのを助けること」という言葉。奨学金が人生の選択肢を広げていくものにするために、学生と保護者向けの奨学金情報サイト「ガクシー」と、運営現場の業務効率化を目的とした「ガクシーAgent」を運営しています。

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そして、奨学金が学生の希望や夢を実現する本来の価値を発揮し、その価値に共感してくれる人が増えていくことが、「社会全体の豊かさにつながる」と松原さん。

奨学金を受け取っている人も受け取っていない人も、未来を生きる当事者として一緒になって考えることができる、ガクシーの奨学金改革とよりよい社会のつながりについて聞きました。

日本と海外、高等教育の環境差

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── 松原さんはどういった経緯から、奨学金にフォーカスした事業を始めようと思ったのですか?

前職では、海外の大学生を日本企業が採用するのを手伝うスタートアップ企業を創業し、グローバル採用支援を行っていました。世界各国のトップ校の学生たちと触れ合う中で、彼らは、金銭的な面でもそこに紐づく機会面でも、日本の学生よりも断然恵まれた環境で教育を受けられているということを知ったのです。

── 金銭的な面での日本と海外の大学生の置かれている環境の違いには、たとえばどんなことがあるのでしょうか。

一番は学費。中国やインドは国策として教育に力を入れているという理由も大きいですが、世界三大難関校とも言われるインド工科大学は学費が月額2、3万円で年間30万円程度。

欧州でも、国立の大学が数多く設立されていたり、学費が基本タダになっているケースは少なくありません。それは欧州全体が福祉を充実させており、その福祉の中には高等教育もしっかり入っているからなのですけど。

── いずれにしても、金銭面の心配をせずに、勉強や挑戦したいことに集中できる環境が整っているのですね。

一方で、日本はどうだろうと大学生にお話を聞いていく中で、東京大学大学院の院生が「月3万円の小遣いを稼ぐために、研究時間を削ってアルバイトをしなくちゃいけない」と言っていたのがとても衝撃的でした。

私自身は「次は日本の若い世代のためになる事業をしたい」と考え、今の日本ではふたりにひとりが受け取っている、奨学金が与える影響が大きいのではないか?と仮説を立てたんです。リサーチしていくと、奨学金も含めたお金の面で高等教育の抱える根本的な課題に辿り着きました。

日本の高等教育の根本的課題「総量が足りない」

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── 高等教育の抱える根本的な課題とは?

高等教育の学費をまかなう公的なお金の総量が足りないんです。日本全体で若い世代にお金が回っていない。極端な話、欧州のように学費無償だったり、インドのように月額数万円で済むなら、そもそも奨学金は必要ないんです。国が学費無償を実現できればそれで問題解決ということ。

でも、今の日本の財政状況から10年、20年でそこに踏み切ることは難しい。第三者が改善する仕組みをつくらない限り、若い世代が困窮していろんな機会がなくなってしまうんです。では、どうすれば若者にお金が流れる仕組みをつくれるかと考えて、最初はメルカリの創業者である山田進太郎さんのように、返済のいらない給付型の奨学金の総量を増やそうと思いました。

── 2021年夏に山田社長が私財30億円で財団を設立し、理系へ進学を目指す女子学生へ向けて給付型の奨学金制度を打ち出したのは、大きな話題になりました。

当初はそのような形を想定していたのですが、調べていくうちに、そもそも今の国内の奨学金市場の中でさえ、お金だったり、情報だったり、機会だったり、いろんなことが学生にうまく行き届いていない状況になっていることがわかりました。

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どういうことかというと、ひとつは情報の非対称性から奨学金を提供したい団体と奨学金を受給したい人のミスマッチが起きているということ。「ここに行けばどんな奨学金があるかわかる」というような、情報がひとつにまとまった場所がないから、奨学金を提供したい団体と奨学金を受け取りたい人が適切にマッチすることができていなかったのです。

もうひとつは、奨学金を提供する側の運営の非効率性。奨学金の運営は長いこと財団や学校、地方自治体などの運営現場の負担になり続けてきました。そこの業務を効率化できれば、もっと奨学金が効率的に回っていくと考え、「情報の非対称性」とともに「運営現場の非効率性」も改善する必要があると気づいたのです。

このふたつの問題の解決が停滞したままお金の総量を増やすことは難しいだろうと、まずは現状を見直して若い世代にお金や情報や機会が損失なく流れていく仕組みを整えるために、奨学金情報サイト「ガクシー」と奨学金運営DXシステム「ガクシーAgent」をつくりました。

DXで奨学金改革をする、ガクシーの取り組み

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── 奨学金サイト「ガクシー」と奨学金運営DXシステム「ガクシーAgent」について、もう少し詳しくお聞きしたいです。

情報の非対称性を解消するために、日本のほぼすべての奨学金情報を集約したサイトが「ガクシー」ですが、そもそも奨学金を受け取る6割から7割の学生が、文部科学省が所管する日本学生支援機構(JASSO)からの支給に偏っています。なぜそうなるかと言うと、JASSOのほかに、大学、財団、地方自治体や民間企業などの奨学金を運営する団体が3000以上もあることをそもそも知らないためです。

── インターネットが普及している今、なぜ多くの人がほかの奨学金制度の情報にアクセスしづらい現象が起きているのでしょう?

奨学金の告知は高校や大学に送られますが、先生たちが普段の仕事以外に、その膨大な奨学金の数だけ説明会を開くことはできないからです。結果的に、文科省の所管するJASSOの説明会だけに力を入れる形が、何十年もかけてできあがってしまったのだと思っています。

だからこそ他業界で言えば、食べログやリクナビのように、そこを見ればたくさんの奨学金の情報にアクセスできるサイトをつくることで、JASSOの奨学金しか知らなかった人がいろんな選択肢を持てるようにしました。

ほかにも、奨学金とは貸与型だけだと思い込んでいる人が自分の条件に合った給付型の奨学金を探したり、お金がないからと在学中に何かに挑戦することを諦めようとしている人が在学中でも借りられる奨学金を探せることを可能にしています。

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国内最大規模の奨学金サイト「ガクシー」からなら、自分の条件に合った奨学金を選べる(出典画像:ガクシー公式サイト「はじめての方へ」より)

── 条件によって奨学金を受給できないと思っていた人も、ガクシーがあれば適切なものを見つけられそうです。ガクシーAgentについても教えてください。

ガクシーAgentは、大学や企業や財団など、奨学金を運営する現場の作業を効率化するためのシステムです。告知、募集、選考、支給の管理までの奨学金業務をすべてオンライン上で完結できる仕組みになっています。

奨学金を希望者に支給するまでには、企業が人を採用するときのような複雑な過程が伴いますが、アナログでの作業だったので負担が大きくミスも出やすい状況だったのです。

── 教育現場が数ある奨学金の告知まで手が回る状況じゃないというお話もありましたが、それは現状の奨学金業務が大変だからという意味合いもありますよね。

そういうことです。現場の担当者の業務が5分の1でも10分の1にでも減れば、学生にちゃんと宣伝したり、相談に乗ってあげたりなど、現場が本当に時間をかけたいことをもっとできるはず。ガクシーAgentで業務が効率化され、いい循環が生まれればいいなと思っています。

奨学金の価値は、夢の実現や挑戦の力になること

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── 「奨学金は借金」と、マイナスイメージがささやかれる一方、大学の学費が高騰を続けていく中でますますニーズは高まっていくでしょう。その中で数ある選択肢から自分の目的に合った奨学金を選べるようになれば利用する納得感も高まっていくように思います。

学生をはじめ、今の日本の若い人たちが、奨学金を恥ずかしいものだと思っているのは会社のインターン生からも伝わってきます。「SNSで奨学金関連のアカウントをフォローすると、友だちにお金に困っているように見られて恥ずかしい」という声を聞いたこともあるくらい。

でもじつは、その感覚は、2002年に大学を卒業した私にはない感覚だったんです。同じように、私と年齢の近いガクシー創業メンバーも、そこまでマイナスイメージがあるとは思っていなかったと。

── 現在、奨学金を借りることは決して珍しいことではないにも関わらず、マイナスイメージが加速したのにはどんな背景があると思いますか?

個人的には、奨学金に関わらず、やはりこの20年ほどで世帯年収が下がり続けているなど日本の先行きが見えづらくなっていることが関係しているように思います。社会全体が暗くなっていると、奨学金を借りることによる未来が暗く見えるのも理解できます。

一方で、日本よりも高等教育の学費が高いアメリカでは、「奨学金をもらうことは誉れ」という価値観なんです。「私は〇〇の奨学金制度に通って、そのお金で大学に行くんだ。すごいでしょう」という感覚。権威のある奨学金も多いので、受け取ることで就活が有利に働くケースもあるくらいです。

日本でも、「奨学金を借りたから私の未来は暗くて選択肢が狭まってしまった」ではなく、「奨学金をもらえたから行きたい大学に行けて、やりたいことができて、選択肢が広がった」という世界観に逆転したいんです。

それはつまり、お金を理由に夢や挑戦を諦めなくていい社会であり、その力になることが本来の奨学金の価値だと思っています。奨学金をもらうことで進学はもちろん、留学やプログラミングなどやりたいことができて、人生が楽しくなったという社会になったらうれしいですね。

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── 諦めなくていい社会を実現させるために、さらに今後取り組んでいきたいことはありますか?

お金、知識、機会などが、ひとりでも多くの学生に流れる仕組みを"つくりきる"ことが、ガクシーの最終目標です。例えば、ガクシーのプラットフォームが整ったらクラウドファンディングのようなこともできればいいなと。学生が手を挙げたら団体や個人からお金が集まる仕組みをつくりたいんです。

また、奨学金は企業の販売促進活動と相性がいいとも思っています。関東の不動産会社が、「自分たちの管理する千葉の物件に住んだ学生に月3万円支給する」奨学金制度を運営しているのですけど、この仕組みは互いに実益があっていいですよね。

千葉に住む必要がある学生は助かりますし、企業も奨学金という形でCSRに則った活動ができつつ、販促費用月3万円のような考え方で集客費が浮くわけですから。

── つまり、ガクシーは将来的には、最大の目標である給付型の奨学金の総量を増やすことに社会全体で参加していける仕組みをつくっていきたいし、その動きを後押ししたいと。

私は奨学金は投資だと思っています。それは受け取る学生側だけでなく、誰にでもいえること。自分は奨学金を受けていないし子育てもしていないから関係ないと思っている人でも、20年後には今の学生がつくる社会に生きているはずだから。

そうやって少し先の未来から逆算して考えると、若い人たちの学ぶ環境にお金を出すことは、自分自身の老後を豊かにし、社会全体を豊かにするための投資という感覚になれるんじゃないかと思います。

意外と知られていないですが、卒業した大学や住んでいる市町村がやっている奨学金に寄付をすることもできます。社会がよりよくなるための投資に参加したいと思う人がひとりでも増えたらうれしいですね。

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おわりに

奨学金は、学生や受け取ったことのある当事者でなければ、自分には関係ないこととされがち。

でも松原さんの言うように、奨学金を含め学生が学ぶ環境をよりよくする方法を考えることは、回り回って自分自身と社会を豊かにすることにつながっている。現代の学生と自分を、今回の取材を通してつながるものとして捉え直すことができました。

日本の学生が今よりもよい環境で学ぶことができれば、「第2のAppleやテスラのような企業が日本から生まれるかもしれないし、それは必ず社会全体の経済的な潤いにもつながります」と松原さん。そのワクワクした表情が、今も記憶に残っています。

10年後、20年後、今よりも豊かな社会に生きたいと願うひとりとして、奨学金の総量を増やす取り組みに微力でも投資していきたいなと思いました。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

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