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「森」がお墓になる。あなたの命で木々が育つ、''循環葬''という新たな選択肢

    

サストモ編集部

「あなたは、どんな人生の最期を迎えたいですか?」

この問いに、明確なビジョンをもって答えられる人は少ないのではないでしょうか。「終活」という言葉も一般的になったものの、日本では葬儀やお墓のあり方など、「人生の最期」に関する選択肢も議論も少ないのが現実です。

しかし、もしあなたが既存のあり方に疑問を感じていたり、より「自分らしい最期を迎えたい」と感じているなら、これから紹介するサービスは、新たなヒントとなるはずです。

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昨年7月にスタートした「循環葬 RETURN TO NATURE」(以下、循環葬)は、遺骨を寺院が所有する森に直接埋葬する新しい葬送サービス。専門家の監修のもと、遺骨を粉末化し土中に埋め、墓標は立てません

このサービスと契約しメンバーになると、終生にわたってこの森を「森林浴の場として利用」することができます。家ごとに区切られて埋葬される従来の墓石のあり方と異なり、「森全体がおまいりの場所になる」ことが謳われているのです。

同サービスは現在、"大阪・北摂の霊場"として知られ、開山から1200年以上の歴史を持つ「能勢妙見山」(大阪府・能勢町)の森の中で運用されています。収益の一部は拠点となる森の保全に充てられ、全国で活動する森の保全団体にも寄付されます。経営は宗教法人としての寺院が永続的に担います。

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日本は遺体の99%以上を火葬する「火葬大国」と言われ、その後の埋葬は墓石が一般的。墓地は埋葬者が増えるほど土地面積を必要とし巨大化していく傾向にありますが、循環葬の場合、文字通り「自然に還る」ので、利用者の増加にともなう大規模な土地の拡張を必要としません。

現在、日本は死亡者数が150万人を超える「多死社会」に突入しており、2024年には死亡者数が過去最大となります。循環葬はどこまでその受け皿となっていけるのか注目されています。

このサービスを立ち上げたのは、神戸市を拠点とする同事業の監修・運営会社at FOREST代表の小池友紀さん。15年間コピーライターとして活動していたものの、親族の墓の「改葬(引っ越し)」を機に、日本における「墓の選択肢の少なさ」に直面。この事業を構想し、まったくの異業種から起業しました。

「多様性の時代と呼ばれていますが、お墓の選択肢は多様じゃなかった。もっといろんな選択肢のなかから選べていいし、そのひとつに私たちの循環葬があると思っています」(小池さん)

循環葬、それはこれからの社会でどのように必要とされていく「可能性」を持ったものなのでしょうか? 小池さんに循環葬の成り立ちと展望を聞きました。

小池友紀(こいけ・ゆき)

小池友紀(こいけ・ゆき)

at FOREST株式会社 代表取締役CEO。兵庫県生まれ。アパレル業界を経て広告クリエイティブの世界に入り、フリーランスのコピーライターとして15年活動。両親の改葬をきっかけに日本の墓問題と向き合い、死と森づくりを掛け合わせた「循環葬 RETURN TO NATURE」を創案、会社を設立する。2023年7月に関西・北摂の霊場、能勢妙見山にてサービスをスタート。

新しいビジネスとしての「循環葬」

── まず、この事業の全体像についてあらためて教えてください。

私たちは循環葬が「エンディングの新たな選択肢」になればと思い活動しています。自分らしい生き方の選択肢は増える一方で、誰にでも訪れる「死」の選択肢は少ない。家制度、ジェンダー、宗教、国籍にとらわれず、もっと自由な発想で、その人らしい眠り方があったらいいのにという思いで、この事業を立ち上げました。

── 具体的にはどのように埋葬するのですか?

ご遺骨をパウダー化して、土中に直接埋葬します。

ご遺骨の主要成分はリン酸カルシウムなので、これはホームセンターなどで土壌の肥料として売られているものと同じです。樹木がそれを栄養にして育つ、実った果実を鳥や鹿などの野生動物が食べる、その糞が土の栄養になる、そうして人の命がぐるぐると自然循環していくというものになっています。神戸大学の土壌学の先生に監修していただきました。

── 埋葬というのは、民間企業が行っていいものなのですか?

単独ではできません。埋葬は法律での規定があって、地方公共団体と宗教法人、公益法人しかできないので、そこは昔から「死」に関わってきたお寺さんと連携してやっていこうと考え、歴史ある能勢妙見山とご縁をいただきました。

土の上にご遺骨を撒く「散骨」というかたちであれば民間だけでもできるので、当初はその道も考えたのですが、個人所有の土地では、当然ながら周囲への配慮が必要になります。

宗教法人として森の土地を持っているお寺さんと連携すれば、そのあたりの配慮は最小限で済みますし、私たちが関わることでお寺さんの管理が行き届いていなかった部分にも事業として貢献できる。はじめのスタートとしてはこの座組が最適だと判断しました。

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能勢妙見山の森。かつては荒れた暗い森だったが、森林浴が楽しめる美しい森に整備した。森の中にあった残置物を使ってゲートやデッキをつくり、間伐した森の木で歩道を設置するなど、「なるべく森のなかにあるものをつかった」(小池さん)

── どうして墓標を残さないのですか?

それについては、最後までお寺さんと議論をしたところです。

墓標はその人が生きた証でもあると思いますが、私たちが何よりも大切にしたいのは、人と森の共生です。人だけを中心に考えるのではなくて、森を含めたこの地球に生きる私たちを主語として考えていきたい。私は森が好きなので、それをありのままの姿で残したいし、そこに人の功績や痕跡を残すための墓標はなくてもいいんじゃないかと考えました。

住職も副住職も、ご自身の宗教の枠組みを超えて墓標のあり方を考えてくださり、お互いの意見が一致したところで、それを無くすことにしました。

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能勢妙見山副住職・植田観肇(かんじょう)さんにもコメントをいただきました

小池さんから循環葬のお話をいただいたとき、私どもも妙見山の森を残すための活動をどう進めていくか考えていたところでもあり、とても興味深いご提案だと感じました。

しかしながら、いち僧侶として、墓標をつくるのは当たり前のことだと考えていたところがあり、それをなくしていいものなのだろうか、というのは、そのときの自分だけでは判断ができませんでした。

そこで、この地域の歴史にお詳しい信徒の総代さんや地元の方々にもお話をお聞きしましたところ、それは「埋け墓(いけばか)でんな〜」とおっしゃられて。

「埋け墓」というのは、この地域の方言で、いわゆる土葬のことです。この「埋け墓」自体には墓標がなく、お参りをするための墓標は「参り墓」として別につくる。「参り墓」は純粋にお参りをするためだけにあり、そこにお骨は埋まっていない。そういう葬送のかたちが、特に関西地域では多く見られたということがわかりました。

私自身もいろいろと調べたのですが、墓標とお骨が一体となっているお墓のかたちが庶民に広がったのは明治時代以降でして、それが大きく広がったのは戦後の高度経済成長期から。つまり、私たちがよく知っているお墓のかたちは、歴史的にそれほど古いものではなかったということです。

むしろ循環葬の方がこの地域の伝統に近いかたちであったというところで、お寺全体としても腹に落ちましたし、森の保全にもつながることから、ぜひ一緒にやりましょうとお応えをした次第でございます。

── 墓標がないということは、契約後の管理の必要もなくなるということでしょうか?

はい。森全体がおまいりの対象となりますので、契約後はお好きなときに来ていただいて、森林浴などを楽しんでいただければと思います。

契約プランとしては、他の方とエリアをシェアする「合葬」、7年間は同じ場所に他の方の遺骨を埋葬しないことを約束する「個別葬」、ペットと飼い主が同じ場所で一緒に眠れる「合葬withペット」、ペット専用の「ペット葬」をご用意しています。ペットと一緒に眠れる「合葬withペット」が一番人気です。

仏教では人間の世界と動物の世界を分けて考える宗派もありますが、能勢妙見山では動物の世界も人間の世界の延長線上にあると考えることから、「withペットプラン」をご用意しています。また、仏教以外の宗教を信仰されている方でも受け入れが可能です。

ご契約は、ご自身がご存命のうちにお支払いまで済ませていただく生前契約をおすすめしています。故人の葬儀や埋葬方法などをめぐって、ご遺族が頭を悩ませるというのはよく聞く話ですが、そのような事態を避けるためにも、できるだけ生前にご自身の意思で決めていただきたいと思っています。これはご本人のためでもありますし、ご遺族のためでもありますので。

2024年6月時点で、20名以上の方にご契約いただいています。すでに埋葬されているのは、そのうちの3分の1ほどです。

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公式HPより

── 興味深いプランですが、価格設定はどのように決めたのでしょうか? 墓標がないなかで、お金を払う人たちの気持ちをどのように扱うのかというのが、このビジネスの肝になりそうです。

近年人気を集めている「樹木葬」の平均価格が約70万円と言われています。ですがそれとは筋の違うビジネスですから、同じ土俵でプライシングできるものではないと思い、自分たちならではの観点を意識して値段を決めました。

もっとも意識したのは、森を守ることができるように、それを管理するお寺がしっかりと保全活動をできるようにということでした。私たちに何かあったときはお寺が引き継ぐことになりますから。

それに加えて、全国の森林保全団体にも寄付しています。アカデミックな方々への協力費や人件費、整備費にもお金をかけています。原価率は低いかもしれませんが、そこまで利益率が高いというわけでもありません。持続可能なビジネスにしていくために、これからたくさんの努力が必要になっていくと思います。

墓の「選択肢」が少ない国、日本

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── 構想のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

私自身がお墓の改葬で、選択肢の少なさに直面したことです。

私はフリーランスのコピーライターとして15年活動していたのですが、コロナ禍で祖父母を亡くしました。そのときに、遠方にあった家のお墓を実家の近くに移そうということを家族で話し合って決めたのですが、自分たちが買いたいと思えるお墓がなかなか見つからなかったんです。

前向きに検討したのは樹木葬でしたが、実際に見に行くと、言葉のイメージとは裏腹に「カロート」と呼ばれる石室がずらっと並ぶ光景で、自然に環るという感じが全然しなかった。樹木葬を否定するわけではないのですが、そのときはあまりピンと来ませんでした。

祖父母を大切にしたい気持ちは変わらなかったので、そのときにそもそもお墓の姿ってそんなに大事なんだろうか、ということを思いました。近年は海に散骨する「海洋葬」などもありますが、もっとほかにもいろんな埋葬のかたちがあっていいし、しっくりくるものがないなら自分でつくるしかないとも考えて。

── お墓の選択肢の少なさというのは、確かにそれを求める当事者になってみないと実感しにくいことかもしれませんね。

一方で海外に目を向けると、遺体をカプセルに入れて土に還す「コンポスト葬」や、火ではなく水で遺体を分解する「水葬(アクアメーション)」など、さまざまな葬送のかたちがあることも知りました。それらはDEATH TECHと呼ばれているのですが、死に関わる課題や不安をテクノロジーやアイディアで解決するスタートアップが海外では続々と登場しています。

少子高齢化や多死社会は日本に限らず多くの先進国の課題ですが、日本はその中でも課題が顕在化している「課題先進国」であるにも関わらずイノベーションに欠けている。そこに自分の経験や感性を生かしてみたいと思ったんです。

── 日本はお墓だけではなくて、葬式も画一的なところがありますよね。

そうですね。私は以前、仕事の先輩のクリエイティブディレクターが亡くなられたときに、すごくすてきなお別れ会を経験しました。ご本人が生前から企画していたことでもあったのですが、その招待状には「いつも私と会うような格好で、何も持たずに来てください」と書いてありました。

おしゃれな仲間がたくさんやってきて、お葬式とは思えない楽しい会でした。それは、これまでの人生で経験したことのないようなものだったので、なんでこういうすてきなお葬式が日本には少ないんだろうって、疑問を持ちました。

日本ではお墓もお葬式も、あまりにもビジネス化されていて、それが民衆のもの、個のものになっていないんじゃないか。そういう個人的な思いが、この循環葬の構想にもつながっています。

「多死社会」と「家の墓」

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── 日本では現在、「多死社会」の時代に突入しています。当然ながらお墓もこれまで以上に必要になっていきますが、そこにはどのような課題があると考えますか?

ひとつはどのように管理するのかというところでしょう。自分たちのお墓や実家のお墓が、いつか無縁墓になるんじゃないかと思っている人はとても多いです。実際にそれを見越して墓じまいをされる方も増えています。

以前お墓に関してシニア約300人にヒアリングやアンケートをしたのですが、圧倒的に多かったのが「子どもやまわりに迷惑をかけたくない」という声でした。それは言い換えれば、後世に負担をかける可能性のあるものとして、ネガティブにお墓を捉えている人が多いということでもあると思っていて。

家制度の荒廃だったり、核家族化、都市部への人口集中、未婚者の増加といった、いわゆる時代の変化で、私たちはいつしかそうなった。私自身も経験がありますが、特に結婚した女性は相手方の「家の墓」に入ることに抵抗感を持つ人も少なくありません。

「家の墓」に入ることが悪いというわけではないです。ただ、自分の終わり方は自分で決めたい。多くの日本人の自由な「死」の選択の前に、旧来の「家の墓」というものが立ちはだかっている。そんな印象もあります。

── そもそも、私たちが「家の墓」に入るようになったのはどんな経緯があったのでしょうか?

古代では墓は権力者のものだったので、それが「家の墓」として庶民に広まったのは遅く、火葬の社会インフラが導入された明治時代以降と言われています。意外と歴史が浅く、それまでは土葬が中心でした。

現代では、多くの人がほぼ「自動的」に火葬されて「家の墓」に入るわけですが、ヒアリングではそうした「家の墓」が「なくていいなら、楽でいいよね」と答える人も多くて。「家の墓」がただ慣習として残っているだけなのだとしたら、今の時代に合わせた別の選択肢がもっとあってもいいはずです。

── そこに循環葬があると。

はい。実際、今の時代に新しく長方形のお墓を買う人というのは、全体の2割以下と言われています。その代わりに増えているのが樹木葬で、このシェアがこの5年間で倍に増えています。

日本のお墓の市場規模は約4000億円と言われていますが、そのうち樹木葬が1200億円ほど。それはこれからますます伸びていく可能性がありますが、逆に言えば選択肢が少ないから樹木葬に流れているだけとも言えるような気がします。

そこに私たちの循環葬がもうひとつの選択肢として現れたことで、どのように市場が変化していくのか。現在の樹木葬需要の1割程度に食い込んでいくことが目標です。

私が「私」よりも大切にしたいもの

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Return to Natureの森は、生前から森林浴の場として利用することができる

── 循環葬は現在、能勢妙見山のみの運用となっていますが、今後の拡大予定はあるのでしょうか?

今、東京を中心に関東からのお問い合わせを多くいただいていて、確かな需要を感じているところです。場所としては都心から2時間以内で行けるような森で、地元のお寺さんと連携してやっていきたいと考えています。

鎮守の森という言葉もあるように、お寺さんは大きな森を持っていることが多いです。ですが、大きな森を持っていればいるほど管理費もかかってくるので、宗教法人としての経営に苦心されているお寺さんは少なくありません。そこに循環葬という新しいビジネスを通じて森をつくっていく私たちの考え方を提案していきたいです。

日本は国土の7割が森林ですが、今は林業の衰退だったり、管理者の高齢化などでかなり多くの森が放置されています。そしてそれはこれからどんどん増えていくとも言われています。森の有効活用という観点で、私たちの事業がお役に立てることはあるはずです。

ただ、現状では法律の問題もあり、私たち民間でできることは限られています。私たちは日本中にある森を守っていきたいので、それが法律によって規制されている現状はロビー活動を通じて変えていきたいです。

── 循環葬は、エンディングの選択肢を増やしたいという思いに、森の保全という観点が掛け合わされた独自性のあるリジェネラティブなビジネスだと思います。最後に小池さんにとっての「死」とは何かを聞かせてください。

私は、まわりの方々の記憶から私が消えたときが「死」だと思っています。私は墓標を残したいと思わないので、忘れ去られて消えるならそれでいい。むしろ、私が「私」よりも優先したいのは、残された人たちの気持ちや暮らし、そして美しい自然です。

それを考えると、私のなかで祖父母もデザイナーの先輩もまだ亡くなっていません。物理的な「死」は、かならずしもその人との永遠の別れじゃないと思うんです。

深い森のなかで自然を感じながら、笑顔で大切な人を送り出す体験はとても豊かなものです。それをぜひ多くの人と分かち合いたいなって思います。

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