「全部、つながっている」難しさに向き合う。SDGsメディアの葛藤と手応え【Yahoo! JAPAN SDGs1周年】
2021年9月、「豊かな未来のきっかけを届ける」という言葉を掲げてスタートしたメディア「Yahoo! JAPAN SDGs」は、1周年を迎えました。
日本全国のみならず海外の事例も取材しながら、環境から人権、福祉、エネルギーまで、幅広い領域でSDGsにまつわる記事を発信しています。
今回の記事では、編集部の友光だんごを聞き手に、編集長の長谷川琢也(ヤフー株式会社)がメディアにとっての1年間を振り返ります。
終わりの見えないコロナの流行、世界を揺るがした戦争、地球規模での気候変動や食料危機......激しい変化の続く2022年に、メディアとして何を考えたのか。
SDGsについて伝える難しさ、そして感じた手応えと2年目への課題とは?
「SDGs難しい問題」と、手応えを感じた1年
── 「SDGs」をテーマにしたメディアを1年間やってみて、編集長としてどんな印象でしたか?
すごく正直に言うと、「SDGsって難しい」とつくづく感じた1年でした。「難しい」にもいくつかあるんですが、まずは「広すぎる」。
元々、前身メディアとしてSDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」をテーマにした「Gyoppy!」を3年間やっていたのですが、それがリニューアルして、テーマが一気にSDGs全体に広がった。以前と比べて扱う領域が広すぎて、我々自身、それをどう掴むか苦労するところから始まりました。
── SDGsって、言ってしまえば「世の中のこと全部」ですもんね。海について掘っていけばよかったGyoppy!時代とは違い、自分たちのアンテナを広げて、さらに一つ一つのテーマを勉強していかないといけない難しさは編集部としても感じていました。
「テーマ広すぎ!」というのは、記事を読む読者の方々も同じ印象だと思うんです。だからこそ、その広いテーマにどう興味をもってもらうか、に挑んだ1年間でした。
もう一つは「全部がつながっている」難しさ。例えば、とある発電方法が、エネルギー問題の観点では素晴らしいけれど、山の環境問題から見ると、こんな問題がある......ということが起こりうるんですよね。つまり、ある角度から見た正しさを追求すると、別の角度から見た時には正しくない、となってしまう。
SDGsの原則は「誰一人取り残さない」ですが、Yahoo! JAPAN SDGsの記事が誰かを傷つけてしまっていないか?は、常に葛藤として抱えていました。
── ただ、編集視点での難しさも増えた反面、Yahoo! JAPAN SDGsになって、いろんな領域のテーマを扱える面白さは広がったと思います。
最近ではライムスターの宇多丸さんに取材したり、SDGsを旗印に、自分たちが「面白そう/伝えたい」と思う分野にどんどん飛び込んでいける機会は増えましたね。
テーマも幅広いSDGsの記事を、いかに読んでもらうか?を考えてきた1年だったんですが、個人的にも年間ランキングはかなり面白い結果になりました。ここで紹介しますね。
Yahoo! JAPAN SDGsオリジナル記事ランキング2022(集計期間:2021年9月22日〜2022年9月15日)
1位災害時、トイレがあなたの命を脅かす。もしものための「排泄」への備え
2位6月8日は世界海洋デー。「なぜ?」から始まる、これからの海と人のつながり
3位 何でもポイ、ゴミ袋代も節約。ベランダにも置ける生ゴミ処理機「キエーロ」が便利すぎる
4位園児が料理をし、お金も稼ぐ。想像の斜め上を行く子が育つ保育園
5位成毛眞さんの語る2040年「最悪の事態」とは。だからこそ知っておきたい未来予測
6位なぜ浜辺にガラスを? あるべき海の形を取り戻す取り組み
7位「男性のがん予防にも」HPVワクチンが注目されている理由
8位サツマイモ発電で2億円!? 焼酎日本一の「霧島酒造」が取り組むSDGsの一歩先
9位北欧の人は日本が羨ましい? デンマークのすごい「自然のプール」が教えてくれたこと
10位「今は世界が半分になっちゃった」養老孟司さんに聞く、もう半分の世界のこと
まず、PVに関してとても手応えがあって。ランキング上位はどれも数10万PVとすごく読んでいただいたし、SNSでの反響が大きな記事も多かった。難しさも感じながらの1年だったので、数字がすべてではないとはいえ、作り手としては素直に嬉しい結果でした。
── 最近、WEBメディアの記事が以前に比べて読まれづらくなっている、PVが伸びづらくなっているという話を同業者の間でもよくしています。SNSの構造の変化や動画メディアの興隆など要因は色々あると思うのですが、その状況のなかで、1年目のウェブメディアとしては頑張っている数字じゃないでしょうか。
「この話をもっと伝えたい!」を原動力に記事を作っているから、広く読んでもらえるのはすごくありがたいですよね。内容としては、トイレや保育園、あとはゴミ問題のように、読者の皆さんに近いテーマがよく読まれている印象でした。
── わかりやすくSDGsっぽい、というより、もっと暮らしに身近なテーマですよね。でも、それは僕たち編集部が意識していたところな気もします。
そもそも我々自身が、SDGsをすごく盲目的に信じているわけではないんですよね。SDGsだから災害時のトイレ問題を取材してるわけじゃなく、自分たちの暮らしにすごく大切な、伝える価値のあるテーマだから取材していて、それは他のどの記事も同じ。でも、結果として、トイレの話もSDGsにつながると思っていて。
メディアステートメントでも書いたように、SDGsに関する情報を「どこか自分の話に思えない」と感じている人たちに対して、「こういう切り口ならどうですか?」「こんな風につながってるんですよ」と伝えるために記事を作ってきました。その結果、数十万人に読んでもらえるような記事も生まれたし、すごく手応えも感じられた1年間だったと思います。
小さなアクションを生む、きっかけを
── 編集長として、特に印象に残っている記事はありますか?
年間ランキング内だと、キエーロはまさに「SDGsっぽくないけれど、実はすごくSDGsのヒントが詰まった記事」だと思います。まず、想像以上に記事へのリアクションが大きくて。自分のSNSでもかなり熱量を込めてシェアしたんですが、すぐに知り合い3人くらいから「キエーロ作りました!」って連絡が来たんです。
── 材料も手に入りやすいものばかりですし、家の生ゴミの処理に悩んでいる人も多かったんでしょうね。みんなが何とかしたいと思っているテーマで、かつ取り入れやすい提案だった。
「社会課題をわかりやすく伝えて、課題解決に向けたアクションを後押しする」がメディアの目標なので、実際にやってみた人が多かったのはすごく嬉しいですね。まさに理想の形というか。
あとは記事でお話を聞いた、キエーロの生みの親・松本さん夫妻のスタンスにもヒントがある気がします。キエーロに対して「至極当たり前のことを提案しているだけなので、お金稼ぎの手段にはならない」と正直に仰ってるじゃないですか。
「SDGsで地球もよくして、利益も増やそう」という大企業のスタンスも正しいけれど、一方で、「自分にやれることをやって、ビジネスとかじゃないけれど循環を考えていこう」というスタンスも正しい。まさにいろんなSDGsがある、という話だし、SDGsを考えて、アクションにつなげるきっかけの一例だったと思います。
あとは「ひより保育園」の記事も、すごく反響がありましたね。学校教育にすごく関心が高まっていて、いい教育をしている学校に通わせるために、家族で移住するケースも増えている。でも、ひより保育園の事例は、「子ども本来の力を取り戻すことこそが、実は一番豊かな未来につながるんじゃないか?」という話だと思っていて。
── 2歳児に本物の包丁を持たせて、子どもが魚を3枚におろして、揚げ物まで作っちゃう。大人は園児の活動に対してなるべく介入せず、子どもの可能性を最大限に発揮させるのが「ひより保育園」のやり方でしたね。
そうそう。自分が現地で取材したこともあるけれど、「ひより保育園」の古川理沙さんの話には本当に感動しました。実際、SNSでの反響もかなり大きかったですね。
あとは「〇〇の日」「あれから◯年」のように、記事を出すタイミングにもこだわってきました。ランキング1位のトイレの記事は、熊本震災から6年のタイミングに合わせて出した記事。それに、年間2位のまとめ記事も、「世界海洋デー」に合わせたもので。
とにかくいろんな課題があるし、普段から全部のことを考えるのはなかなか難しい。でも、「1年のうちこの日くらいは、この課題について考えてみませんか?」と提案するのは、大事なことだと思うんですよね。今後も、こうしたきっかけづくりに取り組んでいきたいです。
「全部、つながっている」難しさに向き合いながら、伝える努力を
── 年間ランキングに入らなかったけれど、印象に残っている記事はありますか?
「人権」がテーマの記事について、もっと読まれたかったし、読まれる努力をしなきゃ、と思ってます。これは自分自身、今までの勉強不足を感じていて、この1年ですごく本を読んだり、人に話を聞いたりしていて。記事でいうと、特に「YSCグローバル・スクール」の記事では、伝えることの難しさを感じました。
── 海外にルーツを持つ、日本在住の子どもたちに学びの場を提供している「YSCグローバル・スクール」の田中宝紀(たなか いき)さんへ取材した記事ですね。
家族の事情で来日し、すぐに日本の学校へ転入したけれど、日本語がわからないから授業についていったり、友人をつくったりすることが難しい。そこで自治体や学校の支援の手からこぼれ落ちて、未就学になってしまう子も多い......という問題も恥ずかしながら知らなかったし、田中さんの話には「誰一人取り残さない」あり方の真髄が詰まっている、と感じました。いかに「多文化共生」を実現するか、の話ですよね。
あと、個人的には組織を大きくするのが目的じゃなく、本質的に課題を解決するために立ち上がったから、人を雇うために仕事を増やす本末転倒なことはしたくないって話にも、すごく感銘を受けました。田中さんの言葉をもっと広く、多くの人に届けるためにどんな工夫ができるか?はこれから考えていきたいことですね。
── 人権以外にもいろんなテーマが詰まっているし、1本の記事のなかにいろんなきっかけがある。それをわかりやすく読み解いて、読者がアクションにつなげられるようにする工夫はまだまだありそうですね。
個人的には、WEB記事以外の方法もあるんじゃないかと思っていて。今のメディアの記事に加えて、イベントやPodcastみたいな新たな発信の挑戦もしていきたいです。
あと、この1年は世界を揺るがすような戦争も起きてしまった。この時代にまさか、と思ったし、あの瞬間は自分もすごく気持ちが動いたんですけど、半年くらい経つとそんなに考えなくなってしまっている自分に気づいて、それもショックで。
ビニール袋やプラスチックをどうするみたいな話ももちろん大事なんだけれど、その間にも、遠い国では未来ある子どもたちが殺されてしまっている。SDGsに「平和と公正をすべての人に」って目標も入ってるのに、メディアとしてもっとやれることはあったんじゃないか?と思いましたね。
── 正直、まだまだやれていないテーマも多いですよね。前身が海のメディアだったこともあって、環境問題に偏りがちな面はあると思っていて。
日本人自体、環境偏重な傾向はあるらしいです。以前、ESGの記事で取材した夫馬さんがしていた話で印象的だったのが、「SDGs」とやたら言ってるのは日本だけで、海外はその言葉自体知らない人もいるらしいんです。向こうでは「サステナビリティ」のほうが関心が高い。実際、ウェブ上の検索ワード数で見ても、そんな結果が出ていて。
SDGsを知れば知るほど、全部の問題はつながっているし、全部つながっているからこその難しさもある。でも、その矛盾にも向き合いながら、伝える努力をしていきたいですね。2年目のYahoo! JAPAN SDGsもよろしくお願いします!
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執筆友光だんご(Huuuu)
Twitter: inutekina
Facebook: tomomitsudango
編集ヤマグチナナコTwitter: nnk_dendoushi
撮影(長谷川インタビュー写真)黒羽政士Web: http://masashikuroha.com/
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