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豊かな未来のきっかけを届ける

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「その場しのぎの合意形成」の積み重ねがコロナにも通ずる日本の問題?

Gyoppy! 編集部

日本地図
画像:アフロ

「SDGs」や「エシカル消費」といった言葉の認知が日本でも広がりはじめ、できるだけ環境に配慮したもの、持続可能な生産方法でつくられたものを選ぼうという意識が、消費者のなかにも芽生えはじめているように感じます。私自身も、その内のひとりです。

しかしながら、世界第3位のグローバル・マーケティング・リサーチ会社「イプソス」によって、2020年に世界23カ国に対して行われた消費者意識調査では、「持続可能な漁業で獲られた水産物を買うべき」と答えた日本人は40%。対して、世界では80%にも及びます。

日本では18~24歳の若い世代は水産資源を守るための意識があるのは3割程度で、それより上の世代はさらに低いという調査結果もあります。"それより上の世代"である私たちは、下の世代に豊かな海を残すために、知るべきことがたくさんあるように思います。

大きな漁港のある地方で生まれ育った私は、子どもたちに魚食文化を残すために何ができるのか考えるようになりました。これまでもGyoppy!では、漁業や海の課題に関する様々な取り組みを紹介してきましたが、いまいちど、日本の漁業が抱えている課題の根本にあるものは、なんなのか? 詳しく知りたいと思いました。

そこで今回は、以前の記事「サンマが獲れないのは中国のせいじゃない? メディアが伝えない不漁の真実」でサンマの漁獲量の問題をもとに日本の消費者の意識について教えてくれた、東京海洋大学の勝川俊雄さんに取材をしました。

勝川俊雄さん

聞けたのは、

「日本は、目先の利益ばかりを追い求めてきた」
「日本人は、目標に向かってがんばることは得意だが、目標の妥当性を評価できない」
「その場しのぎで合意形成をしてきた」

といった耳の痛い話......。

さらにこうした問題は、消費や漁業だけではなく、太平洋戦争も、昨今の新型コロナウイルス対策においても、通じていると言います。今、消費者が知ったほうがよい現実を、聞いてきました。

目先の利益ばかりを追い求めてきた日本

勝川さん

── 今日は日本の漁業における根本的な課題についてお聞きしたいです。まず前提なのですが、日本は漁獲量が減っていますよね。自然のサイクルであったり、環境の変化といった要素だけでなく、資源管理ができていないことにより減ってしまった魚はどれくらいいるのでしょうか?

ほとんど全部ですよ。日本では、魚が減っている原因を地球温暖化や環境変動のせいだと思っている方が多いですよね。でも、世界の漁獲量が減っているかというと、そうではないんです。

たとえば米国やニュージーランド、ノルウェーなどの国では、水産資源の9割くらいは良好な状態を維持できているんですね。日本だけが地球温暖化で魚が減るなんてありえないわけです。

── それらの諸外国は、資源管理ができている。

はい。同じ先進国でも漁業が儲かっている国はたくさんあります。たとえば、1980年代ころまで日本よりも酷い乱獲で漁業が低迷していたノルウェーは、資源管理を徹底したことで今では漁業が成長産業になっています。そういった事例を知ると可能性が見えてきますよね。

── しかしながら、そういった海外のやり方を見習おうという動きにならないのはなぜでしょう。

漁業に携わっている人は、生活のほとんどを海の上で過ごします。地元の漁場や漁業については詳しくても、きちんと資源管理されている海外の漁業については知る機会がないんです。世界中どこでも、日本と同じように漁業が衰退していると思っています。また、魚が減ったのは地球温暖化や中国が原因で、自分たちは被害者であるという意識もあります。

── そもそも、日本の水産業はなぜ衰退してしまったのでしょう。

日本の水産業も1970年代くらいまでは成長産業だったのですが、その仕組みは戦後の焼け野原になった状態から、当時の最適化された枠組みでスタートしたからこそでした。時代の変化とともに変えなきゃいけない仕組みもあったのですが、そこを変えずに、これまで"場当たり的"に獲り続けてきてしまった。目先の利益ばかりを追い求めてきたんです。

── 日本は柔軟に変化することができなかったんですね。

日本の漁業がよかった時代は、製造業も世界的に強かった時代です。やらなきゃいけないことが決まっていれば、いいものをより効率的に作ればいい。そういうわかりやすい目標に対して、みんなでがんばって効率をあげることは日本人って得意なんですよ。

「魚をたくさん獲りましょう」とがんばって世界一位になったし、「いいものを効率的に作りましょう」とがんばって工業でも一番になった。それは素晴らしいことですよね。

オンライン取材の様子

── たしかに、私たちが学んだ教科書には、そういう景気のいいことが書いてあった気がします。

ただ、一度うまくいくと「その目標が果たして妥当なのか」と誰も考えなくなるんですよね。食糧難の時代には動物性タンパク質の確保が急務でした。また、当時は200海里の排他的経済水域が無かったので、他国で好きなだけ魚を獲ることができた。「魚をたくさん獲りましょう」というのは、当時の状況では妥当な目標だったのです。

戦後70年以上が経過し、状況は大きく変わりました。200海里が設定されて、海外の漁場から閉め出られるなかで、「たくさん獲りましょう」を続けていたら、日本周辺から魚がいなくなるのは当たり前。「持続可能な方法で魚を獲ったうえで価値を高めましょう」という風に目標を変えなきゃいけなかったんです。

日本人は、漁業に限らず、将来のことを考えて、これまでのやり方を構造的に変えるということが、とても苦手なように思います。

現状維持を続けると未来の選択肢が失われていく

── 魚が獲れなくなった原因について、私自身、つい数年前までは「適正な資源管理ができていない」と知りませんでした。消費者レベルで見つめ直すことも多いのではないでしょうか。

そうですね、消費についてしっかり考えるべきですね。

うなぎでたとえると、今は資源も減ってうなぎ屋さんも廃業していき、なかなか食べられなくなっています。でも90年代後半くらいまでは、スーパーでレトルトパックのうなぎが数百円で山積みになって売られていたんです。これらは、ヨーロッパウナギの稚魚を買い付けて育てた、中国産の養殖うなぎでした。

安いからと日本で食べすぎたことにより、ヨーロッパウナギは資源が枯渇し、2008年に絶滅危惧種に指定されたのです。

そういう持続可能性を無視した"乱消費"によって、未来のうなぎを食べつくしてしまった状況と言える。当時、何も考えずに「安い安い」と食べていった人たちは、未来の世代のうなぎを奪って安く食べていたという見方もできるわけです。

勝川さん

── もちろん当時、未来のうなぎを食べ尽くしてしまっていると自覚していたわけではないとしても、そういう状況になってしまっていたと。

はい。でも、その時点で知っていれば別の選択肢があったわけじゃないですか。厳しい言い方をすると、漁業の現場も、消費の現場も、自分たちで自分たちの未来を破壊している状況なんです。

持続可能な漁業にするためには、適切な資源管理やコストがかかります。現時点では、それを無視して「安ければ何でもいい」と、たくさん獲る漁師が勝ちになっている。でもそうやっていくと、未来の消費の選択肢がどんどん失われていってしまうわけです。

同じように、先のことを考えずに「今の自分がよければそれでいい」という消費の仕方では、漁業の乱獲と同じように、未来の世代に迷惑がかかるけど、今の自分にとっては利益になる。

── 漁業の現場で起きている問題と、消費の現場で起きている問題は似ているんですね。

本質的には同じです。未来の全体の利益よりも、目先の個人の利益を優先すると、漁業だと乱獲になるし、消費だったら持続可能性を無視した消費になる

漁業者っていうのは魚を獲るのが仕事だから、「獲って何がいけないんだ」という意識があるんですよね。消費者は消費者で、「なんで消費者がそんなことまでわざわざ考えなくちゃいけないの」というのが本音でしょう。

── 魚が減っている理由を知るだけでなく、消費のあり方を見つめ直す必要がありますね。

日本人の多くは「安くて品質がいいものを買うのが賢い消費者だ」と思っているところがありますよね。持続可能性を無視した消費を続けると、結局は、自分たちの選択肢を狭めてしまう。逆に、持続可能な商品を買って応援すれば、生産者や小売りも取り組まざるを得なくなって、サプライチェーン全体を変えることもできる。自分たちの行動による"可能性"に気付かないまま、正しく使えずにいる状況が日本にはたくさんあって

消費者レベルで言うと、魚が減っていること自体はなんとなく知っていても、「その原因が自分たちの消費である」という意識は低いですよね。

勝川さん

── 海外では消費者の意識から違うんでしょうか。

世界の30カ国くらいで「持続可能な漁業で獲られた水産物を買うべきか」と質問すると、「YES」と答える日本人は40%しかいない。世界最下位でした。日本の次に意識が低かったのはロシアなんですが、それでも73%がYESと応えている。日本だけ消費者の意識が群を抜いて低くて、日本人は「自分たちには関係ない」って思っていることがわかるんですよ

内陸の国とか、水産と縁もゆかりもない国ですら、8割くらいの人が「持続可能なものを選ばなきゃだめだよね」って話しているにもかかわらず、こんなに水産物が身近で魚食民族だと自負している日本だけがこんなに世界とかけ離れた結果になっている

── ここまで"自分ごと化"できないのはなぜなんでしょう。

教育とメディアだと思います。日本だと「消費者の権利」についてはよく語られるけど、「消費者の責任」や「消費者の義務」といった概念がないですよね。「お客様は神様です」の国だから、お金を払う以外の義務が発生すると思っていない。そこの意識を変えていくためには、教育やメディアの力が必要だと思うんです。

メディアが変われないのは、需要と供給が成り立ってしまっているから

── 以前、勝川先生のインタビューでもメディアの問題について触れていました。ひとつの解決策として、「メディアが変わればいい」という答えがあるかもしれませんが、そう簡単には変わらないわけで......。

そこはなかなか難しいですね。メディアの人に対して疑問をぶつけたことは過去に何度もあるんですが、人によって答えが違ったのが印象的です。

たとえば地方では、「地元の漁業の問題点を書いたら、次から取材に応じてもらえなくなるから」と言う記者がいました。一方で大手の新聞社の記者は「我々は権力と戦うためにやっているから、小規模の漁民とかをいじめるような記事を書きたくない」と言う。

── いちメディアの人間として、その事情も理解できてしまいます......。

読者も「日本の一次産業の問題点」よりも、「がんばる生産者を応援したい」という記事のほうを読みたいでしょ? だからそういう記事を書きたがるっていうのは需要と供給の関係なんでしょうね。

最近は、とりあえず中国を悪者にしておけばよいという風潮を感じます。「中国が魚をたくさん獲るせいで魚が減った」というストーリーに落とし込んでおけば、国内の漁業団体から苦情も来ないし、消費者としても「やっぱり中国のせいか」と納得感があります

そういうポジティブな評価が得られると、記事を書いた記者にとってもうれしいじゃないですか。自分たちのことを責めなくてよいから、受け入れられやすいんです。

勝川さん

── 悪い人がいるというよりも、みんなが納得するものが現状をつくっている感じがします。

いろんな問題って紐解いていくと、悪いやつがいて、とんでもないことをするっていうよりも「自分もその立場だったらそうしちゃいがちだよね」ということが、積み重なっているなと思います。

「行動を変えたら未来は変わる」は、希望である

── 漁業の現場で起きていること、消費の現場で起きていること、メディアや政治など、根本にある問題は同じなんだとすごく感じました。

漁業と消費に限らず、日本が本質的に持っている課題があって、それが至るところで同じような構造的な問題を引き起こしていると思うんです。太平洋戦争で敗北に至るプロセスと、今の日本の水産業で起きていること。さらには、コロナの場当たり的な対応なども根っこの部分は同じだと感じています。

「とにかく構造的なことは考えないで、問題を先送りして、世論を見ながら、その場をしのぐ」ということを繰り返しているんですよね。

でも、未来の社会や国益を考えた場合には、多少反対があっても、構造的な問題に向き合わないといけないこともありますよね。

漁業でたとえるなら、漁獲量を制限しようとすると漁業者は反対するかもしれないけれど、未来のことを考えたら、説明して理解してもらわなくてはならない。日本では、場の空気を読んで、みんなが嫌がるからという理由で、構造的な問題から逃げてきました。

勝川さん

── 「空気を読む」とか、「情緒を重んじる」のが得意な日本人だからこそ起こっている問題だと。

だからこそ、空気ではなくビジョンをもって政策を決めていき、理解を広めていく努力が大切ですよね。空気に流されるのではなく、空気を入れ換えることも時には求められます。日本の政治を見ているとみんなが無関心なときには内輪だけで何事も決定し、みんなの関心が高まると、そもそもどうあるべきかという本質論を蔑ろにして、世論に迎合してしまう。きちんと説明して納得を得るプロセスが必要だと思うのですが。

── 子どもたちのことを考えると、今の大人たちが変えていかなくてはならないことが多いと思うのですが、構造的な問題を根本から変えるにはどうしていけばいいのでしょう......。

希望を持ちながら、正しく絶望することだと思います。現実から逃げている限りは、どこにも進めません。このままでは未来が無いという、「救いようのない現実を直視すること」がスタート地点です。そこで自暴自棄にならずに、未来をどうやってよりよい方向に変えていくかを冷静に考えることです。

── 今、とても絶望しています。ここがスタートですね。

後は、我々自身も問題の一部であるという当事者意識をもつこと。自分も関与していると言うことは、自分がやり方を変えると未来は変わるということなので、ある意味、希望なんです。

たとえば温暖化や中国は、我々にはコントロールしきれないですよね。こういう外的な要因のみが問題だとすると「俺たちは悪くない」って思える半面、「天に祈るしかないよね」ってなっちゃうじゃないですか。

日本の漁業に問題があり、日本が国内の政策を変えたり、消費者が持続可能な水産物を応援したりすることで、現状を大きく変えていける。関わっているからこそ、変えることもできるのです。

日本は持続可能性をここまで無視してきたのに、いまだに漁業が存在するのはある意味すごいことです。漁場の生産性は高いし、魚を美味しく食べるノウハウも持っている。「持続可能な方法で魚を獲ったうえで価値を高めましょう」という漁業を目指して方向転換をすれば、ポテンシャルは世界で最も高いと言えます。

「自分の行動を変えることで、自分の未来を変えることができる」というのは夢がある話です。どういう風に変えていったらいいのか、みんなで探していくっていうのはすごくクリエイティブでおもしろいことじゃないですか。

さいごに

勝川さん

日本のあらゆる問題の根底にあるのは、中長期的な視点で課題に向き合わず、その場しのぎで合意形成してきてしまったこと。ニュースを眺めていても、国民からの反対意見が出たとき、きちんと説明がなされずに立ち消えになっていることがままあるように感じます。

勝川先生はメディアの人間である私たちに対し、「根本的な問題をきちんと扱えるメディアをつくっていくことが、子どもたちによい世の中を託すことになるんじゃないですか」と話していました。

消費者としても、メディアの人間としても、子どもたちの世代に豊かな海や海産物を残すためにできることがまだまだあるように思います。Gyoppy!では、その可能性をこれからも探っていこうと思います。

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