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「美しすぎるごみ処理場」はなぜ生まれた? 市民の応援を生んだ''すべてを見せる''工夫

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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ごみは私たちの暮らしから必ず出るもの。にもかかわらず、なぜか隠したり遠ざけたりとなんとなくネガティブなイメージを抱いてしまいがちです。

しかし、そもそも私たちはごみがどう処理されているか知ったり、考えたりする機会があったでしょうか?

そう気づかせてくれたのは、あえて「見せる」ことで人気を博している広島市のごみ処理場「広島市環境局中工場」(以下、中工場)です。

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中工場の中央部を貫く、ガラス張りの大空間「エコリアム」
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エコリアムからは、ガラス越しに巨大なごみ処理設備も見ることができる
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中工場の外観も印象的

ごみ処理場のイメージから遠くかけ離れた、美しい建物。この中工場はテレビ番組での取材やSNSにも盛んに登場し、最近では第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した邦画『ドライブ・マイ・カー』にもロケ地として登場するなど、大きな話題を呼んでいます。

中工場は、なぜ「見せる」ごみ処理場として生まれたのか。
そして、人々にどんな変化を生んでいるのか?

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中工場の惣本清隆(写真左)さんと渡邉大祐(写真右)さんに工場を案内していただきつつ、お話をお聞きしました。

いざ工場見学へ

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惣本

まずは中工場の2階からご案内します。ここは「エコリアム」と呼ばれる場所で、工場内から海辺へとつながる通路になっていて、通路の両側からは広島市の街と瀬戸内海を望むことができます。

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通路の先に見える瀬戸内海

惣本

ここは単なる通路というだけでなく、ガラス越しに排ガスをきれいにする装置などを見学できるようにもなっています。

── 風が通り抜けていく、気持ちのいい場所ですね。吹き抜けにした理由は何かあるのでしょうか?

惣本

中工場の設計をお願いした建築家・谷口吉生先生のアイデアですね。谷口先生の師匠である丹下健三先生は、原爆ドームを起点とした平和記念公園を手がけられた方です。その2つの施設を結んだちょうど軸線上に、この中工場が位置しているんですよ。

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原爆ドームは平和記念公園の川を挟んで北側に位置する。そこからまっすぐ南に直線を伸ばした先に、中工場があることがわかる(画像提供:広島市中工場/グラフィック:Tamotsu Yagi Design)

惣本

エコリアムの名前は「エコロジー」と「アトリアム(広場)」から生まれました。環境を守り続けること、そして「水と緑と共存するまちづくり」を目指して、市民にも環境にもやさしく、親しみのある場所になるように作られています。

── 中工場の隣には公園もあるんですね。

惣本

建設する際、「ごみ焼却工場が、より市民に親しみやすい場所となるように」という想いから、一般市民の方に開放し、憩いの場として利用してもらうための公園を設けています。

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海に面した公園では、釣りを楽しむ人も多い

惣本

現在、中工場の近くに温水プールを建設しています。焼却炉の熱を効率よく利用するため、温水プール用のお湯を作ったり、蒸気タービンを使った発電も行っているんですよ。

── ごみを燃やすだけでなく、発電も?

惣本

実はこの中工場で、3万7000世帯分の電力が生まれているんですよ。電気を100つくったとしたら、50を工場内で使って、残りの50を電力会社に売るイメージです。電力の売上は年間にならすと3~4億円になりますね。

── それはすごい。中工場では、ごみが収集されるまでの工程はどのようになっているのでしょうか?

渡邉

まず、広島市内の各集積所に出されたごみを回収した収集車がやってきます。そして、ごみの重さを収集車ごと測り、投入ステージと呼ばれる場所から、ごみピットへとごみを落とす。ここまでの流れは全国どこでもほぼ同じだと思います。

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中工場へ続々とやってくるごみ収集車
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ごみピットへごみを落とす準備をする収集車。中工場では、ごみの搬入を24時間受け付けている(※自治体によってごみ搬入の受付時間は異なる)

どんなに自動化されても、人の手は必要

惣本

ここが「ごみピット」と呼ばれる、焼却炉の入口です。広島市の約4割程度のごみが搬入されてきます。ごみピットには最大4200tのごみを溜めることができます。

── 巨大なアームが見えますね。

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ごみクレーンのアームは、開くと5mにもなる

惣本

袋に入って集められてくるごみは、クレーンのアームでつかみ、高いところから落としてごみの袋を破くことで燃えやすくするんです。焼却炉ではごみを約4時間かけて燃やします。

── 中工場全体では、1日あたりどのくらいのごみを燃やせるんですか?

惣本

200トン燃やせる炉が3基あるので、1日で最大600トン燃やせます。現在は、1日400トンのごみを焼却しています。

── あれ? ごみにプラスチックが混ざってるように見えますが、燃やしても大丈夫なんですか?

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惣本

中工場の焼却炉は、炉内の温度を850度以上に保てます。850度以上でごみを燃やすと完全燃焼させられて、ごみを燃やしたときに出るダイオキシンの排出量が抑えられます。また、排ガス処理設備も設けているので、プラスチック類を燃やしても大丈夫なんです。

ごみを燃やすと、最終的には灰が残ります。その灰は埋立地に運んで埋めるわけですが、埋立地にも限りがあります。プラごみもそのまま埋め立てるよりは焼却したほうが体積はうんと減らせますから、ごみを燃やす量が増える分、最終処分場が埋まるまでの時間も稼げるんです。

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── クレーンは人が操作しているんですか?

惣本

ガラス越しにいるオペレーターが操作しています。ごみをつかんで落とすだけなら全自動で行ってもいいようなものなのですが、ごみを均等にかき混ぜるには人の操作が必要となります

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── 均等にかき混ぜるとは?

惣本

ごみの湿り度合いや種類で燃え方が変わるのですが、つねに850~1000度で燃えるように、オペレーターの方が監視・調整しているんです。

渡邉

たとえば、雨の日の濡れたごみを燃やせば炉の温度は下がりますし、晴れた日の乾いたごみを燃やしたほうが、温度は高いまま維持されやすくなります。また、プラスチックは油分を多く含みますから、燃やした際には炎がブワーっと上がって温度が上昇してしまうんですね。

なので、入ってくるごみの状況を見ながら、ごみの可燃性の高さを判断して、オペレーターさんがごみの燃やし方などを調整しています。これだけはコンピューターには絶対にできない、オペレーターの技術と経験が必要な仕事なんです。

── でも、どうして火力の調整を行わなければいけないのでしょうか? とにかく高温で燃やしたほうが効率がよい気もするのですが......。

惣本

実は1000度を超えると、窒素酸化物の排出が一気に増えてしまうんです。窒素酸化物は自動車の排気ガスにも含まれる有害物質で、ダイオキシン同様に排出量が規定されています。そのため闇雲に燃やすと、有害物質などの排出基準が守れなくなります。

── ごみを燃やすこと一つとっても、いろいろなことを考慮しなければいけないんですね。

惣本

ごみ処理場自体は、技術の進歩とともに自動化が進んでいます。中工場の場合、全体での人数は約50人です。

── これだけ大きな工場なので、少ない人数に感じます。自動化が進んでいるなかでも、効率や環境面での安心を守るために、人の手によるさじ加減が必要なのは面白いですね。

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施設全体の頭脳に当たる中央制御室。ここで、ごみの焼却温度や機械の故障などを中心に運転・管理している

惣本

さて、見学は以上となります。

── ありがとうございました! 続きは会議室で詳しくお話を聞かせてください。

アートなごみ処理場ができるまで

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── 中工場ができた経緯について、改めて教えていただけますか?

惣本

もともとあった旧・中工場が老朽化し、建て替えが必要になったことが直接的な理由です。ただ、コンセプチュアルな建築物になったのは、広島市の「ひろしま2045:平和と創造のまち」という事業が密接に関係しています。

こちらは被爆50周年に合わせて1995年から開始された、2045年に向けてデザインの社会資本を整備していこうとする事業です。後世に残していきたい小学校や消防署などが建設されたのですが、その一つとして中工場の建て替えも候補に挙がったんです。

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渡邉

「ひろしま2045:平和と創造のまち」には「平和」というコンセプトが織り込まれていましたし、建設にあたって、清掃工場のイメージアップも図りたかったんです。さらには先ほどもお伝えしたように、現在の中工場は、広島市の街から瀬戸内海へとつながる通路、すなわち「海の玄関口」でもあります。

そうしたさまざまな背景を鑑みて、自然の要素を建築に織り込める谷口吉生先生にお願いすることにしたんです。

── 谷口先生はどうして「見せる」ことを重視されたんでしょうか?

惣本

谷口先生がごみ処理場を建てるにあたって、他の処理場を見学されたそうです。その際に、ごみ焼却場であることを隠す劇場のような外観の建築や極彩色で覆った工場ばかりだと気づかれ、「生活に必要なんだから隠す必要はないじゃないか」と違和感を抱かれたようなんです。「あえてごみ処理の機械を見せることによって、近代的なアートとして見せることができるんじゃないか」と思われたそうですね。

── 言われてみれば確かに、ごみに対してなんとなくネガティブなイメージを持ってしまっていて、ごみがどう処理されているかについても考えたことがありませんでした。中工場は、それ自体がごみ処理に興味を持ってもらえる装置として機能しているんですね。

市民に応援してもらえるような施設になった

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エコリアムでオブジェとして展示されているごみ収集車

── これまでのごみ処理場のイメージを変えたいとおっしゃっていましたが、実際に効果を実感された機会はありましたか?

惣本

メディアの注目を集めることで、市民の方に応援してもらえるような施設になったと強く実感しています。

たとえば、こうして取材を受けて「ごみを処理する施設ではあるけれども、共存するような形で建てられている」といった文脈でご紹介いただくと、掲載された記事を市民の方もご覧になっているので「また新聞に出とったの~」と声をかけてもらうことも多いんです。

── 単に露出するだけでなく、結果としてごみとの共存というコンセプトの部分まで伝える機会になりますね。

渡邉

広島市にはごみ焼却場がほかに2ヶ所あるんですが、取材の機会は圧倒的に中工場が多いようです。そうした状況を見るに、ごみ処理場のイメージアップに繋がっていると思います。

── 最近では、おそらく映画『ドライブ・マイ・カー』のロケ地になった影響も大きいですよね。どういった経緯でロケ地に選ばれたんですか?

惣本

地上波のテレビ番組で取り上げていただいて以降、認知度が高まったこともあったのか、広島フィルムコミッションの方が、『ドライブ・マイ・カー』の監督を連れてこられたんです。そこで、実際に現地をみていただいた際の印象がよかったようで。

僕は映画の内容も聞いていませんでしたし、撮影場所として使われることを知ったときも「何かの美しい建物」のようなロケーションの一つとして出るのかなと思っていました。しかし、実際には「ごみ焼却場」という設定そのままに登場していて。とても驚きましたね。

── 地元の方の反応はいかがでしたか?

惣本

やはり反響は大きかったですし、「映画の中でも、ちゃんとごみ焼却場として紹介されとったね」と話しかけてくれる方もいました。ごみ焼却場であることを隠さないというコンセプトでつくられた施設でしたから、ごみ焼却場という設定そのままに表現してもらえたことは非常にうれしかったですね。

「見せる」ごみ処理場の意義

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── メディアで取り上げられること以外に、中工場への反響はありますか?

惣本

毎日のように見学者の方がいらっしゃることですね。2022年は4~10月の間だけで7000人もの方が工場見学に来ました。

── 半年間で7000人も!?

渡邉

観光客の方ももちろんいらっしゃるんですが、大半は小学校の社会見学です。広島市内には小学校が約140校あるのですが、そのうち約100校の小学生が見学にいらっしゃるんです。

惣本

中工場は建てられてから18年くらい経っているので、引率で来ている若い先生の中には「私も小学生のときに中工場に来たことがあります」という方もけっこういるんですよ。そのたびに「僕もずいぶん年取っちゃったな~」と落ち込むんですけど(笑)。でも、それだけ長い間、地域に根差してきたということですよね。

── 子ども時代に来た方が、大人になって再びやってくる。いい循環ですね。見学に来た子どもたちの反応はどうですか?

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渡邉

まず、ごみクレーンが、ごみをつかんでいるのを見て「わ~」と楽しそうな声があがります。それから「ごみの分別はリサイクルするうえで大切なことなんだよ」という話をしたら、わざわざ近くに来て「僕もこれから気をつけるし、家族にも話してみます」と言ってくれることもあります。

惣本

出したごみがどうやって処理されているのかを見ていただくことで、「分別しないで出すのはよくないな」と感じていただけるきっかけにしてもらえばいいな、という思いから見学を行っていますね。

焼却炉の寿命と埋立地問題

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── 中工場の魅力をたくさんお伝えいただいたのですが、課題などはないのでしょうか? 1

惣本

コンセプトやデザイン性は今でも古びていないのですが、中の焼却設備については、ほかの清掃工場と大きく違うわけではありません。18年経った今では設備自体が古くなってきているのも事実です。そのため、改修工事などを行いながら、中工場が壊れないよう大切に運転を行なっているところです。

── 2040年にはごみの埋め立て地がなくなるといった話もありますが、広島の埋め立て地事情はどうなんでしょうか?

惣本

今ある広島市の埋立地がいっぱいになりつつあることから、新たな埋立地を建設しているところです。

── そうしたお話を聞くと、日々の分別をしっかりしなくちゃと背筋が伸びますね。

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惣本

僕も家に帰って、家族に「ごみの分別をちゃんとしろよ」と言うと、上の娘から「父さん意識高くてうるさい」なんて言われたりすることもあります。別の部署で働いていたときはそんなことを言っていなかったわけですから、娘からすれば「この前まで適当にバンバン捨てよったやん」と思っているんでしょうね(笑)。

ごみ問題や分別になかなか関心を持てない人の気持ちは僕自身もよくわかります。だから強制はしたくないんですけど、中工場を通じて、少しでもきっかけがつくれたらいいなと思いながら日々の業務に向き合っています。

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ごみの埋立地の新設はハードルが高く、埋立地が近い将来なくなってしまうかもしれません。そうならないために、ごみを分別してリサイクルにつなげたり、ごみについて考えたりすることは喫緊の課題です。しかし、「ごみの分別が大切」と頭ではわかっていても、なかなか行動に移せない人も少なくないでしょう。

そうした人たちの興味を引きつけ、知ってもらい、小さな行動を起こすためのきっかけを提供し続けている中工場。地域に根差し、市民に対して開かれた美しいごみ処理場は、人々の小さな意識の変化も見せてくれました。

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広島市環境局中工場
所在地:〒730-0826 広島市中区南吉島一丁目5番1号
アクセス:広島駅から広島バス24番「吉島営業所」行きに乗車
八丁堀、紙屋町、平和記念公園を経由して南吉島停留所下車、徒歩約5分

中工場のごみ処理に関する見学は無料・要予約。
詳細は以下のリンクより
https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/93/13325.html
※工場周辺からの建物外観や、2階エコリアムの見学は申し込み不要(9時〜16時半まで/12月29日から翌年1月3日の年末年始を除く)

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