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ゼロ・ウェイスト宣言から20年目の葛藤と、自ら選んだ持続可能な未来

    

サストモ編集部

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人口約2,000人(※)だった徳島県上勝町(かみかつちょう)が、日本や世界から注目されるきっかけの一つになった「ゼロ・ウェイスト宣言」

  1. 地球を汚さない人づくりに努めます。
  2. ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします。
  3. 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!

ゼロ・ウェイスト宣言 2003より引用)

焼却炉を購入・維持管理するコストや、ごみを埋め立てる最終処分場の敷地確保のむずかしさなどから、ごみを分別して資源化する取り組みを上勝町では2003年から開始。結果、リサイクル率は80%を超え、日本はもちろん世界からも、その仕組みや地域の在り方を学びにさまざまな人々が訪れています。

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写真提供:上勝町

そして、ゼロ・ウェイスト宣言を達成する目標だった2020年。13年の歩みを振り返り、2021年には新たな宣言が上勝町で採択されました。

  1. ゼロ・ウェイストで、私たちの暮らしを豊かにします。
  2. 町でできるあらゆる実験やチャレンジを行い、ごみになるものをゼロにします。
  3. ゼロ・ウェイストや環境問題について学べる仕組みをつくり、新しい時代のリーダーを輩出します。

ゼロ・ウェイスト宣言 2020より引用)

順風満帆に見える、上勝町のゼロ・ウェイストの取り組み。そのど真ん中で、清濁合わせ飲みながら上勝町とともに生きてきた人物が、合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)代表の東輝実さんです。

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「一年くらい前に比べて、憑き物が落ちた感じ」と笑う東さんに、外から見える華やかさからは分からない泥臭さや葛藤を聞きました。

東輝実

代表社員 徳島県上勝町出身。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや、東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。大学卒業後、上勝町へ戻りRDNDを起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年ゼロ・ウェイストをベースとした上勝町滞在型プログラム「INOW(イノウ)」を共同創業者としてスタートさせる。2021年上勝町よりゼロ・ウェイスト計画策定事業を受託。その他、、上勝町ゼロ・ウェイスト推進員、上勝町総合戦略会議委員をつとめる。(INOW公式サイト より)

面白かったはずなのに、どうして苦しいんだろう

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── 東さんは上勝町出身ですよね。新しいゼロ・ウェイスト宣言が採択され、地域として二周目に入ったような印象を受けるのですが、町の変化をどう感じられますか。

今まではこちらから発信しなくても、ゼロ・ウェイストや「葉っぱビジネス」で知られる「株式会社いろどり」に注目した方々が自発的に来てくれていました。そのため、いわば自分たちで「どうやって上勝町を伝えていこうか」と考える必要がなかったんです。

「地方創生」や「地域での起業」「SDGs」「サステナブルツーリズム」など、時代とともに生まれる様々な言葉とともに、上勝町を取り上げてもらってきました。でも最近は「上勝町としてどうありたいか」を私たち地域側から発信していく重要性を感じています。

── そう感じるようになったきっかけは?

新しいゼロ・ウェイスト宣言が採択される時期だったことと、個人的な気持ちの変化が影響してると思います。

ゼロ・ウェイストに関しては、私が中学校に上がったころから始まりました。当時は今のようなごみステーションではなく、道路際にコンテナを置いて、住民はそこにごみを持って来ていました。私も学校が休みの日は、空き缶を洗ったり、集めたごみを積み込んだりする手伝いをしていましたね。

そういう生活が当たり前だったから、ゼロ・ウェイストに関して、あまり深く考えずに受け入れていました。ゼロ・ウェイストについて考えることは当たり前だし、いつか貢献したいとずっと思っていたから、大学を卒業したあとに地元の上勝町に戻って来ました。

でも一年くらい前「どうして上勝町を選んだの」という質問に、すぐ答えられなかったんです。「私は本当に自分で選んだのか?」って立ち止まってしまって。

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子どもの頃から無条件にゼロ・ウェイストが良いものだと思い込んでいただけで、自主的に考えて選んではいなかったかもしれない。そう思い始めた瞬間に、いわばアイデンティティクライシスが起こりました。「私は今まで何をやってきたんだろう」状態。初めて「ゼロ・ウエイストって何だろう」と考え始めたんです。

── それまでは、ゼロ・ウェイストに疑いを持ったことがなかった。

そうですね。ただ、町外から来る方と話すうちに、町外と町内の人たちの感覚のギャップの広がりに違和感を感じ始めてもいて。 町外から来る人の多くは「上勝町の人たちは、みんながゼロ・ウェイストに賛同して、町内の商店はすべてパッケージレスで、完璧な町」という期待を持っています。でも数日、上勝町に滞在したあと、がっかりして帰っていく人もいる。町にもいろんな人がいますし「完璧な町」はやっぱり難しいので。

私も自問自答を繰り返す中で、苦しくて仕方なくなりました。ごみは全然ゼロにならないし、町内の方々とのコミュニケーションも一筋縄ではいかないし。

中学生の頃「ABU未来への航海」という、アジアの7カ国から集まった同世代の子どもたちが沖縄から横浜まで一隻の船に乗って、地球の環境問題について考えるプログラムに参加したことがありました。当時、上勝町のゼロ・ウェイストをプレゼンする機会ももらい、上勝の取り組みが世界に通用すると感じた経験でした。

その頃に感じた、世界とつながるおもしろさやカッコ良さみたいなものが、全然感じられなくなってしまった。「面白かったはずなのに、どうして今こんなに苦しいんだろう」って。

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写真提供:上勝町

── その葛藤からはどんなふうに抜け出したんですか?

私はごみ処理方法よりも、ゼロ・ウェイストに取り組むことで、どんなふうに考え方が変わったり、どんな人と繋がれたりするのかという可能性に興味があることに気づいたんです。

2020年に差し掛かり、新たにゼロ・ウェイスト宣言をするかしないか検討が始まった時期、地域の方々に「あなたにとってゼロ・ウェイストとは何ですか」と聞いてまわりました。そしたら、60個ぐらいアイディアが出てきたんです。ごみのリサイクルと表現する人もいれば「棚田」「晩茶」と答える方もいて。

一般的な定義に基づけば、ゼロ・ウェイストは廃棄物をゼロにすることだと思います。でも、上勝町では廃棄物ゼロだけを指すのではなく、いくつかのレイヤーに分かれている。そして目指したい未来や受け継いでいきたい地域の伝統も多様です。

オーストラリアでは「フリーウェイスト」という定義で取り組んでいる地域があります。廃棄物ゼロという目標は定量的だから、そこに囚われず、ごみというものから解放される生活ができる社会をつくろうという考え方です。そうするとごみだけでなく、暮らし全体に視野が広がって、もっといろんなことが考えられるようになるんです。

現状、上勝町のごみはゼロにはできていないけれど、定量的な評価だけでは、達成できているかいないかの二択になってしまいます。だから地域の伝統を紡げているか、その紡ぐ方法にゼロ・ウェイストはどのように役立っているかを認識して「上勝町のゼロ・ウェイストの定義はこれ」と共有する重要性を感じました。私はそのためのコミュニケーションを、ちゃんと取りたいと思っています。

中庸を極めて地域を編集する立場に

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上勝町のゼロ・ウェイストの活動のハブとなる拠点「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」。2020年4月に旧ゴミステーションをリニューアルしてオープンした。町唯一のごみ収集場としての機能をはじめ、ラーニングセンターや宿泊体験施設「HOTEL WHY」などを併設している(写真提供:上勝町)

── 地域の過去と未来、地域の中と外とのつながりを言語化して理解することは、町のあり方を考える上で重要ですよね。

そうですね。アイデンティティクライシスに陥ったとき、私は新しい何かを作ることより、誰かと誰かを繋いだり、組織の中間に入ったり、 翻訳や通訳をしたり、間合いに入るのが得意だと気づきました。RDNDを作ったり、カフェを運営したりしているのも、異なる世代や分野の人たちを接続するためです。

私が好きな言葉も「中庸」なんです。自分にとっての正解が、他の人にとっては正しくない可能性があるからこそ、どうやったら客観的な視点を持てるかとか、多角的に物事を見えるかに興味があります。だからゼロ・ウェイストに関しても「私たちはこう考えるけど、あなたの地域ではどうですか?」というやり取りをするのが好きだし、向いている。そう気づいたのが、ここ1、2年でした。

── 様々な価値観や考え方の人やものの間に入って、繋いでいく。東さんは地域にとってそんな存在なんですね。

新しく作った一般社団法人「amu」の名前も、編み込んでいくとか編集の「編む」が由来です。

amuでは、ゼロ・ウェイストを目的として、上勝町に来たい企業やメディアの問い合わせの総合窓口を担っています。役場から委嘱を受けたメンバーもいるので、小中学校の授業の受け入れや、町内外のゼロ・ウェイストに関する普及啓発も行なっています。2030年を目処に実現を目指す、上勝町のゼロ・ウェイストタウン計画の実行部隊でもあり、そのための町内における実証実験や町民向けの勉強会の開催なども企画、開催しています。

── 上勝町は知名度もあるので、プレイヤーはどんどん集まってきていると思います。そんなプレイヤー同士が繋がってない課題意識があったということでしょうか。

自分で何かをやりたい人たちの場合は、それぞれが自力でできるから、繋がらずに完結してしまう面もあって。あとは、新しく上勝町で何かを始めたい人たちも、最初は地域の取扱説明書みたいなものがないから、分からないことも多いですよね。例えば「このタイミングで、なぜ草刈りする意味があるんだろう」と感じることもあるかもしれません。

でも、すべての地域の暮らしをロジカルに説明できるわけではないですし、その体感が分からないと町内に新しく来た人も地元の人も、お互いに不信感が募ってしまいます。だから私のような人間が必要だと思っていて。誰かが何かするときに「とりあえずやってみよう」って思える環境を作れる人になりたくて、地域にとっての中間管理職のような立ち回りをしていますね。

上勝町や母に育ててもらった分を返したい

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ただ、私が上勝町出身だからなのか、町外から引っ越して来た人たちに「東さんのやることは正解」「東さんに挨拶しないと」と思われると「まずいな」と感じます。

ゼロ・ウェイストタウン計画を設計したり場を主催したりする立場になると、発言力も自然と高まっていきます。私の発案で予算がつくこともありますが、その度に上勝町の大切なお金や資源を無駄にしてはいけないと、毎回恐る恐るです。自分が無知であることを忘れず、教養を高めないとと思います。時には意思決定をしていくこともありますが、まだ怖い感覚はありますね。

── 意思決定が怖い。

何かを選ぶということは、何かを選ばないということですよね。誰かの意見が反映されるかもしれないけど、反映されない人もいる。あちらを立てたらこちらが立たずで、最終的に出来上がるものが中途半端になってしまう不安もある。私の母だったら「険しい方を選べ」と言うでしょうけど。

── 東さんのお母さんは役場の職員さんで、上勝町のゼロ・ウェイストへの取り組みを始めた方だったんですよね。今の東さんの動きは、お母さんの影響を受けているのでしょうか。

そうですね、母は、ゼロ・ウェイストを推し進めようと孤軍奮闘していました。寝ないで働いていたと思うほどのパッションだったし、地域からの反発もあっただろうし、そんな中で私や兄弟を育てながら生活を作っていくのはすごく大変だっただろうと思います。母は10年ほど前に亡くなりましたが、その頃から「次の上勝町を作らなきゃ」という危機感がずっとありました。

上勝町に帰ってきた当時は、「母の遺志を継いでカフェを開業」という表現で取り上げてもらうことも多くて。確かに間違ってはいないんですが、カフェは私がやりたくて始めたのに「どうして全部が母の遺志を継いでいるストーリーに乗せられてしまうんだろう」と不満でした。

ただ、私自身が母になったり、歳を重ねたりする中で、広い目線で見られるようになってきて。歳を取るって、素晴らしいですね(笑)。自分がどれだけ上勝町や母に育まれて来たのか、すごくよく理解できるようになりました。だからこそ、INOWプログラムを始められたのかもしれません。今度は自分が人を育む側になりたい、と。

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ゼロ・ウェイストや田舎の暮らしを理論や実習を通して学び、自己内省を促すためのきっかけとして提供される滞在型ラーニングプログラム「INOWプログラム」。参加者は、上勝に住む人たちと日常を共にする中で、自分自身についての考察を深めていくことができる。さらにその学びの過程において、INOWのコーディネーターが上勝と参加者との架け橋となる役割を果たす(INOWプログラム公式サイトより)

── 今後、東さんは上勝町で具体的にどんなことをしていきたいか、思い描いているイメージはありますか。

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上勝町を知ってる方々の中に、Z世代と呼ばれる若者があまりいないんです。一方で、上勝町に興味を持ってくれる若者は、サステナビリティを自然に理解したり意識的だったりしますが、知識はあるけど自分は何ができるか分からないと感じていたり、手応えが欲しいと感じていたりする子も多いです。

だから例えば上勝町でお味噌の作り方を教わったり、毎日飲むお茶を自分で摘んで作って飲み、出涸らしは畑に還す流れを体験できたりするといいなと思います。今の時代、上勝町の暮らしがサーキュラーやゼロ・ウェイストの文脈で、楽しいものだと認識してもらえることも多いです。そう感じてもらえる実験が、上勝町でもっとできたらいいなって思っています。

\ さっそくアクションしよう /

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