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「ホームレス=自己責任?それでも、やり直せる社会がいい」Homedoorが考えるセーフティネットのあり方

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

「なぜ、ホームレス状態になってしまう人がいるのか」

不景気やコロナ禍といった社会の変化も災いして、職と住居を失い、今も路上での生活を余儀なくされている人々が大勢います。

一方で、冒頭の問いについて考えるとき、心のどこかで、「自分とは関係がないから、わからない」「その人たちの自己責任だから、仕方ない」と考える人も多いのかもしれません。

そんなホームレス問題と向き合い続ける人がいます。それは、認定NPO法人Homedoor代表の川口加奈さん。川口さんは、まだ中学生だった頃に参加した炊き出しをきっかけに、ホームレス問題と関わるようになりました。

NPO法人として立ち上げた『Homedoor』での活動は2021年で10年目。ホームレスの人の就労支援につながるシェアサイクルサービス『HUBchari』や、宿泊のための個室型シェルター『アンドセンター』など、ホームレスの人が路上生活を脱出するためのセーフティネットをつくりあげてきました。

そんな川口さんは、社会には様々な背景があり、ホームレス状態になることは自己責任ではないという前提で、「たとえ自己責任であっても、やり直せる社会になったほうがいい」と言います。さらに、家庭環境や社会の変化、個人の健康面の変化など、あらゆる要因から「現代では、誰もがホームレス状態になりうる」と語ります。

自分や、身近な誰かがホームレス状態になるかもしれない。そんななかで、私たちはどれほど「ホームレス」の実情を知っているのでしょうか。川口さんの語る言葉は、私たちがこれまで目を向けていなかった現実にまで、視界を広げてくれるはずです。

10年以上、課題に取り組み続けてきた川口さんに、これからあるべき社会とセーフティネットについてお話を聞きました。

まずは安堵する場所をつくる、Homedoorの取り組み

大阪市北区に拠点を構える『認定NPO法人Homedoor』。大阪市内を中心に活動を続ける彼らのもとには、毎年数百人の相談者が訪れます。2020年度には、一年間の相談者数が1100人を超えました。

「路上生活を脱出したい」「いまの暮らしを変えたい」と相談に訪れるホームレスの人々に対して、Homedoorのスタッフは彼らに合った支援ができるようにと、さまざまな取り組みを続けています。

ホームレス状態にある人々が、就労のきっかけをつくることができるシェアサイクル事業『HUBchari』。電動自転車のバッテリー交換や自転車の再配置業務など、シェアサイクルのケアがホームレスの人々の仕事になっています。

大阪市内を中心に、守口市、門真市、東大阪市など大阪府内に300以上のポート(ドコモ・バイクシェアポート含む)が設置されています。

困った時に駆け込んで、宿泊することもできる施設『アンドセンター』。ホームレス生活で住む場所や滞在できる場所のない人々のために、団らんスペースや仮眠室を備えています。

相談に来たホームレスの人に食事を提供する『おかえりキッチン』。一般向けのカフェとしても営業しており、アンドセンターに無料で宿泊しているホームレスの人々はここで働くことで就労体験の機会を得ます。ホームレスの人々が他者と話し、相談するための関係づくりの場にもなっているそう。

就労支援、安全な居場所の確保、食事の提供など、多様な受け入れ方でホームレス状態となった人をまず受け止め、その人にあった路上生活脱出の手段を伝えていく『Homedoor』。

こうした現場の取り組みについて川口さんにお伺いするうち、明らかになってきたのは、世の中が抱いている「ホームレス問題」と現実とのギャップでした。

「自己責任かどうか」は、論点じゃなかった

── まずは『Homedoor』の取り組みを紹介していただきました。一口に「ホームレス支援」と言っても、さまざまな支援と受け入れ方があるんですね。

そうですね。置かれている状況も、そこに至る事情も一人ひとり違うので、できるだけ幅広く対応できるようにしています。

── 自分も含めて、ホームレスの人々の多様な背景や事情が想像できていない人も多くいると思います。相談には、どんな方々がいらっしゃるのでしょう?

Homedoorを訪れる相談者の平均年齢は、40.8歳です。10代〜30代が半数を占めています。

── 30代以下が半数!?

そうなんです。意外でしたか?

── 正直、想像していたより若い年齢層で驚きました。自分より年下のホームレスの方もたくさんいるんだ、と思うと。

この状況になったのは、コロナ禍も大きなきっかけだったと思います。10代〜30代となると、万が一のときは実家や親に頼ることも考えられる年齢ですよね。ただ、それができない人たちもいるんです。家庭環境に問題があった方や、児童養護施設出身で「頼れる家族がいない」という方、故郷まで帰るお金が無くて頼れないという方もいました。

私たちの団体への若い方からの相談件数は、2018年に宿泊もできる施設『アンドセンター』が完成したタイミングから増えました。ネットカフェを転々としていた方が「ついに宿泊代が底を尽きたので、なんとか路上に出ずに済む方法を検索してここを見つけた」ということもあって。

── 「泊まれる場所がある」というのが、相談する人の安心にもつながっているんですね。

そうだと思います。みなさん、ギリギリまで自力でなんとかされようとするんです。特に若い世代は路上で寝泊まりすることへの抵抗が強い。そうなってはじめて「ホームレス 泊まれる場所」とかで調べてきてくれるのかな、と思います。

── 一言で「ホームレス」と言っても、いろんな背景の人がいると。ただ、世間ではそうした背景まで想像されず、「ホームレス=自己責任ではないのか」という声もあると思います。

そうですね。でも、「ホームレス=自己責任」とは限りません。

── それを伝えるのは、なかなか難しいですよね。川口さんは、学校での講演会活動などもされています。たとえば、若い世代から純粋に「どうしてホームレスになるの?」と聞かれたりしたら、どんな風に伝えるんですか?

元々、私自身も最初はホームレスの人をよく思っていないところがありました。関わり始めたばかりの中学生の頃は、「もっと勉強していたらホームレスにならなかったんじゃないの?」みたいな疑問も、考えたことがあります。だからこそ、自分自身がこの問題に関わるなかで、疑問が解消されていったプロセスを、エピソードを交えながら伝えています。

── 自身の変化を含めて、丁寧にお話しされるんですね。

そもそも講演会を聞く、学校に通っている学生さんたちは「勉強する環境があるなかで、がんばるかどうかを選べた人たち」なんです。普段私たちが接しているホームレスの人のなかには、「学校に行く選択肢がなかった」人も大勢いるんだよ、という話もしていますね。

── いろいろなケースがあるとは思うんですが、「ホームレス状態になること」への共通する要因などはあるのでしょうか?

多くの人に共通する要因は、やはり「失業」です。ただそれだけが理由ではなくて。さまざまな「複合的要因」が重なってはじめて、ホームレスになる場合が多いです。

── 「複合的要因」とはなんでしょう?

たとえば、失業しても「失業保険」を受けることができます。ただ、そのときに住居がなければ、失業保険を申請できない場合もあります。勤めていた会社がブラック企業で、申請書類を用意してもらえない、というケースも考えられる。そうしていくつもの問題が重なったとき、ホームレス状態になるんです。

── そうしたお話を聞けば聞くほど、「ホームレス=自己責任」という考えの間違いに気づきます。

でも、「ホームレスは自己責任じゃない」という話は、あまり積極的にしないようにしています。この言葉が誰かの首を締めてしまうようにも感じていて。

── どういうことでしょう?

結論を言えば、「自己責任であってもホームレス状態にならずに済む」「自己責任であってもやりなおせる」という社会のほうがいい。セーフティネットは、たとえ自己責任であっても機能するべきものだ、と考えるようになりました。

── おっしゃる通りですね......「自己責任だから生活保護は受けられません」なんてあまりにも酷ですもんね。

そうなんです。活動をはじめた最初の頃から「誰もが何度でもやり直せる社会にしたい」ということを考えていました。その実現のために、セーフティネットをつくることが必要だと思ったんです。

多種多様な受け入れ体制で、「何度でもやり直せる環境」をつくる

── 冒頭で紹介したように、まさに「セーフティネット」としての取り組みを数多くされていますね。

はい。それも、いろいろな段階と方法でホームレスの人々を受け入れるためです。具体的には、「6つのチャレンジ」として、路上生活からの脱出に寄り添えるような支援策を用意しているんです。

ホームレス状態の人に情報を届ける、という部分からはじめて、宿泊してもらいながら選択肢を広げていく。生活するためのサポート、仕事を見つけたり、働いたりするためのサポート、路上生活脱出後のアフターフォロー。あとは啓発をしていく、問題を世に伝えていくこともやっています。

── 路上生活を脱出するため、ということを考えると、4番の「"働く"を支える」の取り組みが重要そうですね。ここではどういった活動を?

仕事を見つけて紹介する「一般就労移行」を行いつつ、Homedoorがホームレスの人々を直接雇用するような就労支援も行っています。自主事業として行っているのが、シェアサイクルサービスの『HUBchari』ですね。

大阪市における「放置自転車が多い」という課題と、ホームレスの方との「俺も自転車修理くらいならできる」という会話から生まれたこの事業。大阪市内を中心としたまちなかに拠点が設置され、通勤客や買い物客などさまざまな人々が活用する

── HUBchariでは、ホームレスの人々にどんなお仕事を依頼されるんですか?

ここにも、働き方に応じて3つの選択肢を用意しています。ひとつ目はHUBchariが設置されているポート(拠点)にシフト制で立っていてもらう接客業の仕事。ふたつ目は、トラックでの自転車の再配置業務。免許を持っている方に運転をお願いするほか、横乗りとして運転手の補助をするポジションもあり、こちらは自転車の上げ下ろしさえできればその日からでも働いてもらえます。

── 当日からできる仕事、もあるんですね。

時給約1000円ほどで大体5時間くらいの業務になるので、1日で5000円稼げる。5000円もあれば、生活の選択肢は増えると思います。

── 最後はなんでしょう?

3つ目は、電動自転車になったHUBchariのバッテリーを交換する業務。これは登録さえしておけば、いつでも好きなときに、好きなだけ働いてもらえるようにしています。バッテリー交換は一台につき200円。5分もあれば交換できるので、30分で1000円くらいのお金が得られます。誰でも空いた時間で働けるから、副業・兼業も可能なんです。

── ホームレスの人が副業、兼業をされるんですか?

たとえば、普段は缶集めの仕事をされている方が、隙間の時間を見つけて働いたり、彼らとの関係性づくりにも役立っています。

── 缶集めをされる人たちとは、普段接する機会が少ないんですか?

缶集めって実は難しい仕事で、縄張りと契約があるんです。同じ時間、同じ場所に必ず行って缶を回収しないと他のホームレスの人に缶を回収されてしまうし、マンションの管理人さんと口約束で「毎週何曜日に缶の回収に来る」と契約していれば、それも行動の縛りになる。

── そうか、新しい仕事をはじめようとすると、これまでのルーティンに無理が出てくるんですね。

はい。自分たちで見つけたお金稼ぎの方法を捨ててシフト制の仕事を始めるには、「これまで培われてきた、生活基盤を失う」というリスクがあります。

ただ、この縛りのせいでホームレス状態を長期化させてしまうことも私たちは危惧していて。HUBchariのように、Homedoorとの関わり方や働き方に多様性を持たせることで、より多くの人たちの路上脱出を手助けするきっかけになると思っています。

── 多様な働き方が、路上生活を変えるきっかけになるんですね。それにしても、HUBchariはホームレス支援の文脈だけでなく、大阪における「放置自転車」の問題にも解決策を提示していてすごいと思います。一度にいくつもの事柄をケアしているというか。

商品を提供されるときの形として、「ホームレス支援になっているから利用する」って人はほとんどいないと思うんです。「便利だから利用していたら、いつの間にかホームレス支援につながっていた」という形の方が、あらゆる層と接点が持てる。そのなかから、偏見がなくなる可能性も見つかるんじゃないかなって思います。

「このボタンさえ押せば」を見つけて、よりよい社会をつくる

── 川口さんご自身は、どうしてここまでホームレス問題に取り組もうと思ったんでしょう。原体験のようなものはありますか?

個人的な体験として大きかったのは、14歳のころに参加した炊き出しですね。当時、列に並びながら寒そうに凍えているホームレスのおっちゃんを見て、私は自分のコートを脱いで差し出そうとしたんです。

── ええ、なんて優しい。

ただ、そのおっちゃんにコートを渡したところで、その後ろにも、もっと後ろにもたくさんのホームレスのおっちゃんが並んでいて、みんな同じように凍えているんです。「私がコート一枚あげたからって、変わらないんだ」と無力感に苛まれて。

── 「解決できなかった」という悔しい思い出があったんですね。その原体験から始まり、活動が10年を越えたことはすごいですね。

でも、自分ではあまり特別なことだとは思っていないんです。むしろ、私と同じ体験をしていたら、他の誰かでもHomedoorのような活動をしていたと思うんです。

私が活動を続けてこれたのって、「このボタンさえ押せば、うまく世の中の歯車が回るのに」と思うことが見つけられたからなんです。それを実現したあとの世の中が見たくて、やってきた。

── 「このボタンさえ押せば」というのは?

最初に見つけたボタンは「ホームレス状態になるのは自己責任じゃないのに、世の中の声と現実にギャップがある。そのギャップさえ伝えれば、世の中は変わるかも」ってことで、だから声をあげるようになりました。そして、もっと現実を知るなかで、セーフティネットを作ることの重要性や、自己責任だとしてもやりなおせる世の中の必要性にも気づいていった。

現在は、パートの方を含め10名以上のスタッフとともに活動。受け入れ方法も多様になってきた

── では、活動も10年目を越えたHomedoorがこれから目指すものとはなんなのでしょう?

現時点で、Homedoorに相談に来てもらえさえすれば、次のステップに進んで、路上生活から脱出する糸口を見つけたり、その後のアフターケアをさせてもらったり、というところまで持っていける。そういう意味で、実は目指していた「路上脱出のサポート」という機能はある程度つくれているんです。

だからこそ、これからはファミリーや母子家庭のようなあらゆるケースにも柔軟に対応できるように、もっと支援メニューの種類を増やさないと、と思っています。

そうしたいろいろな取り組みを大阪で進めていって、「こうすればうまくいく」というモデルを増やしたい。ゆくゆくは政策提言につなげて、全国の他の地域でも真似できるようなモデルが生まれたらいいなと思います。

── お話を伺っていると、「失敗してもやり直せる社会」の実現への希望が見えてきたようにも思います。そこには、「自己責任かどうか」は関係ない。

今回のコロナ禍でも、「自己責任かどうか」という問いに対する世間の風潮は変わった気がするんですよね。飲食業界などを中心に、「努力してもどうしようもない」という共通の状況に置かれて。社会的な受容性は高まったように思います。

そこから、「努力してる人はオッケー、努力しなかった人はだめ」みたいな価値観をどう変えるか?という段階へ移って行かないと。それはまた、もう一段階難しいところなんですけどね。

── きっと、その歯車がまわるためのボタンもどこかにあるのでしょうね。

まずは私たちのできる範囲として、ホームレス支援策の幅が広がっていくことで、日本の風潮としてある「失敗したら終わり」「敗者に厳しい」って空気が変わるといいですよね。「失敗してもやり直せる状態」がつくれたとき、「どんだけ挑戦してもいい。失敗してもいいんだから」って社会につながっていくはず。

そういう社会の方がいい、ってことも見据えながら支援を続けていくのがいいんじゃないかなと思っています。

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