「面白そう」からはじめてもいい。日本から世界への期待もかかる「サーキュラーエコノミー」入門
「環境を守ること」と「利益を追求すること」。
これまでこの二つの取り組みは、一見相容れないように思われてきました。
環境を守る取り組みをしようとしても、なかなか利益にはつながらなかったり。逆に利益を追求しようとすると、地球環境に負荷がかかってしまったり。
果たして、この二つを両立させることは可能なのでしょうか?
そんな中、ヨーロッパで、とある新しい経済モデルが注目を集めていると聞きました。それが「サーキュラーエコノミー」。
現にヨーロッパでは、環境への負荷を大幅に下げつつも、新たな経済利益を創出したり、人々の幸福度を高めていく......そんな実例が次々に生まれているのだそう。
「自分でパーツを修理・交換しながら使い続けられるスマートフォン」
「古くなったら返却し、新しい一着に交換できる、リース型のジーンズブランド」
これらはそのサーキュラーエコノミーの一例。どれもユニークな発想にハッとさせられます。
ヨーロッパで進展しているサーキュラーエコノミーですが、実は日本ならではの考え方と相性が良く、世界の先進地になるポテンシャルもあるのだとか。実際に日本でも注目を集める事例が生まれているといいます。
そんな可能性を教えてくれたのが、サーキュラーエコノミー研究家として著書『サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル』を出版し、全国でサーキュラーエコノミーの取り組みを進めている安居昭博さんです。
今回はそんな安居さんに、サーキュラーエコノミーとは何か、そしてどんな点が革新的で、なぜ日本にポテンシャルがあるのか、話を聞きました。
安居昭博(やすい・あきひろ)
1988年12月12日生まれ。東京都練馬区出身。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japan メンバー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。2021年6月『サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル』出版。2021年、日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。
リサイクルとは一線を画す「廃棄を出さない仕組みづくり」
いきなりですが、まずこのスマートフォンを見てください。
── 一見、何の変哲もないスマートフォンのようですが。
実はこれ、ユーザー自らが分解して、部品を修理したり交換したりしながら10年間も使い続けることが考えられたスマートフォンなんです。カメラやマイク、ディスプレイもすべて交換可能で。オランダのスタートアップ企業が開発した「フェアフォン」といいます。
利用者に使用済み品を廃棄させない工夫として、企業への返却に対するキャッシュバックが導入されており、返却品は新しい製品製造に再活用されます。分解しやすい構造は、企業が返却品を扱う際の工数削減にも繋がっています。
── 自分で改造できるスマートフォン......これは面白いですね。
あと、こちらのジーンズも見てください。
── 普通のジーンズのようですが......。
これは月額制のリース型ジーンズ。破れたり、履かなくなったりした際、企業に返却すると繊維に戻され、そこから作られた新しいジーンズが送られてくる仕組みです。こちらもオランダの「マッドジーンズ」という企業によるサービスです。
── どちらもユニークなアイデアですね。何か共通点があるのでしょうか?
これら製品の共通点は「廃棄を出さない仕組みづくり」の発想でつくられているということ。最近ではこうしたビジネスモデルは「サーキュラーエコノミー」を進める企業からさまざまな形で生まれています。
── 「廃棄を出さない仕組み」と言うと、リサイクルとは何が違うんでしょう?
リサイクルは、設計・デザインの段階では廃棄されることが前提となっているモノに対処する形で進められてきました。これは対症療法的な取り組みだといえます。
サーキュラーエコノミーは、ビジネスモデルそのもの、そしてものづくりの設計・デザインの段階から、廃棄を出さないことが前提とされた仕組みが構築されている点に特徴があります。
── そう言われてみると、先ほどの「フェアフォン」や「マッドジーンズ」も使用済み品を必ず企業に返却してもらう工夫や、返却されることが前提の設計やデザインが導入されていますね。
これはサーキュラーエコノミーの面白いところなんですが、利用者から企業に返却される「廃棄を出さない仕組み」が導入されると、必然的に設計やデザインも既存の仕組みとは一線を画したユニークなものになっていくんです。
例えば既存のスマートフォンを分解・修理しようとすると、特別な工具が必要になったり、専門知識が必要だったりと、一般的な消費者には修理できないことが前提の設計になっているのがわかります。
しかし、サーキュラーエコノミーの発想で開発された「フェアフォン」は、そのような課題を設計・デザイン面で解決しています。分解しやすいように部品数を減らしたり、必要箇所は工具を用いずとも手で開閉・分解できるようなつくりにしたり、極力シンプルな設計になっているんですよ。これは企業が返却品を再び資源として活用する際にも合理的な仕組みになっています。
「マッドジーンズ」も同様です。まず利用者に使用済み品を捨てさせず、必ず返却してもらうために販売に代わり月額制のリースが導入されました。そして返却品を繊維に戻す工数を減らすために、通常背部に付けられている皮ラベルを廃止してペイントにしたり、また繰り返し使用するために耐久性の観点からファスナーをボタンに変更したりしています。
どちらの例でも、これまでの常識であった設計・デザインをゼロから見直し、不要な素材はないか、利用者自身で修理して使い続けてもらうことができないか......。そういった観点でプロセスを一から見直して製品がつくられているんです。これはこれまで対症療法的であったリサイクル・リユースに対し、未然に徹底して廃棄を防ぐ予防医療的なアプローチだと感じます。
経済・環境・幸福......すべてのモノサシで考える
── どうして今、サーキュラーエコノミーが重要視されているのでしょうか。
これまでの経済・社会と、現在で「合理的な仕組み」の認識が変わってきたことが大きいと思います。
── 「合理的な仕組み」が変わってきた......?
戦後から現在に至るまではGDPをベースにした「経済成長」が重視され、経済成長によってあたかも社会のすべてがよりよくなるかのようにも捉えられていました。その観点では、大量生産・大量消費を行うことが合理的だったんです。でも、GDPでは廃棄物や環境汚染による影響は考えられていませんでした。
さらに現代では世界人口増加に伴い、石油や石炭、レアメタルのような枯渇性原材料の安定供給が危ぶまれたり、経済成長を偏重するがあまり労働環境での人権侵害が横行してしまったり、生物多様性が著しく損なわれてしまったり......。そして特に、経済が成長したとしても必ずしも人々の暮らしの豊かさや幸福に繋がっているわけではないという認識が広がり、従来の大量生産・大量消費を基にした社会・経済の仕組みを改める必要性を多くの人が感じるようになってきました。
例を挙げると、日本では食の大部分を輸入に頼る一方で、年間600万トンも食品ロスが生まれていますし、製造された大部分が処分されると言われる衣類在庫、再活用率の低い電子廃棄物など資源を取り巻く課題が多くあります。サーキュラーエコノミーの観点に立って「発想の転換(Rethink)」をしてみると、むしろこうした資源ロスの多い日本にこそ可能性があることが見えてくると思います。これが私が日本にサーキュラーエコノミーが必要と感じる大きな理由です。
── たしかに「お金」以外のものさしも重要になってきているように感じます。
例えば、「経済的利益(Profit)」に加え、「人々の幸福(People)」と「地球環境(Planet)」を合わせた「3つのP」という指標があります。
従来重視されてきた「経済的利益(Profit)」の指標だけでは合理的とみなされなかった事柄が、「3つのP」では合理的、ということがあり得ます。「ESG投資」にも見られるように、現代では経済一辺倒ではなく国や企業を評価する指標が複合的になってきており、その中でサーキュラーエコノミーが新しい合理的なモデルと捉えられるようになってきています。
欧州でサーキュラーエコノミーがこれほどまでに関心を集めているのは、いわゆる意識の高い層だけでなく一般市民を取り込んでいる要因があります。企業が一般市民に商品やサービスを利用してもらうためには工夫が必要なのですが、一つ良い例をご紹介したいと思います。こちらのチョコレートを見てください。
── ポップでかわいいデザインですね!
このチョコレートは「トニーズ・チョコロンリー」というオランダの企業の製品。サーキュラーエコノミーの動きがヨーロッパで本格化するよりもおよそ10年も前に、大量生産・大量消費に伴う児童労働を撲滅することを経営理念に誕生しました。
「トニーズ・チョコロンリー」自体には廃棄の出ないサーキュラーエコノミーの仕組みが導入されているわけではないのですが、社会課題解決型のビジネスの先駆けとして、のちに誕生する「フェアフォン」や「マッドジーンズ」といったサーキュラーエコノミーの先進的ビジネスモデルにも大きな影響を与えたと言われています。
── チョコレート産業が児童労働を助長しているという指摘は聞いたことがあります。そんなチョコレート業界で、どのようにその問題を解決しようとしているのでしょうか?
実はこのチョコレートで使用されているカカオは、児童労働が関与しない組合からのみ購入したものなんです。そして、何よりの特徴が魅力的なデザインにあります。よく見るとボックスの中に一つだけ上下逆さまになっているものがありますよね。
── 本当だ! これはどうしてなんでしょう?
これは「児童労働が黙認されているように、私たちの社会にもよく見ると何かが変であることがたくさんある」というメッセージなんです。また、板チョコレートはあえて不均等に割れるようなデザインになっています。
── ここにも何かメッセージがあるんですか?
はい。「普段私たちが食べているチョコレートには児童労働という不平等な問題が横たわっている。世界にそうした問題が横行しているにも関わらず、できたチョコレートだけが均等に割れるのは不自然だ」......これが不均等に割れるデザインに隠されたメッセージです。
購入者は、まず魅力的なパッケージや味に惹かれて買う。その後さりげなくデザインで間接的に表現されたメッセージによって、児童労働の問題や「トニーズ・チョコロンリー」の取り組みを知る。そして根強いファンになっていく。現に2021年時点でオランダ国内ではゴディバやネスレといった世界的な企業を抑えてトップシェアを誇っているほか、オランダの消費者が選ぶサステナブルな企業ランキングでも2018年から4年連続で首位になっています。
── すごいですね!
この「トニーズ・チョコロンリー」のビジネスモデルは「経済的利益」を追求するだけでは決して生まれなかったはず。その取り組みがこれだけ支持されているということは、日本企業にとっても「経済的利益」以外のものさしを重視したこれからのビジネスのヒントがあります。
日本に期待される先進的「モデルメイキング」の可能性
── そもそもどのようにしてサーキュラーエコノミーの取り組みが生まれてきたのでしょうか?
似た概念は昔からあったのですが、取り組みが本格化したのは2008年のリーマンショック以降からです。
当時、経済が停滞したヨーロッパで国際的な競争力の強化・雇用創出といった課題に立ち向かうべく、資源循環を軸にした新しい経済モデルがかたちづくられていきました。それと並行して、輸入依存にある石油・石炭・天然ガスから、EUの自国産業にもなる再生可能エネルギーへの移行も進められていきます。
そのような動きを受けて2015年に欧州委員会が「サーキュラーエコノミー・パッケージ」として初めてサーキュラーエコノミーの政策を提出。以後、EU加盟国が法的整備を進め、企業間でも取り組みが本格化し、官民一体での動きが加速していきました。
── ヨーロッパからサーキュラーエコノミーが広がっていったんですね。
はい。「一つの国」ではなく、「EU」という単位で取り組んだことが世界的なインパクトに繋がっています。EUはアメリカや中国、インド、日本など多くの国々にとって無視できない市場。その大きな市場全体で整えられている法的枠組みには、EUでビジネスを行う各国は従う必要があります。
例えば、欧州サーキュラーエコノミー政策の一環として、消費者に「修理する権利(Right to Repair)」を認めることで、EU市場で取引するメーカーにフェアフォンのような修理しやすい設計・デザインを義務化する動きが見られています。この影響が波及し、アメリカでも実際にジョー・バイデン大統領やAppleが「修理する権利」に従った製品開発を進める動きに繋がっています。
このように、EU市場やAppleなどグローバル企業と関わりの深い日本企業もサーキュラーエコノミーと無関係ではいられない状況にあるんです。
── なるほど。となると、日本という一国がサーキュラーエコノミーに取り組んだとしてもインパクトは小さいということでしょうか......?
そんなことはありません。たしかにEUほどの市場規模がない日本はヨーロッパのように世界的に影響力のある「ルールメイキング」をすることは難しいかもしれませんが、先進的な「モデルメイキング」の可能性は大いにあると感じています。サーキュラーエコノミーへ先進的に取り組むことが、むしろこれからの日本の国と企業を活性化し、市民の幸福度を高める起爆剤になるのです。
── モデルメイキングの可能性、とはどういうことでしょう?
つまり「世界的な影響力を持ち得るモデルを生み出すポテンシャルがある」ということです。その理由は二つあります。
一つ目の理由は、「課題先進国」とも言われる日本の経験している課題が、特にヨーロッパなどの経済的に成熟した他の国々にも当てはまること。廃棄物の影響、輸入資源への依存、人口減少、経済的成熟度......。それらの課題を改善するビジネスを先進的につくるモデルができたときには、ヨーロッパなど他の国でも展開できる可能性が大いにあるんです。
そしてもうひとつの理由は、日本がこれまで培ってきた特色です。
例えば、サーキュラーエコノミーの3原則の一つである「自然システムの再生(Regenerate Natural Systems)」には、微生物や土壌、山や海や森といった生態系の力を借りる必要があります。これだけ経済的発展を遂げたにも関わらず、豊富な自然が残された国は他にほとんど見られません。その要因には、神社やお寺で御神木が見られるように、宗教信仰とアニミズムのような環境保護が結びついた日本特有の自然観があるとされ、欧州からも注目されています。
── 日本の自然には、どのようにサーキュラーエコノミー的な利点があるのでしょうか。
例えば、欧州ではサーキュラー型建築としてコンクリートに代わり、接着剤が使用されず建材が金具で留められた「分解・修理が容易にできる木造建築」が進められています。そこでは地域木材の活用が重視されているのですが、日本ほどの自然がないオランダでは、輸入の木材に頼る必要があります。
一方で、日本は京都の北山杉や奈良の吉野杉、熊本の小国杉、木曽のヒノキといったように高品質木材に恵まれた国です。また、人口一億人ほどの市場があり、ものづくりで発展してきた国だからこその高い技術・開発力を備え、町工場の生産体制と流通網も整っています。それらも日本ならではの大きな利点です。
ちなみに「サーキュラーエコノミーの父」と呼ばれて欧米で注目を集めるウィリアム・マクダナー氏も日本で生まれ育ち、その文化や思想の影響を受けていると言われているんですよ。
これまで光が当たらなかったところに、光を当てる
── 日本でサーキュラーエコノミーの取り組みを進めていく上で、何が重要になると考えていますか?
まずはサーキュラーエコノミーの本質を理解し、その上で本質を伴った実践が増えることが重要だと思います。現状では、まだ日本ではサーキュラーエコノミーがリサイクルやアップサイクルと混同されることも多いです。しかし、ただ「サーキュラーエコノミー」という言葉だけが広まるのでなく、初めは小規模でも本質的な活動の輪が広まることが大切だと思います。
── なるほど。ちなみにこれまで日本ではどんな実践があったのでしょうか?
例えば、熊本・南小国町の人気温泉街「黒川温泉」では、旅館から生まれる「生ごみ」や、植樹による景観づくりから出る「落ち葉」や「もみがら」「赤土」など、これまで地域で未活用だった資源を活用した完熟堆肥によるコンポストプロジェクトが進められています。
もともと処分コストがかかっていた廃棄物を、サーキュラーエコノミーの視点を取り入れて「資源」として見立て、野菜づくりに重宝される完熟堆肥に仕上げる。そして収穫した野菜は旅館で調理・提供する。そして出てくる「生ごみ」はもう一度完熟堆肥へ......そうすることで「地産地消」から一歩進んだ「地産地"循"」が実現できるんです。
── 地産地"循"......。たしかに「廃棄が出ない仕組みづくり」が見事に実現されていますね。
サーキュラーエコノミーでは、誰かにとって悩みの種になっていたことが、別の誰かにとって宝の資源になることがあるんです。そのため欧州でも異分野間での連携が重要視されているのですが、黒川温泉では観光業と農業の分野での結びつきがこれまでにない循環の仕組みを創り上げていると感じます。
サーキュラーエコノミーは、今まで光が当たらなかったものに光を当てられる取り組みとも言えるでしょう。その意味では、日本の町工場もサーキュラーエコノミーの主役になる可能性を秘めていると思っています。
── 日本の町工場も?
欧米では「修理する権利」に対応するものづくりや社会システムの整備が進められています。冒頭にご紹介した「マッドジーンズ」のように、日本でサーキュラーエコノミーが進展すると、一度市場に出たものを、製造・修理を担う拠点に戻し、繰り返し直しながら使い続ける取り組みが増えていくはず。そんなときには輸送の観点から、工場は海外よりも市場に近い日本の地域に設けた方が採算が見込め、町工場は単に「つくる」機能だけでなく「修理・メンテナンスする」新しい役割を持つことになります。
もっと言えば旧来の工場やサプライヤーに留まらず、「新しい技術を開発・提案して、発注側の設計・デザインそのものをアップデートさせる」機能も持つようになるかもしれません。
町工場が活性化されれば雇用創出に繋がり、地域の大学や研究機関との連携による技術力向上、子どもたちの教育環境充実、地域材の活用、総じて地域全体の魅力や市民のウェルビーイング(幸福度)向上に繋がります。先進地域としてインバウンド受け入れに繋がる効果も期待でき、まさに「経済的利益(Profit)」「人々の幸福(People)」「地球環境(Planet)」の「3つのP」すべてを高めることに繋げられる可能性を秘めています。
── そうなると個人の働きがいや生きがいも増しそうですね。そんな取り組みを実現させるためには何がポイントになるのでしょう。
ひとつは、業界や商流をまたいだ連携が鍵になると考えています。日本は縦割りが強い傾向があるため、黒川温泉のような観光業×農業のような連携による資源循環の仕組みづくりにおいては、意識的に異分野間での協働を進めていくことが大切です。逆に言えば、視野を広げて垣根を越えることで、これまでにないイノベーションが生まれる余地が大いにあると思います。
実際、僕も日本のさまざまな現場を回っているのですが、「こことここを繋ぐと、新しいイノベーションが生まれそうだな」という発見が多いこともサーキュラーエコノミーの視点を持っている影響が大きいと思います。実際、そこから企業や地域のプロジェクトに繋がった事例もあり、今後ますます分野横断的な連携を進める存在が、資源循環の仕組みづくりには必要になると感じています。
「なんだかおもしろそう・かっこいい・楽になる」というポジティヴな動機で人は動く
── 最後に、サーキュラーエコノミーについて興味を持った読者に覚えておいてほしいことはありますか?
サーキュラーエコノミーは、やらなきゃいけないという義務感ではなく、むしろ進んでやったほうが色々な新しい可能性が見えてくる、とポジティヴに考えてみることだと思います。
── と、いいますと?
例えば私の場合、自宅で生ごみをコンポストにしてるのですが、それによって可燃ごみを出す頻度が大幅に減り楽になりました。微生物が分解する様子や変化を観察する楽しみも増えましたね。
また、買い物は今年7月、京都にオープンした量り売り専門店「斗々屋」をよく利用しています。必要な分だけ購入できるので食材のロスが出ず、プラスチックの包装がないのでごみ出し削減にも繋がっています。地元農家さんの季節の食材を多く扱っていることも、訪れる楽しみになっています。
サーキュラーエコノミーの視点を持つことで、企業はフェアフォンやマッドジーンズのような画期的な新しいビジネスアイデアを思いつく可能性がありますし、行政は「修理する権利」で紹介したような地域を活性化する道筋が見えてくるかもしれません。これまで目を向けてこなかった廃棄物にこそ、これからの未来の可能性が眠っているという視点を持つことが大切だと思います。
ここでは「Rethink(発想の転換)」が重要になってきます。「3R」に加えて鍵になってくる新しい「R」です。
── 発想の転換......。
「エコだから、環境にいいから」「やらなきゃ」という動機だけではなかなか多くの人は動きません。それよりも「なんだかおもしろそう・かっこいい・楽になる」といったポジティヴな誘引の方が、無理のない継続的な動機に繋がりやすいと個人的に感じます。
個人的な印象としても、サーキュラーエコノミーが進んでいるヨーロッパでも意識の高い人たちが大多数というわけではないんです。そのためフェアフォンやマッドジーンズのような企業も、いかに一般の人に利用してもらえるかといったときに、先のようなポジティヴな要素を重視しています。
実際にトニーズ・チョコロンリーのように、普通の人が魅力を感じて手を伸ばした商品やサービスが、自然とサーキュラーエコノミーやサスティナビリティの考えに基づいたもので、その理念に共感し口コミによってファンが広まるという流れになっていると感じます。そこでは、サーキュラーエコノミーの本質は押さえながらのデザインやエンターテインメント性が大切になってきます。
── サーキュラーエコノミー先進国であっても、義務感だけで取り組みが生まれているわけではないと。
「ヨーロッパだからできている」と思われる方が多いですが、日本でもその土壌はあると思います。例えば、日本中に広まっているスペシャルティ・コーヒーのお店。多くはフェアトレード以上の賃金が支払われたコーヒー豆が使われていますが、人々を惹きつけているのはなんといっても一際おいしいコーヒーの味。そして友達に声をかけていっしょに行きたくなるような魅力的な店内空間です。Yahoo! JAPAN SDGsにも掲載されているONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)さんはスペシャルティ・コーヒーの人気店ですが、その好事例だと感じます。
義務感や無理強い、我慢による行動はなかなか長続きしにくいと思います。それよりも、「やってみたら新しい可能性が見えてくるかも / 楽しいかも / 豊かになるかも」といったポジティヴな目線で、まずは肩の力を抜いて、気になることから取り組んでみるのが良いスタートだと思います。
安居さんの著書はこちら↓
『サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル』
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