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豊かな未来のきっかけを届ける

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廃棄されるはずだった魚が地域を救う! 対馬の熱き主婦、犬束ゆかりさんの挑戦

「この魚たち、廃棄されるんだとしたら、どうにかできないかと思ったんです。主婦だからすぐもったいないと思いますし、焼却して二酸化炭素を出すとしたら、なおさらなんとかしなきゃと」

この「魚たち」を美味しくいただくために立ち上がった一人の女性の軌跡をたどります。
2019年の「第7回Fish-1グランプリ」で優勝した犬束ゆかりさんです。

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犬束ゆかり

1965年対馬生まれ、対馬で育つ。対馬で結婚、夫の飲食店を手伝いながら子育てをしてきた主婦。
2016年 食害魚の調理を試みる
2019年 食害魚と本格的に向き合う
2019年 第7回Fish-1ファーストフィッシュ部門で食害魚イスズミのメンチカツ(そう介のメンチカツと命名したもの)でグランプリを受賞。
    全島の給食で食害魚が提供されるようになり、現在も続いている。
    地産地消等の食育にも力を入れている。
2022年 漁業者が海の楽しさ、豊かさ、課題を語る体験ツアーを開始。地元漁業者の所得向上と海の課題を色々な方と共有し考えてもらう(海遊記)をつくる。

食害魚として嫌われる厄介者でも根絶やしにはしない

皆さんは「食害魚」という言葉を聞いたことがありますか?

「食害魚」とは海藻などを補食し漁業資源を減少させたりするため、問題視される魚です。
具体的には、今回取り上げる「イスズミ」がそれにあたりますが、犬束さんはこれらを新しい水産資源として捉えました。

2016年頃、行政の方からイスズミによる磯焼けと、駆除されたイスズミが税金で焼却されているという話を聞いた犬束さんの最初の言葉が冒頭のそれです。
「イスズミが藻場を荒らしているとは知りませんでした。ましてそれで磯焼けが起こってるということも知らなかったんです」と当時のことを振り返りました。

磯焼けとは、海藻がなくなり、海が砂漠化する現象です。イスズミはこの海藻を餌としているのです。

海藻たっぷり捕食している
写真提供:犬束さま

人生100年時代の今、折り返し地点での快進撃が始まる

それでも犬束さんはイスズミを根絶やしにする必要はないと考えます。
主婦として、そして飲食店経営のアイデアが光りました。

犬束

桜チップでいぶして匂いを消し、スモークイスズミみたいなのを作りました。他に油で揚げてフリッター南蛮もあります。チキン南蛮のイメージです。甘酢をかけたり、タルタルソースをつけて食べてみたり。でもこの頃はまだ遊び程度だったんですよね

転機となったのは2019年でした。
食害魚対策として対馬市が動き出しました。その時、行政が訪ねたのが犬束さんだったのです。

犬束

(動き出すのが)遅いよ、という感じでしたね(笑)海の中では猛スピードで磯焼けが進んでいるのに私一人ではどうしようもできない状態でしたから、行政の協力はありがたかったです

ここから犬束さんは本格的にイスズミの活用に取り組み始めます。

犬束

誰が食べても、いつ食べても美味しいものをイスズミで作りましょうと考えたのがメンチカツです。イスズミは油が少ないので冷凍に強いという特色を生かして商品化しました

その時、前述のFish-1グランプリのことを知ります。当時、まだ50代の働き盛りの犬束さん、仕事も家庭も少し力を抜いて、メンチカツ作りに心血を注いだと言います。
地元の漁業関係者への働きかけも熱心に行いました。

犬束

対馬の島内組合長会があるのですが、そこへ、鍋やお玉を持ち込んで試作品を食べてもらいました。ライブパフォーマンスですね

こうした活動が実を結び、行政は更に、イスズミの活用を支援するようになりました。

犬束

補助金が下りるようになったんです。物流業者、運搬者、イスズミを取った人や、それを加工する人の分も対馬市が買い上げてくれるという仕組み作りです

増え続ける食害魚
写真提供:犬束さま

一人の主婦の「もったいない精神」が地域を巻き込み一大事業へ発展

そしてついに、Fish-1グランプリで優勝しました。HPでも購入できるようになりました。
こちら、名付けて「そう介のメンチカツ」。

試食させていただいたのですが、お世辞ではなく、とても食べやすかったです。プリプリしていました。

また、イスズミだけでなく、同じく食害魚のアイゴを使用した商品はチリパウダーを使用し、カレー風味。小学生の息子はとても気に入っていました。

食害魚のアイゴを使用した商品はチリパウダーを使用し、カレー風味。
写真提供:犬束さま

犬束

普通の状態では非常に厄介で臭い魚です。各地の困りものです。
しかしながら工夫さえすれば、美味しい資源になりますし、特にアイゴなどは、新たなたんぱく源にもなります。私は、食害魚の絶滅を望んでいるわけではありません。
海藻の生育と、魚の食圧のバランスが合えばよいと思っています。適正数が保たれることが大切です。海の中で全ての生物が豊かに暮らせることを望んでいます

しかし、その工夫がとても手の込んだものであることも話してくれました。

犬束

2020年には、以前と同じような手法でメンチカツを作ったにもかかわらず、臭いのあるものができてしまったんです。原因は処理の仕方だったと思います

3枚におろした魚を水で洗って血を抜く「水さらし」という工程があるのですが、その作業が短かったような気がする、と犬束さんは分析します。
「工夫」と簡単に言っても、このような失敗から得た経験を元にしているのですから、それは時間、経験、知恵の賜物です。

私はそれは、犬束さんがこの対馬で生まれ育ち、結婚をして子育てもし、この対馬を愛しているから、その海の生き物さえ家族のように思う。根絶やしにはしないという強い愛情があればこそできるのだと思いました。

私達は、犬束さんの活動に学ぶべきことがあると思います。
イスズミもアイゴも、好きで食害魚として生まれてきたわけではありません。他の魚と同じ命です。
野菜もそうです。形の悪い野菜も整った形の野菜と味に代わりはありません。食べられるものです。
工夫すれば何の問題もなく、美味しく食べられ、廃棄する必要もないのです。
一つの事例から類似例を見つけ、その課題を問題解決していく。ほんの少しの探究心が、より良い世界への扉を開きます。

  • 取材・文REAL DOCS編集長/ドキュメンタリー考察ライター 栗秋美穂

        

     https://real-docs.com

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