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心地よさのために、人にも地球にも余計な負荷をかけない。あるコーヒーショップの考え方

    

サストモ編集部

サステナブルやSDGsという言葉をよく耳にするようになった昨今、多くの企業は環境への取り組みを始めている。

そんな中、環境への意識が高まる前からサステナブルを意識し、様々な試みを行ってきたコーヒーショップがある。都内を中心に4つの店舗を展開するONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)だ。

彼らの試みは、さとうきびストローの導入をはじめ、コーヒー豆のトレーサビリティ強化や生産地へのツアーなど、街のコーヒーショップとは思えないほど幅広い。

どの試みも、それなりに手間とコストがかかるだろう。人気のショップであるONIBUS COFFEEとはいえ、グローバルに展開する大企業のように大きな予算をかけて取り組むことはできないはず。

まして今はコロナ禍でもある。普通に考えたら目先の利益を追求したくなるところを、どうして彼らは環境のために努力を続けることができるのだろうか。

代表の坂尾さんはこんな風に語る。

「心地よい場所をつくるために、自分たちができることはなるべくやっていこうという感じ。心地よさの要因を突き詰めていくと、人への優しさや地球に負荷をかけないことにつながっていくんじゃないかなあと思ってます」

「地球環境のために」を第一義にするのではなく、あくまでコーヒーショップとしての「心地よさ」の先に環境への視点があった。コーヒーという食材を取り扱う彼らならではの視点について、お話を伺ってきた。

ストロー、金継ぎ、コーヒーかす。原点は途上国で見た風景

── ONIBUS COFFEEは、早い時期から環境に配慮した取り組みをされていると思うのですが、実際にお店ではどういったことをされているのでしょうか?

たとえば、ストローはさとうきびストローやステンレスにしています。アイスコーヒー用のグラスは、廃棄されるはずのワインボトルから作られたものです。

あと、できるだけ長くカップを使い続けられるように、割れたり欠けたりした部分を金継ぎしています。

他にもコーヒーかすを生ゴミとして捨てない仕組みづくりにも挑戦したり。コーヒーかすを水に濡れた状態のまま生ゴミとして出すと、多くのCO2を排出してしまうんです。でも、コーヒーかすって有機物なので本来だったら土に戻るもの。だったら土に戻る形にしてあげようということで、落ち葉や他の資材と混ぜて発酵させることで堆肥化しています。

作った堆肥は、法律上そのまま販売することができないので、薄めて土と混ぜることで培養土として店舗で販売しています。家庭用のプランターとかに使っていただけるようなものを、コーヒーショップの店頭でも販売するんです。

あとは販売するコーヒー豆の農園はできるだけ自分で訪れて、農園の状況や労働環境を確認したり、生分解性のある素材でできたコーヒー豆の袋を自社輸入して使うなどもしています。

── 様々な取り組みをされてるんですね。なぜこういった環境に配慮した行動を積極的にやっていこうと?

計画性があって戦略的に進めてきたわけじゃないんです。目についたもので自分たちができることは、なるべくやっていこうという感じ。

ひとつのきっかけとしてあるのは、ショップを開く前に、バックパックで途上国を回っていたことです。その頃から社会問題に関わるようなことがしたいなと、漠然と思ってました。

貧困やゴミ問題を間近で目にしながら旅をしていく中で、いつか自分がお店をやるときには、何かしらの問題に会社として向きあえる状態にしたいと考えるようになりました。

── バックパッカーのときに目にした問題って、どういう風景だったんでしょうか。

たとえばチベットあたりを回ってるときに「去年まではここまで氷河があったけど、今年はここまで減っちゃった」というのを目の当たりにしたり。

ボランティアで出会った学校に行けない子どもたちやインドで仲良くなったストリートチルドレンの子たちとの思い出もあります。コーヒーの買い付けで中米やアフリカに行くと、同じような風景を目にすることもあります。だからこれは、コーヒーに従事する自分たちだからこそやるべきことだと思っています。

コーヒーという食材の成り立ちがどうしても搾取的というか、消費国と生産国の関係で成り立っているので。それを扱う企業としては、甘んじてものを横に流していくだけの作業にはしたくない。

生産地から遠く離れた日本でコーヒーを扱う立場として、この問題といかに真摯に向き合っていけるかということは考えてはいますね。

入り口の古材は千葉県の酒蔵・寺田本家から譲り受けたもの。他にも、至るところに再利用した資材が
2020年末には、コーヒー豆の袋を石油由来から植物由来のプラスチックに変更した

美味しさや楽しさの裏側にある価値観の輪を広げていく

── ONIBUS COFFEEとして、環境への配慮を啓蒙していきたいっていうのはあるんですか?

お客さんに積極的にそういった話はしていません。なので取り組みについて接客時に話したり、POPを作ったりは全然していないです。

── こんなにも色々なチャレンジをされているのに、なぜ積極的に伝えていかないんでしょうか?

僕たちはまず飲食店なので、美味しさや楽しさを味わってもらいたい気持ちが最初にあります。

同時に、僕らのお店のあり方として「自分たちの店があることで地域が豊かになったらいいよね」というビジョンを持っています。僕たちの試みに気づいてくれて、地域に自然とそういう人が集まってくるようになったらいいなとは思っていますね。

僕らがよく言うのは、お客さんがお金を払ってものを買ってくれるのは投票だということです。僕自身も何かを買うときには、なるべく知ってる人がいたり価値観の近いお店で買うようにするのですが、ONIBUS COFFEEのお客さんにもそういう人が多いと思っています。

だから、自分たちの接客やサービスの中でファンを増やしつつ、同じ価値観の仲間が増えていくことは意識しています。店舗で接客することで僕らの人柄と一緒に伝えていくことができますし。

現在、ONIBUS COFFEEは4店舗あるのですが、各店月間4000~6000人ぐらい来るので、合計約2万人前後のお客さんとそうやって価値を共有していくことは、すごく大きな力になるんじゃないかなと考えています。

── そういったポリシーを持ってお客さんと接してきた中で、ここ数年で意識が変わってきた印象はありますか?

少しずつですが、変わってきてるとは思います。最近はコーヒー豆を買うときに、自分で保存容器を持ってきてくれる人もいますよ。

── ゆるやかな価値観の共有を目指しているんですね。

店舗ではあまり発信しすぎないバランス感覚は大切にしてます。その中で、もう一段深く価値を共有するための体験をしてもらうことも意識しています。より深いところを伝える取り組みとして、ワークショップや生産地ツアーなど、深度を変えながら、いろんなフェーズで体験ができるようにしていますね。

その一環として、3年前にはコスタリカで生産地ツアーをやりました。コスタリカってサステナブルの文脈でもすごい進んでいるので、コーヒーだけじゃなくてサステナブルコミューン的なところも見ることができたのがよかったです。

なるべく楽しみながら実感してもらうのがいいかなと思っています。

心地よさを追求したら、人にも地球にも優しくなっていた

── 坂尾さんの目線は自分たちの店舗だけに留まらず、常にお店を取り巻くコミュニティや地域にまで向いているんですね。

僕らがコーヒーやり始めたときって、おいしいコーヒーがあって、ショップに人が集まって、小さいコミュニティができることで地域がよくなるんじゃないかと思っていました。

でも心地よさの要因を突き詰めていくと、人への優しさや地球に負荷をかけないことに繋がっていくと感じます。人が集まったときに感じる心地よさは、ものを選ぶときの価値観が似ていることにも通ずるので。

── 今後、社会はどのようになっていくといいんでしょうか。

結局のところ個人の力だけでは難しいことが多いので、やっぱり行政による大きな動きが必要だと思っています。でも行政だけでは動きづらいこともあるだろうし、いち個人としてできることは、やっぱりしていかないといけない。

個人でもできることを、みんなができる社会になったらいいなと思います。それはお店を選ぶとか、何でもいいと思うんです。

── ONIBUS COFFEEとして、今後の新しい取り組みはありますか?

今、紙コップリユースのためのアプリを作っています。紙コップって製造時に森林伐採や大気汚染の原因になるだけでなく、使った後も海洋汚染や焼却時のCO2排出にも繋がっていて。さらに、紙コップってフィルムが貼られているのでリサイクル率も非常に悪いんです。

使い捨ての紙コップを減らすためにリユースカップを自分たちだけじゃなくて、いろんなお店でシェアしていきたいと思っています。レンタルしたカップは他のお店でも返却できるようにして、それをアプリのQRコードを読み取ることで管理するような仕組みを考えています。

環境にいいことをするときに肩肘張って頑張ると疲れちゃう。だから生活の中で自然に、何かをちょっと変えるだけで環境負荷を減らせるようになったらいいなと思っています。

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