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焼きおにぎりがウェットティッシュに? ''未利用資源''がエタノールに生まれ変わる、発酵の力

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

みなさんは「未利用資源」という言葉を知っていますか?

「未利用資源」とは、規格外であったり、生産や流通の過程で傷がついたりといった理由から、有効活用されていない資源のこと。産業廃棄物として処理されてしまうものも多くあります。フードロス削減の観点からも、近年この未利用資源の活用が重要視されています。

品質に問題ない傷や、形の不恰好さ、大きさの不揃いさなどの見た目は、加工してしまえば気にならなくなるため、「未利用魚」を活用して缶詰を作る、「未利用フルーツ」をジュースやアイスにするなどの加工食品を目にするようになりました。

と、そんな前情報をお伝えしたうえで、これを見てください。

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「焼おにぎり 除菌ウエットティッシュ」。
単に、「ニチレイの焼おにぎりをパッケージにあしらったウエットティッシュ」というわけではないんです。

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ニチレイフーズの規格外の焼おにぎりを原料に、発酵・蒸留させ、エタノールにして、除菌ウエットティッシュにしているのです。図はこんなにわかりやすいのですが、「......え、どういうこと?」ってなりますよね。

でも、これこそが、「食品 to 加工食品」ではない、新たな可能性なんです。

この製品を手がけたのは、岩手県奥州市発のスタートアップ「FERMENSTATION(ファーメンステーション)」。独自の発酵・蒸留技術で、エタノールやサステナブルな化粧品原料などを開発・製造しています。環境や社会に配慮している企業に対して与えられる国際的な認証制度 B Corp認証を取得。日本での取得企業は20社のみ(2023年3月現在)で、スタートアップ企業としては国内初という快挙でした。

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アメリカのUSDA(米国農務省)が定める有機認証プログラムにより 化粧品原料のオーガニック認証も取得。

代表の酒井里奈さんは、銀行や証券会社などを経て東京農業大学へ進んだという、めずらしい経歴の持ち主です。会社の設立は2009年。SDGsという言葉すらない13年前から未利用資源の活用を模索してきた「FERMENSTATION」ですが、この社会の移り変わりは、酒井さんの目にはどのように映っていたのでしょうか。

そして、先見の明があるように思えてならない酒井さんは、"これからの消費活動"を、どう予想しているのでしょうか。そんな疑問を携えて、お話しを聞きました。

ゴミだと思っていたものが、化粧品やウエットティッシュに生まれ変わる?

── まずはFERMENSTATIONについて教えてください。どういう会社なのでしょうか?

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発酵を意味する「fermentation」と駅を意味する「station」を合体させて「FERMENSTATION」、「発酵の駅」という意味ですね。私たちは、植物由来の未利用資源を、発酵技術によって機能性のある有益な素材に変えて活用しています。

── たとえば、どんな未利用資源を発酵させているんですか?

もともとは休耕田で育てた米を原料に、発酵の力でエタノールを作るところからスタートしました。でも、その技術自体は米以外にも使えるんですよ。

食品工場で出てしまう規格外の食材......例えば、「ニチレイ」の焼おにぎりを製造する過程で出た規格外のおにぎり、「カンロ飴」の規格外品、「ニッカ シードル」のりんごの搾りかす、ワインづくりのためのぶどうの搾りかす。流通の過程で傷んでしまったバナナやさくらんぼ、もも。そういう、一般的には産業廃棄物となってしまうようなものを原料として使います。

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現在クラファン中のりんごの搾りかすを使った除菌スプレー「リンゴだったサニタイザー」は、200mlで約1.3個分の搾りかすが使われており、廃棄を減らすことに貢献している

── 米やぶどうはイメージがつくのですが、飴や搾りかすなども発酵できるということですか?

そうです。そういうものってすごく発酵させにくいんですけど、うちの技術で頑張っています! エタノールを作るのは大変なのに、なぜあえてやるのか聞かれるんですけど、実は「かす」の「かす」がすごくいい鶏のエサになったり、機能性のある良い化粧品原料になったりするので面白いです。

発酵にも、メタン発酵や乳酸発酵などいろいろあるのですが、私たちが得意なのはアルコール発酵。お酒みたいに発酵させてエタノールを作る技術です。

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エタノールって、アルコール消毒や除菌ウエットティッシュなどに使われているイメージがあると思うんですが、化粧品やアロマの製品、チューハイなどの原料も実はエタノールなんです。合成しているような物質だと思われがちですが、みなさんの生活とも身近なんですよ。

── そうだったんですね......! そのエタノールを活用して、FERMENSTATIONではどんな事業をしているのでしょうか。

大きく4つの事業を柱としているのですが、一つ目はエタノールや発酵エキスなどを化粧品の原料として、化粧品メーカーへ販売する事業。ユーグレナの「lavita organics」などはうちの原料を使ってもらっています。

二つ目が、自社の商品。オーガニックのライスエタノールで作った虫除けスプレーやハンドスプレー、「発酵粕」で作った洗顔石けんなどの化粧品などがあります。

三つ目は他社のブランドの商品を作るOEM事業です。「AKOMEYA TOKYO」のヘルス&ビューティーや、東北の人は誰でも知っているドラッグストア「薬王堂」のオリジナルスキンケア・ボディケアブランドなどを手がけています。

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薬王堂のスキンケアライン「and OHU」。地元の原料、地元での加工、地元の薬王堂で販売がコンセプトに

四つ目は、いわゆる大企業との協業です。食品や飲料工場から出てくる未利用資源を活用してプロダクトにすることもありますし、発酵技術を活用した研究開発をご一緒することもあります。最近だと、福島のワイナリーで作るワインの搾りかすを使って、工場で使う消毒用途のスプレーやアロマスプレーを作りました。

このように、これまでは産業廃棄物として処理されていて、誰も発酵させようだなんて考えていなかったものをビジネスに変える仕事が多いです。

── "四つ目"の「企業の未利用資源のプロダクト化」は、企業から相談を受けてプランニングしていくんですか?

私たちが「こういうものを使いたい」という場合もありますが、何かの縁で知り合って、「うちから出る未利用資源で何ができるかな」とご相談いただくことが多いです。ニチレイさんの場合は、何か一緒にやろうっていうことだけ先に決まり、未利用資源のリストのなかにあったのが焼おにぎりでした。

未利用資源の活用をはじめて13年になるので、さまざまな繋がりができていて、「今の季節は高知で柚子を絞っているね」とか、「そろそろ青森でりんごの搾りかすが出るね」とか。全国の旬を感じられる仕事でもあるんですよ(笑)。

一攫千金を狙って飛び込んだ研究の世界

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── 酒井さんの経歴はかなり特殊だと思うのですが、もともと銀行と証券会社を経験してこられたんですよね。なぜ発酵技術の研究者に?

もともとバイオ燃料に興味があったんです。一攫千金を狙って(笑)!

── 一攫千金ですか!?

はい。新卒のときはやりたいことが決まっていなかったので、いろんな業界を見られる日本の銀行に入行しました。NPOの支援をしていたとき、アメリカの市民セクターを視察し、「社会課題の解決」と「ビジネス」を両立しようとしている人たちを目の当たりにして、すごく興味を持ったんです。

その後、また銀行へ戻って大きなインフラ事業を担当したのですが、環境負荷がすごく高いなと思っていました。風力発電や地熱発電に興味があったんですが、そういう案件はなかなかありませんでした。地球温暖化が話題になるなか、環境問題を解決しながらエネルギーをつくれたらいいのにと考えていました。

── そこにビジネスチャンスがあるとも感じていたんですね。そこからどうやって研究者の道へつながっていくのでしょうか。

外資やベンチャーでも働いて、超忙しいし仕事は大好きだけど、「私じゃなくてもできる仕事のために、なぜ残業ばっかりしているんだろう」って感じていて。

そんなときに、テレビで東京農大の教授が「生ゴミをバイオ燃料に変えることができる」と話していたんです。「それは発酵技術というもので、日本のお酒づくりに限りなく近い」と。私、理系にはまったくタッチしてこなかったんですが、限りなく文系に近い理系だって聞いて、お酒づくりの延長ならできるかもしれないと思ったんです。それで、10年勤めた金融業界をやめて大学に入りなおしました。

── すごいバイタリティ! 在学中から岩手県奥州市で研究をはじめられたんですよね?

はい。なんと、入学のきっかけになったテレビ番組を同じように見ていた人が、研究室を訪ねてきたんです。奥州市の役場に勤めていて、共同研究をしたいと。当初は、休耕田で育てたお米からエタノールをつくり、バイオ燃料にしようというプランでした。

研究室の先生がお忙しかったのもあり、私もその研究に携わっていました。そうして3年間の実験から得られた成果は、米からでもエタノールがつくれることと、そのときに残った発酵かすが化粧品原料や飼料として優れていること。

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ただ、製造量の問題で値段が高くなっちゃうんですよね。当時はリッター70円を目指すよう言われていたんですが、とても70円で売れるような価格ではなくて。そうなると、燃料としては高価になってしまいます。

── そこから化粧品などに使うことを思いついた?

そうですね。エタノールって、化粧品や日用品など、本当によく使うものなのに、トレーサブル(※)なものがないんですよ。「トレーサビリティが大事だ」ってみんな言っているのに、なぜ化粧品にはないのかなと思って。その疑問から「顔の見えるエタノールです」といって、製造・販売を始めたのが事業のスタートです。
※いつ・どこで・誰がつくったのかを追跡できること

機能性しか見てもらえない時代と、「わかってもらえる」ことへの危機感

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── すごく画期的ですよね、話題になったのでは?

いえ、全然(笑)。ずっと「トレーサブルなものの必要性がわからない」とか、「未利用資源の活用って言うけれど、処理量はどのぐらい減らせるんですか」とか言われ続けてきました。金銭的なメリットや、機能だけを求められていると感じていました。

今でこそ「エシカル消費」などと言われますが、そういう、社会的背景が買う理由になる人にはほとんど出会えなかった。例えば商品について説明するとき、渋谷の店頭で「これは休耕田で作った米からできているんです」と言っても、誰も足を止めてくれなかったんです。

バイヤーさんに「言い方を変えた方がいいですよ」と言われて、「超いい香りです」「お肌にやさしいです」「きしみません」「保湿にいいです」っていうのを入り口にして、なんとか買ってもらっていました。

── SDGsという言葉ができてから、消費者や企業の意識の変化は感じますか?

一般の消費者は、兆しはあるけれどまだわからないのが正直なところです。ただ、企業のマインドは変わってきたなと思います。企業活動において、どういう社会価値を与えているかを真剣に考える会社が増えてきているなと。

担当者レベルでもきちんと向き合いたいと思っている方が増えているし、単なるプロモーションではなくてこれを次の事業の柱にしたいぐらいに思ってらっしゃる方が多い印象ですね。

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── 酒井さんの起業のきっかけの一つとして、事業性と社会性の両立が大きいと思うのですが、それは叶えられていますか?

両立ってなったときに、始めた頃は、うちは社会性はばっちりで事業性が欠けていて(笑)。でも、売り上げは順調に伸びていますし、近づいている感じはします。

ヨーロッパでは、「サステナブルじゃなきゃダメだし、アップサイクルであるべきだし、トレーサブルっていうのは絶対に必要だよね」という次の常識がすでにあると去年訪ねて感じました。環境や地域に配慮するのはおまけじゃなくって、生き残るための術だし、両方を頑張らないと負けてしまう。

そういう様子を見ると、私たちの事業にも可能性があるんじゃないかなという予感と期待があります。

── そうした世界の変化を踏まえて、酒井さんは今後10年をどんなふうに見据えているのでしょうか。

これまでの13年、ほぼ誰にも理解されない時代を生きていました。なので、今までまったく通じなかった人たちに通じるようになっちゃって、すごく危機感を覚えているんですよね(笑)。

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──え、危機感ですか?

あんなに「わからない」って言っていた人が「わかる」っていうのは、いいことだけど、追いつかれちゃった感じがして。次の常識をつねに考えていきたいと思っています。

これからしていきたいのは、世の中の消費の常識を変えることです。

先ほども話したように、今まで何かを購入するとき、自分へのメリットや機能性のみが重要視されてきました。FERMENSTATIONの商品も、機能性を売りにして手にとってもらい、「気づいたら未利用資源でした」というパターンでした。

そうじゃなくて、「未利用資源を活用したものがほしい」みたいな、......もはやそのときには「未利用資源」ではないのかもしれないですけど、とにかくそんな世の中にしたい。

── それが一つの買い物の基準になるような。

でも、それが「正義だから」とか、「環境にいいから」とかじゃなくて、「楽しい」とか「面白い」といった、副次的なことが動機になっていたらいいなと思います。私、禁欲的な生活をしていると思われがちなんですけど、めちゃくちゃ消費社会に生きているので、ファストフードも食べるし、買い物もするし。軽やかに楽しくできたらいいですよね、技術はそれを許容してくれると思うので。

未利用資源からできていて、買うことで「未利用資源じゃなくなる」とか、「地域の人もハッピーになる」。それによって、ちょっといい気持ちになるっていうのが、買う基準になるといいなって思います。

世の中のことが身近になる面白さを伝えたい

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── 消費活動を変えていくために、FERMENSTATIONはどんな活動をしていく予定ですか?

ソーシャルインパクトの面って、ふんわりしちゃうことも多いけど、それじゃダメだと思うんです。きちんと数値化して可視化して、示すことが大事。「なんとなく環境にいいです」じゃなくて、「水の量をこれくらい減らしました」「こういう人と取引しています」といった情報を開示するとか。

── たしかに、何がどういいのかわからないけれど、「なんとなく環境にいいらしい」というものも増えてきた気がします。

実はこれから、全取引先にお手紙を出すんです。

「私たちはこういう会社で、こういう思いを持っています。ソーシャルインパクトをもたらしながらビジネスをしていくことに共感をいただけるようならサインしてください。あなたの会社で、もしやっていることがあったら教えてください」って。

従来だと大手企業側から、下請け側へ、コンプライアンスチェックみたいな証明を提出することはあったと思うんですが、うちみたいに小さな規模の会社の方から逆に送るのは、結構なチャレンジなんですよね。

どんな反響がくるかわからないですけど、面白そうなのでやってみたいなって思ってます。

── 酒井さんと話していると、「面白そう」とか「楽しそう」が口癖のように出てきますね。

「酒井さんはすごい楽しそうにしてるけど、何がそんなに楽しいんだ」ってよく聞かれるんです。それで考えてみたんですが、私は世の中のことが身近になる面白さを感じているんですよね。

例えば台風がきたら、昔は自分の身を守ることしか考えなかったけれど、「お米は大丈夫かな」「りんごが落ちていないかな」と心配する。発酵かすは鶏のエサになるので卵をよく食べるんですが、「これ平飼いかな」とか「輸入だな」とかわかるようになる。そういう、思わぬ知識や、お友達が増えたことが、自分の人生を豊かにしていると思うんです。

この楽しさを知ったら、みんなもそういう消費活動をするんじゃないかなという思いから、「PUKUPUKU POTAPOTA」というプロジェクトもスタートしました。

「PUKUPUKU」は「発酵中」の様子を表していて、「POTAPOTA」は「蒸留中」。インスタグラムや、ウェブメディア「PUKUPOTA Journal」で実験内容をお伝えしていきます。

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── 作るだけでなく、次は伝えていくことへ活動を広げるんですね。

「未利用資源」と「発酵」って、無限の可能性を秘めていて。みなさんにも体験してもらえたらいいし、循環のなかに人が入ればいいって思ったんです。そのときに、ただ単に商品を作るだけではなく、記事にしたり、SNSを使ったりして、どんどん伝えていきたいなと思います。興味を持つし、人に言いたくなる。面白がれるような社会をつくっていきたいです。

おわりに

FERMENSTATIONのWEBサイト内、パーパスの最後のほうには、次のように書かれています。

ファーメンステーション(FERMENSTATION)は英語の発酵(fermentation)と駅(station)を掛け合わせた造語です。発酵技術を活用することで、様々な資源が姿を変える駅のような存在になりたい、という想いを込めています。
また、ファーメンステーションを通過すると、必ずいいことがある、前より良くなる、そのような存在になることを目指して名付けました。

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FERMENSTATIONのWEBサイト

13年前、その「駅」はまだ閑散としていました。でも今は、「駅の周りをウロウロしてくださる方も増えたし、駅の中に入って、一緒に通り抜けてくれる人も増えました」と、酒井さんは笑います。

「発酵かすからできたエサを食べている鶏の卵を使って、お菓子づくりをする方が出てきたり、農家さんが休耕田だけじゃなくて余っている畑もあるというので、ひまわりの種を植えてひまわり油をとるプロジェクトを立ち上げたりとか、どんどんどんどん勝手に広がるんです。『それはFERMENSTATIONが資源を回してるからできること』だと言ってくださる方もいるくらいで、嬉しいことに、意図せず勝手にいいことがたくさん起きています」

何かが発酵して変化を予感させる「PUKUPUKU」と、蒸留によって生まれ変わることを感じさせる「POTAPOTA」。FERMENSTATIONという駅では、今日も「PUKUPUKU」「POTAPOTA」と、わくわくすることが育まれています。

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\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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