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「クロダイがアサリを食い尽くす!?」俳優・松下奈緒さんも参加した、知ることからはじめる食害対策

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

「海の恵みが獲れなくなる」と聞いて、うまくイメージできるだろうか。魚だけではなく、貝類や海苔といった日本食には欠かせない食材も、その危機にある。

魚介類は無限に海から生まれてくるわけではない。乱獲による魚介類の減少は世界各地で発生しており、水産資源の保護は漁師たちだけでなく、私たちにとっても身近で大きな課題となっている。

しかし、そうした生態系を崩す存在が、人間とは限らない。

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「チヌ」とも呼ばれるタイの一種・クロダイ。二枚貝類や甲殻類、多毛類をおもに捕食する

千葉県ではここ数年、クロダイによる食害が問題視されている。沖合の養殖海苔や、内房のアサリなどがクロダイに捕食され、漁獲高が減る被害が出ているという。

海水温の上昇によって生息地を変え、千葉周辺の海域へとやってきたクロダイ。その食害は、国内有数のブランドとして知られる千葉県産の海苔にも影響を与えた。平成27年、28年には千葉県産の海苔に歴史的な不作が起こり、平成14年度には5.1億枚を生産した千葉県産海苔も、平成28年度には2億枚に届かなかったとされる(※)その原因の一部にも、クロダイの食害があるとされている。

アサリ漁師が数多く暮らす木更津市においても、その被害は出続けている。漁師たちは問題を解決するべく、JFマリンバンクのサポートを受け、クロダイの食害に関する調査を2023年からスタートしたという。

そんななか、新木更津市漁協で行われているクロダイの捕獲調査活動がメディア向けに公開。JAバンクのイメージキャラクターで系統組織とも縁が深い俳優の松下奈緒さんも参加した。

漁師たちの取り組みを間近に見た松下さんは、水産資源に向き合う彼らの仕事を「丁寧で、大切な仕事。私たちがなぜ当たり前に食事をできているのか、考える時期がきていると感じます」と語ってくれた。

食害の主であるクロダイをただ駆除するのではなく、食べて美味しい自然の恵みとして再評価しようとする試みを取材した。

被害を実感することからはじまる、クロダイ対策

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この日訪れたのは、千葉県木更津市にある畔戸漁港。地元のアサリ漁師たちが集まり、クロダイの捕獲と、胃の内容物調査を行った。

迎えてくれたのは、活動を主導する新木更津市漁協の金子誠一監事。「漁協のアサリ漁師たちは、アサリの漁獲減に悩まされてきました。浅瀬のほうには噛み砕かれた後のアサリの貝殻の破片なんかが流れ着いていて、単純に数が減っているのではなく『食い荒らされている』という印象だった」と話します。

原因は、すぐに推測できたという。

「アサリの食べられ方や、この地域の生態系から"クロダイが原因だ"とわかりました。ただ、漁師たちがすぐに対策に乗り出そうとするのは難しい。時間と労力をかけてクロダイ対策をしても、本当に意味があるのか?と考えてしまう」と語る。

漁師たちにとって、不漁の原因をつきとめ、対策をしている時間は稼ぎがないことと同じ。クロダイを漁獲することで売上に繋がるのであれば一時の収入にもなるはずだが、木更津市をはじめ千葉県や関東の市場では、クロダイは食用として流通されることも少なく、値がつかないため儲けにはならない。

漁師たちの生活のためにも、「クロダイ対策に費やした時間が、将来のアサリ漁にとっていい影響をもたらす」という確信が必要だった。

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新木更津市漁協の金子監事

「だからこそ、まずはクロダイが何を食べているのか、どんな量を食べているのかを調査して、被害を実感するところからはじめたいと思ったのです」と金子監事は話す。

こうして新木更津市漁協では2023年4月から、東京湾漁業研究所の指導のもとにクロダイの捕獲調査に関する計画を作成。「研究所の調査に協力する」という形で、漁師たちの活動ははじまった。

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クロダイは漁港沿岸部だけでなく、漁港へと流れ込む河にも移動しながら生息している。この日は、河を遡上しているクロダイの捕獲活動が行われた

「海苔と貝が、こんなに」クロダイの胃の中を知る

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調査のため、クロダイの捕獲をはじめる漁師たち。河岸で待つ松下さんを振り返りながら、「ちゃんと獲って、見てもらわないとな」と意気込む。

クロダイが生息するはずの河岸に網を投げ込み、追い込む形で漁は行われた。地元漁師たちは次々に網を投げ入れ、クロダイがかかるのを待つ。

川岸に沿うように網を張り、水草のかげや木陰近くの水面を叩いて音を出すと、逃げるようにしてクロダイが網にかかった。

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この一連の漁を何度か繰り返す。30分ほどの漁を終え、漁師たちは捕獲したクロダイとともに港へと戻る。

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この日捕獲されたのは、8匹のクロダイ。今回の主な目的は駆除ではなく、胃のなかの内容物調査だ。松下奈緒さんが見守るなか、漁師たちの手によってクロダイが捌かれていく。

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クロダイの腹部をハサミで開き、取り出した胃をさらに切り開いて内容物を確認する。

クロダイの胃の中から出てきたのは、細かく噛み砕かれたアサリの貝殻と、大量の海苔。「ほら、やはりクロダイに食べられてしまっているでしょう」と、金子監事は見学する松下さんに説明する。

「クロダイというのは噛む力が強くて、アサリも簡単に殻ごと噛み砕いてしまうんです。そして、クロダイはよく食べます。これまでの調査でも、1日あたり体重の8%もの量を捕食するというデータが出ていました。1kgのタイなら、1匹あたり80gものエサを食べられていることになります」

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漁師たちとともにクロダイの胃を確認し、驚く松下さん。「こんなにアサリが食べられているんですね」

クロダイは食べても美味しい。利活用のため、まずは味を知ってもらう

捕獲し、調査に活用されたクロダイ。新木更津市漁協での取り組みはこれで終わりではなく、将来的には食材としてのクロダイの利活用も視野に入れて計画が作られている。

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金子監事は、クロダイが食材として敬遠されている現状について話す。「これまで、東京湾のクロダイは身が臭くて美味しくない、なんて言われて敬遠されてきました。しかしそれも、工夫次第で美味しく食べることはできるんです」

雑食ゆえに嫌われがちなクロダイだが、関西では「チヌ」として、鯛に似た食感の白身を楽しむ文化もあるなど、食材としての可能性がある。

「ドリップ(体液)を丁寧に取り除いたり、皮目を丁寧に剥いだり、よく火を通したりすれば、匂いは気にならなくなる。フライやムニエルとして調理すれば、クロダイの身の柔らかさを美味しく味わえるんです」

早速、地元漁協のみなさんの手で調理が進む。

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出来上がったクロダイのフライ
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出来上がったクロダイのフライを松下さんも試食し、感想を話してくれる。「思ったよりタイの風味がしっかりとして、美味しいです!揚げても身は柔らかいままなんですね」

金子監事は、これからのクロダイとの向き合い方を語る。「まずはこうして、美味しい魚なんだとみなさんに知っていただくことが大切だと思っています。新木更津市漁協では来年度以降に向けて、捕獲したクロダイを地域の子ども食堂に無償提供する企画を進めています。子どもたちの世代が『クロダイは美味しい』と知ってくれたら、ゆくゆくは地域の飲食店にも卸せるようにしていきたい。ちゃんと値段がつく魚にしていきたい」

漁場のアサリを守るだけでなく、そこにいるクロダイも自分達の漁の営みのなかに組み込んで、新しいサイクルをつくろうとしている。

さらに、この活動の伴走支援を行っているJFマリンバンク(東日本信用漁業協同組合連合会)の藤崎稜さんにも話を聞いた。今回のクロダイの食害について、金子監事から被害の深刻さを訴えられていたという。

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「お話を聞くなかで、何か一緒にできることはないかと考えてきました。飲食店に卸すことはできないかと検討したり、水産加工会社との話し合いをしたり、クロダイ利活用についての話し合いを進めるなかで、食害調査と、子ども食堂などへの無償提供の計画を進めていくことになりました」

ただ駆除するだけではなく、食べてもらうための道筋を作ろうという方向性は、新木更津市漁協の面々とも話し合って共有されているという。「今年はまだまだ調査の段階です。来年以降になりますが、飲食店への提供や加工輸出なども含めて、話し合っていきたいと考えています」

まとめ

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アサリ漁師や養殖の海苔漁師を苦しめる、クロダイの食害。クロダイのせいでアサリが減ってしまうというピンチも、漁師たちは「クロダイも未活用の資源」と捉えることで、チャンスに変えようとしています。

活動に参加した松下さんは、漁師たちの今回の仕事を「とても丁寧で、大切な仕事」と語った。「私自身、海のものも山のものも大好きです。どうして私たちがご飯を食べられているのかを考えますし、『食べるという幸せが続くにはどうしたらいいのか』を考える時期がきていると、地元の皆さんの活動を通して現場で感じることができました」

クロダイによる被害の調査からはじまった、今回の食害対策。あらゆる水産資源の保護を進めるためには、「知ること」が大切なステップとなるようです。

身近な人にどう問題意識を伝えればいいのか?という点で、松下さんはこう語ります。「一番いいのは、身近な魚屋さんや市場や直売所に行ってみることですよね。やはり地元の人が一番海のことや魚のことを知っているし、聞いたらきっといろんなことを話してくれる。私たち自身も、まずは知ることから、食の問題を考えることにつながるんだと思います」

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