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鉄腕DASHでおなじみ! 海を荒らすウニに廃棄キャベツを与えてプリプリに。マイナスの掛け合わせが海を救う?

    

Gyoppy!

神奈川県水産技術センターの臼井一茂さん

マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになる。

数学では当たり前の計算式ですが、現実世界でこれを実現しているものを探そうとすると、なかなか思いつかないですよね。

「ムラサキウニ」という名前の生き物をご存知でしょうか?

長い棘と紫色の体が特徴的なこのウニは、温暖化による大繁殖が原因で、ずっと海を荒らす厄介者として扱われていました。

しかし昨今、そんなムラサキウニのユニークな活用方法が話題となり、鉄腕DASHやガイアの夜明けでも取り上げられるほどの注目が集まっています。

片や、海藻の芽を食べ尽くしてしまう上に身もスカスカだったムラサキウニ。

片や、形が悪くて売り物にならない廃棄のキャベツ。

その2つを掛け合わせることで、身がプリプリであま~い「キャベツウニ」を生み出してしまうという、なんとも夢のような話がすでに実現しているのです。

お話を聞いたのは、神奈川県水産技術センターの臼井一茂さん。

臼井一茂さん

臼井さんは、各地の産品を使った商品開発や食品研究を行う一方で、世界で初めて「キャベツウニ」の養殖を成功させた第一人者でもあります。

キャベツウニって一体なに?
どのようにしてキャベツウニは生まれたの?
キャベツウニから考える、未来を見据えた漁業の形とは?

臼井さんに、沢山の質問をぶつけてみました。

海藻が消えた? 温暖化によって起きた海の異変

── これまで神奈川県ではムラサキウニの養殖は行っていなかったそうですが、始めたきっかけは何だったのでしょうか?

まずそのお話をする前に、日本各地で問題となっている「磯焼け」という現象について説明する必要があります。

── 磯焼け......?

磯焼けとは、海中の海藻がなくなってしまう現象です。その原因のひとつとして、温暖化があります。海水温の上昇で、南方系の魚がこちらでも越冬できるようになり、その魚たちが海藻を食べ尽くしてしまうんです。その魚の内のひとつがアイゴという魚なのですけど。

── アイゴとはどんな魚なんですか?

アイゴは植食性なんです。いわゆる植物を食べる魚ですね。海藻は岩場にくっつくための仮根部と、茎部、葉部にわかれていますが、越冬したアイゴは葉の部分をすべて食べてしまいます。そうなると、そこにいたウニは残った部分を食べるしかありません。

通常海藻は、茎部の上の方にある成長点の芽が残っていればまた生えてくるのですが、餌不足のウニが芽まで食べてしまいます。海藻は陸上野菜と違い、一度全滅するとなかなか戻らない。それによって、磯焼けが発生します。

海藻がなくなりウニだらけの岩場

── 磯焼けにはどんな問題点があるのでしょうか?

海藻を餌にする生物がいられなくなります。サザエやアワビがそれに当たりますね。そこで、私たちは海藻を食い荒らすアイゴとウニを駆除することにしました。ですが、いくら駆除をしても、ウニだけはどんどんと増える一方だったんです。

── ウニってあまり動かないですよね。駆除はそんなに難しくなさそうですが......。

アイゴは網で獲ればよいですが、ウニを駆除するためにはひとつずつ水揚げして陸上で割るか、地域によっては深いところに沈めるなど、非常に手間がかかります。加えて、餌不足のウニは身がまったく入っておらず売り物にならないため、漁師のみなさんも採りたくないんです。

そうするとどうなるか。ずっと生き残っちゃうんですよ。ウニって寒い時期だったら、餌を食べなくても3ヶ月間ぐらい死にませんから。

その結果、今は1平米に100個体くらい楽にいます。通常、ウニにしっかり身が入るための理想の生息数は、1平米あたり2個体未満。食用に適さないウニばかりがたくさんいる海になってしまったんです。

偶然の連続とひとつのアイデアによって生まれた「キャベツウニ」

── 駆除しようにも処分にはコストもかかりますよね。どのように問題を解決したのですか?

ウニの雑食性に着目しました。たまたまうちのOBでウニの研究をしている方が、こんなことを言っているのを小耳に挟んで。「ウニって雑食だから、何でも食べるよね」と。

もし本当に何でも食べるのであれば、産卵の時期だけ養殖して身が入れば売り物になるんじゃないかと考えたんです。

── それで、海藻の代わりになる餌を探したんですね。

はい。私は食品の研究をしていますので、海藻と野菜に成分としての違いがあまりないことを知っていました。基本的には同じ炭水化物ですので、身が出来ればラッキーといった具合で、最初の年は近くに生息するムラサキウニを十個体ほど集めて、小さな水槽で色々な物を食べさせてみたんです。

まず最初は、このセンターがある三崎の名産品であるマグロの切れ端を食べさせました。その他にもパンの耳やおからとか、いわゆる食品残渣(ざんさ)ですね。それこそ私のお昼のうどんや白米も与えたところ、全部食べたんです。ただ問題がひとつありました。

── 問題とは?

食べ続けなかったんです。そこで野菜にしてみました。その時期はちょうど冬場頃だったので、大根の葉っぱやその辺の雑草など、いろんなものを与えてみました。すると葉物に関しては、よく食べることがわかりました。

海藻以外のものも「食べる」ことを確認したので、翌年には、ウニの産卵期である7月頃に向けて、4~6月の3ヶ月間だけ餌を与えて身が入るか、実験してみました。ちょうどその時に入手できた野菜がキャベツだったんです。

── たまたまだったんですね!

はい。もしウニの産卵がもう少し早い時期だったら、大根にしていたと思います。幸い、神奈川には農業技術センターという研究所がありましたので、最初はそこからキャベツをわけてもらって始めてみました。すると、ウニはキャベツを食べ続けたんです。

一般のウニの養殖現場では、餌となる昆布を与え続けると食べ飽きてしまうので、間に違う餌を挟んでまた昆布を与えるそうです。でも、こちらに生息しているムラサキウニは、キャベツを食べ飽きることなく、ずっと食べ続けたんです。

キャベツを食べるウニ

── 普段主食にしていた海藻よりも、食べ続けたんですね。飼育の結果はどうだったのでしょうか?

飼育して3ヶ月が経った頃、試しにウニを割ってみると、身が入っていたんです。それも食用品として販売するための線引きである10%を超えた身入り率でした。さらに味について調べてみたところ、甘味成分が天然のウニよりも多いことがわかりました。

── ええー!

また、キャベツは本来の餌である海藻と異なり、たんぱく質や磯臭さの原因となるにおい成分が溶け込んだ脂を持っていないので、甘くて苦味がなく、そして臭みがない、まるでフルーツのようなウニの養殖に成功しました。

── ということは、ウニが苦手な人でもキャベツウニなら食べることができる?

そうですね。それに加えて、三浦はキャベツの大産地であるため、ウニの飼育時期にはたくさんのキャベツが作られます。しかし、その内の約1割が流通規格外として、売ることができずに捨てられてきたんです。それが今はウニの餌として利用できるようになりました。

地域の使われない産物を組み合わせることで、流通コストをかけずに新しい特産物を生み出すことができたのが、今回の研究の成果ですね。

飼育中のウニ

広がっていくキャベツウニの輪

── その後、どうやってこの取り組みを広げていったのでしょうか?

まず、2017年の4月に記者発表をしました。その2週間後に朝日新聞が取材をしてくれて、GW明けに全国区で小さく記事が出たんです。そして、それを見た朝日新聞の違う担当者が「これだけではもったいない」ということで、デジタル版で大きく拾ってくれました。すると次の日にYahoo!ニュースのTOPに載ったんです。

そこから連日取材の依頼を頂くようになりました。最初の3ヶ月間で問い合わせが1000件程あったんです。

── 1000件! やはり水産関係者からの問い合わせが多かったのでしょうか?

いえ、そのほとんどが異業種からの問い合わせでした。たとえば、自動車部品工場の空いた倉庫スペースや、建築業で余ったコンクリートの構造物など、空いている場所を有効活用して、副業的にキャベツウニの飼育をできないかと考えた人が大勢いたんですね。

また、翌年には海外のニュース番組でも取り上げていただき、海外からの問い合わせも増えました。

── 海外からも!

今や温暖化は日本だけではなく、世界中で進んでいます。特に赤道直下はエルニーニョ現象の影響で海水温が高くなってしまい、メキシコ湾の海藻がほぼ全滅してしまいました。そしてそこに生息しているウニも身がまったく入っていない。日本とまったく同じ現象が起きているんです。

壁一面に貼られた新聞の切り抜き記事

── では、キャベツウニの養殖は広まりつつあるのでしょうか。

現在神奈川県では、三浦市城ヶ島、横須賀市、小田原市の3ヶ所に加えて、川崎市の市場内にある空き店舗で飼育をしています。ちなみに川崎市の市場では、スーパーへ野菜を袋詰めして出荷する際、一日約100kg近くの端材が出るため、その有効活用ということでウニの飼育が始まりました。

こういった取り組みは、流通や市場の関係者にも応援していただき、横須賀市では3つ=1000円で実際に販売もされました。小田原のスーパーではひとつ400円で売られました。

── 元は0円のウニがそんな値段で取引されるようになったんですね。

ただ、この取り組み自体始まったばかりですので、全国的に見ればまだ少量です。今やキャベツウニとは、ただ単にキャベツを食べさせたウニだけを指しているわけではなく、海藻以外で育てられたウニという意味でも使われています。

── と、言いますと......?

一般のウニの養殖現場では餌となる海藻を購入して与えていますが、それは非常にコストがかかります。そうではなく、地域の廃棄野菜を活用することで、地元の産品を食べたウニとして各地のブランドになったらいいなと。たとえば山口県ではミニトマトやアスパラガスが産品ということで、それらを使ってウニを育て始めました。

── 神奈川はキャベツウニ、山口はトマトウニやアスパラガスウニといった具合に発展しているんですね。

これだけ情報をオープンにしているので、今後はより全国、全世界的に広まっていくと思います。初めはゴミ0なんて大きくは言わず、まずは自分たちで出来る範囲のことをひとつずつやっていくこと。そうすることで、少しずつ温暖化やゴミ問題への解決に繋がればと考えています。

バケツに入ったキャベツ

── その結果、地元のブランドになれば最高ですね。......お話を聞いている限り、悪いところがまったくないという印象なのですが、なにか課題はあるのでしょうか?

強いてあげるとすれば色ですね。

うちで育てているムラサキウニに関して言うと、中身があまり入っていない個体は、身の色が黒ずむことがあるんです。そうなると美味しそうに見えないので売り物になりません。なので、その色をよくする方法を研究しています。

「色素を食べていないから黒くなる」と言う方もいますが、色素が無かったら白くなるはずなんです。黒は色素が化学反応して生まれる色ですから。黒くなるのは、何らかの理由で酸化していると思われます。

それを改良する方法がわかれば、より全国の様々な所で飼育できると考えています。

過剰供給の世の中で、これからの漁業の形とは

── 本当に可能性に溢れていますね。臼井さんはキャベツウニを通して、どんな世の中になったらよいとお考えですか?

私は水産物の研究云々の前に、食べることが大好きです。なので、各地にキャベツウニの飼育方法が広まって、時期によってトマトウニやブロッコリーウニやみかんウニといった地域別の産品を用いたウニが食べられるようになったら、嬉しいです。

さらに、世界中で温暖化や資源不足が問題となっていますので、そういった地域に技術を教える。その結果、日本に還元されるという形になったらいいですね。

── 豊かさが循環していくということですね。そうなるために、これからの漁業はどのように変化していく必要があるのでしょうか?

もう豊富な資源なんて存在しないと思ってほしいです。水産物の多くは、天然物です。人が、飼育・栽培したものではないキャベツや豚って食べたことないですよね。つまり、ほとんどの食べ物は養殖されたものなんです。これだけ天然の物に頼っているのは、水産業だけと言っても過言ではありません。

だからドーンと獲っちゃうと途端にいなくなってしまう。理想の形は少しずつ獲って加工から調理までを手掛けて利益を得る、複合型漁業。漁業が成り立つ程度の収入を保ちつつ、資源に優しい供給量に切り替えることができれば、素材の扱いも丁寧になり、余計なゴミもでなければ、エネルギーコストもかかりません。

今は物が豊富に溢れる世の中です。過剰供給であるとも感じます。もし資源がなくなってしまった時にどうなるのか。そういったことを今一度考えてほしいですね。

キャベツを持つ臼井一茂さん

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