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豊かな未来のきっかけを届ける

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成毛眞さんの語る2040年「最悪の事態」とは。だからこそ知っておきたい未来予測

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

「20年後、私たちは一体どんなふうになっているのだろう?」

そんなことを考えたことはないでしょうか。

20年後といえば、私は55歳に、うちの息子たちは30歳と25歳になっています。そのとき日本が、世界がどんなふうになっているのか......。

環境問題はもちろん、そのほかの問題も山積みなことはわかるのですが、20年後に何がどうマズくなっているのか、それまでに何をすべきなのかは、よくわからないのが正直なところです。

そんなときに読んだのが、今年発刊された成毛眞さんの『2040年の未来予測』でした。

この本には、今後20年の間にどんなことが起こるのか、あらゆるデータをもとにした、あらゆる分野の予測が書かれています。経済、環境、天災に至るまで、読んでいるとゾッとするようなことばかり。これらが今後高確率で起こるというのだから途方に暮れてしまいます。

思わず思考停止になりそうですが、成毛さんはあとがきでこう語っていました。

「最悪の事態を想定しながら未来を描いておけば、あなたの人生はそれよりも悪くなることはない。そして、そのシミュレーションができていれば、あなた個人に待ち受ける未来は、何も知らずにいたときの景色とは違ってくるはずだ」


また、成毛さんは本書の中で「テクノロジー」が持つ可能性について繰り返し書いています。だとすればこの「未来予測」は悲観するためのものではなく、テクノロジーに対しての動き方や考え方を変えるきっかけのためにあるのかもしれません。

「最悪の事態」を前にした私たちは、この20年の間にどのように生きるべきなのでしょうか? どのようにテクノロジーと付き合っていくべきなのでしょうか? そして成毛さんはこの未来予測に対し、どこに希望や可能性を感じているのでしょうか?

そんな問いを持って、著者の成毛さんにお話をうかがいました。

成毛 眞(なるけ まこと)

1955年北海道生まれ。元日本マイクロソフト代表取締役社長。1986年マイクロソフト株式会社入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、書評サイトHONZ代表も務める。『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』(KADOKAWA)、『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』(SB新書)など著書多数。

この20年間に確実に起きる大きな変化

── 『2040年の未来予測』を読み、これまでぼんやりと感じていた未来への不安感がはっきりと言語化されたような気持ちになりました。まず成毛さんは、なぜ今このタイミングで『2040年の未来予測』を書かれたのでしょうか?

一番の理由は、南海トラフ地震と首都直下型地震がもうすぐやってくるからですね。地震学者や火山学者の話では、南海トラフ地震は30年以内に70〜80%、首都直下型地震は70%の確率で起きると言われています。まさに、今この瞬間に起きてもおかしくない。そしてこれらの地震が起きると、日本はほぼ終わるんですよ。

── ほぼ終わる......。

そう。南海トラフ地震が起きると東日本大震災の15倍は被害者が出るし、約13倍の経済的被害が起こると言われています。すると円安に振れてしまって、為替や株式市場がボロボロになりますよね。そうしたら政府はどんどんお金を刷らないといけなくなって、結果的にハイパーインフレが起こります。

首都直下型地震について言えば、富士山の噴火も引き起こすかもしれません。もし噴火したら非常にヤバい。火山灰が2ミリ積もると電車が動かなくなって、5ミリ積もれば車が走らなくなるのですが、今の予想では首都圏内に10センチ積もると言われています。上下水道に火山灰が流れ込んだら、水も飲めなくなる。2か月以上復旧しないと、下手すると餓死者が出てくる危険性もあります。

── すごい状況ですよね。本でそれを読んで、ゾッとしました。

天変地異だけじゃありません。医療費も年金も、どう考えてもこの先破綻します。2025年には団塊の世代が後期高齢者になるから、それだけでパンクする。今65歳以下の方の年金は、延々支払っている金額の半分が戻ればいいところじゃないかな。

そしてこの先どんどん高齢者が亡くなると、空室の中古住宅が一気に出てきます。すると不動産の価格が暴落する。今一所懸命マンションを買っても、20年後にはほぼ負債になっていますよ。

でも、それらは政府が悪いんじゃなくて人口が減るからなんです。これはどうしようもないですよね。急に増やせないですから。

── そうですね、どうしようもないですね......。

あとは地球温暖化も、大きな変化をもたらしています。特に、海はすごいスピードで変わってきていますよね。大気の熱をどんどん吸い取って水温が上がっていって、獲れるものも変わってきているでしょう。地球が壊れるとしたら、海から壊れていくんじゃないでしょうか。

海の温度が上がると、北極やグリーンランドの氷が溶け出します。その溶け方次第では、海流がいつ変わってもおかしくなくて、するとヨーロッパの気候が一撃で変わるんですね。2003年にもヨーロッパで熱波が起きましたが、そのせいで4万5千人も亡くなっています。とんでもない数の方が被害に遭っているので、ヨーロッパは地球環境問題にとても真剣なわけです。

また、ヨーロッパで気候が変動すると偏西風の蛇行が激しくなって、アメリカの上空でヒートドームができます。それが原因で、カナダで50度近い気温になったこともありました。そういうふうに地球上の全然関係ないところで、連動して異常気象が起きている。中国の洪水も日本の台風も、温暖化による気候変動によって起きるものです。

さらに温暖化によって水不足や食糧不足も進み、もしかしたら戦争が起きるかもしれない。このままいくとヤバいって、みんなわかっています。だから必死になってEVを持ち込んだり、CO2を減らそうとがんばっているんですけど、もはや食い止める手立てがない状態です。

── 冒頭からいろんなトピックスについてお話いただきましたが、どれをとっても本当に厳しい状況ですよね。どうしようもないというか......。

そうなんです。この本に書いているのは、よくある60、70歳になったおじいちゃんが「今の若い者はだめだ、今の政府はだめだ」って悲観的になって国を憂えているのとは全然別の話なんですよ。この20年以内にほぼ確実に起こる変化だけで未来を推測した本なんですね。

天変地異、人口動態の変化、医療費と年金の破綻、不動産の暴落、ひいては財政の破綻まで、今言ったことがこれからの20年間に起こるわけです。そういうレベルの変化が起こるのはほぼ確実なんだけど、それでもみんな前を向いてがんばって生きていこうねっていう(笑)、そういう本なんです。

「国に頼るな、個人で生きろ」

画像:アフロ

── ......あの、この本を読んだとき実はかなり暗い気持ちになったんですけど、今のお話を聞いて、改めて救いがないなと思ってしまいました。

救いなんてないですよ。でも救いを求めるのだとしたら、もう「個人で生きていく」しかないってことです。例えばもし南海トラフ地震が起こったら、東日本大震災の10数倍の復旧コストがかかって、国債は破綻して日銀券は暴落します。そうしたらもう、個人で生きるしかないですよね。政府に頼っても何もしてくれませんから。この本のあとがきにも書いています。「国に頼るな、自分で生きろ」と。

── はい、書いてありましたね。「今、これを読んでいるあなたは、国を忘れて、これからの時代をどうやって生き残るのかをまず考えるべきだ。どうすれば幸せな人生を送れるかに全エネルギーを注ぐのをオススメする」と。

そう。この本で言いたいのはただひとつ。「個人で生きろ」ということなんです。「みんなでがんばろう」なんて言ってる場合じゃない。

だって、これまでみんなでがんばっていいことがありました? 政治が変わりました? 政府も大企業も何も変わらないじゃないですか。私も含め、SNSでどれだけワーワー言ってもたったひとつの小さなことすら変わらない。驚くほど、息を呑むほど、この国は変わらない。

それならもう、日本から逃げて個人で生きざるを得ない。だから私が言いたいのは、「日本から逃げて、個人で生きろ」ということなんです

── 日本から逃げて、個人で生きる。

100年、200年の単位で考えると、今後かなりの人口が減るでしょう。半分くらいになっていてもおかしくないですよ。その時に、自分の子孫が生き残っているかどうか。

そうなった時、特に今年齢が一桁の世代は厳しいと思います。寿命は延びるのに生きる環境は過酷。紛争はそこらへんで起こっていて、地球は異常に暑くて、どこかしらで熱波と台風と地震が起こっている。そういう時代で生きるんですから。

── うちの子供が今まさにその世代なのですが、「個人で生きる」ためにどんな教育をしたらいいのでしょうか。

「自分さえ生き残れたらいい」と覚悟を決めろ、という教育をすべきですね。社会のことは、考えない。一人ひとりがそうやって覚悟を決めることができたら、日本はすごくいい国になります。

生き残るために必要なのは、英語とテクノロジー

画像:アフロ

── まさに「国に頼らず自分で生きる」覚悟を持つということですね。だけど、自分が生き残るために必要なことって何なんでしょうか?

英語とテクノロジーを身につけること、それが第一だと思います。アートとか音楽とかスポーツとか、世界で通用するプロになれるような人はそもそも生まれた時から天才なので、努力して目指しても無駄だけど、英語とテクノロジーは後天的に身につけられるでしょ?

── 英語を身につけるのは、日本の外でも生きていけるためにですか?

それもあるけれど、単純に話者の数が多いからです。中国やアメリカの力が強いのって、人数が多いからなんですよね。中国の人口は14億人以上、アメリカも世界中の英語圏から人を連れてくるとやっぱり15億人くらい。同じ言語の話者の母集団の0.1%が天才だとすると、話者の少ない日本よりも、アメリカや中国には10倍も天才がいることになります。

テクノロジーを生み出すのは天才たちなので、話者の母集団が大きくなると、そこでテクノロジーが生まれやすくなるんですね。逆に言えば、だからヨーロッパにはGAFAのような企業が生まれないんです。ドイツ、フランス、イタリアのように話者の数が少ない国では、各言語圏における天才の人数はごく少くなりますからね。さっきも言ったように天才が持つ才能は先天的なものなので、これは教育の問題じゃなくて、単純に数の問題なんです。

── なるほど。だから話者の多い言語を身につけておいた方が有利だと。

とは言え、英語を身につけただけではもちろん役に立ちません。それに加えて、テクノロジーを身につけることも重要です。

── テクノロジーを身につけるというのは、どういうことなんでしょう? 成毛さんは、「テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする」と書かれていましたが......。

はい。でもそれは「テクノロジーで地球がなんとかなる」ということではありません。もうそういう戯言を信じるのはやめたほうがいい。

ただ、あらゆるテクノロジーやサイエンスを知っておくことは重要です。プレートテクトニクスから量子力学まで、広くて浅い知識がこれからもっと必要になる。例えばこのコロナ禍でメッセンジャーRNAワクチンがどう働いているのか、なぜ有効なのか、どんな基準で使われているかなどを、記事で読んでちゃんと理解できるくらいの知識がないと厳しいと思います。

── 本のあとがきには「生き残るのは優秀な人ではなく、環境に適応した人である」とも書かれていましたが、どんな環境にも適応していくために、テクノロジーを知り活用できるようにしようということですか?

そうです。この地球上で一番変わるのはテクノロジーなんです。人口減少、天変地異、いろんなことが巻き起こっているけれど、それに対して政治も企業も、資本主義や株式市場の仕組みも、全然変わらない。だけど一方で、テクノロジーはすごい勢いで変化しています。

量子コンピュータなんか3年前には理論上の話だったけれど、今月(2021年7月)から使えるようになりましたからね。だけど、それを使って何をするか、どんな可能性があるかなんて、99.9%の人はわかってないじゃないですか。全部のテクノロジーがそう。だから、それが何に使えるのかはちゃんと知っておかないといけないんです。

素直な興味関心を持って、適応していくしかない

画像:アフロ

── 今私には10歳の子供がいて子育て真っ最中なんですが、今のお話を聞きながらどんな子育てをすべきなのかなと考えていました。もし今成毛さんに10歳の子供がいたらどんな教育をされますか? 英語はともかく、テクノロジーを身につけさせるとしたら......。

とにかくいろんな経験をさせますね。あらゆる方法であらゆる機会を与える。それしかないですよ。例えば科学博物館に連れて行って、天文、生物、物理、片っ端から触れさせてあげる。どれに興味あるかわからないから、親の趣味ばかりに偏っちゃだめです。子供の興味を伸ばしてあげないと。

テクノロジーに限らなくても、興味のあるものは全部やらせて、合わなかったらすぐやめたらいいんですよ。100個くらい体験してみたら、1個くらいはずっと続けたいって思うものが出てくるかもしれない。まあ、出てこないかもしれないけどね(笑)。

才能って、「何かにめちゃくちゃ興味がある」ってことですからね。人から「馬鹿なんじゃない?」と思われるほど何かに夢中になってしまうことを才能って言うんです。子供には、何の才能があるかわからないですから。

── それは、大人である私たちにも当てはまるのかもしれないですね。私はテクノロジーについて全くの門外漢なのですが、食わず嫌いしている場合じゃなく、機会を得て触れていくしかないのかなと思いました。

機会がない限り、最初の出会いがない限り、何も起こらないですからね。自分が何に興味があるかなんて、やってみないとわからない。わかったらつまらないじゃないですか。

── そうですね。変化に適応していくためにも、日々進化しているテクノロジーに自分から触れてみようと思います。救いのない気持ちで始まったインタビューでしたが(笑)、これから先の方向性を教わったように感じます。

深刻に考えすぎちゃだめですよ。悲観してても仕方ないんだし、「同情しなきゃ」とか「真面目に考えなきゃ」とか決まりきった感情を自分に押し付けるのは良くない。天変地異も、科学的に見れば興味深いじゃないですか。素直な興味関心を持って、適応していくしかないと思います。あとは、生き延びるための迫力ですね。

── 迫力?

そう、人に頼らずに生きていくんだという迫力です。下手に群れる方が危険。だから、若い時から似たような人ばかりでなく、個性的な人やおもしろい人にいっぱい会っておいた方がいいですよ。僕の友人には研究者やノンフィクション書籍の編集者が多いんだけど、頭のいい変わっている人ばっかりですごくおもしろいし、いろんなことを教わりますからね。

やっぱり、結局は人だと思う。人との繋がりを作るってことではなく、人の持つ情報に触れること。文字になるともう遅い。文章として書かれる前の、生の情報に触れることですね。

画像:アフロ

さいごに

「救いなんてないですよ」という言葉すら出た、今回のインタビュー。そんな未来を予測しながらも、成毛さんは一切深刻ぶらず、飄々としてどこか楽しそうですらありました。

「変わらないものではなく、変わっていくものにこそ可能性がある」

そのように考えていらっしゃるからかもしれません。

やってくる変化を恐れるのではなく、それを想定して自分もまた変化に乗じること。世界情勢とともに大きく変化している存在「テクノロジー」を知り、身につけること。それこそが「国に頼らず、個人で生きる」ということであり、今後の未来を生き残る手段なのだと、成毛さんは語りました。

「生き残るためには、幸せになるためには環境に適応しなければならない。生き残るのは優秀な人ではなく、環境に適応した人であることは歴史が証明している。

環境に適応するには環境を知ることが不可欠だ。人間は想像力を超えた現実には太刀打ちできない。最悪の事態が想定できていれば右往左往することはない」
『2040年の未来予測』「おわりに」より

インタビューを始めた時には救いのないように見えた未来予想図ですが、成毛さんのお話を聞いているうちに、「最悪の事態を想定すること」がいかに大切なのかがわかりました。恐れるためではなく、太刀打ちするために。そして、今のところその唯一の武器がテクノロジーなのだということも。

「最悪の事態」を想定していれば、それより悪くなることはない。そう考えることで、ようやく未来に向かってポジティブな気持ちになることができる。それが、今の私たちに持てる、未来への希望なのではないでしょうか。

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