スマホが使えなくなる!? 2024年に起こりうる「宇宙天気災害」とは #災害に備える
2024年に起こる可能性があるといわれる「宇宙天気災害」を知っているだろうか。宇宙天気災害とは、太陽フレアをはじめとした太陽の活動によって、地球の社会インフラが影響を受けることを指す。太陽フレアは、通信や衛星、電力網などさまざまな領域に影響を与える。インターネットやGPSなど高度な文明の利器に依存する現代社会では、生活全般に影響する大規模災害のリスクがある。2024年頃に太陽の活動が活発化すると予測される中、宇宙天気災害に精通する気象予報士や太陽研究のパイオニアらに、生活への影響から取るべき対策までを聞いた。
社会インフラにダメージを与える宇宙天気「太陽フレア」
宇宙天気という言葉は、聞き慣れない人が多いかもしれない。地球上の天候が晴れ、雨、雪など日々変動するように、宇宙の環境も日々変わる。
NHKニュースの気象キャスター・斉田季実治さんはこう語る。
「地球の天気は、雲が厚ければ雨や雪が降るなど、基本的に『雲』に左右されるものです。宇宙環境で注目すべきは『太陽』。宇宙天気とは、太陽の活動によって宇宙環境が天気のように変化する現象を指すものです」
宇宙天気を左右する太陽は、光や熱などを放出して地球に恩恵をもたらす一方で、X線や高エネルギー粒子など、地球に悪影響を及ぼす物質も放出している。それによって地球が被害を受けることを、宇宙天気災害や宇宙天気現象という。
太陽の表面が突発的に爆発する「太陽フレア」という現象が起こると、地球上の社会インフラがダメージを受けることがしばしばある。
太陽フレアによって影響を受ける分野は、「通信・放送」「電力使用」「GPSなどの測位利用」「衛星運用」「航空運用」「有人宇宙活動」などさまざまだ。
過去には、1989年3月13日に、カナダのケベック州全体で大停電が起き、600万人が9時間ほど電気が使えない状況になった。日本でも1994年に、太陽フレアの影響で放送衛星がトラブルを起こし、NHKのオリンピック中継が中断。
2022年2月には、スペースX社が通信用に打ち上げた小型衛星(スターリンク衛星)が、太陽フレアの影響を受けて約40機落下したことが各国のニュースで取り上げられた。
「宇宙天気災害」は文明進化型の新たな危機
近年は国際的に、太陽フレアへの危機意識が高まっている。理由のひとつが、文明の発展によるものだ。
太陽フレアの影響を受ける社会インフラは、スマートフォンやインターネットをはじめGPSやドローンなどの高度な機器であるため、そういった機器に生活を依存している現代は、これまで以上に高い災害リスクにさらされている。
さらに、太陽活動の活発化により2024年に大規模なフレアが起こりうるのも、対策を急がねばならない大きな理由だ。太陽に見られる「黒点」の数は、太陽活動が活発になると増加する。黒点数は約11年周期で増減を繰り返しており、数が多いほど大規模な太陽フレアが起こる傾向があるとされている。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)の宇宙天気予報センター(SWPC)は2019年、黒点数がピークになるのは2025年と発表していたが、2023年10月には「次にピークに達するのは2024年1月から10月の間」という報告書を出した。
2017年には、10年に一度の規模と言われる太陽フレアが発生し、10メートル程度のGPSのズレが起こった。
「もしドローンや自動運転が普及しきった時代に起こっていたら、衝突事故が起きたり、学校や公園に農薬が撒かれたりと、大変な事故につながっていたかもしれません」と語るのは、太陽研究において世界をリードする宇宙物理学者の柴田一成さん。
柴田さんは自身の観測結果と各国との情報交換に基づき、2024年以降の太陽フレアの規模についてこのような見解を示す。
「2023年に観測した黒点数は予測よりも数が多く、前回の周期も上回る数であるため、2024年以降はより大きなフレアが起こる可能性が考えられます。2024年や2025年だけでなく、今後5年くらい先まで大規模な太陽フレアを警戒する必要があります。2017年のフレアをはじめ過去の記録では、10年に一度レベルのフレアが黒点数の減少しているタイミングで起こったこともあるためです」
大規模なフレアによる日常の影響と対策
国は2022年、100年に一度の規模のフレアが発生した場合にどのようなことが起きるのかを検討。同年6月、「最悪のシナリオ」を想定した報告書を発表した。
報告書では、「スマホやテレビ、ラジオが2週間断続的に使えなくなる」「タクシーや列車の無線で2週間断続的に通信障害が発生し、公共サービスの利用が困難になる」などが示された。通信、衛星、航空、電力と広範囲に被害を受けるという内容だ。
だが、対策ができないわけではない。柴田さんは、太陽フレアによって発生する物質・現象には種類があり、地球に届くのは段階的であると語る。
「太陽フレアから放射されるX線は地球に8分で届き、通信障害をもたらすため、すぐに情報発信・対策をしなければいけません。高エネルギー粒子(プロトン現象)は地球に届くまで30分から数日かかりますが、宇宙飛行士は30分以内に核シェルターなどに避難する必要があります。フレア発生から地磁気擾乱(磁気嵐)により多くのインフラが影響を受けるまでには、2、3日程度かかります。そのため、大規模なフレアが発生しても日々情報を追っていれば、対策する時間はあります」
柴田さんが1994年、太陽観測衛星のデータからフレア発生を察知して全世界にメールを発信したところ、2日後に磁気嵐が発生。それによってシカゴの電力会社は変圧器が壊れるリスクを未然に防ぐことができた。「電力会社の変圧器が壊れていたら、1989年のケベックの大停電のような事態にもなりかねなかった」と当時を振り返る。
「危ないとわかったら計画停電や計画運休などをして、最悪の被害が出ない選択をするのが重要だということです。一市民においても、フレアのリスクが高い数日間は外に出ないなど、柔軟に予定を見直すことが大切です。それから、宇宙天気による災害は、地震や落雷による停電など、他の災害対策と重なる部分も多い。携帯電話の代替として複数の連絡手段を確保したり、停電や物流の停滞に備えて蓄電器や非常食・水を用意したりしておく。コンピューターなど機器のプラグをコンセントから抜いておけばハードが壊れるリスクも軽減できます。一方で地震などと異なるのは、被害範囲が全国に及び他所からの支援を得られない恐れがあること。そのため、各自の備えがより重要となります」
「東日本大震災は1000年に一度といわれる災害でした。1000年に一度というのは1000年後に起こるという意味ではなく、10年後に起こることもある」と柴田さん。
東日本大震災が起こる以前、今のように津波や原子力発電所に対する危機意識を持っていた人はどれだけいたか。宇宙天気災害が起こりうることを前提とした対策を急ぐことが、過去の教訓を活かすことになる。
災害から身を守れるような宇宙天気予報を
しっかりと対策していくために、斉田さんは気象予報士の観点から、宇宙天気ならではの特性について知っておくことの重要性を説く。
「気象予報は5日先までの災害の危険性をある程度は予測できる時代となり、それをもとに計画運休などの防災行動計画があらかじめつくられています。ですが、気象衛星に影響が出ると天気予報が当たらなくなり、台風や大雨など他の気象災害と重なる複合災害も懸念されます。さらに、宇宙天気の特徴のひとつが、地震や台風のように目に見え、体感できるものではないということ。災害時に一番怖いのはパニックに陥ることなので、目に見えず、体感できないものであることが広く認知されることも重要です」
日本においては、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が運営するウェブサイト「宇宙天気予報」で毎日、太陽活動の状況が発信されているが、その認知度は高くない。
NICTが主催する宇宙天気ユーザー協議会のアウトリーチ分科会長でもある斉田さんは、「認知向上だけでなく、今後は生活への影響まで理解できる形を目指していくことも重要」と未来を見据える。
「宇宙天気は現状、太陽フレアの規模など物理現象を伝えるにとどまっています。一方、天気予報は、傘の必要性や服装の提案、災害に備える行動まで発信しています。宇宙天気も同じように、これからは具体的な行動に落とし込めるような情報発信に変えていく必要があります。気象庁のサービス『キキクル』では、雨量ではなく、土砂災害や浸水、洪水といった災害ごとの危険度の高まりがわかりますが、NICTでも早ければ2024年頃から社会的影響の大きさを考慮した情報発信に変えていこうと動いているところです」
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取材・文 小山内彩希
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撮影 安永明日香
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編集 くいしん
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