SDGsは起爆剤。持続可能な世界を目指して#豊かな未来を創る人
シリーズ「#豊かな未来を創る人」では、未来を創るために活動する人を紹介しています。今月は3名の未来を担う国会議員を紹介していきます。
今回紹介するのは、国際協力機構や国連職員を経て2021年に衆議院議員になった青柳仁士さん(大阪14区)です。SDGsを中心に地球規模の課題に向き合っています。
政治が国際社会を守る
青柳仁士
日本維新の会
2012年に国連本部のあるニューヨークでSDGs創設の国際議論に参画し、SDGsが始まった2016年から国連開発計画(UNDP)駐日事務所の広報官として日本の政府機関、民間企業、教育機関、メディア・市民社会等への初期のSDGs普及の責任者を務める。SDGsの機運を具体的な世界の課題解決力に変えるため、国連在職時に日本の民間企業約50社とともにSDGsをビジネスで解決するためのプラットフォームを設立・運営。2021年より現職。
政治家を志すものの、3回ほど選挙で落選。一時期は政治を引退する決断もした青柳さんは、なぜ国会議員の道に進むと決めたのでしょうか。
「もともと、政治家になろうとは思っていませんでした。国連職員で世界を変えられると思っていたからです。『持続可能な世界を作ること』を志して、それまでのキャリアも歩んできました」
貧困問題など、世界にはびこる社会問題解決のため、大学卒業後は国際協力機構(JICA)に入った青柳さん。アフガニスタン復興などに関わる中で、制約を感じたといいます。
「JICAで色々やりましたが、日本の政府組織である以上、制約もありました。そこで、もっと自由な形で世界に貢献したいと考えて、国連職員になりました。最初は、広場に飛び出たような気持ちでしたが、やがてその中にも壁があることに気づきました。国連職員の立場でできることは限られていて。結局、国連が大きく何かをする、国際社会が根本から動くというレベルの変化は、各国の交渉で決まっているのが世界の現実だと感じました。その結果が、ロシアによるウクライナ侵攻でもあります」
国際社会で大きな発言力と実行力を持つために、青柳さんは政治家を志しました。
「国際社会の中で影響力のある国のトップが誰かといえば、政治家なんです。そして、幸い私は日本という国で生まれ、日本の国籍を持っています。193カ国の中で経済規模は3位、人口規模も11位の大国です。覇権国ではないかもしれませんが、大国の政治家であれば、世界のあり方に影響力を持つことができるわけです。それなら挑戦する価値があると思いました。そのまま国連職員として一生を終えて、挑戦しなかったことを後悔するより、だめでもいいからやってみようと」
世界は持続可能なのか?
青柳さんは、選挙で当選するまでの10年間、企業で働いたり、国連に戻ったり、起業したりと、様々な立場で持続可能な社会の実現に関わってきました。中でも、国連広報官時代には、SDGs(持続可能な開発目標)の普及を担当したり、SDGsを普及し、実践する専門機関を立ち上げて代表を務めるなど、SDGsに深く関わっています。持続可能な社会に向けて、SDGsをどの様に捉えているのでしょうか。
「SDGsは起爆剤なんです。17の目標がありますが、その背景にあるのは持続可能性、サステナビリティということです。今は、脱炭素のイメージが強いですが、それだけでなく、社会、経済、環境のあらゆる面で世界を持続可能にするということです。私は世界の50カ国ほどで働いて来ましたけど、各国を見ても、今の日本の状況を見ても、持続不可能な仕組みの上で私たちの暮らしは成り立っています。より不遇な人々に大きな負担を強い、将来世代の資産を食いつぶしながら生きているのが現代です」
持続可能性が脅かされている顕著なものの一つに「平和」があると青柳さんはいいます。
「これから世界はブロック経済化していきます。第二次世界大戦以降、世界の平和が保たれていたのは、常任理事国という絶対に間違いを起こさない圧倒的な力を持った5大国の存在が前提でした。しかし、ウクライナ危機により、この仕組みではその5大国自身が暴走すれば誰も止められないという当たり前のリスクが顕在化してしまった。現在はロシア、そしてその先に世界が見ている真のリスクは中国です。この状況に対してアメリカを中心に各国が進めているのが、経済安全保障です。サプライチェーン、取引する国を制限していこうという流れになっていて、これは過去の世界大戦前のブロック経済と同じです。第二次世界大戦後は、発展した世界を作るという中で、一つのグローバルマーケットとその中での自由競争でみんなの富を増やしていこうとしてきたが、再び分断に向かっている。分断された世界は、お互いに競争し合い、いずれぶつかります」
その他にも、地球上であらゆる指標が低下しており「このままでは世界は破滅の方向に向かっている」と青柳さんは危惧しています。そんな中で、SDGsは市場原理、企業を巻き込んだことが画期的だといいます。
「政府の行うODAは、持続可能な世界のための投資でしたが、規模が限られています。日本が世界最大規模でODAを行っていたときも、せいぜい1兆円規模です。一方で、1兆円以上売上がある企業は日本にもたくさんあるし、上場企業でいえば日本では2千社以上、世界では4万社以上あります。そういう会社にこそ、世界を持続可能にする、人材も、お金も、イノベーションの種もある。SDGsは、市場原理を持ち込むことで、こういった企業を巻き込む仕組みです。要は、これまで無料で使っていた『公共財』に値段をつけたわけです。例えば、児童労働は世界で最も安い労働でした。最も安い労働力を使えば、最も安い製品ができて、市場でも売れる。企業は利益を追求するものなので、売れている以上、いくら規制をしてもなくならないわけです。それに対して、児童労働に相応のコストを課すことで、ただ規制をするだけでなく、経済原理の中で合理的な判断として選ばないという状況を作ったのです。二酸化炭素の排出権も同じです。これが、SDGsであり、ESGです」
日本では本質的な意味を理解せずに、言葉だけが独り歩きしているという批判もあるSDGsですが、「知らないよりはいいだろう」と青柳さんは考えています。
「私が国連広報官でSDGsを担当しているときに、国内でのSDGs活用、特に前例がなかった民間企業からのいろんな相談に対して国連内で調整を行ってきたこともあり、現状に対しての責任も感じています。ただ、悪名は無名に勝る。誰も知らないよりはまずは概念が広まり、認知されて初めて取り組みが始まると思います」
国連や企業の立場としてSDGsに関わってきたいま、あらためて政治家として青柳さんが取り組んでいることの一つは、日本企業が国際的に評価される仕組みづくりです。
「企業のサステナビリティの仕組みや条件をどう設計すればいいか、環境省や金融庁とも議論しています。また、いま世界的な国際会計基準を作っているIFRS財団が、ESG投資の基準を統一しようという動きがあります。その中に、日本の金融庁の関与を深めるよう提言を行っています。日本企業は、もともと社会課題解決型の企業が多く、社会的な価値の高いことをしているのですが、それが評価されないような指標になってしまったら意味がありません。日本企業の取り組みがきちんと評価されるような指標になるように働きかけています」
イノベーションは熱量が生む
持続可能な世界をつくるため、その時々の立場で動き続けている青柳さん。最後に、次世代の人に向けてのメッセージを伺いました。
「イノベーションを起こすために大事なのは、熱量です。脳みそが汗をかくまで考えるとか、頭の中が真っ白になるまで考え続けるとか、周囲から狂ってると思われるまで考えるとか、これまでイノベーションを興した偉人たちが様々な言葉で表現してきたエッセンスは熱量だと思います。このテーマが大好きだとか、このために自分の命を捧げるんだという熱量があって、はじめてイノベーションは起きる。論理も大事ですが、それだけではイノベーションは生まれない。だからこそ、若い方には自分自身の中で芽生えた何かに対する興味、関心、やる気、興奮、情熱など、熱量に繋がる全てを大切にして欲しい。日々の小さな熱をかき集めて大きな炎にまとめ上げ、勢いをつけて常識だとか当たり前だとかいうガラスの天井にぶつかり、打ち砕いていってほしいと思います」
そして情熱を持つために、世界に目を向けてほしいと話します。
「戦後復興や高度経済成長時代を生きた上の世代の人は、日本が貧しいところからスタートしていて、豊かにしたいという熱量があった。お金を儲けたいとか、豊かになりたいとか、ある種のアニマルスピリッツで生きてきたんです。それが敗戦で焼け野原になった日本を再び世界の先進国へと急上昇させ、また、それに必要な数々のイノベーションを生み続けてきた。でも今の日本は、ある程度豊かなので、若い人はよっぽど視野が広いか、特別な経験をしたか、周囲に良い師がいたか、意識が高いかでもないと、社会変革に対する熱量は自然には生まれてこないだからこそ、若い人にはまず世界に目を向けてみてほしい。日本の外を見れば、解決しなければならない社会課題は山積みです。イノベーションを起こさない限り、このままだったら世界は持続可能ではありません。微修正や、少し方向性を変えるくらいでは世界は持たない。イノベーションを起こしていく人材が、何百人も、何千人も必要なんです。そういった世界に対して熱量を持つ人が増えるように、自分自身も情報を発信していきたいと考えています」
今回紹介した3名は、まさに社会課題に熱量を持って取り組んでいます。
政治や選挙には、まだまだ独特の慣習が残っている世界かもしれませんが、政治は社会を良くするための手段の一つです。政治家という肩書ではなく、個人の思いや考えに触れていただくことが、政治や選挙に関心を持つ一つのきっかけになればと思います。
4月の特集では青柳さんの他にも「子育て支援」「デジタル活用」というキーワードを掲げて奮闘する2名の議員をご紹介します。ぜひご覧ください。
・政治は想いのバトンリレー。うねりは変える力になる 伊藤孝恵さん
・日本は必ず変われる。時代にあったルールづくりを皆で 小林史明さん