海洋プラが使える道具に?「プラスチック=悪者」にしないための身近な一歩
人間社会で処理しきれなかったプラスチックごみが海や自然へと流出し、環境に悪影響を与えてしまう「プラスチック汚染」の問題。
国連が定める世界環境デー(6月5日)の2023年度テーマが「プラスチック汚染とその対策」になるなど、世界的にも注目を集めている問題です。
海洋へ流出するプラスチックごみの総量は年間800万トンにのぼり、「このままでは、2050年には魚よりもプラスチックごみの方が多い海になる」といったショッキングな未来予測が語られています。
こうした世界的な問題に対して、個人や一企業はどう考えればいいのでしょうか?
「大切なのは、プラスチックの排出量削減を目指しながら、多様なプラスチックごみの特性にあった『さまざまな循環のサイクル』を考えることです」
そう語るのは、ごみにまつわるラーニングコミュニティ『ごみの学校』を運営する寺井さん。
いまや現代人の生活を支えているプラスチック製品。プラごみゼロを目指す道の途中には、「いま出回っているプラスチックごみにどう向き合うのか?」という視点が必要不可欠です。
「私たちにまず必要なのは、以下の3つを知ることだと思います。
- プラスチックごみには、どんな種類があるのか?
- どうすれば、捨てるだけではない良い循環ができるのか?
- わたしたちにできる、一番小さなアクションはなんなのか?
ごみゼロを目指すだけでなく、プラスチックについて考えられる社会になることが、結果として環境負荷を減らすことにつながる。そして、そこに向けて既にアクションを起こしている人々が、国内にも多くいるんです」
そう話す『ごみの学校』の寺井さんに、「プラスチック汚染と、国内での取り組み」についてお話を聞きました。
寺井正幸さん
1990年京都府亀岡市生まれ 大阪在住。兵庫県立大学環境人間学部卒業後、産業廃棄物処理業者に入社し、産業廃棄物処理を中心とした営業を行う。事業の中で、産業廃棄物に関するセミナーや講演に50回以上登壇。ごみの学校を運営し、普段目に見えないごみのことを、できるだけ分かりやすく伝え、「ごみを通してわくわくする社会をつくること」を目標に活動している。
「プラスチックはリサイクルが難しい」のはなぜ? 汚染の背景
── まずは、プラスチック汚染の背景からお伺いしたいと思います。Yahoo! JAPAN SDGsでもこの問題を取材してきたので、今回は寺井さんの視点からみた意見をお伺いできれば。
人体に影響はない、はウソ。マイクロプラスチックの影響がわかり始めている
私は、「プラスチックのリサイクルの難しさ」がまだまだ世間に理解されていないのではないかと思います。
ちょっとお勉強っぽくなってしまうのですが、前提の部分も少しだけお話しさせてください。
プラスチックのリサイクルは大きく分けて4種類あります。なかでも「リサイクル」と言ってみなさんがイメージするのは、プラスチック素材から別のプラスチック製品をつくり出す「マテリアルリサイクル」に当たるでしょう。
── ペットボトルリサイクルなどの影響で、「プラスチックはリサイクルできる」というイメージは広まりましたよね。
そうですね。ただ、回収されたプラスチック製品には、製造過程でさまざまな化学物質が混ぜられています。柔軟性や耐久性をもたせるため、また着色のために混ぜられた化学物質が不純物となり、リサイクル後のプラスチックが劣化しやすい構造になっているんです。
構造的に、どうしても新品の素材だけを使った"バージンプラスチック"の方が耐久性も質も高く、重宝される。リサイクルプラスチックという資源が評価されない理由はここだと思います。
正しく分別回収されても、なおプラスチックという資源を完全に循環させることが難しいのが現状です。
── なるほど。分別してごみに出すところまでは知っていても、リサイクルや資源化のことを細かく知る機会は少ないから、興味深いです。
さらに、その「分別回収」にも難しさがあります。同じ「透明なプラスチック」に見えるものにも、実はさまざまな種類がある。
これらの種類をすべて把握して、分別するのって面倒ですよね。
ただ、こうした細かい分別回収が市民レベルでできれば、業者側のごみの分別や洗浄の手間が少なくなっていくんです。
2019年の輸出規制まで、日本は大量のプラスチックごみの処理を海外の輸出先に依頼していて、これが海洋汚染に繋がってしまっていた。
こうした「完全に循環させることは難しい」というハードルの高さを理解した上で、それでもどんな対策をできるのか? を考えることが必要です。
今回話したい解決策の事例は、大きく分けて2つ。
まだ広く知られていない取り組みが、回収にも再資源化にもあるんです。それを知っていきましょう。
回収率をあげる鍵は、「市民が協力するモチベーションをつくる」こと
そもそもごみ処理の問題には、それぞれの立場、ステークホルダーごとに課題があり、目指すべき理想の状態があります。
── 回収率向上のための取り組みには、どんなものがあるんでしょうか?
まず、プラスチックごみを正しく循環させるために"ごみ処理業者"が目指したい状況は、「市民レベルで、細かい区分でごみが分別されること」。わかりやすい事例として、「MEGURU STATION」があります。
ここで重要だったのは、自治体指定の曜日に合わせて出すのではなく、「市民が自分のタイミングでごみを持ち込めること」でした。
地域に回収拠点をつくって、みんなが同じ場所にごみを持ち込むことで、捨てにきた人同士のコミュニケーションが生まれているそうです。高齢者の多い地域においては、それが「見守り」の機能にもなる。
こうしたごみの回収センターの取り組みは全国各地に増えつつあります。有名なところだと、徳島県上勝町の「ゼロウェイストセンター」もそう。
僕が上勝町でご高齢の方から聞いたのは「ちゃんと分別して、いつもの場所に捨てに来ることがモチベーションになる」ということ。家にずっといると社会に参加している感覚も薄れるけど、自分で分別することで地域に貢献している気持ちになれる、って話していて。
── ごみ捨ての行動が、地域コミュニティとの架け橋に繋がっている。面白いですね。モチベーションをどう持ってもらうか? という話にもなりますね。
モチベーション維持という面でいえば、「大洋化学」さんの取り組みも面白いです。地域で回収したペットボトルを、地域の小学校で使われる給食のトレーなどに再利用しているんです。
ペットボトルは、そもそも回収率も再資源化率も高い製品です。このプロジェクトの大切なところは回収率のアップではなく、回収を通して「子どもたちへの環境教育」が行われているところ。
プラスチックはどうしても再資源化してお金を稼ぐ、といったことが難しいので、経済合理性だけをモチベーションにはしづらい。でも、子どもたちに環境教育をするためだったり、地域の人々と交流するためだったり、経済合理性の外に意義を見出すことで、「市民レベルでの分別回収」を進めていけると思うんです。
── なるほど。それなら、協力する市民の側のモチベーションも上がりますね。
ごみ回収の課題を、収集業者や処理業者側だけでなんとかするのは難しい。やはり、"みんなに協力してもらう形"をどうつくるかが大事なんだと思います。
大規模な例だと、岡山には「えこ便」というごみ収集センターもあって。
これも、経済合理性だけではない「地域住民が、自分のライフサイクルに合わせてゴミ捨てできる」というメリットがある。今後もこうした「市民が協力できる、ごみの回収拠点」の取り組みは増えていくように思います。
海洋プラへのチャレンジから、再資源化のノウハウが見つかる
── うまく回収できたとして、リサイクルしたプラ素材は劣化しやすいという問題もありますよね。再資源化に向けた取り組みにはどんなものがありますか?
再資源化のなかでも特に難しいのが、海洋プラスチックの再資源化です。しかし、その難しい課題にあえて取り組んでいる「リングスター」という企業があるんです。
海から流れ着く海洋プラスチックは、海水や強い太陽光に晒されることで劣化しています。再活用するにも耐久性に不安が残るため、メーカーとしては強度を担保できるバージンプラスチックを使用したいのが正直なところ。
しかし、リングスターさんは「やってみよう」とチャレンジされて、海洋プラのなかでも対馬によく流れ着くポリタンク(ポリエチレン製)を製品に10%混ぜる条件なら、耐荷重がそこまで落ちないことに気づいた。
リングスターさんは姿勢が素晴らしいと思います。「海洋プラは劣化しやすいからダメだ」と切り捨てるんじゃなく、ごみごとの特性を知って、製品開発をして、しっかり機能を検証するところまでチャレンジした。
この「製品化のプロセス」に最も手間とお金がかかるから、海洋プラスチックの再活用にチャレンジするメーカーさんは少なくて、ノウハウも溜まっていかないんです。
リングスターさんのように、「職人さんの腕や技術で、素材の弱点や特性をカバーする」という方法は、日本らしいリサイクルプラの仕方になっていくといいなと思います。
── 対馬に流れ着く海洋プラスチックを使う、と限定していることも特徴的ですよね。
ストーリーも大切だと思います。対馬は海流の影響でいろいろなものが流れ着きやすく、昔から防人の文化があった。
海洋プラスチックに関しても、対馬は防波堤のような役割を果たしていて。対馬がなければ、プラスチックはもっと日本海に流れ出てしまっているはずです。その回収を漁師が手伝い、再資源化して、漁師も使えるバスケットやボックスにつくり直す。
リングスターさんの事例を聞くと、その土地なりのプラスチックとの向き合い方や、再活用の形があるはずだと希望を感じますね。
個人や企業にできること
── ここまでお話を聞いて、国内にも「プラスチックのいい循環」を探るさまざまな取り組みがあることがわかりました。そのどれもが、プラスチックの特性への理解や、地域の方々への理解の上に成り立っていた。
そうなんです。それに加えて、そもそもの処理技術も発展しています。長年研究されている『ケミカルリサイクル』という技術の精度が上がってきていて。これは、化学技術で一度原油まで戻して、劣化しづらい高品質なプラスチックを再度精製する技術です。
ただ...悲しいことに、こうしたリサイクル業者の努力が理解されていない現状もあります。ある業者の元には、「せっかくプラスチックを回収したのに、なんでもう一度プラスチックにするんだ!」というクレームが届いたと聞いたことがあります。
熱処理して終わりにもできるけど、それではCO2が排出されて高い環境負荷をかけてしまう。そうならない方法を探って再資源化をしているのに、伝わっていないんだと。
やはり重要なのは、「知ること」と「コミュニケーション」だと思います。「ごみの学校」を運営していると、申し訳なさそうに「普段はプラスチックを使ってしまっていて...」と話される方も多くて。
── プラスチック製品を使うこと=悪なわけではない。
もちろん、使用量の削減も必要ですが「全く使ってはダメ!」と断言するだけでは、いま出回っているプラをどう循環させられるか? という視点に立って考えることが難しくなってしまいます。「捨てない」以外にも、「できるだけ長く使う」「循環できる捨て方を選ぶ」といった選択肢もある。
冒頭でも話しましたが、プラスチックが生活を支えていることも事実です。ただプラスチックを悪者にするのではなく、いまあるプラスチックにどう向き合えるかを考えることが重要だと思います。
── リサイクル業者ではない私たち個人にも、できることはあるのでしょうか?
環境問題について話すとき、私たちは自分を「消費者」に設定しがちです。でも、消費者のなかにもいろいろな肩書きがある。自分の所属するコミュニティや組織のなかで何ができるか? を考えることが大切だと思います。
それは直接的に「ゴミを回収する」という行為じゃなくてもいい。
例えば、学校の先生なら「子供たちと一緒にプラスチックごみについて勉強してみる」とか、企業で働いていれば、「事務所のゴミ箱を、ペットボトルのボトル用とキャップ用に分ける」といったことでも。
一消費者という立場からもう一歩踏み込んだ、自分の立場を活用したアクションができればいいのではないでしょうか。
「リサイクルプラの商品を選んでみる」、「ごみ箱に入れる前に、プラスチックの種類をみてみる」といったことからはじめていい。まず知ること、目を向けてみることができれば、「プラスチックごみって、いろいろあって面白い」と感じられるようになるかもしれませんから。
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取材:執筆乾隼人
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