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サツマイモ発電で2億円!? 焼酎日本一の「霧島酒造」が取り組むSDGsの一歩先

    

サストモ編集部

"クロキリ"の愛称で親しまれる全国で人気の芋焼酎「黒霧島」。

白麹焼酎が主流だった1990年代に発売され、その後の黒麹焼酎の人気を牽引するメガヒット商品となりました。

製造・販売する宮崎県の焼酎メーカーである霧島酒造は、伝統を守りながらも常に新しいことに挑み続ける企業です。

黒霧島の生みの親であり代表取締役専務の江夏拓三さんは、そんな社風を体現しているヒットメーカー。

黒麹焼酎の製造や、発売当時は業界のタブーだった黒いラベルデザインなど、前例を覆す試みの数々は、江夏さんのひらめきによるものでした。続いて「赤霧島」や「茜霧島」「金霧島」など次々と人気商品をつくり、霧島酒造の認知度は全国区に。

そんな霧島酒造の挑戦は商品開発だけには留まらず、"サツマイモから電気をつくる"試みを開始し、今では約2400世帯分の電気を発電しています。

でも......一体なぜ焼酎の会社が、焼酎とはまったく関係なさそうな発電を始めたのでしょうか?

その裏には、江夏さんが「地元の農家が育ててくれたサツマイモから出る焼酎かすや芋くずは宝」と考え、原料となるサツマイモをどのようにして活かし切るか、長年知恵を絞ってきた苦心の連続がありました。​​

発電にたどり着いた経緯や、企業がものづくりをする過程で出てくる排出物をどのように扱い、考えるべきかを聞きました。

火山の多いこの土地だからこそ、芋焼酎がつくれる

霧島酒造は2014年から発電事業を始めて、現在は年間で約850万kWhの電気を生み出しています。これは、約2400世帯分(※)の年間消費電力にあたるのだとか。発電した電気は一部社内で利用しますが、大半は九州電力へ売電して、年間で約2億5500万円の収入になっています(2019年度実績)。

※一般家庭の消費電力を年間約3600kWhとした場合

そんな霧島酒造が、なぜ発電を始めたのかを知るために本社のある宮崎県都城市を訪れると、本社工場から車で10分ほどの場所にある「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」に案内されました。

焼酎の里 霧島ファクトリーガーデンを案内してくれた章性民さん(右)と椎原舞波さん(左)
焼酎の里 霧島ファクトリーガーデンを案内してくれた章性民さん(右)と椎原舞波さん(左)

焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン内には、霧島圏域の自然やサツマイモに関する学術的な展示を行っているミュージアムや、焼酎製造工場の見学施設などがあり、芋焼酎がつくられるまでの工程などを楽しく学ぶことができます。

江夏さんが「芋焼酎の主な原料であるサツマイモと水が、霧島酒造やこの土地にとって大切だからこそ、我々はサツマイモ発電に辿り着いたのです」と語るように、サツマイモと水がなぜ大切にされてきたのか、というルーツは、ミュージアム内にある「シラス台地」の解説に大きなヒントがありました。

霧島酒造のある都城盆地の土地周辺は、鹿児島の桜島など火山の多い地域です。長い年月をかけて複数の火山が噴火し、火砕流(かさいりゅう)や火山灰などが堆積することで、シラス台地と呼ばれる台地がつくられました。

保水性に乏しいシラス台地は、作物を育てるのが難しい土地でもあります。そんな場所で育つ数少ない作物のひとつが、サツマイモでした。この地域で作物を育て、生きていくために必要不可欠な存在として長く親しまれてきたのが、サツマイモだったのです。

現在、霧島酒造で使用しているサツマイモのほとんどが宮崎産と鹿児島産で、約1300軒の農家が土づくりからこだわって生産してくれたものです。農家と一体となった焼酎づくりを行うことで、品質を上げるだけでなく農家のみなさんの安定した売上にも貢献できるのだとか。

そして水は、工場のある都城盆地の地下100mから湧き出す清冽な地下水、霧島裂罅水(きりしまれっかすい)を使用しています。

霧島酒造では焼酎の仕込み水や割水はもちろん、製造のすべての工程で霧島裂罅水が使われている
霧島酒造では焼酎の仕込み水や割水はもちろん、製造のすべての工程で霧島裂罅水が使われている

霧島裂罅水は、霧島連山に降った雨がシラス層や火山灰土壌を通りながら数十年の歳月をかけて自然とろ過され、地下深くに蓄えられた水です。柔らかさと清涼感を持ち、芋焼酎の味の決め手ともなる水もまた、シラス台地ならではの原料なのです。

「焼酎かす」まで大切にしたら、サツマイモ発電ができた

── 先にミュージアムの展示を見たのですが、霧島酒造の芋焼酎をつくるために欠かせないサツマイモと水は、シラス台地の恵みだということがわかりました。

この土地と、ここでサツマイモをつくってくれている農家のみなさんの存在があるから、我々は焼酎をつくることができているのです。

── では......そこからどんな経緯でサツマイモ発電に思い至ったのでしょうか?

まずは、製造過程で出てくる「芋くず」や「焼酎かす」と呼ばれる残さの問題を解決する必要がありました。生産量が多いため、製造過程で生じる芋くずや焼酎かすも大量です。1日に400トンのサツマイモを使って、一升瓶にして約20万本の焼酎を製造しています。すると、芋くずは約15トン、焼酎かすは約850トンも出ます。

── そんなにたくさんの排出物が......!

私が入社した45年ほど前は、焼酎かすや芋くずを廃棄物とみなして、焼却処理してしまおうという方向で進んでいました。しかし私は「それではいけない、焼酎かすや芋くずは廃棄物ではなく副産物であり、大切な宝だ」と当時の部長や課長に訴えました。

焼酎かすや芋くずはもともとサツマイモで、サツマイモがなければ芋焼酎はつくれません。だから焼酎かすや芋くずを無駄にはできない、と私は感じたのです。

当時は私の想いも届かず、1~2億かけて焼却塔をつくることになりました。けれどもその後、焼酎かすの焼却には、当時の価格で1日あたり車1台分くらいの費用がかかることがわかり、結果として、焼却処理は中止になりました。

── 燃やせば簡単に処理できるわけではなかったんですね。

次は、焼酎かすの持つ豊富な栄養分を生かした対策を考えようということで、豚や牛の飼料にしたり、特殊肥料として飼料を栽培する農地に散布したりしました。豚や肉牛は肉質がやわらかくなり、乳牛は乳の出がよくなり、飼料は青々として成長が早くなりました。効果はあったのですが、さまざまなしがらみがあって継続はできませんでした。

あれこれと知恵を絞り続けて、ようやく行き着いたのがエネルギー化です。芋くずや焼酎かすを細かく刻んで発酵装置へ送り、メタン菌の働きによって発酵させ、ガスを発生させます。得られたガスは工場の蒸気ボイラーの熱源に利用するのですが、使いきれずに余ったガスを発電機の燃料にして、電力を生み出しています。

建設会社と協力して実験を重ねて可能性を感じられたので、リサイクルプラントを建設し、2006年には焼酎かすをバイオマス資源として利用するリサイクル事業を開始。そして2014年に、国内初となるサツマイモ発電をスタートしました。

── サツマイモ発電にたどり着くまでには、長い道のりがあったんですね......!

さらに、バイオガスを抽出した後の残りかすも活用しています。メタン発酵後の芋くずや焼酎かすは固体と液体に分離して、固体は堆肥化させて畑地に還元し、液体は微生物の働きで浄化してから下水道へ放流します。こうしてすべてが地域に還っていくことで、ゼロエミッション(排出量ゼロ)を達成しています。

自社のあり方を考え直す企業が生き残る

── 黒霧島の生みの親である江夏専務が、次にどんな商品を生み出すのか気になります。

私は今、未来のいろいろなことを考えていますよ。近い将来、サツマイモのエネルギーで走る車に乗りたい、とか(笑)。

── サツマイモで車を走らせる未来......! 霧島酒造の取り組みは、SDGsが叫ばれる今の時代に一歩先をいっているように感じます。

弊社の取り組みはSDGsという言葉が生まれるずっと前からのことで、誰に教わったわけでもありません。SDGsは、決して難しくややこしい話ではなく、地球のことを考えればやるべきことは自然とわかるものなのです。

人間自体、自然のいち産物です。その人間が、地球のことを考えなかったら未来はどうなるでしょうか。環境問題は第一次産業革命の頃からわかっていたけれど、人間が解決してこなかった。そして近年になってようやくSDGsが声高に叫ばれるようになったわけです。

── 私たちは、ずっと見ないフリをしてきた環境の問題に向き合わなくてはいけないのですね......。

今こそ組織のあり方を考え直す時で、大切なのはSDGsの本質を見失わないことです。環境問題に限らず、国連がシンプルに表現したSDGsの概念を、本当の意味で理解しているのかどうか、一度我が身を振り返ってみる必要があると思います。トップダウンで物事を言う時代はもう終わっていて、これからはフラットな関係性で意見を出し合って発展していくような組織の形が求められているのではないでしょうか。

来年頭ごろには、きっとコロナ禍を経て、世の中が一変します。自社や自分のあり方を見直せるのか、次の時代を読めるのか、欲望を考え直せるのか。そこで、今後繁栄する企業になれるかどうかが決まるでしょう。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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サストモは、未来に関心を持つすべての人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクトです。メディア、ビジネス、テクノロジーなどを通じて、だれかの声を社会の力に変えていきます。

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