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豊かな未来のきっかけを届ける

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男性の育休取得が貧困の連鎖を止める? 聞けば納得する意外なつながり

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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日本のシングルマザーは、2人に1人以上が「相対的貧困」に陥っています。

相対的貧困とは「国や地域の中で大多数よりも貧しい状態」のことで、先進国での貧困を表す際の基準。日本の基準では世帯年収127万円とされており、日本では15.7%の世帯が相対的貧困にあるといわれています。

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日本の6人に1人が相対的貧困というのも大きな問題ですが、さらにシングルマザーに限って見ると半数以上。これは、世帯の中の稼ぎ手がひとりしかいない単身世帯や同じくシングルの父子家庭と比べても突出して多い割合です。

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そもそもなぜシングルマザーは、ここまで多くの人が貧困に陥ってしまうのか。
女性が経済的に自立して子育てをするという選択をとれないのは、健全な社会と言えるのでしょうか?


そこでYahoo! JAPAN SDGs編集部は、シングルマザーの自立支援を行う一般社団法人グラミン日本のCOOを務める中川理恵さんを訪ねました。

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シングルマザーの貧困の起点として中川さんが指摘するのは、日本のすべての女性が抱える問題。それは、「家庭の中での性別役割分担」とそこから生まれる「男女の所得格差」です。

そこにシングルマザーならではの困難が加わることで、より経済的自立が難しくなっているという状況だと言います。

また、貧困に陥ってしまうと、目の前の暮らしが厳しくなるだけではなく、次世代の子どもにも貧困が連鎖していく場合があります。この負の連鎖を断ち切る第一歩は、シングルマザーが自分でお金を稼げるようになること。そして、それを実現できる社会をつくるヒントが男性の家事育児参加や育休取得にあることが見えてきました。

シングルマザーの生活困窮の現状を知り、それを打開していくために必要なことを、グラミン日本・中川さんと一緒に考えていきましょう。

シングルマザーの貧困の根底にあるのは「家族の中の性別役割分担」

日本のシングルマザーの相対的貧困率は58% 。

同じシングル世帯である父子家庭の貧困率は単身男性の貧困率と比べても差が生まれないのに、女性の場合はシングルマザーになると多くの人が生活困窮に陥ってしまう要因はどこにあるのでしょうか。

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「シングルマザーというと、『そういう生き方を自分で選んだ人』というような自己責任論が起こりがちです。でもそうではなくて、根本には日本の女性が共通して抱えている『男女の所得格差の問題』に原因があり、その上でシングルマザー特有の要因が絡んでいると考えています。

男女の所得格差の起点は、日本のファミリーのあり方です。いまだに家父長制的な体質が残っていて、『家事や育児は女性がやるもの』という性別の分担意識も根強い。出産のタイミングで正社員のキャリアをあきらめたり、時間に融通の効く非正規雇用での働き方を選ぶ女性も、未だ少なくありません」

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出所:内閣官房こども家庭庁設立準備室「こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識」(令和5年)

男女雇用機会均等法の施行から40年近くが経ち、女性の社会進出を促す法整備や労働環境の見直しが進められたことで就業状況にも少しずつ変化が生まれています。現在では、出産前から仕事に就いていた女性のうち妊娠・出産を経ても退職せず仕事を続ける人の割合は約7割まで増えてきています。

女性の継続就業率と密接な関係にあるのが夫の家事育児参加率で、夫が積極的に家事育児を担う家庭ほど、妻の継続就業割合が高くなることも厚生労働省による調査で判明しています。しかし、日本では女性が行う家事育児などの無償労働時間は男性の5.5倍にもなっており、諸外国と比べても極端に女性に偏っている現状です。

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出所:内閣府「男女共同参画白書 令和2年版」

日本の女性は家事育児の負担から、産後に時短勤務を選択するケースも多く、それが就業を継続していたとしても昇進が望めずキャリア形成が困難になるという問題にまでつながっています。

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出所:総務省「労働力調査」(2001年以降)「労働力調査特別調査」(2001年以前)

また、出産を機に退職を選んだ女性の退職理由として上位に挙がっているのは「子育てと仕事との両立が大変」という声です。

家庭との両立が前提となる中で、出産を機に退職した女性が再就職しようとすると、時間に融通が利く非正規の仕事を選ぶことが多くなります。事実、日本の非正規労働者の約7割を占めているのは女性です。

正規労働者と非正規労働者の待遇差の解消を目指す「同一労働同一賃金」の取り組みも進められていますが、いまだに賃金格差は大きく、非正規労働で安定した十分な収入を得ることは難しい状況といえます。

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家事育児の負担が極端に女性に偏っていることにより、女性は正規職であってもキャリア形成するのが難しいこと、または非正規の仕事を選択する人が多いこと。こうした背景から、世界で見ても日本は男女の賃金格差が大きい国となっています。

「20代後半から30代にかけて、新卒からキャリアを積み上げていけば収入も大きく増えて、一番成長できる時期です。その時期に妊娠・出産でキャリアが抜けてしまったり、得られるはずだった経験値が得られなかったりすることが、その後の人生にずっと影響してしまう。これはシングルマザーであろうと結婚している女性であろうと同じ問題を抱えていて、とてももったいないことだと思います」

もちろん、キャリアの中断や家事育児の役割分担は、家庭で話し合って自ら選択している女性も多いでしょう。夫の扶養の範囲内で妻側が収入を調整しながら働くというのも一般的で、そのために非正規労働者の賃金が上がらないという面もあります。

ただ、女性がそういった働き方を選択することが「社会的にも当たり前」のようになっているため、子育てをする女性がキャリアを積みにくい構造になっており、いざその人がシングルになったときに、家計をひとりで支えられない状況になってしまう点に問題があります。

一馬力で家計を支え、子育てするシングルマザーへの受け皿の足りなさ

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子どもを持つ女性が「しっかり働いて稼ぎたい」と思っても、十分な賃金が得られる仕事に就きにくいというのも大きな問題です。そこには、雇用主である企業側の固定観念も影響しているのではないか、と中川さんは指摘します。

家父長制的な体質が残っているというのは単に家庭の中だけの話ではなく、そういった人たちが企業の経営層にいて意思決定者になっているということでもあります。『女性はパートだから』とはっきり位置付けてしまっているような業界もありますし、雇用側も求職者もフルタイム勤務を希望していたとしても『お子さんがいる人だと難しい』と決めつけてしまうようなケースもあります」

そんな状況の中、なんとか働き口を見つけたとしても、シングルマザーの場合はとりわけ子どもの世話を頼れる先がないことがネックとなり、就労を続けていくことの難しさに直面します。

「家計を支えるのも子どもの世話も一馬力ですからね。残業に対応できなかったり、子どもが熱を出して早退したり、仕事を休むことなどが繰り返されると、だんだん職場に居づらくなってくる。そうして短い期間で退職してしまうと、職務経歴書に『この人は前の会社をすぐに辞めたんだ』と記録が残ってしまう。それが重なると職務経歴書がどんどん長くなっていくんです。今は採用もある程度デジタル化されているので、そういう経歴の人は選考の土俵にも上がることができない場合もあります

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お金が稼げない、家事育児に追われ時間のリソースも少ない、相談相手がいない。不安定で脆弱な生活基盤は心身の不調にもつながります。彼女たちが困窮状態から脱するには「貧困の壁・穴・坂」を乗り越える必要がありますが、このいばらの道をひとりで乗り切ることは難しいと中川さんは言います。

教育格差だけでなく「経験の乏しさ」から、子どもに貧困が連鎖する

シングルマザー自身の生活が立ち行かないことのほかに、貧困が生み出す問題として「貧困の連鎖」が挙げられます。

親に時間の余裕がなく学習のサポートができないため子どもの学力が上がらない、教育資金がなくて大学に進学ができないなど、教育の格差がそのまま貧困へとつながり、次世代にも引き継がれてしまうのです。

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出所:内閣府(2018)「子どもの貧困に関する指標の推移」

「学力面はもちろんですが、生活におけるさまざまな体験や、コミュニティの中で叱ったり褒めたりする良い大人に触れ合う経験が不足していることで、生きていくための力が育たず経済的貧困につながっている負のスパイラルが起こっていると思います。

特に母子家庭ではひとりで留守番をして、ひとりでご飯を食べて......という子どもも多く、生活の中でいろんな大人と関わる機会が少ない。いろんな人生のロールモデルを見られないので、社会を見る目も狭くなってしまうのです」

未来を担う若者にも貧困が受け継がれてしまうことは、社会全体から見ても大きな損失です。この貧困の連鎖を断ち切るには、まず相対的貧困率の高いシングルマザーが自立できるようになることが大きな一歩になるはずです。

お金を渡すのではなく「魚の獲り方」を教えるグラミン日本の支援

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では、シングルマザーが自立するためには、どのようなサポートが必要になってくるのでしょうか。

「国や自治体によるシングル家庭への公的支援はさまざま用意されています。しかし、それは手当や給付金といった金銭面でのサポートに寄っているのが現状です。子どもが一定の年齢になったら打ち切られる支援もあり、シングルマザー本人の長い未来を考えると自立のためのサポートとの両方が必要です。

グラミン日本では、シングルマザーが起業、副業、就労などで収入を得るための支援をしています。ただお金を渡すのではなく、"魚の獲り方を教える"ということです」

グラミン日本の取り組み

  1. マイクロファイナンス
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    「マイクロファイナンスは、バングラディシュにてグラミン銀行を創設したユヌス博士が行っている、グラミンの一丁目一番地の仕事です。グラミン日本でもこれまでに50名ほどのシングルマザーの方が融資を受け、事業を始めています。事業の内容もカフェ、化粧品の企画、英語教室、イラストレーターなどさまざまです。

    事業がうまくいかなかったり、子どものことで思うようにならないなど、苦しい状況に陥ることがありますが、その時は5人組の互助グループによる力が大きな支えになります。特にシングルマザーの方にとって励まし合う仲間はすごく貴重で、お互いに信頼してフォローし合うことで、事業の立ち上げまで持っていくことができるのだと思います」

  3. デジタル人材の育成
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    「起業支援のマイクロファイナンスは、ひとりひとりじっくり事業プランを立てて伴走していく必要があるため一度に支援できる人数が限られますが、『でじたる女子プログラム』は、シングルマザーがタイムマネジメントしやすいeラーニングとオンラインによるサポートがメインなので、一度に多くの人数を支援・育成することが可能です。

    昼間は時給1000円で働いていたとしても、まずは副業でもいいから、夜に時給1500円のデジタルの仕事を家で3時間やってみて、組み合わせながら総収入をあげていこうといった提案もできるので、自立のための選択肢が広げられる取り組みだと思います」

コロナ禍でのリモートワーク普及が、地方でも支援の追い風に

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コロナ禍で非正規労働者の多くが雇い止めにあい、シングルマザー家庭にも深刻な打撃を与えましたが、それによって世の中のオンライン化が進み、リモートワークが定着したことはシングルマザーの自立に追い風となっています。中川さんも、「グラミン日本が創設して5年目になりますが、今が一番のチャンスだと思っています」と力強く前を向きます。

在宅でできる仕事は、ひとりで子どもを育てるシングルマザーのライフスタイルに合った働き方。さらに、今の日本では男女の所得格差に加えて都心部と地方の所得格差もあり、地方のほうが学童などの子どもの預け先も少ない傾向にあります。

地方で暮らすシングルマザーにとって、デジタルスキルをつけてリモートワークで単価のいい東京の仕事を請け負うことができるようになれば、家計の大きな支えになるのです。

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「地域によって差はありますが、都心部と比べて地方のほうが女性の活用が少なく、デジタルも弱い傾向にあります。こういった状況を変えていきたいという自治体も今、増えてきています」

グラミン日本の事業の中で、コロナ禍以降大きく広がったのが自治体との「でじたる女子」育成の取り組み。愛媛県、鹿児島市、糸満市とのプロジェクトがすでに動いており、特に愛媛県では2025年3月までに500人の女性デジタル人材を育成し、10億円の新規所得を創出するとしています。

貧困を断ち切るにはシングルマザーと社会、双方の努力が必要

グラミン日本での中川さんの大きなミッションのひとつが、企業への啓蒙活動。

シングルマザーが生活困窮から脱却するためには、雇用や仕事を提供する側の企業がこの社会課題について認識を深め、共感し、一緒に解決に取り組んでもらうことが欠かせません。

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「環境・社会・ガバナンスを重視するESG経営の流れから、特に上場企業では社会問題に目を向けているところも多く、私たちの話も真剣に聞いてもらえます。

ただ、実施に関しては一筋縄ではいきません。シングルマザーの働き方を柔軟に受け入れようとすると『ほかの人はこうやって働いているのにそれは特別視ではないか』という声が上がったり、『同じ成果物を出すにもこれまで以上にコストや時間がかかる』といった事業損益への影響から、どうしても否定的になりがちです。しかしご協力くださっている企業各社では、どうやったら事業として成立できるかを、社内だけでなく取引先も巻き込んで推進しています。

私たちも一方的にお願いするばかりではなく、『こうやったらうまくいきますよ』という成功事例を少しずつつくり上げて、多くの企業にトライしていただけるように提案をしていきたいです」

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シングルマザーの貧困を解決するには、本人がスキルをつけ自立しようとする努力と、社会の側が自立したい女性の選択を受け入れ、彼女たちのライフスタイルに合う仕事をうまく切り出して雇用を生み出すという双方の努力が必要不可欠です。

今、男性の育児休業取得が推進されていますが、これは日本のファミリーのあり方へのアプローチとして非常にいい流れだと思っています。女性だけではなく男性も家事育児に参加することで、無償労働と位置付けられている仕事にも相当なコストと対価が発生しているということが意識づいていく。そこからだんだんと社会も変わっていくのかなと思います」

中川さんはそう語りながら、支援の先にある未来を見つめています。

成功する女性たちをもっと増やしていきたいです。就職、起業、副業、どんな選択でもいいので自分の力で所得を増やして、子どもと一緒に幸せに生きていける未来を手にしてほしい。そのうち、日本各地で活躍する女性たちが出てきて、その人たちがまた困っている女性たちを支援するというサイクルになっていくのが一番の理想ですね」

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