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数字で証明、女性登用は株価を上げる! 最新の調査研究から見えた多様性ある組織の経済合理性

    

サストモ編集部

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写真:アフロ

「女性管理職を増やすと、長期的に株価は上がる」と示したのが、ESG(環境、社会、企業統治)と企業価値の関連を明かす「柳モデル」だ。日本企業は女性役員比率がG7で最低など、女性の意思決定者が極めて少ないが、「柳モデル」を確立した元エーザイ株式会社CFOの柳良平さんは「女性の登用が進まないのは、それが企業価値を高めると会社のトップが腑に落ちていないからでは」と提言。矢野経済研究所の清水由起さんにも、ビジネスの打開策として注目の高まるジェンダード・イノベーション(性差の分析による発見から創出するイノベーション)がどのように多様性を生かす組織づくりを加速させるのかを聞いた。

女性登用が長期的な株価(企業価値)を左右する

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女性の登用によって企業にどのような経済的メリットがあるのか。

そもそも株価(企業価値)は、株主からの出資と会社が稼いだ留保利益の累計額が乗った「数字として目にみえる価値(財務資本)」だけでなく、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本と呼ばれる「数字として目に見えない価値(非財務資本)」にも左右される。

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資料提供:柳良平

柳さんは、非財務資本の中でも、「企業の『人的資本』への投資の仕方を見直すことでPBR(株価純資産倍率=株価の水準を測る指標)が向上する」という仮説を立てた。それを検証するのが、その相関関係を推計する統計手法を用いた「柳モデル」だ。

「会社にとっての目に見えない価値の中で、私が価値として一番大きいと考えたのは、『組織の中で働く人の価値』でした。株価は見えない価値を織り込んで決定され、それによって企業価値(会社全体の経済的価値)は決まるものですが、『では人の価値というのはどのくらいPBR、つまりどのくらい企業価値を高めるのか?』ということを検証することにしたんです」

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資料提供:柳良平

人材への投資を増やしたり、女性管理職や女性役員を増やしたりなど、柳モデルをエーザイに当てはめて将来予測した結果を聞くと、「女性管理職を1割増やすと7年後のPBR、単純に言うと株価あるいは企業価値が2.4%上がるという結果が出ました」という答えが返ってきた。

TOPIX2,000社で柳モデルを回した結果、95%の信頼度で企業価値を高めると証明

これまで、KDDI、NEC、日清食品ホールディングス、JR東日本、アサヒグループホールディングス、コマツなど数十社が柳モデルを採択し、男性中心だった意思決定の場に女性を増やせば長期的に企業価値が高まるという関係性を出している。

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資料提供:柳良平

2024年夏には、日興アセットマネジメントと共同で調査した「TOPIXへの柳モデル適用による企業価値向上の検証結果」が論文で発表される。

それによると、TOPIX(東証株価指数)が対象とする約2,000社・18年分の指標に柳モデルを適用したところ、「女性管理職・執行役員・取締役比率」が企業価値(PBR)と正の相関があることが示唆されたそうだ。95%の信頼度で、統計学的に有意な結果が得られているという。

「これが大きいのは、『女性を登用することが企業価値を高めると証明されている』という前提に立って、会社の中でも外でも冷静な議論をすることができるようになることです。ジェンダー平等、ダイバーシティ推進が価値を生むことを信じることができれば、もっとトータルパッケージでの組織改革が加速するはず。柳モデルは、その流れを数字的根拠で後押ししたい」

柳さんの研究の中で興味深いのは、女性の管理職を増やせばPBRは高まる一方で、女性の従業員だけ、あるいは、女性役員だけを増やしても、さほどPBRを高めないという結果が出ていることだ。「女性管理職と女性役員を"セット"で増やすことで、一層PBRが上がる」という。

「研究から言えることがふたつあります。ひとつは、女性社員を増やすと企業価値は高まりますが、管理職や役員などで女性を増やしたほうが、より企業価値が高まるということです。もうひとつは、ただ女性の数を増やせばいいという『形式主義』ではダメだということ。研修制度や育児支援の充実、テレワークも含めた働き方の柔軟さを持つことなど、育成過程を見直してトータルパッケージで会社を改革しなければ、女性の管理職も執行役員も取締役も増えません」

なぜ日本で女性の登用が進まないのか

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写真:アフロ

近年は、女性が活躍することによる経済の活性化や労働者・消費者としての女性のパワーへの注目を指す「ウーマノミクス」という言葉も聞かれるようになった。

ゴールドマン・サックス社がまとめた『ウーマノミクス5.0』では、「女性のフルタイム勤務が増え、男女の労働時間格差が(先進38カ国からなる)OECD平均まで改善すれば、日本のGDPが最大15%向上する」と試算されており、世界銀行も「ジェンダー平等の実現はそれ自体重要であるが、経済合理性があり、人々の生活を改善するものである」と2011年時点で結論づけている。

政府は、東京証券取引所プライム上場企業の役員について2030年までに女性比率を30%以上とする目標を掲げている。

だが厚生労働省の2022年度「雇用均等基本調査」によると、企業の管理職に占める女性の割合は12.7%、役員の割合は21.1%。役員については先進7カ国(G7)が30%、40%を超える中で最下位である。

経済協力開発機構(OECD)からは「人材の致命的な配分ミスがある」と2019年から指摘されてもいる。

意思決定者が男性に偏り続けている原因を、柳さんはふたつ挙げた。ひとつは、JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー、伝統的な日本企業を指す)的な組織運営だ。

「女性の登用の進まなさの原因のひとつは、大企業を中心とした『男性は総合職、女性は一般職で補助的な仕事に集中する』といった日本の伝統的なモデルに、『年功序列・終身雇用』という伝統的な企業文化が合わさってのことと見ています。硬直的な企業文化・運営が最近、ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーと言われていますが、まさにそれによるものではないかと。1986年に男女雇用機会均等法が施行されても女性管理職や役員が何十年と増えなかったのは、年功序列・終身雇用という壁があり、要職につくには一定の年数が必要だったからでは」

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写真:アフロ

もうひとつは、経営層の意識不足によるものと見ている。

「2023年からは有価証券報告書に女性管理職の数や男女の賃金差の開示が義務付けられるようになり、プレッシャーを感じている経営者は多いと思いますが、経営トップの中には過去の成功体験があり、女性を登用していくことのメリットが本質的に腑に落ちていないのではないかと見ています。それ故に皮相的な数合わせやリップサービスに終始しているのではないかと思うのです」

ジェンダード・イノベーションが組織改革の後押しになる

男性中心の上層部に女性を登用するなど、経営層が組織改革を進める意識はどのようにしたら生まれるのか。

ジェンダード・イノベーションを巡る企業活動を調査する清水由起さんは、「多くの企業は営利を目的とした組織であるため、女性を登用したり、未だ男性に偏る研究開発の分野に女性を増やすといった内部を変える動きは、ビジネスとして可能性を見出せてこそ加速するもの」と考える。

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矢野経済研究所・清水由起さん

近年注目が高まるジェンダード・イノベーションは、生物学的・社会的な「性差」を考慮した分析を行いイノベーションを創出する概念だが、清水さんは「性差」というレンズをかけて市場を開拓することが、企業組織内のダイバーシティ推進の契機になると考える。

「とある国内の乳業メーカーでは、フェムテック(女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス)市場が盛り上がる中で、ミルク成分に女性特有の体の悩みにアプローチできる可能性を見つけ、そこから女性研究者を増やして女性に向けた健康食品を開発しました。それ以外にも、市場の動向を見て、『この商品は男性だけでなく女性にも求められている』というニーズを見つけた時に、女性がマーケティングのトップに立ったり女性比率を高めた組織に変わるといった順番であることが多い。市場の動向や可能性によって組織が動くというのは女性登用に限った話ではなく、若い世代がターゲットになる場合は若い社員が積極的に登用される、といったことにも当てはまります」

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さらに、日本におけるジェンダード・イノベーションは、消費者の「お困りごと」から生まれてきたケースが多く、組織の変革もそれに伴ってのパターンが多いという。

「たとえば今では一般的になったメンズコスメ市場で言うと、ある製薬会社が男性の肌トラブルに対してスキンケア商品を開発したのは、『ドラッグストアでスキンケアの売り場に行きづらい』『男性用のものがないから仕方なく女性が使っている商品を買っている』という男性の悩みに着目したことから。こういった命や生活に直結する商品・サービスを中心に取り組みが進んできて、それ自体は素晴らしいことですが、『これは男性が使うもの』『女性が使うもの』と無意識のうちに刷り込まれている消費者が自覚していない潜在的なニーズがもっとあると思っています」

消費者が自覚していないニーズを掘り起こすことが今後の鍵であり、それが組織の新陳代謝を加速させ、経済的メリットにつながる。

「企業向けワークショップも開催させていただいていますが、性差への多様な視点を持つために、参加してくださる方々には、『自分とは逆の生物学的な性差と社会的な性差を考慮したときに、どんなニーズがあるか』を考えてもらっています」

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