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知る、つながる、はじまる。

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ダンスは違いを超えて他者とつながるツール。誰もが自分の可能性を信じられる世界へ #豊かな未来を創る人

    

サストモ編集部

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19歳のときに、世界最高峰のダンスバトル大会でワールドチャンピオンに輝いたハウスダンサーのMiyuさん。その独自のダンススキルは「#高速ステップ」としてSNSでも拡散され、広く話題となりました。さらに、ファッションモデルとしての活動やミュージックビデオ出演、月を周回をする民間人初の宇宙プロジェクトへの参画など、従来の"ダンサー"の枠を超えた、さまざまなフィールドでの挑戦に注目が集まっています。

「ダンスは個性の違いを超えて、人と人がつながるためのツールになり得る」と語るMiyuさん。十代の頃に自らを変えてくれたダンスの可能性とは。そして、ダンサーとして未開の地を進んだ先に、どのような未来を思い描いているのか。願いを実現するために大切にしてきた物事の捉え方についても聞きました。

Miyu(みゆ)

1997年、東京都生まれ。8歳からダンスを始め、キッズダンサー時代はONPARADEとして、数々のコンテストで連続優勝した。19歳で世界最高峰のバトル大会「JUSTE DEBOUT 2017 WORLD FINAL」でワールドチャンピオンに輝く。そのほかにも国内外のバトルで多数のタイトルを持つ世界的ハウスダンサー。ダンサーの社会的な地位の向上を目指し、ジャズの殿堂である丸の内コットンクラブでダンサーとしての単独公演、教育や公共の場でのイベントやワークショップの開催や講演、ファッションモデルや広告出演など、さまざまな分野で活動を展開している。細かく早い超絶技巧の「#高速ステップ」はSNSでも話題になり、「TikTok Awards 2022」では「Dance Creator of the Year」を受賞。水曜のカンパネラのヒット曲「エジソン」のミュージックビデオに、"足ダンス"で出演。さらに民間人初の月周回プロジェクト「dearMoon」で、全世界約100万人の応募者の中から"唯一の日本人"として選出され、バックアップクルーとしてプロジェクトに参画することが決定した。 https://miyudance.tokyo/

初めて感じたダンスを通した"つながり"

── 幼い頃からダンスを続けてこられました。ダンサーとしての道を極めようと考えるようになったきっかけを教えてください。

もともとダンスを始めたのは8歳のときでした。地元のお祭りの舞台で、同世代の子たちが踊っているのを観たんです。自分もやってみたくて、近所のダンス教室に通ったのが最初でした。その後、本格的なダンススタジオに入って練習に励み、徐々にコンテストやバトルに出られるようになっていきました。

でも、本当の意味でダンスの魅力に気づいたのは、高校1年生のときでした。当時の師匠がチェコで開催されたダンスバトルに連れて行ってくれたんです。そこで世界というものを初めて体感しました。

ダンサーたちのレベルの高さ、会場の盛り上がり、すべてが新鮮でした。そして自分の出番がやって来てパフォーマンスをしてみると、オーディエンスから、ものすごく大きな歓声が返ってきたんです。日本とはまったく違う反応に、衝撃を受けました。

踊れる踊れないとか、人からどう見られるかとか、そういうことに縛られている人は誰もいなくて。そこにいるみんなが、ダンスそのものを自由に思いっきり楽しんでいる。そんな空間に身を置くことで、「ダンスってこんなに楽しいんだ」と心の底から体感したんです。英語ができなくても、みんなが話しかけてきてくれて、友だちもたくさんできました。言葉を超えて心がつながっていく。そんなダンスの力を感じる原体験となりました。

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── ダンスの本質的な魅力に触れる経験を通して、ダンスに向き合う姿勢にも変化が生まれていったのですね。

はい。ここでみんなが心躍るようなパフォーマンスができるようになりたい。世界で戦いたいという、一つの明確な意志が湧き上がってきたんです。このときは予選落ちでしたが、次の年も絶対にここに来ると心に決めました。そこからは性格までも、がらっと変わりましたね。

もともと私はすごく人見知りで、人前で喋るのも好きじゃなかったんです。でも、スキルを磨くために、レッスンでは自分から周囲にコミュニケーションを取りに行くようになりました。それまで一人だけ下の階級から上がれなかったりオーディションに落ちたり、悔しい思いをたくさんしてきたんです。それが練習の姿勢を変えたことで、徐々にコンテストやバトルでも成果が出て、自信もついていきましたね。

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18歳のとき、チェコで行われた「SDK EUROPE」世界大会でベスト4入りした。

自ら育てた「夢は叶えられる」という確信

── それから4年後、パリで行われた世界大会では、師匠とペアで出場し、優勝を果たされました。どんな気持ちで臨みましたか。

昔から憧れの舞台だったんです。毎晩寝る前にYouTubeで過去の映像を夢中で観ていましたね。その場所に師匠と一緒に立てる機会なんて、一生に一度きりかもしれない。当時は19歳で、出場者の中でも一番若くて経験値がなかったからこそ、もうこれは誰よりも思いっきり楽しむしかないでしょう!と。そんな気持ちでしたね。

大会のルールは、 流れてきた曲に合わせて1分間即興で踊るというもの。そこで一番大切なのは、いかに音楽を自分の体で奏でて、表現できるかなんです。だから踊っている最中は、テクニックのことは考えずに、頭を空っぽにして音と遊んでいるような感覚でした。とにかく音に集中して、心からダンスを楽しめたからこそ、結果につながったのだと思います。

優勝という言葉を聞いたとき、「夢って努力をしたら、本当に叶うんだ」と思いました。その気づきが揺るぎない確信となって、今の自分を支えてくれています。

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「JUSTE DEBOUT FINAL House」世界大会で念願の優勝。

── 世界チャンピオンとなって、どのような変化がありましたか。

大会をきっかけに、自分の名前を知ってもらうことができ、仕事も少し増えました。一方、やるせなさを感じることも。世界一になった後も、ダンサーという職業が社会的に認められていないと思うことが多かったからです。

例えば、テレビなどの仕事でダンスの振付をしても、振付師の名前が表に出ることは少ない。さらに、不本意な金額で仕事を依頼されることも。他のアーティストやアスリートと同じように、毎日命を削りながら本気で取り組んでいても、職業として認められていないと感じる場面がたくさんあったんです。そんな現状のために、将来ダンサーになりたくても、親に反対される教え子たちも多く見てきました。それがすごく悔しかったんです。

そこから「ダンサーの社会的地位を向上させる」ことが、私の大きな目標となりました。ダンスで生計を立てるといえば、講師、振付師、バックダンサー。これまで主にその3つの選択肢に限られてきたわけですが、それだけではなくて、ダンサー自身も一人のアーティストとして輝けるはず。そんな世界を私は創っていきたいです。

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小さな目標達成が人を前に動かす

── これまでにない実績を次々と作ってきた背景で、挫折を経験されたことはなかったのでしょうか。

それがないんです。

── ダンスを辞めたいと思った瞬間も...?

ないです(笑)。ずっと楽しいですね。これまで、他のことは三日坊主で。ダンスに出合う前は、テニスやサッカー、ピアノ、水泳、いろいろやってみたんですけど、全部すぐ辞めました。でも、ダンスだけは続けてこられたんです。

挫折という挫折を感じてこなかったのは、家族から教わってきたことが大きかったのだと思います。私の場合、家族がいわばメンタルトレーナーのような存在でした。目標を達成するための考え方や心の持ち方などを、幼い頃からアドバイスしてくれていたんです。

私が家族からもらって、とても大事にしている言葉。それは「困難やスランプに陥ったときは、自分が前に進んでいる証だよ」という言葉です。仮に今、何か問題があるとすれば、それは目標に近づいているからこそぶつかっている壁。逆に問題がないことの方が、問題だと。その言葉がいつも心にあるからこそ、挫折した経験はないと思えるのかもしれません。

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── 「挫折」といわれる事象は、目標に近づくための通過点にしか過ぎない。分かっていても、渦中にいるときにそのように思うことは難しい気もします。

そうかもしれませんね。でも、どのみち大きな目標に向けて進むのなら、目の前の事象を挫折だと捉えて立ち止まらずに、その過程を「楽しむ」。それだけは、自分の中で決めています。

それから、挫折しないようにもう一つ大切にしていることは、いかに小さな目標を確実にクリアしていくかです。これも家族から教わったことなんですが(笑)。私の場合は「ダンサーの社会的地位を向上させる」という大きな目標がまずあって、その下にそれを叶えるための目標を細かく書いていくんです。そしてさらにそれらを叶えるための目標をどんどん書いていく。そうやって、常に目標を分解するようにしています。

このときに、目標は小さくできればできるほど良い。どんなにくだらないことでも、私は毎日たくさんメモに書き出して、それを全部実行するようにしています。紙に書いたものを、家の壁に貼ったりもしていますね。

── 最近壁に貼ったのは?

「ウエストと足」という言葉です(笑)。ダンスにおける差別化というか、自分にしかできないことを考えたときに、私は身長が高い方なので、ウエストや足のシルエットをもう少し活かせるのではと。それで、家でトレーニングをするようになりました。

人によっては「今日の夜、カレーを食べる!」とか、そういうことでも良いと思うんです。毎日自分で決めたことを実行できると、人ってどんどん幸せになっていく気がします。一歩目のハードル設定を低くすることで、「できた」「嬉しい」という小さな達成感がどんどん生まれていく。それが、人を前に動かす原動力になると信じています。

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── 20年近く追究し続けてきたダンス。Miyuさんにとってその魅力はどんなところにあるのでしょうか。

十代の頃に初めて海外のダンスバトルで感じたように、国や性別、宗教、言語など関係なく、人と人とがつながれるところです。みんながありのままの自分や他者を尊重しながら、表現する楽しさを共有する。そうやって、身体を通して心と心がつながる喜びが、ダンスにはあるといつも感じます。

── ダンスがもっと世の中に広がっていくと、そこにはどんな世界が広がっていると思いますか?

うーん(笑)。絶対ないですけど、地球に暮らす全員がダンスをしたら、めちゃくちゃ平和な世界になると思いますね。

ダンスはもっと世の中のさまざまな場面で活かせるはず。実際にダンスはアートやエンターテイメントでありながら、最近ではオリンピックのスポーツ競技の一つとして採用されたり、教育の必須科目となったりしています。いろいろな領域で、人をつなぎ、一人ひとりの可能性を引き出すツールになり得ると感じますね。

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誰もが自分の可能性を信じられる世の中に

── Miyuさんがこれまで体感してきたダンスの価値を活かす試みの一つとして、障害を持つ人もそうでない人も、一緒にダンスの舞台を創り上げていく日本財団DIVERSITY IN THE ARTSのプロジェクト「True Colors DANCE 2024」に参画されています。中高生を中心とした、個性あふれる26名の学生ダンサーたちのメンター役として、具体的にどのようなことをしているのですか。

私は振付を考えたりそれを教えたりしながら、本番のステージに向けてメンバーのみんなを引っ張っていく役割をしています。

一緒に活動しているのは、障害がある子もない子も、それぞれに色々な違いを持ったメンバーたち。もともと私は足の動きをメインとするダンサーなのですが、全員で楽しく踊りたくて、あえて足の動きを入れ過ぎず、かつお客さんも観ていて楽しめるような振付を工夫して考えました。

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学生ダンサーたちに振付をレクチャー。

── 練習を進めていく中で、どんな気づきがありましたか。

練習に参加したときに、最初に感じたこと。それは、体型や性格、ファッション、生まれ育った環境、みんな当然違うわけですが、ダンスを介すると、やはり互いに踊る喜びを分かち合える存在になれるということです。

メンバーの中には、これまで障害の有無でカテゴライズされた経験のある子たちもいると思います。それでもダンスはそうしたすべての枠組みを取っ払って、想いを一つにしてくれた。

私自身、このプロジェクトに初めて参加するにあたって、個性の違うメンバーたちを前に、どんな風に教えれば良いか手探りだった部分もありました。でもみんなのダンスを見たら、迷いは消えましたね。それぞれの違いを存分に活かしながら、踊ることの純粋な楽しさを観ている人にも届けられるよう取り組みたいです。

今はまだ練習が始まったばかりで楽しいことばかりですが、ここからは少し困難をみんなで経験しても良いんじゃないかとも考えています(笑)。例えば何か壁にぶち当たって、話し合いながら試行錯誤してみるとか。やっぱり壁を乗り越えた先に、新しい景色が待っていることも知ってもらえたらなと。

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── 「努力すれば、夢は叶う」。その体験を次の世代にも手渡していきたいと。

はい。ダンスを通して、挑戦や失敗、成功の体験を積んでいくことで、すべての個性を持つ人たちに価値や可能性があることを、一人ひとりが信じられる世界にしていけたらうれしいです。私がダンスから教わったように、みんなにもそれを伝えていきたいです。

── 最後に、これから挑戦してみたいことを教えてください。

引き続き、「ダンサーの社会的地位を向上させる」という大きな目標に向かって歩いていくつもりです。これまで、ダンサーの可能性を模索するために、ジャズの殿堂であるコットンクラブでの単独公演や、教育や公共の場でのワークショップ、SNS発信など、あらゆる試みをしてきました。この先も自分のダンスの実力をさらに圧倒的にレベルアップさせながら、さまざまな分野を横断して挑戦していきたいです。

以前は、ダンサーなのにダンス以外の活動をするなんて...と言われることもありました。でも、これまで固定化されてきた枠組みを超えていくことにこそ、意味があると思っています。不可能だと言われていることに取り組む姿を通して、ダンスをする人にもそうでない人にも、小さくても前に進むきっかけを届けられたらうれしいです。

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True Colors DANCE 2024
一般財団法人 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS(理事長 佐藤英夫)は、パフォーミングアーツを通じて、障害・性・世代・言語・国籍などの「違い」を、個性豊かなアーティストと観客が一緒に楽しむ「True Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭-」を展開している。True Colors Dance 2024は同フェスティバルの一環として展開している、個性がまぜこぜになる未来を目指したダンスプロジェクト。

中高生を中心とした様々な違いを持つ個性あふれるダンサーたちが、「個性や自由ではみ出していく」ことを掲げ、世界的に活躍する4人組ダンスボーカルグループ「新しい学校のリーダーズ」と共に、1つのステージを作り上げていく。Miyuはメンター役として、3月7日に開催される「True Colors SPECIAL LIVE 2024」でのステージ披露に向けて、学生たちを指導している。その模様は3月17日16:00-17:00、Eテレでオンエア予定。
https://www.diversity-in-the-arts.jp/tcf/tcd2024/

  • 取材・文 木村和歌菜
    撮影 唐牛航

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サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

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