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ワーママへの''過剰な配慮''が、ママ社員の退職理由に⁉︎ マミートラック解消に向け企業が見直すべきこと

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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「マミートラック」という言葉を聞いたことはありますか? 育休明けに職場復帰した女性が、担当業務や部署、勤務時間を変更されてしまい、スキルアップの機会が損なわれたり出世コースからはずれてしまったりすることです。

現代の日本は、18歳未満の子どもがいる世帯の母親が仕事をしている割合は75.9%(*1)と、夫婦共働きがごく一般的となりました。

一方、同調査によると正社員の母親の割合は3割に届かず、「難易度や責任の度合いが低くキャリアの展望もない」=「マミートラック」に該当する女性の割合は46.6%(*2)です。

男性の育休取得が6人にひとりとなった今、「子育てしながらキャリアアップを目指すこと」はもはや女性だけのテーマではありません。最近では「パピートラック」という言葉もあるほどです。3月8日の国際女性デー、マミートラックを入り口に、全ての親、子を望む若い世代が、健やかに働き続けられる企業のあり方を考えていきます。

2023年の初夏に結婚した筆者が「マミートラック」という言葉を知ったのは、その年の年末でした。

新卒からずっと企業勤めで、「いつか子どもを産んでも自分の納得のいくキャリアを築いていきたい」という思いを20代前半の頃から抱いてきました。

けれど、子育てしながら企業の中でキャリアアップしていった女性のロールモデルは、自分の周りにはいない。それに気づいて、「女性社員 子育て キャリア 不安」と検索ワードに入れていく中で出会ったのが、マミートラックという言葉でした。

この一連の出来事を先輩編集者(30代・女性)に話したとき、彼女が言った、「周りの子育てしながらキャリア形成したい女性は、会社を辞めて独立している気がする」という言葉が印象に残っています。

男女雇用機会均等法が制定されてから39年。女性の社会進出が進み、企業は2000年代から育休制度や看護休暇制度といった両立支援を充実させてきました。

けれど両立の先、「子育てしながらキャリア形成をしていくこと」に対してはまだまだ不十分なのではないか──。

そんな思いから、「マミートラック解消のために、企業は何から変えていけばいいのか?」を探っていくことに。

お声がけしたのは、働く女性の問題を取材し続けるジャーナリストの浜田敬子さんと、ワーママに特化した転職支援を行う株式会社mog(モグ)代表の稲田明恵さん。

ともに、管理職を経験したワーキングマザーでもあります。

一体何が、ワーママのキャリアの壁になっているのか。

ふたりの対談からわかったのは、「キャリアップしたいママ」と「上司」の間に埋まらないギャップがあり、それが図らずもワーママの機会損失につながっていること。

さらに、上司のあり方が、男性も含めた下の世代が引き上げられるかどうかに大きく関わっていることが見えてきました。

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浜田敬子。上智大学を卒業後、朝日新聞社に入社しAERA編集部にて2014年に編集長に就任。17年に退社し、「Business Insider Japan」統括編集長に就任。現在はテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」などのコメンテーターのほか、ダイバーシティーや働き方改革についての講演も行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)、『男性中心企業の終焉』(文春新書)
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稲田明恵。東京学芸大学を卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)へ入社。新規事業の立ち上げ、人事マネージャーを経験し、2015年にワーキングマザーが抱える悩み・不安を解消したいと「ママボラン」を構想し、業界初のボランティアマッチング事業を展開。2019年に株式会社mogを創業。2024年3月に「仕事が好きなワーキングマザーのエージェント mog career」をオープン

「差別なんかしません!」と言うけれど。フェアな競争環境にいない女性たち

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── 今回は、子育てしながらキャリアアップしていきたいワーママが、マミートラックに陥らないため、あるいは、そこから抜け出すためのヒントを得たく、おふたりにお声がけしました。

浜田

いきなりなんですけど、これってママの問題じゃないと私は思っているんです。ママがこれ以上がんばることは、難しいと思いませんか?

稲田

私たちmogはワーキングマザー専門の転職支援をしているのですが、サービスを利用するママさんを見ても、もういっぱいいっぱいなほどがんばっている状況だなと感じます。

浜田

今の日本のワーキングマザーの多くは、寸暇を惜しんで仕事と家庭を両立しています。そういった状況なのに、マミートラックのようなことを「ママの問題」と矮小化してきたから、状況が変わってこなかったと思うんです。

稲田

「女は家庭、男は仕事」の時代ではなくなりましたが、今は、女性が家庭も仕事もがんばっていて男性が仕事に偏りがちなところが、ワーママの一番の負担になっていると感じますね。

浜田

ママの負担に絡めて言うと、私は講演などで中小企業の経営者の方によくお話しさせていただく機会があるのですが、多くの経営層は女性と男性が同じ土俵で競争できていると思っているんです。いやいや、違うんですよと。

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浜田

男性が育休を取得したとしても女性は妊娠・出産というライフイベントがあるから、どうしても"重り"を背負わざるを得ないんです。さらに家事育児をほぼ1人で担っていると、男性と同じ100メートルという距離を走っていても、女性だけが5キロも10キロも重りを背負って、しかもいくつもハードルを超えながら走っている状況です。そこに無意識の差別、偏見というハードルまであります。

D&Iを推進する企業の方々は、「うちは男女で差別なんかしません!」と言うのだけれど、無意識のバイアスが働き、男女で機会の不均衡が生じているケースが多い。たとえば、大きなクライアントはどっちが持っているか、大事な会議にどっちが多く連れて行ってもらえるか。そういったデータをきちんと見ていったときに、やっぱり偏っていることが多くて。そこにはバイアスがあると思うんです。

稲田

そのバイアスというのは、「育成しても、女性は結婚と出産を経ると管理職にはなれないだろうから、男性に重要な仕事を任せたほうがいい」といったバイアスですか?

浜田

そう思っています。企業の経営層の方々は、女性の管理職を増やしたいと思っているけれど、中間管理職くらいの上司が自分のメンバーをアサインする時に、女性だから、ママだから、といったバイアスがないかはあまり考えられていない気がします。

「ジグザグ異動」など、20代での経験値が出産後のキャリアを左右

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稲田

私も、就職先の企業について女子学生から相談をいただくとき、「いかにフェアな環境で力をつけられるか」という視点でアドバイスすることが多いです。

残念ながら現状、女性にとってフェアな競争環境ってライフイベントの前までしかない。だから、「福利厚生よりも、20代でどれだけ成長できて仕事をコントロールできるスキルを身につけられるか、若いうちに昇進の機会があるかどうか。ライフイベント後もキャリアを諦めたくない女性にとっては、そういう視点で会社選びをすることが大事」と伝えているんです。

浜田

本当はライフイベント後もフェアな競争環境であるべきだけど、現状はそうですよね。女性の管理職が増えない理由も、若いうちに成長できる環境が整っていないからだと思っています。それを妨げているのは、性別役割分業意識。

稲田

今も企業の中に残り続けていますね。

浜田

たとえば、ジェンダーギャップ解消戦略に取り組む豊岡市では、市役所の中で異動回数や配属先など男女の職種の偏りを調査しました。

すると明らかになったのは、男性は財務、土木など複数の部門を経験している一方で、女性は配属されてからずっと窓口業務などを担っている割合が大きいなど、ジグザグ異動が少ないということ。これは一般企業でも共通することで、部門を横断するような異動の経験がないと女性側は、「組織全体のことがわからない」「自分には経営的視座がない」といった気持ちから、管理職になることを不安がるようになるんです。

アサヒバイオサイクル株式会社という企業があるのですが、そこの千林紀子社長が先日、興味深いことを仰っていました。彼女は、会社の中の性別による職種、職場の偏りを意図的に無くそうとしているのですが、「そうしているのは自分が若いときにいろいろなチャンスをもらったことで、徐々に小さい階段を登っているような感覚になり、管理職に至るまでの精神的ハードルが下がったから」だと。

善意からの「過剰な配慮」がワーママの機会損失を招くジレンマ

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── マミートラックは女性側の力量の問題ではなく、フェアな競争環境が未だ整えられていないことが問題の根本にあるとわかりました。その上で、「マミートラックが生まれた背景や、ワーママの抱える悩み」を理解できると、どこからメスを入れるべきかがより明確になる気がしています。

浜田

働く女性がマミートラックに陥り出したのは、2000年代頃からだと思います。それ以前の、私が朝日新聞社に新卒入社した1989年から1990年代までは、まだ子育てしながらフルタイムで働く女性は非常に少なかったんです。

それが2000年代に入り、短時間勤務制度や企業内保育所など企業による両立支援制度が充実していく流れが生まれました。これ自体は前進なのですが、一方で、子育てを理由に会社を辞めずに済むようになって生まれたのが、マミートラックという現象です。育休から復帰した職場で時短勤務を選べるようになったことで、時短勤務を理由に重要な仕事を任されなくなり、いつの間にか昇進、昇給が遅れ、ずっと同じ仕事しか任されない状況が生まれました。短時間でも十分仕事を任せられる能力があるにもかかわらず、短時間勤務というだけで期待されなくなる。それで本人たちはやりがいを失っていく。加えて、周囲からは「早く帰る人」と見られて二級社員みたいな扱いを受け、本人も「すみません、すみません」と言いながら罪悪感を抱いて働き続けることに。

そういう状況は2000年代からずっと変わっていないと思うのですが、どうですか?

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稲田

ママたちの悩みはずっと変わらないように感じますね。

mogのサービスに登録している方は、現在1万3000人ほどいらっしゃるのですが、そのうちの8割は「いまの職場では新しい仕事にチャレンジできない」というマミートラックが理由で転職希望をされているんです。

よく企業さんからは、「ワーママは働き方をセーブしたいんでしょう」「だからリモートワークなど在宅で働ける環境がいいんでしょう」と言われるんですけど、逆なんです。転職希望をするママの欲求の多くが、「しっかりとキャリア形成をしたい」「責任ある仕事を全うできるようになりたい」なんです。それを実現するために、柔軟な働き方ができる会社に転職したい、という順番なんですね。

浜田

そこのギャップが全然埋まらないですよね。企業の上司側が思っていることと、女性側の思うことがずっとすれ違っている。

ギャップが生まれる理由のひとつが、いわゆる好意的差別と呼ばれるもの。今の時代の男性上司は、ハラスメントへの恐れもあり、「大変だよね」「早く帰っていいよ」と過剰な配慮が先行して、結果、何も任せないような状況が生まれてしまっています。

そういう景色を古巣でも目の当たりにしてきたのですが、私は「時短勤務のママ、めっちゃ仕事できますよ」と言いたいんです。私が在籍していたAERAのメンバーは女性が多かったけれど、保育園の迎えまでに仕事を終えなければならないという縛りがあるから、すごく効率良く働くしアウトプットの質も高い。それでも、「早く帰る=仕事ができない人」というバイアスがなくならない

「中抜けOK」など、柔軟な制度でフルタイムに戻りやすく

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── ワーママの機会損失を減らすためには上司とママ社員のギャップの解消が不可欠で、その一手として、短時間勤務社員への評価の見直しが必要なのかもしれません。一方、フルタイムに戻ることに不安を感じて退職していくケースも多く、時短勤務という制度そのものがいいものなのかわからなくもなります。

浜田

短時間勤務制度が悪なわけではなく、それを取らないといけない人のためにはなくてはならない制度だと思います。でも今って、基本的に週5全てを時短にしなくてはいけないという形じゃないですか。そこが企業の柔軟性のなさじゃないかと感じます。

稲田

16時に退社して20時からは家でパソコンを開いて仕事を再開するような、「中抜けOK」の形なら、総時間でフルタイムを確保できる人も多いですよね。

浜田

私たちは、コロナを経て、仕事は会社以外の場所でもできると気づいたんですよね。NTTグループも2020年からコアタイムなしのスーパーフレックスタイム制を導入しています。コロナ収束後もある程度リモートワークを定着させた企業では相当数の社員が時短勤務からフルタイムに戻っているんですよ。

ただ、注意したいのは、リモートが定着する中でも出社組とリモート多様組が生まれてくることです。管理職がずっと出社をしていれば、どうしても出社組ともコミュニケーション量が増え、評価にも影響してくる。リモートを使っている社員との「コミュニケーション格差」には注意する必要があります。そういう意味で、リモートを使う社員が「特別な人」にならないようにする環境づくりが必要だと思います。

一番大切なのは、管理職が柔軟な働き方を選んでいることです。部署の上司がそれをやっていると、部下も選びやすくなる。キーパーソンは上司なんです。

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浜田

私は脱マミートラックのキーパーソンは夫という仮説を持っていました。家事育児の分担を夫と見直したら女性は仕事に充てられる時間が増えて、脱マミートラックにつながると思っていたのです。

しかし、マミートラックに関する21世紀職業財団の調査によると、夫よりも上司の影響力が大きい。上司から「時短でもあなたの能力に期待してこのプロジェクトを任せたい」のような働きかけがあったり、もしくは、ママ本人が「早く退社するけどまだ余裕があるので難しい仕事もやりたい」と上司に交渉したりすることで、脱出できたという報告内容だったんです。

稲田

上司に対して手を挙げるために、女性自身も自己肯定感を高めていく必要があると思うんです。マミートラックに悩んでいる女性は、「もう少しがんばりたいけど家庭に負担がかかったらどうしよう」と揺れ動いている方がほとんど。そういった心境の中で自分の背中を押してくれるのは、身近な成功体験です。

「こういうふうに周囲に協力してもらえば、仕事の幅を広げていくことができるんだ」という具体的なイメージが持てると、自信がつきます。そのために、自社だけではなく社外にもメンターを持つことが、当事者にとっては大切なことだと思います。弊社では社外の女性がどのように両立に取り組んでいるのかを知ることができるよう、企業を越えたワーママのキャリアコミュニティをつくっています。

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稲田

また、mogでは女性の管理職100人にインタビューをしたことがあるのですが、そのうちの8割はもともと管理職に対して後ろ向きでした。そこから管理職になった理由が、「上司にたくさん褒めてもらった」とか「上司から何度も打診されるの中で気持ちが変わった」といった、上司とのコミュニケーションを経てのケースがとても多くて。上司は対話力が必要な時代だなとつくづく思います。

管理職のアップデートが、若い世代がキャリアに希望を持つ鍵

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── 国立女性教育会館の調査によると、入社当時に管理職になりたくないと答えている女性は約3割ですが、入社後に「目指したくない」の回答が約半数になっています。女性の管理職を増やすことも含めた「管理職のアップデート」が、これからの女性のキャリアを考える上で必要な気がします。

浜田

今の若い世代が管理職になりたがらないのは、女性に限った話ではないんです。最近、Z世代に取材する機会が多いのですが、Z世代は3年以内に3割以上離職します。その退職理由で多いのが、上司の姿から何年か先の自分を想像して、「あんなふうになりなくない」と思ってしまうこと。管理職は管理職で大変なんだけれども、やっぱり管理職が自ら働き方を変えておもしろそうに仕事をしていないと、下の世代は辞めていってしまうということですよね。

稲田

管理職のおもしろさは、もっと伝えていきたいですね。

浜田

大変なこともあるけれど、自分で組織を変えられるおもしろさがありますから。

稲田

人がストレスを感じるのって、不満があっても従わないといけないときですが、管理職になると組織も仕事内容も変えられるし、新たなマーケットも開拓できる。本当は事業をドライブできるおもしろさがたくさん詰まっていると思いますが、日本の管理職の多くは、社内調整に偏りがちでそんなに裁量がない。

浜田

今の管理職のタイプを変えずに、「みんな管理職になってね」と勧めようとするから、やりたくない人で溢れてしまうんですよね。

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浜田

昭和型の管理職は、上意下達のコミュニケーションに偏りがちですが、傾聴力や共感力がなければメンバーの内発的動機を引き出すことはできません。けれど多くの企業はなかなか従来の管理職像から抜け出せていない。それは推薦するときに自分と似たタイプを推薦して、再生産されてしまうからなんです。

そこでリクルートは、管理職の要件をシンプルに定義し直したのですが、結果、女性の管理職候補者が倍増したんです。男性も、これまでとは違うタイプの人が推薦で上がってくるようになったそうです。

稲田

どんな要件を加えて定義し直したのか、気になります。浜田さんのお話も踏まえて思うのが、今、管理職に求められているのは対話力なんだなと。「自分の背中を見ろ」ではなく、「あなたは何を考えている? どうしたい?」と投げかける、質問力と言い換えてもいいかもしれない。それができるかできないかで、ワーママも含め、下の世代が引き上げられるかどうかが如実に変わってくると思います。

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\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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