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豊かな未来のきっかけを届ける

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実物の「その人」を知ることから。異色のダンスステージ、その舞台裏

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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3月7日、NHKホールで成果を披露したダンスプロジェクト「True Colors DANCE 2024」。ろう者・難聴者、ダウン症、高校ダンス部、車椅子ユーザーといった個性あふれるダンサーが一堂に会し、4人組ダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」と共に、一つのステージを作り上げた。さまざまな「違い」を前に、ときに心揺れながら練習を続けたダンサーたちに、その胸中を聞いた。

「違い」を持ち寄り、広がる輪

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東京都新宿区にあるスタジオ。40人ほどの若い人たちが、大きな円をつくっている。ドン・ドン・パ、ドン・ドン・パ......リズムが生まれ、広がっていく。

「ユアト」「ハルナ」「チヒロ」「ユウト」「リーン」「ミーウ」。リズムに合わせ、自身の名前を隣の人に伝える。

円陣の後ろで、ひたすら手を動かす人がいる。「指文字」と言われるそれは、一文字ずつ指のカタチを変えて、発された名前を手話で表しているようだ。

「モーズ」

リズムに合わせて手をたたきながら名前を言う彼女は、車椅子に座っている。

「ハール」

ひときわ明るく合図を出すのは、ダウン症の男の子。

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これは「名前飛ばし」と呼ばれるワーク。「True Colors DANCE 2024」のリハーサルは、メンターを務めるDAIKIさんの声かけによってはじまった。

「最初はみんな大人しかったですね。お互いの違いに対して、『これを聞いたら失礼になるのでは?』と気を遣っていたんじゃないかな。だから最初は、ダンスの振り付けよりも、コミュニケーションを大事にしたいと思ったんです」

『これはできないけど、これをすればできる』という視点

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本プロジェクトのメンターを務めるDAIKIさん(右)

メンターは、リハーサルの内容やステージの振り付けをはじめ、プロジェクト全体のサポートを担う。DAIKIさんはダンサー同士の距離感を縮めるため、いくつかの工夫を設けた。

「『名前飛ばし』で名前を伝えるときは、相手の目を見るというルールを決めました。『自分はここにいるよ!』と全身で伝えてほしかったんです。僕自身、子どもの頃は、周りに付いていくだけでいいやって、いつも身を潜めていましたから」

DAIKIさんは、難病である軟骨無形成症を持つ。周囲にやりたいことを否定され、さまざまな理不尽がつきまとった過去がある。その抑圧に対する怒りや解放への切望を、ダンスに込めた。自身の身体の特性を「ブランド」と語り、障害の有無に関係なく、誰もがダンスを楽しめる場づくりを目指して、今年はNHK大河ドラマにも出演するなど多方面で活躍している。

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「True Colors DANCE 2024」は、パフォーミングアーツを通じて、多様な人が共に生きる社会の可能性を発信する日本財団・日本財団DIVERSITY IN THE ARTS共催「True Colors Festival」のプログラムの一つ。今回で、2回目の試みとなる。

DAIKIさんは、児童福祉・障害福祉職に就くメンバーを中心に活動するダンスチーム「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)」の代表も務め、この仲間たちと共に、本プロジェクトを推し進めてきた。

「自分の経験を社会に活かしたいと思い、ダンスをきっかけにあらゆる人と交わる場をつくってきました。ダンスは、『できない』を理由にしないんです。『これはできないけど、これをすればできる』という視点がある。障害がある・ないみたいな社会の『壁』も、ダンスなら乗り越えられるんじゃないかなと思うんです」

「障害があるのに頑張ってる」じゃなくて

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「True Colors DANCE 2024」にはもう一人、メンターがいる。世界最高峰のバトル大会『JUSTE DEBOUT 2017 WORLD FINAL』でチャンピオンに輝き、世界的ダンサーとして活躍するMiyuさんだ。

Miyuさんは練習を振り返り、驚き混じりにこう語る。

「デフ(※耳が聞こえない、聞こえにくい人のこと。deaf。)の子たちは、周りの空気を感じたり、ビートを感じる能力がすごいんです! 音は聞こえてないはずなのに、完全に踊りこなしている。体で感じているのかなって思います」

「非言語コミュニケーション」とも言われるダンス。リズムを感じたり、身体の動きをまねたりするなどして、言葉がなくても成立しそうに思える。しかし、Miyuさんは実際にダンサーたちと踊る中で、さまざまな「違い」を知ることになる。その「違い」をどのように埋めていったのか。

「最初のリハでは『この振りできるかな?』って、心配しながら教えていました。でもその気遣いが、かえって相手の負担になっていることに気がついて。それ以降は、逆に『気を遣わないこと』を意識しました」

ダンスの振り付けの指導においては、このプロジェクトならではの工夫もあると言う。

「全てをちゃんと言語化するようにしています。たとえば、普段は動きだけで伝えているところを『腕を上げて手はパー、下に持っていきながらクロス』という感じで説明する。それをおざなりにしてしまうと、特にデフの子たちは理解できなくなってしまうので」

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リハーサル会場には、ろう・難聴のダンサーとのコミュニケーションをサポートするために、3名の手話通訳者がいる。彼らは、振り付けの指導はもちろん、リズムのカウントも通訳する

Miyuさんは、今回のステージを作るうえで、「全員が同じ土俵でパフォーマンスをすること」をテーマの一つにした。その考えは、どこから来たものなのか。

「これまでわたしが観てきた障害のある方のパフォーマンスって、どこかパートごとに分けられているような印象があったんです。デフはデフの子だけ、ダウン症はダウン症の子だけ......みたいに。そうすると、『障害があるのに頑張っている』っていう見え方ばかりが助長されてしまう。今回は、全員が一人のダンサーであることを念頭に、振り付けを考えました。実際、わたしが踊るパートには、デフダンサーも高校生ダンサーもいます。振りは同じだけど、それぞれの違いが前面に出ているパフォーマンス。そういった意味では新しいショーなんじゃないかなって思います」

ダンスの大会では「一糸乱れぬ動き」であるユニゾンが評価基準の一つとなっている。しかし、Miyuさんはそれもダンスの魅力である、としたうえでこう続ける。

「動きをそろえることは重視してなくて。わたしが得意としている『ハウスダンス(アップテンポな曲に合わせた軽快なステップが特徴)』は、手の場所もステップの踏み方も自由。その人が感じたことを、感じたままに表現すればいいよってダンスなんです。DAIKIさんのベースにある『クランプ(激しい動きと感情表現が特徴)』というジャンルも、そういう意味では共通するところがあります。だから、最初からすんなり合わせられたのかな」

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DAIKIさんも、Miyuさんと初めて顔を合わせたときのことを振り返る。

「知らないを知るに変えることを楽しんでくれる子なんだなって思いました。振り付けを一緒に考える中で、僕の身体では難しいステップがあったんです。そんなときでも彼女は『そっかDAIKIさん、これはできないんですね』と笑い飛ばしてくれる。そういうフラットな姿勢に救われた場面はたくさんあります」

「True Colors DANCE 2024」キックオフの際、DAIKIさんとMiyuさんは一つ目標を立てた。

ショーを成功させてこのチームが解散しても、それぞれの顔を思い浮かべたり、一緒に踊りたいと思えるような関係性をつくりたい――。

ダンスの掛け声は「ラーメン食べたい」

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休憩時間も、懸命に振り付けを確認するダンサーたち。その中に、声を掛け合いながら練習に励む2人がいた。車椅子モデルとして活躍する鳥居百舌さんと、市ヶ尾高校2年の藤田美優さんだ。2人はリズムに合わせて言う。

「ラーメン食べたい、ラーメン食べたい」

くり返し、手首を回しながら耳にかけるような動作をしている。息がピッタリ合ってきた。同じパートを担う2人だが、初回のリハーサルではお互いに不安を感じていたと言う。ところが、百舌さんの振りを見た美優さんが声を掛け、すぐに打ち解けることになる。

「パラリンピックの開会式で、車椅子のパフォーマンスを観たことはあったんですが、こんなかわいい女の子がアクロバティックな動きをするからびっくりして。気がついたら『すごいね!』と声を掛けていました」と美優さん。

百舌さんは、当時の心境をこう振り返った。

「わたし、車椅子をこぐのが好きなんです。スピードを出したり、くるくる回ったりするのも楽しい。好きなことを褒められたから嬉しかった。新しい挑戦だと思って、頑張っています。華麗な車椅子さばきを見てほしいです」

百舌さんは、生まれつき総排泄腔外反症と脊髄髄膜瘤という2つの難病を持ち、車椅子や足に器具を付けながらの生活を送っている。彼女は、今回唯一のダンス未経験者だ。

「簡単なダンスをTikTokにアップしたことはありました。でも本格的なダンスをするのは初めてです。最初は不安もありましたけど、運営メンバーの方々がすごく温かく迎え入れてくれて。リハーサルを重ねるごとに、ダンスの楽しさを感じるようになってきました」

一方、美優さんは言う。

「せっかくいただいた機会だから、いろんな人に積極的に声を掛けようって決めていたんです。最初にできなかったら、そのあともできないと思って。好奇心が強いのかもしれません」

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インタビュー中も笑いが絶えない、美優さんと百舌さん

高校2年生の彼女は、部活の顧問から「True Colors DANCE 2024」のことを聞き、参加を決めたという。市ヶ尾高校はダンスの全国大会に出場する名門校の一つ。美優さんは2023年の全国大会の作品づくり(振り付けや演出)を担当した。

「ラーメン食べたい」という独特な掛け声を考案したのも、美優さんだ。

「手首を回す振りがあるんですが、他の動きもしながらなので難しいんですよ。百舌ちゃんと一緒に覚える方法を考えてたら、ラーメンを食べる時に髪を耳にかける仕草と似てない?ってなって。以来、『ラーメン食べたい』が合言葉になりました」

普段のダンス部での練習でも合言葉を使うことはある。だが、プロジェクトに参加して、さらに伝え方や見え方を考えるようになったと言う。

「これまでは自分がどう見えているかを考えて踊っていました。でも今は、全体がどう見えているかを想像することが多くなっていて。みんなで踊ってるんだって意識がより強くなった気がします」

プロジェクトが理想として掲げる「居心地の良い社会の実現」。2人にとっての「居心地の良い社会」のあり方を聞いてみた。

「目の前にいる『その人』を知ることが大事だと思います。理解まではいかなくても、まずは把握してもらう。そうすることで、居心地のいい社会につながるんじゃないかな。たとえば、私は目立ちたがり屋だからステージに立つことを選んでいるけど、障害がある方の中には恥ずかしがり屋だって、人見知りだっている。いろんな性格の人がいることは、障害があってもなくても同じだと思うから」

美優さんも続く。

「障害の有無とか、性別とか、年齢とか。そういうの全部関係なしに、みんなが好きなこと、やってみたいことに挑戦できる社会は『居心地が良い』かもしれません。そういう場が一つあるだけで、きっと毎日楽しく過ごせるのかなって」

言葉を重ね、近づく距離

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リハーサルの最後は、グループごとに分かれて振り返りの時間。

「振りで分からないところをそのままにせず、分かるまで教えてもらえて次に行けたからよかった」

「リハーサルを重ねて、笑顔が増えてきたように感じます。本番になったらどうなっちゃうんだろう?」

「疲れてはいるけど、みんなに会ったら笑顔になっちゃうし、休憩時間も曲がかかったら踊っちゃう」

その日の練習を通して、自分が感じたことや、考えたことを各々言葉にしていく。

自然と、話を促すようなファシリテーター役の子が出てくる。自分の考えを時間をかけて言葉にする子もいるが、口を挟むような人は誰もいない。その子の言葉が出てくるまで待つ。高校生ダンサーの一人が話し出す。

「デフの子と振りを合わせるときに、通訳さんがいなくても身振り手振りで伝えようとして、伝わったのが嬉しかったです」

それを聞いて、大きくうなずくデフダンサー。それぞれの目には、踊りきった充足感と相手を思いやる優しさが溢れている。

その日のリハーサルは全部で4時間。長丁場の練習が終わり、三々五々帰路につくダンサーたち。その顔に、疲れの色は見えない。

「おつかれさまー」

「また来週」

次の再会を心待ちにするように、彼女、彼らはチームメイトと挨拶を交わし、凛とした表情でリハーサル会場をあとにした。

《オンエア情報》
番組タイトル:「超いろとりどり!音楽ライブ ~エンタメでダイバーシティを大発見!」
放送日時:3月17日(日) 16:00~17:00 (Eテレ) 
NHKプラス:https://plus.nhk.jp/ 

《True Colors SPECIAL LIVE 2024》
◾特設サイト:https://www.diversity-in-the-arts.jp/tcf/splive2024/

開催日:2024年3月7日(木)
会場:NHKホール(東京・渋谷)
出演:
<MC>ウエンツ瑛士・影山優佳
<出演>新しい学校のリーダーズ/ILL-Abilities(イル・アビリティーズ)/GenGen/佐藤ひらり/田川ヒロアキ/超特急/トニー・ディー/遥海/野田あすか/FANTASTICS/森崎ウィン
Miyu、SOCIAL WORKEEERZ、True Colors DANCERS(True Colors DANCE2024)
RIMI、kuniy(手話パフォーマー)、武井誠、麻生かおり(手話通訳)

主催:⼀般財団法⼈ ⽇本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
助成:⽇本財団
企画・制作:株式会社NHKエンタープライズ
後援:日本障害フォーラム
協賛:パイオニア株式会社
協力:株式会社QDレーザ(鑑賞サポート)

《True Colors DANCE 2024》
◾特設サイト:https://www.diversity-in-the-arts.jp/tcf/tcd2024/

主催:⼀般財団法⼈ ⽇本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
助成:⽇本財団
企画制作:株式会社ODORIBA / SOCIAL WORKEEERZ
企画協⼒:ダンスク︕(株式会社ディーエスケイ)
ヘアメイク協力:資生堂美容技術専門学校
撮影プロジェクト:協力株式会社QDレーザ

  • 取材・文 山本梓
    取材・撮影・編集 日向コイケ(Huuuu)

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