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豊かな未来のきっかけを届ける

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東京の経済成長は「グリーン」が鍵となる? 東京都に聞いた最新の金融戦略

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

ここ数年、新型コロナウイルスの影響で経済が落ち込み、仕事や収入が減ったという人は少なくありません。さらに、追い打ちをかけるように起きたウクライナ危機によるガソリン高騰や円安も、私たちの暮らしに多くの影響を与えています。

起きてしまったものはしかたない。けれども、ここまで多くの出来事が経済に打撃を与えていると、正直「日本経済の先行き、不安だなぁ」と思ってしまうことも。

貯金など個人でできることはやりつつも、先行きの見えない経済の不安定さに対してどうしたらよいのかイマイチわからないのも、不安を後押ししている原因かもしれません。

そんなモヤモヤを抱えている時に耳にしたのが、いま世界で注目されている「グリーンファイナンス」が経済成長の鍵になるかもしれないという話。グリーンファイナンスとは、環境問題を扱う事業への投資などを行うファイナンスの手法です。

Yahoo! JAPAN SDGs編集部でも 過去にESG投資の専門家に環境問題を扱う事業への投資について話を伺ったことがあります。

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画像:アフロ

このグリーンファイナンス、実は日本の経済の心臓とも言える東京都も積極的に取り組んでいるのです。さらに東京都の取り組みを紐解いていくと、私たちの投資が、グリーンファイナンスなどの経済活動を通して東京の経済を成長させるきっかけになる可能性も。

なぜ環境問題への投資を通して経済を成長させることができるのでしょうか? 
そして、私たちの投資はどのように経済活性化につながるのでしょうか?

グリーンファイナンスを担当する、国際金融都市担当課長の渡辺恒平さんと、信田洋和さんに話を聞きました。「金融には社会課題を解決する力がある」と語る彼らが見ている東京の未来と、私たちにできることを探っていきます。

ファイナンスの力で気候変動を止める

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国際金融都市担当課長 渡辺さん

──東京都は、環境問題を扱う事業への投資などを行うグリーンファイナンスに力を入れていると聞きました。

渡辺:東京都では昨年、東京のグリーンファイナンス発展に向けた戦略的な取り組みである「Tokyo Green Finance Initiative(TGFI)」を取りまとめるとともに、「TGFI」の内容を最優先の取り組みとする「『国際金融都市・東京』構想2.0」を策定しました。

これら「TGFI」「構想2.0」のもと、グリーンファイナンスの推進に向けた様々な取り組みを行っています。国内外で環境問題に対処する企業が、必要な資金を調達しやすくすることで、東京の金融市場を、グリーンファイナンスを中心に活性化させるとともに、東京ひいては世界全体を環境にやさしい場にしていこうという取り組みです。

──東京でグリーンファイナンスが活発になると、環境に優しい事業が拡大して、街全体がグリーンになっていくんですね。

渡辺:それだけでなく、他の産業に大きな波及効果を持つ金融の活性化を通じて経済全体が成長し、ひいては都民の生活の質が向上することを目指しています。

──でも投資先ってグリーンの他にも色々あるし、都市計画も他にもいろんなアイデアがありそうですが......その中で、なぜグリーンファイナンスに力を入れるのでしょう?

渡辺:一番大きな理由は、環境問題への危機感です。環境を守っていくために必要となる莫大なお金を国や行政が税金のみで工面していくことは現実的ではありません。世界的に気候変動を食い止めるのは国や行政の力だけでは難しいのです。

そこで、民間の力も借りながらできるだけ早く、一緒に乗り越えていくことが必要とされています。

──世界はいま、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力を追求しようとしていますが(*1)、もはや国や行政の努力だけでは無理なんですね......なんだか先行きが暗いようにも思えます......。

渡辺:たしかに、ここ数年で世界的にグリーンへの投資を大きく増やしていかないと、気候変動は止められないところまできています。

しかし、だからこそ民間企業によるグリーン投資が、世界的な潮流になりつつあり、これは東京にとっての大きなチャンスでもあるのです。

いま世界のマネーは「グリーン」に流れ込んでいる

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画像:アフロ

──東京にとってのチャンスってどういうことなのでしょうか?

渡辺:環境問題の深刻さから現在は、グリーンファイナンスを通じて調達した資金で、民間企業が社会課題を解決していくのが世界の主流になってきています。グリーン投資には膨大な資金が必要なため、グリーンファイナンスへの需要は世界的にすさまじい勢いで伸びつつあります。

こうしたなか、「TGFI」や「構想2.0」に基づき東京のグリーンファイナンス発展に力を入れ、世界的に大きく伸びるグリーンファイナンス市場を取り込むことが、東京が世界から選ばれるグリーンファイナンス市場を擁する都市となることにつながるのです。そして、それが金融の活性化を通じて大きく経済成長することが可能であると考えています。

いま、グリーンファイナンス市場で東京都が存在感を示すことができれば、世界中の資金が東京に集まることにもつながっていきます。

──1990〜2000年代のITがものすごく伸びてる時に、アメリカがITに力を入れて経済を伸ばしていましたが、その2020年代バージョンがグリーンファイナンスなんですね。

渡辺:私たちはグリーンファイナンスを今後の東京の経済成長の大きな要素として据えています。

こうした観点から、都として「TGFI」をとりまとめるとともに、「構想2.0」はグリーンファイナンスの推進を第一の柱に、金融のデジタライゼーション、多様な金融関連プレーヤーの集積という3つを大きな柱としています。

実は4年ほど前に策定した改訂前の構想ではグリーンファイナンスの推進は盛り込まれていませんでした。グリーンファイナンス市場の急速な拡大という世界的な大きな潮流を踏まえ、「構想2.0」にバージョンアップする際に追加したのです。

──そこまで大きなトレンドになっていると世界中のいろんな都市が同じことを考えそうな気がするのですが、東京ならではの「強み」みたいなものはあるのでしょうか。

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国際金融都市担当課長 信田さん

信田:日本は、世界第3位の経済力を有し、世界屈指の規模である東京証券取引所が存在するのみならず、国内の個人金融資産の規模が2000兆円に達しています。こうした日本の特徴は、日本の経済・金融の中心地である東京にとっての大きな強みであると考えています。

現在、日本の個人金融資産は約2,000兆円ありますが、この半分が現預金として眠っていると言われています。これは、潜在的な投資余力が日本に膨大に存在することを示すものであり、東京にとって大きな可能性を示すものと考えられます。

これをうまく活用したいというのが「構想2.0」のアプローチのひとつです。グリーンファイナンスの成功も個人資産の活用を通して市場を拡大していくことが不可欠だと考えています。

──日本は欧米よりも現預金の割合が大きいんですね......!

信田:アメリカ等では個人が積極的に投資を行っていますが、日本では定期預金などの預金のほうが安心という考え方がまだまだ根強いと言われています。こうしたなか、成長分野への資金供給をより活性化していくために、「貯蓄から投資へ」の流れの推進の重要性が高まっており、国も積極的にその動きを推進していこうとしています。

──やっぱり日本には、投資が苦手だったり怖いと感じる人が多いんでしょうか。

信田:どうしても投資はリスクがつきものなので、そこを警戒している部分はあるのではないでしょうか。リスクとリターンを正しく理解した上でお金を運用していく、そういった知識、いわゆる金融リテラシーの向上が必要だと感じています。

個人がもっと投資しやすい環境づくりを

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──国際金融都市・東京やグリーンファイナンスの推進には、個人資産を活用して市場を広げていくことが鍵のひとつだということはわかったのですが、一体どうやって個人の資産を回していくんでしょうか?

渡辺:グリーンファイナンスの事例でいうと、東京都が発行している「東京グリーンボンド」などは、投資先としてわかりやすいと思います。

──グリーンボンド......?

渡辺:グリーンボンドは、行政や企業が発行する債券の中でも、使い道を環境関連の事業に限定したものです。世界中で発行数が大きく伸びています。

東京都が発行しているものには1口約10万円から個人でも購入いただけるものもあり、集まった資金はスマートエネルギー都市の実現や気候変動対策、自然環境の保全などを行う事業に充当されます。

──東京グリーンボンドを買うと、そのお金は都内のグリーンな街づくりに使われて、しかもリターンも得られる可能性があるってことですか?

渡辺:そのとおりです。日本では、2017年に自治体としてはじめてグリーンボンドを発行したのが東京都でした。現在では他県等での発行も増えてきましたが、この市場の活性化を牽引してきたと考えています。

──自分の納税したお金の使い道って普段はよくわかりませんが「このお金で自分の住んでる街がよくなる」ってすごくワクワクするお金の使い道ですね。

渡辺:おかげさまで、これまでに即日完売もありました。

──えっ、そんなに人気なんですか!?

渡辺:この取り組みをご理解いただき、多くの方々に賛同いただいた結果だと考えています。一方でわれわれ東京都だけでなく、民間企業も積極的にグリーンボンドを発行してほしいので、環境省と連携して補助金を出して、発行のためにかかる負担が軽減できるような取り組みをしています。

──ぜひ個人が気軽にグリーンファイナンスに投資できる受け皿をつくって欲しいです。

渡辺:個人が投資できる選択肢を増やす意味では、つみたてNISAの投資対象にグリーンの要素を加えるように、という提言を国にもしています。もっと個人が気軽に、グリーンな企業や取り組みに投資できるような土壌を整えることで、グリーンファイナンス市場はもっと発展していくのではと思っています。

投資の活性化が東京ひいては日本の成長につながっていく

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──グリーンファイナンス発展のためのプロジェクトである「TGFI」では、他にどんな取り組みをしているんですか?

渡辺:グリーンボンドなどを通して市場を発展させていくことに加えて、グリーンファイナンスに取り組むプレイヤーの拡大、そして情報発信や人材育成も取り組んでいます。

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東京都が公開しているTGFIの概要資料

KPIも設定していて、国内で公募されるグリーンボンド発行金額を2020年の0.8兆円から2030年には3兆円までに引き上げることが目標です。さらに、都民のグリーンファイナンスへの関心は、2020年の11.5%から2030年は50%にまで引き上げようとしています。

──50%ということは、グリーンファイナンスの話をしたら都民の2人に1人から「グリーンファイナンスわかるよ、投資してるよ」なんて答えが返ってくる世の中が、2030年には来るということですか!?

渡辺:そこに向けてしっかり取り組んでいきたいと思っています。そのためには、ただ預金しているだけでなく知識を得て投資に向き合い、お金を回していくことを増やすことが大切です。それによってリターンが得られれば個人も豊かになりますし、都市のグリーン化にも繋がっていきます。

──じゃあ、東京都は「みんなグリーンファイナンスに投資していこう!」という方針なんですか。

渡辺:いえ、単純にそうは言いきれません。グリーンファイナンスは大きなトレンドですが、投資するときにはある程度慎重になってほしい部分もあります。絶対に安心安全な投資は存在しないですし、すべての事業が順当に成長するとは限りません。リスクとリターンをしっかり理解した上で、投資する先を決めていただくことが大切だと思っています。

また、いまはグリーンの話が盛り上がっているからこそ、中には見せかけだけのもの、いわゆるグリーンウォッシュもあると言われます。制度として、それらをしっかり検証してルールを決めたり、グローバル基準に合わせたりしていくことも必要です。

──グリーンファイナンスが流行ってるといえども、やはり投資は投資。しっかり自分で知識を得て、判断しないといけないのですね。

渡辺:なんとなく貯蓄に回している方が投資に踏み出すためにも、自信を持って投資に踏み出していただくためにも、都民のみなさんの金融リテラシー向上はとても大切です。特に若いうちからお金にまつわること学んで実際に経験していく機会をつくることは、市場の活性化にも繋がっていくと考えています。

毎年開催している「Tokyo Sustainable Finance Week(東京・サステナブル・ファイナンス・ウィーク)」では、昨年10月には、AKB48メンバーでファイナンシャルプランナーでもある武藤十夢さんも参加するトークイベントを行うなど、少しでも金融に興味を持ってもらえるように努力しています。

また、2022年度には若者向け金融セミナーなども新たに予定しており、リテラシー向上にさらに力を入れていければと思っています。浸透には時間がかかるかもしれませんが、できることを少しずつやっていくのが大事だと思います。

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──一人ひとりがお金やグリーンのことに関心を持って、リテラシーを上げていく、その先にきっと明るい社会が待っているんですね。

渡辺:世界をリードする国際金融都市を目指す我々としては、掲げたKPIなどに向けてしっかり取り組んでいくし、色々なメニューを考えて日々実行していきます。ぜひ見守っていただけると嬉しいです。

信田:グリーンファイナンスも国際金融都市も、日本の成長戦略に繋がるものです。投資を活性化して、海外の企業に「東京、おもしろいな」と感じてもらい、東京でビジネスを展開していただく。その中で新しいイノベーションが生まれていって、明るい将来の成長に繋がっていく。金融の力は、そういったサイクルのきっかけになりうると思っています。

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